記憶のないエマと、変わらない魂
エマが目を覚ましたとき、
彼女はもう“この世界のエマ”としての記憶を持っていた。
前世のことは断片的に、ただ「トラック」や「仕事」や「ヤンデレ小説」といった形で語るだけで、
一週目――孤児院で俺と過ごした日々の記憶は、跡形もなかった。
それは、きっとこの世界の外で何かが起きたのだろう。
あの二柱が与えた“特典”とやらかもしれない。
エマの傷を、少しでも軽くするための配慮だったのかもしれない。
エマは、自分を「二週目」だと思っている。
トラックに轢かれて死に、
転生してこの世界に来たのだと。
実際には、これは三週目だ。
一度孤児として生まれ、
一度別世界で生き、
そして今また、俺の目の前にいる。
だが、俺は訂正しない。
記憶がなくても構わない。
俺だけが覚えていればいい。
一週目の笑いも、涙も、手を繋いだぬくもりも、
全部全部、俺が持っていればいい。
何よりも大事なのは――
魂が変わっていないことだった。
魔力を巡らせた瞬間、
一週目のエマと同じ反応が返ってくる。
少しくすぐったそうに指を握り返す仕草。
考え込む時、癖のように唇を噛む癖。
嬉しい時、言葉よりも先に目尻がゆるむところ。
それらは全部、まったく同じだった。
記憶はなくても、
“エマ”という存在は、何ひとつ変わっていない。
それに気づくたび、
胸の底で固まっていた氷が、少しずつ溶けていく気がした。




