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月界最強の姫は人間界に遊びに行く〜魔法学園で規格外扱いされるが隣の公爵子息にだけ勝てない件〜  作者: おもち
第一章

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第8話 学園生活一年目 ⑥



* * *



リリアーヌはセレナに「相談してみない?」と言われて、心がその言葉を求めていたことに気づいた。


誰にも相談できなくて、誰かに相談したいと思っていた。けれど、やはりできなくて。


誰かに弱みを見せることはアスラム伯爵家にも迷惑がかかることになる。だからリリアーヌは必死に感情を押し込めていた。


そして感情を押し込めていた枷が壊れ、感情のままにセレナを害したことを後悔し、ひとり孤独に耐えていた。


そんなとき、セレナはやってきた。


自分が食べるはずのパンを他人に分け与え、美味しいものは誰かと食べた方が美味しいと本心から言う少女。彼女の心は穢れなき美しさだからこそ、こんなことが言えるんだとリリアーヌは思った。


かと思えば、自己紹介をしようと突然言い出して、リリアーヌは目が点になりそうな程だった。


けれど、自己紹介のあと、セレナがリリアーヌの元に来た理由を聞いて、思わず涙を流してしまった。


なぜなら、セレナが話した言葉はリリアーヌがずっと心のどこかで望んでいたものだったから。人に弱みを見せないために隠していたけれど、やはり本当は誰かに気づいてほしくて、相談したくて。


それをポロッとくれたセレナにリリアーヌは嬉しくて涙を流してしまった。


(ああ、この人はきっと、私を、私たちを救ってくださる)


なぜかそう確信が持てた。借りたハンカチで涙を拭うと、リリアーヌは声を震わせながらもセレナに告げた。


「私の話、聞いてくれますか?」

「もちろん!」


笑顔で了承したセレナを見て、既にリリアーヌは心が軽くなった気がした。



* * *



アスラム伯爵令嬢から話を聞いた私はどうしたものかと考える。目下の問題はやはり領地の不作だろう。


「地属性の魔法使いじゃないと土地は元気にならないもんね。他の属性じゃ、そういうのは不向きだから」

「はい。高位貴族ともなれば多くの優秀な魔法使いを抱えています。ユリウスさまと婚約を結び、そこから力を貸していただけないかと」


話をしていたアスラム伯爵令嬢はそこで言葉を区切り、自嘲気味に再び口を開いた。


「ただユリウスさまは私と婚約を結んでも、何もメリットなんてないんです。私がユリウスさまのことが好きで、アスラム伯爵家の力になりたいという身勝手な思いから考えたことなので」


まあ、確かに話を聞く限り、エルヴァレンに利点があるようには思えない。ここでエルヴァレンがアスラム伯爵令嬢のことを好きだというのなら話は変わってくるのかもしれないが、教室でのあれを見る限り、それはないかもしれない。


感情に左右されて、その感情のままに行動してしまったと後悔しているみたいだけど、私もアスラム伯爵令嬢もまだ10歳なのだ。人間でいう子ども。私の場合は中身を考えると大人と言えるけどね!


それはともかく、そんな子どもが家のために頑張ろうとしていることを否定するつもりはない。そもそも子どもなんだから、ちょっとの失敗はあって当然だと思っている。


それに誰かを好きだという感情も素敵なことだと私は思う。勘違いだったけど、私に対して怒りをぶつけるほど誰かを好きになれたのは誇っていいことだ。


「家のために頑張れるのも、誰かを本気で好きになれるのも素敵なことだと私は思うよ。貴族として生まれたからっていうだけで、その責務を幼いながらに果たそうと努力しているところも素敵だと思う」


思いのまま、私はアスラム伯爵令嬢に告げると、彼女は息をのみ、目を丸くした。


「それにさ、人間は失敗しながら成長していくんでしょ? 後ろを見ることも大事だけど、前を見ることも大事だよ。大丈夫、アスラム伯爵令嬢は自分の行動を反省できる人だから」

「―――……ほんとうに、眩しい人」


アスラム伯爵令嬢は何かを小さく呟いたみたいで、上手く聞こえなかった私は首を傾げてもう一度言って欲しいとお願いしてみる。しかし、アスラム伯爵令嬢は大したことは言っていないと首を横に振って終わってしまった。


