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片翼の竜  作者: もやしいため
第三幕:カルオットの願い
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序列二位と新米勇者

 本能で争う魔物の脅威は、人族の技術をあっさり上回る。

 いや、正確にはいくら道具がよくても、使用者が大したことなければ戦闘にすら至れない。

 敵前で竦んでしまえばただのエサにしかならないのだ。

 もちろん、その前段階である数と質で人側が惨敗するのも負け戦を演じる主な原因でもある。


 だが、そんな不利をひっくり返す仕事を請け負うのが『勇者』である。

 こと戦力に関していえば、どんな場面でも負けることが許されず、たとえ身内がどんなに馬鹿で戦力を自滅させて磨り潰していようとも戦果を求められる。

 ただしその場合の『無能な指揮官』は、人族のため(・・・・・)に勇者の手で葬られることもあり、現地でもかなり緊張感が伴うことになる。


 だからとヴァルは『勇者』の役目を押し付けられた者たちに、滅私の心で世界に尽くせなどと無理を言う気はない。

 あんな称号はただの勲章(バッジ)でしかなく、期待されたからと実現できるほど現実は甘くない。

 好きに生きれば良いと思っているし、役職もいらなのならその辺に捨てれば良いとさえ思っている。

『他人の生き方をとやかく言えるほど、戦うしか能のない勇者(おれ)たちは頭は良くないからな』と、本心から思っているのだ。


 ただし勇者(バッジ)を受け取り、権利を振り回すのなら相応の働きは必要だ。

 人族(みかた)の顔をしてところかまわず暴力を振るうのなら、話が通じて紛れ込める分だけ魔物や魔族より質が悪い。

 少なくとも人の邪魔はするな、と思うのは当然で、是非とも早急に隠居の道を選んでほしい。

 最悪、魔族側に寝返ってすら良いとさえ思える……そのときは全力で抹殺対象にできるからだ。


 そうした色々をないまぜに、余りにも馬鹿馬鹿しい勇者vs勇者(エキシビジョンマッチ)が始まってしまう。

 最近は随分と対人戦をサボっていたヴァルからすると、少しはカンを取り戻すのに役立ちそうなものだが……残念ながら魔族たちとは脅威度が桁違いだ。


(嘆いても始まんねぇが、あいつらは身体の構造自体が違うからなぁ……)


 とやはり嘆いてしまうのは人族の性だろうか。

 先程と変わらず貴賓席に座る竜神様(アルカナ)を遠目に眺めれば、ひらひらと手を振ってくれている。

 なかなか気分の晴れないヴァルも、相槌代わりに振りかえしていると、対戦相手のイルマが突っかかって来た。


「余裕だな勇者ヴィクトル・ヘンライン」


「なんだ知ってたのか?」


「イワンで訊いた」


「……俺の情報を売った奴はどいつだ?」


「シュリンとか言ってたか」


「野郎……」


 ヴァルの中でかの国の情報屋は半殺しが確定した。

 ただ、捕まえる方が時間と労力が勝ちかねず、そのくせ必要なときには相手から顔を出すので、実行できるかは不明である。

 少なくともヘイトはたまる一方だった。


「まぁ、勇者同士仲良くしようぜ」


「……どれくらい強いのか楽しみだ」


「『序列』に割り込みたいなら下から行けよ」


「そんなのどうでもいい。わたしは憂さ晴らしができればそれでいい」


「憂さ晴らしに勇者や信者を使うなよ……」


 呆れ返る残念な理由に、ヴァルは思わず脱力する。

 ちなみにヴァルの序列は第二位で、これは勇者を含む全人族の中で上から二番目に強いことを意味する。


 この序列は、一国すら相手取れる極大戦力を持つ個人を『管理している』と勘違いするため(・・・・・・・)に付けられたものだ。

 あくまで目安でしかなく、もちろん一位も三位も勇者認定を受けている者で、序列として意味が出てくるのは四位以下となる。

 駒遊びが大好きな馬鹿な有力者たちがこぞって使いたがる符牒でもあった。


 結局戦況によって変わる戦力など大した意味は無いが、アルカナとの半年に及ぶ戦闘により対応力は格段に広がっている。

 もしかすると今のヴァルなら序列一位も目指せるかもしれない。


(さて、何はともあれイルマ・ユーリを凹ませるのが今回の仕事だ)


