空から降ってきたエマを、今度こそ…
三週目の始まりは、あまりにも唐突だった。
魂の流れが大きく揺れた瞬間があった。
あの二本の異質な光――境界でエマに干渉した何者かの存在も、遠くから感じていた。
だが、彼らが何を囁いたのかはわからない。
ただ一つだけ、はっきりと伝わってきた。
「強く、愛されたい」
ああ、と納得した。
あの世界で誰にも本当には必要とされなかったエマが、心の底で願っていたもの。
一週目で俺が守れず、二週目で何もしてやれなかった痛み。
そのすべてが、その一言に凝縮されていた。
だから俺は、魂の流れがこちらに向き直った瞬間を逃さなかった。
塔の最上階に巨大な召喚陣を展開し、
世界の境界をほんの一瞬だけこじ開ける。
「今度こそ……間に合わせる」
天井のない空間に、
空が裂けるようにひかりの穴が開いた。
そこから、何かが落ちてくる。
小さく丸まった身体。見慣れた気配。
「……エマ!」
思考より先に身体が動いていた。
崩れ落ちるように降ってきたその身体を、
俺は両腕を伸ばして受け止めた。
腕の中の感触は、驚くほど軽く、あたたかかった。
一週目とも、二週目のどの瞬間とも違う。
けれど、魂だけはまったく変わっていなかった。
胸の奥が、安堵でひび割れるようだった。
「……おかえり」
意識を失っているエマは、何も答えない。
だが、その魂は静かに俺の魔力に応えて震えていた。
俺はそっと彼女を抱き上げ、
塔の一室のベッドへと寝かせた。
目を覚ます頃には、
彼女は「三週目のエマ」として、新しい人生を歩き始めるだろう。
そして彼女は――
空から降ってきた瞬間のことを、きっと覚えていない。