まあ、重要なことじゃないなら聞き出すこともないか。ここで私はアスラム伯爵令嬢の領地問題を考えることにした。


正直、地属性の魔法使いじゃないと何とかできないよね、みたいなことを言ったけど、私は何とかできる術を知っている。というか、私が願えばいい。


《月界》にいたときは私は見守るだけで、なにか奇跡を起こしてあげるようなことはしなかった。なんかお母さんが言うにはちょっと奇跡を起こしていたみたいだけど、意識的に奇跡を起こして叶えようとは思っていなかった。


その理由として《月の姫》である私が存在するだけで世界が安定するからというのが1つだ。《月の姫》としての力は確かに強力で、使おうと思えば使えた。


けれど、私が感情で動くけば、世界は大きく揺れる可能性があった。まあ、何ともないかもしれないけど、危ないことはしない方がいいと思っていたし。


それに《月界》は私の居場所であり、生まれた土地だ。そこだと私の《月の姫》としての力は大きく発揮される。


例えば、雨が降らず、土地が乾いてしまうと嘆き、私に願う人々がいたとする。私がそれを叶えようと「雨が降ればいいなぁ」と意識的に願うと、下手をすると数十年単位で気候が変化してしまうことがある。無意識のうちだとそこまで変化はないみたいだが、意識的に願うと力が強くなりすぎて、世界は大きな影響を受ける。


だから《月界》にいたときは世界を見守るだけにして、世界からの願いを叶えようとはしなかった。願わなかった。


けれど、今は人の身で人間界に降り立っている。


《月の姫》としての力も問題なく使えるため、願えば容易にそれは現実へと反映される。私の得意属性がいい例だ。


しかし、人の身として人間界に降り立っている今、《月界》ほど願いの力は大きく発揮されないのではないかと思っている。そりゃあ、私が強く願えば《月界》と遜色なく力は発揮されるだろうけど、ここで意識的に願っても、そこまで広範囲に影響は与えないはずだ。


本気で力を使おうと思わなければ、ちょうどいい規模で収まると思う。それにせっかく人間界に来たのだ。ちょっとくらい、いつもならできないことをしてみたいと思うじゃないか。


けれど、どう力を使うべきか。いきなりここで雨を降らせてもダメだろうし、適当なことを言ってしばらくすれば良くなると言えるわけでもない。


そう考え、私は考え込んで俯いていた顔を上げた。


「アスラム伯爵家はこの不作に対して、やっぱり対策をしてるんだよね。具体的に何をしてるの?」

「そう、ですね。不足している穀物を備蓄している倉庫から価格を抑えて領民に売っています。けれど、倉庫の備蓄も限りがあるので底をつくのは時間の問題なんです」

「確かに、備蓄だって無限にある訳じゃないからね」

「はい。あと、川から水を引く水路の補修とかでしょうか。けれどこれも雨が降らないので意味がないんです。だから既存の井戸をさらに掘って、地下水に期待しているんですけど……」


うーむ、なら井戸から地下水が出てくるようにして、ちょっとだけ土地を元気にしてあげればいいんだ。雨の方は流れを変えてあげて、アスラム伯爵家の方にも巡りが行くようにすればいい。


あくまで私の今はアスラム伯爵令嬢の相談役みたいなものだ。アスラム伯爵令嬢も私に具体的な解決なんて望んでいないだろうし。


話を聞いて、アスラム伯爵令嬢が前を向けるようになったら、私はこっそりと願えばいい。アスラム伯爵家の政策が実を結んだように、そしてほんの少しの奇跡が現れたように。


方向性が決まったとなれば、あとはアスラム伯爵令嬢を元気づけるだけだ。


「今も領地の人たちは頑張っているんでしょ? なら、その努力は報われるよ。間違いなく、アスラム伯爵令嬢の努力も」

「……そう、でしょうか」

「うん。あ、でも、ごめん。エルヴァレンとのことは分からない。そこはアスラム伯爵令嬢とエルヴァレンのことだし」


慌ててそう言うと、アスラム伯爵令嬢は可笑しそうに小さく笑うと、優しく私に微笑んだ。


「もちろん、分かっています。それに、なんだかあなたに話を聞いてもらって、以前ほどユリウスさまに気持ちが傾いていないの。相変わらず好きだけど、きっとあなたに話を聞いてもらえて心の余裕ができたからだと思うんです」