 試合を見た感じでは、まさに猪武者と呼ばれるような性能頼りの力任せである。

 勇者と呼ばれるわりに脳筋神殿(カルオット)の信者とはいえ、一介の戦士にカウンターを貰う場面もあり、何となく戦いなれていない感じが強い。

 高い身体能力につたない技術……ちぐはぐな印象を持たされるイルマに、ヴァルがコツコツと戦闘シミュレーションをしている間に



 ――はじめ!



 勇者同士の『競い合い』が始まった。


 合図と共にイワンの背後が爆発したかのように土煙を上げて発射された。

 その鋭い踏み込みは真正面から最短距離の一直線……故に他の何をするよりも早い。


(愚直にもほどがあるだろうがッ!)


 引き気味の思考とは裏腹に、直線的過ぎる攻撃を片足を半歩下げて右回転して半身になって回避し、通りすがったイルマを視線と気配で追う。

 驚いた顔を浮かべるイルマは、かかとを地面にこすり付けながら反転し、腰の剣を引き抜いていた。


 イルマもお遊び程度で参加した武祭とはいえ、それでも勇者がただの信者にカウンターを入れられるなんてありえない。

 しかし試合の度にカウンターを被弾し続けたのは、速度はともかく攻撃が余りに直線的だからに他ならない。

 逆に言うと、信者たちは勇者を相手に見切り、単なる才能のみで敗北したといって言い。

 だから――


(大した速度だが……この回避(ていど)で驚くだと? いやいや、いくら早くても今の避けられなきゃ俺はアルカナに何度殺されてるんだよ)


 横凪ぎの剣速は確かに一級品。

 しかし結局最初と同じ。

 馬鹿の一つ覚えのようにただ速いだけで直線的な攻撃……それも単発ばかり。

 ヴァルは鞘から抜きもせず、腰のベルトに固定されたままで跳ね上げ、イルマの剣筋を逸らし、頭上を走る剣をくぐって避ける。


「何だかがっかりだなお前」


「せいぜいいきがっていろ!」


「それは当ててから言ってもらいたいセリフだなぁ」


「うるさい!!」


 振り回される剣の速度はやはり素晴らしいの一言。

 しかし子供の癇癪のように振るわれる攻撃はヴァルにかすりもせず、初撃の剣を受けた以降は身のこなしだけで十分で、剣を抜く必要もない。

 間合いの面で明らかに不利な徒手空拳でさばける程度とは、控えめに言ってもお粗末だった。


「イルマ・ユーリ、降参するなら痛い目に遭っていない今の内にしておけよ」


「いいから、わたしに殴られろ!」


「殴るってお前な……その剣だとどう考えても斬れるだろ馬鹿なのか?」


「うるさい!」


「うるさいのはお前だよ。いい加減にしないと鉄拳制裁の時間になるからな?」


「やるなら早くやれ!」


「そうかい、警告はしたからな?」


 そう、勇者(ヴァル)は警告はした。

 そしてそれを無視したのなら、兵器らしく(・・・・・)暴力によって解決するだけだ。


(これでも温厚な方なんだぜ? 泣くんじゃないぞ坊主)


 ヴァルは拳を握り、イルマに対峙する。


「そんじゃま、レッスン一。無駄な攻撃は反撃を受けやすい」


 ―――ガシャンッ


「っが!?」


 イルマの剣戟の隙間を縫い、剣を持つ右の手首を受け止めて引っこ抜く。

 同時にヴァルは前進しながら右肩を突き出し、イルマの腹に体重を乗せた体当たりの一撃入れる。

 握っていた手をパッと離せば、背後へ吹き飛んでいくイルマから防御魔法が剥がれる破砕音が漏れ聞こえた。


(なるほど、このくらいの威力なら負傷(ダメージ)になるのな)


