第283話 【降臨する精霊王と圧倒の威圧】平伏する有翼人の王国! 畏怖される覇王の威光と勇者ヴァルキリーへの旅立ち!
最高峰の天災たるエンペラー種・アンナの正体に震え上がるウイグザム国王に対し、自己紹介はさらに続いていく。
次に口を開いたのは、透き通るような白銀の髪を持った美麗な青年——エルダーリッチであり元勇者のユイだった。
「勇者ユイです」
「ゆ……勇者……ッ!? 樹海帝国には……勇者まで配下に下っているというのか……ッ!?」
ウイグザム国王の絞り出すような独り言は、静まり返った食堂の全員に丸聞こえだった。隣のハーミアも「ひええぇぇッ!? 伝説の勇者様までヒロト陛下の眷属なのですかぁぁッ!?」と頭を抱えて叫んでいる。
続いて、愛らしいエプロン姿のブラウニー・ブラリリが微笑みながら一礼した。
「ヒロト陛下専属の使用人、ブラリリと申します! 本日は陛下専属の料理人として同行のお許しをいただいております」
ウイグザム国王は驚きつつも、どこか誇らしげに胸を張った。
「おおっ! 樹海帝国の料理人様でございますか! しかも皇帝陛下専属とは……! 我が王城が誇る料理長たちの腕を、ぜひ味わっていただきたい!」
「ふふ、こちらの王城のお食事も楽しみにさせていただきますね。ですが、先ほど街でいただいた屋台の料理にも、とっても美味しいものがたくさんありましたよ」
「な……なんと! この我が国の城の料理を前にして、街の屋台などを……ッ! お、お恥ずかしいかぎりでございます……!」
ブラリリの何気ない一言に、ウイグザム国王は額に汗を浮かべて恐縮しきりだ。
そして最後に、俺の左隣に静かに佇んでいた精霊王たる世界樹のレイが、滑らかな口調で自らの正体を告げた。
「私は精霊王で、ヒロトの后妃であるレイです」
「え……っ!? せ、精霊王……様……っ!? そして皇帝陛下の……后妃様ですと……ッ!?」
ウイグザム国王が完全に思考停止したその瞬間、レイはおもむろに立ち上がり、人化の姿を解除して『精霊王形態』へと変化した。
ドギャァァァン……ッ!!
一瞬にして食堂全体を覆い尽くす、圧倒的で神聖な精霊力の波動。神々しい光の粒子が室内を舞い、あまりの圧倒的な神威と存在感に、空気そのものが目に見えて震え上がった。
樹海帝国の仲間たちを除く、その場にいた全員が直撃を受けたように息を呑む。
次の瞬間、ウイグザム国王はもちろんのこと、両脇に控えていた給仕や兵士たち、さらには隣にいたハーミアまでもが、まるで磁石に引き寄せられるように勢いよく椅子から転がり落ち、床に激しく膝をついて深々と平身低頭した。
「ひゃあああぁぁぁッ!? 本物の神様……精霊王様だぁぁぁッ!?」
ハーミアが泣き叫びながら床に額をこすり付ける中、神々しい光を纏ったレイが、優しく温かな声で語りかけた。
「皆様、顔をお上げになり、元にお戻りなさい」
その声は、聞く者すべての魂に直接染み渡るような絶対の慈愛に満ちていた。
平伏していた全員が弾かれたように立ち上がり、畏怖と感動に全身を震わせながら元の位置へと戻っていく。給仕たちは震える手足で配置につき、ウイグザム国王とハーミアも命からがら椅子に座り直した。
レイも神々しい光を収めると、何事もなかったかのように元の美しい姿に戻り、俺の左隣の席へとしとやかに座り直した。
ウイグザム国王は全身からボタボタと冷や汗を流しながら、必死に頭を下げた。
「まさか……生きて精霊王様をこの目でお迎えできるとは……感激の極みにございます……ッ! また、知らなかった事とはいえ、これまでの数々の無礼の段……平に、平にご容赦くださいませ……ッ!」
無理もない。この世界において精霊王といえば、信仰の対象であり直接まみえることなど絶対にあり得ない伝説の神に等しい存在なのだから。
レイは小さく微笑み、優しく首を横に振った。
「どうか気になさらないでください。私の夫であるヒロトに無礼さえなければ、何も問題はありませんよ」
その言葉を聞いたウイグザム国王の顔が、一瞬で引きつった。
(えっ……『ヒロト陛下に無礼がなければ』……!?)
ウイグザム国王の脳内で、これまでの自分の言動が高速でフラッシュバックしているのが目に見えるようだ。『ブランデーを勝手に大杯で飲んだこと』『一口舐めろという注意を無視したこと』『売り物ではないと言われたのにしつこく買おうとしたこと』……すべてが冷や汗となって吹き出している。
安堵していいのか、それとも恐怖すべきなのか分からず、ガクガクと震えながら俺の顔色を窺うウイグザム国王の姿は、ちょっとかわいそうになるほどだった。
◇
こうして緊張と衝撃に包まれた有翼人国王との昼食会が終わり、俺たちは無事に王城を辞した。
王城の重厚な外門に向かって歩きながら、俺は伸びをした。
「ふぅ、ようやく終わったね。さあ、さっさとこの国を出国しようか」
するとハーミアが目を輝かせ、ピョンピョンと跳ねながら同調してきた。
「はいっ! ヒロト陛下、早く次の目的地であるノガートの町に行きましょうッ!」
その言葉に、後ろを歩いていたユイがニヤリと不敵な笑みを浮かべてからかわれた。
「ハーミア王女様、本当の目的はノガートの町にいるっていう『勇者ヴァルキリー』に会いたいからでしょ?」
「も、勿論ですよッ! 当たり前じゃないですかッ! アマゾネスの武人として、伝説の女勇者様に会わずにいられましょうかッ!」
「あはは、本当に正直だねー」
ハーミアのぶれない態度にみんなでくすくす笑っていると、シュタッと音もなく漆黒の美女姿のアンナが俺の隣へと現れた。
「ヒロト様、城の者や王国の隠密たちが後方から猛烈に監視しておりますが……いかがいたしましょうか? 排除いたしますか?」
俺は苦笑しながら首を横に振った。
「まあ、向こうもこちらが恐ろしくて見張っているだけだろうし、害はないよ。放っておこう」
そんな会話を交わしながら王城の出入口の大きな門に近づくと、槍を持った二人の重装兵士が立ちはだかった。
「ひ、ヒロト皇帝陛下……! お帰りになられるのですか!?」
「はい、帰りますよ」
「少々お待ちください! すぐに上司と門兵長に報告を……ッ!」
「待たない。今すぐ帰る」
俺が即答すると、門番たちは「し、しかし規則が……!」と慌てふためいた。
そこへ、ダークハイエルフの女王グレイアが静かに前に進み出た。
その瞬間——グレイアから放たれた漆黒の圧迫感が、門番ふたりを直撃した。
「ねえ……。我が樹海帝国の皇帝ヒロト陛下を足止めして待たせるなんて、あんたたち一体何様のつもりかしら……?」
氷のように冷たいグレイアの声音と威圧に、門番たちの顔面は一瞬で土気色に変わった。
「ひ、ひぃぃぃッ!? は、はいっ! 申し訳ございませんッ! ど、どうぞお通りくださいませッ!!」
膝をガクガクと震わせ、挙動不審になりながら必死に門を開け放つ門番たち。俺たちはその間を悠々と通り抜け、次の目的地であるノガートの町へと向かって足を進めるのだった。