目に見えて明るく笑ったアスラム伯爵令嬢に私は嬉しくなる。


「そっか、それなら良かったよ。アスラム伯爵家のみんなの努力はきっと実を結ぶ。そうなるよ」


アスラム伯爵令嬢は私の言葉にこくりと頷いた。


「私も、そうなることを願います」

「うん。きっと《月の姫》もアスラム伯爵令嬢のことを見守っているからさ」

「そう、だと嬉しいです。でも、あなたに話を聞いて貰えたたけで、私はもう十分嬉しいです」


この短い時間だけでも、アスラム伯爵令嬢の表情は大きく変わった。目に見えて、彼女は明るくなった。


それなら、もう大丈夫だ。危うかった姿も今はもうない。


「私も嬉しいよ。ねえ、せっかくだし、私のことは名前で呼んでよ」

「なら私のこともリリアーヌと。……セレナのおかげで私は気持ちが楽になりました。領地のことはまだ不安ですけど、彼らの努力は私が誰よりも知っているつもりです。だから、きっと大丈夫だと信じます」

「うん。リリアーヌたちなら大丈夫」


私は強く頷き、ガーデンチェアから立ち上がった。空は未だ眩しいくらいに青く広がっている。


「また、何かあったら相談してよ。いつでも待ってるから」

「ありがとうございます。セレナも何か困り事があったら言ってください。力になれることがあるかもしれません」

「そのときはお願いするね」


私は笑顔でリリアーヌを見た。彼女もまた、私を見つめると、私たちはお互いに手を振り合った。


「じゃあ、またね」

「はい。今日は色々とありがとうございました」


私は晴れやかな気分で教室へと戻った。



教室に着いた頃には次の授業まであと10分程度しか残っていなかった。けれど気分は明るく、私は緩く笑みを浮かべながら授業の準備をした。


そのとき、すでに準備を終えていたエルヴァレンが話しかけてきた。


「そういえば君、昼休みの時間どこにいたの? フェルディとクロウは先に教室に戻ってきていたみたいだけど」


そう問われ、私は秘密にするでもなく手を動かしながら答えた。


「どこって、リリアーヌのところ。ミラとエリナには先に戻るように言っていたし」


すると、聞いてきたのはエルヴァレンの方だと言うのに彼は信じられない顔を私に向けてきて、ミラとエリナも私の言葉に驚いたのか急いでこちらにやってきた。


「ちょっ、ちょっと待って! リリアーヌって、セレナを叩いたアスラム伯爵令嬢のこと!?」

「一人になりたい時もあるだろうしと思って、私たちは先に帰ってきてたけど、アスラム伯爵令嬢のとこに行ってたの!?」


ミラとエリナは早口で私に問いかけてくる。何をそんなに慌てることがあるんだろう。


「そうだよ。リリアーヌと話をしてきたんだ」


その瞬間、ミラとエリナだけじゃなく、教室内の他のクラスメイトたちも私に意識を向けてきた。まあ、これは予想していたことだし、仕方がないといえば仕方がないけど、ここまで驚かれるとは。


「アスラム伯爵令嬢と話をしてきたって、この短時間で何があったの? しかも名前で呼んでいるなんて」


ミラは恐る恐ると言った感じで聞いてくる。私はそれに対して、ううんと唸りながらどう答えるか考える。けれど、やっぱりこれは私とリリアーヌと秘密だと思って、唇に人差し指を持っていって、内緒話をする仕草をした。


「んー、内緒。私はリリアーヌと仲良くしたいし、していきたい。まあ強いて言えばリリアーヌにも悩みがあったんだよ。私とリリアーヌの間ではもう解決したことだから、心配しなくてもいいよ」


ミラとエリナだけではなく、教室中に告げるようにそう言うと、ミラとエリナは何か聞きたそうにしていたが、結局は仕方がないとでも言うように肩を竦めた。


「セレナがそういうのなら、もう聞かないわ。でも、次からはちゃんと言ってよね」

「セレナのこと、大切なんだから」


私は二人の言葉に嬉しくなり、素直に頷いた。それを見ると、二人は授業が終わったらまた話しましょと言って、自分の席に戻っていった。


私たちに意識を向けていたクラスメイトも何事も無かったかのように授業の準備をしていた。相変わらず、人の話を聞くのが好きだなぁと思いつつ、これで私とリリアーヌの仲を面白おかしく話すことがないように祈る。


授業の準備は終えたし、あと数分で鐘は鳴る。このままぼうっと授業開始まで待っていようと思っていると、またしても隣から声がかかった。



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