 カルオットの秘術は個人の性能に依存するため、イルマの耐久度と防御魔法の剥がれ具合を確認する。

 やりすぎては殺してしまうし、手加減しすぎては痛手にならない。

 綺麗に剥いて無傷で終わらせなくては先輩として大きな顔もできないからだ。


「レッスン二、攻撃は一撃とは限らない。むしろ態勢を崩されたなら追撃は必然だ」


 足を浮かせて背後に吹き飛ぶイルマを、万全の態勢を維持するヴァルは、地面を踏み締めてあっさり追い縋り、腕を処刑道具(ギロチン)のように振り下ろす。


 ―――ガシャンッ


 またも剥がれる防御魔法。

 少し威力を増して叩き込んだが……まるで攻撃が通った気がしない。

 水平に浮かんでいたイルマを叩き落せば硬い地面は身体を拒絶し跳ねさせる。

 思っていたよりも耐久力が高いようだ、とヴァルは一段階ギアを上げた。


「レッスン三、防げないなら全力で逃げろ。一度でも立ち止まれば袋叩きに遭うだけだぜ?」


 ―――ガガッシャンッ


 バウンドしたイルマを地面に落とさぬよう、背後に飛ばさぬように小刻みに浮かして削っていく。

 景気よく破砕音がこだまするが、それでも完全には剥がれない。

 やはり腐っても勇者、とでも言うべきか。


「ふざけやがってぇええ!!」


 力任せに振り回されたイルマの剣から逃れるため、ヴァルは余裕を持って背後へ跳ぶ。

 撤退がいかに重要かはアルカナで十分学んでいる。

 攻めるべき時に攻め、逃げる時は逃げる。

 たとえそれが『あと一歩』でも、欲を持ってはいけない、と心に刻まれている。

 生存能力だけは勇者の中でも随一だと自負できるほどにヴァルは死地に強くなってた。


「っと、あぶねぇ」


「はぁ……はぁ……」


「息が上がってるな新勇者(ルーキー)?」


「う、るさいっ!」


「語彙力って知ってるか? 俺も博識じゃないが、いくらなんでも『うるさい』しか言わないのはどうかと思うぞ?」


「…………」


「お次はだんまりか」


 少し距離を取った未だ剣すら抜いていないヴァルは、肩を竦めて余裕の態度を崩さない。

 勇者同士とはいえ、余りに圧倒的な実力差にカルオットの信者も息を呑む。

 これが序列二位を誇る勇者の隔絶した戦力だった。


(まぁ、構わないけどな。どうせ勇者(おれ)たちは殴り合いで決めるしかない人種だ)


 良くも悪くも武力で成果を示すのが務めである。

 ギリっと左の拳を握り、さっきまでの迎撃とは違って攻める姿勢を周囲に見せる。


「レッスン四、様子見ならしっかり見ておけ。でないと単に相手に先手を譲るだけになるぞ? こんな風にな」


 ――ガシャンッ


 またも鳴り響く魔法の剥がれる音。

 特殊な歩法、縮地で近付いたヴァルの左の拳が剣を持つ右腕に直撃する。


(何だこいつ……攻撃だけじゃなくて防御も緩いな?)


 簡単に剥がれ落ちる魔法……だが手応えがおかしい。

 痛みはありそうだが、勇者(ヴァル)の攻撃でも大した負傷(ダメージ)を受けた感じが無い。

 現に結構良いのをいくつも入れてるのに魔法式が解けきっていない。


(いっそ腕でも切り落と……いや、待て。この戦況で人族側をこれ以上弱体化させてどうすんだ俺)


「っぐぅ……まだまだぁぁ!!」


 破れかぶれだが、正確にヴァルに振り降ろされる剣の速度はやはり大したものだ。

 ヴァルは下から掬い上げるようなアッパーを、顎ではなく豪速で振り下ろされる剣を持つ右腕へと放つ。


 ――ゴシャッ


 拳に痺れるような衝撃と、さっきまでとは明らかに違う音がした。

 防御魔法が掛かっているからお互いの腕と拳が壊れることもなく、何よりヴァルは攻撃手。

 殴るために握った拳と、武器を持つだけの腕では、どう考えても前者が有利だ。

 それでも


(合わせただけでなんて威力だよ)


