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【黒の装殻】シェルベイル  作者: メアリー=ドゥ
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第36節:相似


「まさか、黒の一号以外の【黒の装殻】がこの街に居たとは、とんだ誤算ですよ」

 伍号相手に突撃殻弾銃で応戦しながら、シープがぼやいた。

「俺達が、ハジメさんの危機を見過ごすと思ってたのか?」

 伍号は両手を交差させて分厚い装殻で銃弾を防ぎながら、シープへ向けて真っ直ぐに突っ込んでいく。

 シープのコア性能で弾丸を精製するタイプだが、伍号の外殻を抜くには威力が足りない。

「《黄の拳帯ボルトナックル》!」

 伍号の宣言と同時に、彼が両腕に惑う電撃はさらに強力になり、その威力を示すように腕自体が黄金色に輝いた。

 雷そのものに近い雷撃の拳帯だ。

 接触すれば、如何にアンティノラであっても黒焦げになるのは必至だった。

「来るのは予測していましたが、貴方がたの対応が早すぎた、と言ってるんですよ。これは司法局に協力者でも居ましたかね? ……それも、かなり上の方に」

 伍号の両腕に宿る威力を理解しているのだろう、シープは牽制して逃げ回りながら、ぼやきに似た探りを入れる。

 伍号は答えなかった。

 追い付く、と思った瞬間、彼が踏み込んだ先にシープが仕掛けた光学迷彩式の地雷があり、踏み抜いた伍号は炸裂の爆風によって動きを止められる。

 そこから二人の戦闘は迫る伍号をシープがいなす、という様相を呈し始め、伍号は苛立ち混じりに言った。

「いい加減にしろよ、この偽物野郎! 逃げるだけか!」

「性能的に相手にならないのでね。大体、私が生まれたのは貴方より先です。偽物呼ばわりは心外ですね」

 シープが、追い込んで来る伍号の動きに合わせて腕に仕込んだ暗器を振るった。

出力解放アビリティオーダー……《悪魔の指先イヴィルクロウ》」

 シープの手首から伸びるのは、エネルギーによる超振動を備える、長く鋭い一本爪。

 直線、最短軌道で伍号を鎧う外殻の隙間を狙ったその一撃を、伍号は体を捻って肩で受けた。

 伍号の肩部外殻は特に分厚い。

 表面を削って突き立った爪の一撃は、同時に伍号が肩まで広げた雷撃を伝導し、逆にシープへと電撃のショックを叩き込む。

「クッ……!」

 咄嗟に爪を引いたシープだが、右腕が痺れたのか片方の銃を取り落とした。

「捉えたぜ」

 シープの爪が引かれた瞬間に前に踏み込んだ伍号は、そのままシープへと体当たりを敢行した。

 後ろへ跳んで衝撃を逃がそうとしたシープだが、あまりにも強烈な一撃に威力を殺し切れずにゴロゴロと転がる。

「……これでも、ダメですか」

 初めて、シープが声に滲ませた感情は、埋め難い彼我の能力に対する嫉妬の情だと、伍号は感じた。

「それだけの力を持ちながら、何故、ただの人間が怖いんですか? 私には理解できませんね」

「怖い、だと?」

「違うのですか? 恐れていないなら、堂々としていれば良いじゃありませんか。仮に黒の伍号とバレた所で蹴散らすだけの力を、貴方は有している」

 体を起こしたシープは、諦めてはいないようだった。

 残った銃を体の脇に構えて、手首の爪を伍号へと向ける。

「それをこそこそと、私達のような者を追い詰める為だけに小細工を弄する。一体、何の為に?」

「言っただろ。俺達は、人を守ろうとしているんだ。お前等みたいな連中からな。蹴散らすだと? そんな事をして何の意味がある」

「だから、理解出来ないと言うんですよ。貴方も人体改造型、人から迫害される対象だ。自分を否定する存在を守ると言う、その思考回路が、不愉快な程に理解出来ない」

 伍号は、歯ぎしりするような声で言うシープの言葉を黙って聞く。

「私にその力があれば、こんな場所で、こんな真似をしなくて済むのに、私にはそれだけの力がない。本当に、不愉快ですよ」

「自分達さえ良けりゃ、それで良いか?」

 ゴキリと首を鳴らしながら言う伍号に、シープは躊躇いもなく頷いた。

「当然でしょう。人間に迎合した所で、人体改造型とバレればどうせその場に留まれはしない。いつまで生きるか分からない、無駄に強靭な体ですからね。そんないつ終わるとも知れない鼠のような生き方を、貴方は望みますか?」

 鼠のような生き方。

 伍号には、シープの気持ちが、癪な事に理解出来てしまう。

「鼠か。そうだな。俺が昔スラムで生きていた頃を今振り返りゃ、本当にゴミみたいな生き方をしていたと、自分でも思うよ」

「へぇ。貴方にもそんなご経験が?」

「ああ。人も散々殺したし、持ってる奴から金を奪った事も一度や二度じゃねぇさ。金がねぇ、居場所がねぇってのは、辛いよな」

 伍号は、ゆっくりと拳を握りしめて、ボクシングのように顔の前に掲げる。

「だからお前は、ミスター・サイクロンに乗ったのか?」

「ええ。彼は強い。私よりも、余程心が強い人です。私は自分の為だけに生きて来ましたが、それでもアンティノラⅦと共に居る事は心地よいと感じていましたよ」

 本人に伝えた事はありませんけどね、とシープは言った。

「ただ生きる為に小賢しく振る舞うしか能のない私ですが、彼と動けば支配する側になれる。そう思っていたんですがね」

「失敗だったな。人体改造型である事を捨てて鼠のように生きていりゃ、あるいは生き長らえる事も、人として幸せを掴む事も出来たかも知れなかったのにな」

「失敗? 私は、そうは思いませんね。アンティノラⅦは勝ちますよ。私は彼が黒の一号を始末するまで、ただ逃げ回っていれば良い」

「お前らに、そんな未来はねぇよ。俺達と敵対する道を選んだ時点で、お前らの運命は決まってる。お前は、自分さえ良けりゃそれで良いらしいが……」

 伍号は、シープへ向けて踏み込んだ。


「そうやって好き勝手振る舞った結果、【黒の装殻オレたち】をこの場に呼び寄せたんだ」

 

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