 とヴァルが悪態をつく程度には頑丈で、正面から剣で受け止めれば武器の寿命が削られそうだ。

 そもそもイルマの剣は、力任せに振り回すだけなのに、壊れる気配がない。

 本人の頑丈さも相まって違和感を感じながらも、少し距離を取った。


「あぐぅ……」


「はぁ、いい加減諦めろって。これじゃ俺がイジメてるみたいで外聞が悪いだろ?」


「お前が敗ければ良いんだよ!」


「あぁ、敗北が知りたい」


「こんのクソ勇者ぁぁぁああ!!」


 ――ゴシャッ


「レッスン五、安い挑発に乗るな。言うまでもないことなんだがな?」


 横薙ぎに振られた剣に合わせて間髪入れずカウンターを入れる。

 狙う先はやはり剣を持つ腕だ。

 でなくてはイルマの頑丈さに武器か身体が砕けかねない。


 さすがに二連続で同じ場所を打たれれば武器も取り落とす。

 しかしその腕は壊れることなく存在していた。


(試合時間に制限は一応ないし、いくらでも付き合ってやってもいいが……こうなると膠着状態か)


 ぎらつく視線を向けてくるイルマに呆れるヴァルも、そろそろ面倒になってきてしまった。

 耐久力は一級品なので、心を折に行くべきかもしれない。


「なぁ、まさかイワンで負け知らずってのは、お前の頑丈さに周りが屈しただけなんじゃないのか?」


「わたしは強いんだ!」


「と言われてもこれjy……」


 ――ゴシャッ


 奇襲を入れたかったのか、うつむき加減の態勢から襲い掛かってくるのを、顔面への踏み付けで迎撃した。

 どうにも身体の動きが噛み合っていない。

 まさかこのイルマもアルカナ同様、何かの化身だったりしないだろうか。


「レッスン六、どうせ攻撃するなら虚撃(フェイント)を入れろ。

 全部ド本命で殴りに行っても簡単に気配を読まれて避けられるか合わせられるぞ? 今みたいにな」


 話ながらついでに二、三発蹴りを入れて距離を取る。

 防御魔法の気配はまだ残っているが、随分と薄くなってきたような気もする。

 それでも勇者の攻撃……いや、カウンターを無防備に何度も受けて耐えられるなどまったく大した頑丈さである。


「こ、このっ!」


(防御魔法に阻まれても、身体が貰う衝撃は相当なもんなんだがなぁ)


 攻撃に合わせて腕を殴ったことを思い出しながら、ひらりと避けてさらに数度の攻撃を入れると、ようやく魔法が完全に解けた。


 ―――勝者、ヴィクトル・ヘンライン!


 勇者と呼ばれる規格外(バケモノ)同士の戦いにも関わらず、観戦できるレベルでの接近戦を演じ、それも周囲に被害を出すこと無く静かに終わった。

 そう、問題なのは『勇者討伐』の事実であって、別にイルマの頑丈さの種明かしではない。

 今後共闘する場面で仲良くしてくれれば十分だ、とワイズ教皇の願いを叶えたヴァルは、会場を去ろうとイルマに背を向けて歩き出した。

お読みくださりありがとうございます。


イキってたイルマを軽くあしらうヴァルさん本業に戻るとマジパない。

アルカナやルイーズと掛け合いしていると残念勇者ですが、こと戦闘に関してはガチで強いのです。


ちなみに序列はあくまで目安です。

序列一位は最強扱いですが、戦況や状況によって有効な手段が変わるため、ヴァルに絶対勝てるというわけでもありません。

また、序列三位までの勇者と四位以下の一般人は、実力に天と地ほどの差があります。

となると勇者と呼ばれるイルマは、現在最低でも四位に位置することになり、逆に五位以下の一般人とは実力が隔絶しているはずです(たぶん

この隔絶した差こそが勇者たる実力なのです(ここテストにでますよ

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