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兼業農家冒険者のスローライフ(?)な日々~農業滅茶苦茶キツいんだけど、誰にクレーム入れたらいい?~  作者: 晩夏ノ空


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98 坑道の魔素の対策案


 ハンスは一瞬違和感を覚えつつも、ネイトのことをリンやアルビレオたちに紹介する。

 和やかに自己紹介をし、握手を交わした後、一行は休憩所に移動した。


「ついでだから、情報共有な」


 ハンスは大きなテーブルに坑道の地図を広げ、周囲を見渡す。


 ハンスは坑道の調査に時間がかかることを見越して、今日はギルドの仮眠室──トレ=ド=レントとオルト=リ=オウルの部屋ではない方の仮眠室のベッドを確保している。

 ネイトは下調べを効率的に済ませられるよう、最初から泊りがけの予定で上エーギル村に来ていた。春の長期休暇中とはいえ、村に居られる日数には限りがあるのだ。


 よって、今のうちにサクサク仕事を進めてしまおうという魂胆である。


 なお、ハラヘッタと騒いでいたモクレンは、ゲルダと共に一足先に食堂に向かった。

 魔族が魔素を過剰摂取した時は、普通の食事でバランスを取るというが──ゲルダの場合は盛大にお腹を鳴らしていたので、単に空腹に耐えられなくなっただけという説が濃厚である。


「ざっと調べた限り、魔素濃度が高いのは──」


 ハンスが説明し、アルビレオが所々補足する。さらに、現場で仕事をする立場としてデニスも言葉を添える。

 時折質問を挟みつつ、ネイトは一つ一つの説明を真剣に聞いていた。


「…なるほど。そうなると…」


 一通りの話を聞き終え、ネイトはさっとペンを持つ。


「ハンスさんの言う通り、坑道の入口とは別に風の出口──排気口を作って、坑内には送風機を複数台設置。坑道の入口から中に向かって風を送り込んで作業中の魔素濃度を低減し、夜間や休日には送風機を止め、入口と排気口を塞ぐ…。この方法が現実的ですね。全ての送風機が入口の送風機と連動して動くようにすれば、朝、入口の送風機のスイッチを入れて、魔素濃度が下がるまで待つだけで良いですし」

「だな」


 頷き合うハンスたちに対して、少々困った顔をしているのはデニスだ。


「夜間休日は塞ぐ…それやっぱ、やらなきゃダメか?」

「あん?」

「いやホラ、どーせ中は暗いだろ? 昼でも夜でも大して変わらんから、思ったより採れなかった時は昼夜問わず採掘してたんだが…」

「オイちょっと待て」


 ハンスは眉間にしわを寄せて片手を挙げた。非常に嫌な予感がしたのだ。


「昼夜問わず? まさかとは思うが、『定休日』って概念も無ぇとか言わねぇよな?」

「ていきゅう…?」


 案の定、デニスは心底不思議そうな顔で首を傾げた。


「それはこう、街のでっかい店とかにしかないやつだろ?」

「………やっぱりか」


 深く溜息をつくハンスの横で、リンがキッと(まなじり)を吊り上げ──



「休まなきゃダメに決まってるでしょうがー!!」



 無自覚ブラックな鉱夫に、雷が落ちた。







 その後もハンスは、農作業の合間を縫って周辺の調査を続けた。


 アルビレオとゲルダ、モクレンとリンも一緒だ。

 本当なら魔素を感知できるアルビレオかゲルダ、あるいは誰かとモクレンのペアに任せれば良いのだが、ワイルドベアと遭遇するリスクが高いため、パーティを組んで行動するようにとのエセルバートのお達しがあった。


《クマごときで大袈裟だよなー》


 本日もハンスの肩の上、のんべんだらりと垂れ下がったモクレンがヒゲを震わせる。


《あの程度、農具で一撃だってのに》


 やたら偉そうな物言いに、ハンスは半眼で応じた。


「一応言っとくが、クマじゃなくてワイルドベアだし、それができるのはウチの村の色々おかしいオヤジ連中くらいだからな?」

《じゃあハンスにはできるだろ》

「できるか」

「え、できてましたよね?」


 リンがきょとんと首を傾げる。


 リンが言っているのは上エーギル村の魔石鉱山での一件だ。あの時ハンスは、狭い坑道の中でワイルドベアを倒してのけた。が。


「あれはモクレンの目潰しとリンの牽制があったからだろ。あとな、あれは一撃じゃない。草刈り鎌と長剣で二撃だ」

《いちいち細かいよな、お前》

「お前が大雑把すぎるんだよ」


 至近距離で無駄に睨み合う。


 ハンスの茶色の目をじーっと見詰めていたモクレンは、おもむろにハンスの鼻面を舌で思い切り舐め上げた。


「うっわ! おまっ、いきなり舐めるな!」

《うーん、中年の出汁が出てるな》

「味わうな! 痛いんだよお前の舌は!」


 ケットシーの舌は非常に細かい突起が並んでいて、生肉を骨から剥がし取るくらいのことは朝飯前だ。

 つまり、皮膚を舐められると痛い。


 鼻先が赤くなったハンスは渋面でモクレンを掴み上げ、リンの肩に乗せた。


「お前はそっちに居ろ」

《なんだよ、サービス精神が足りないな》

「あはは、いらっしゃいモクレン」


 リンが嬉しそうにモクレンを撫でる。

 すぐに機嫌を直したモクレンは、リンの首にしゅるりと尻尾を巻き付けて首を伸ばした。


《…んで、今日の調査場所はここか?》

「ああ」


 視線の先には、灌木(かんぼく)が点々と生える岩肌の中、ぽっかりと口を開いた大穴。


 横幅はハンスが腕を広げてなお余裕があるくらい、高さはリンの身長ほど。横長の入口は斜め下に落ち込んで、どれほど奥まで続いているのか全く見通せない。


「本格的な洞窟の調査は久しぶりだな」

「ん」


 アルビレオが少し楽しそうに口の端を上げ、ゲルダが短く同意する。


 下エーギル村から上エーギル村に至る登山道の途中を脇に逸れ、歩くこと少し。登山道からは死角になる位置に、この洞窟はひっそりと存在していた。

 発見したのはエセルバートだ。周辺地域の調査をした際、水の魔素が溢れ出すポイントの一つとしてマークした。


 この場所には、他とは違う特徴がある。


「……かなり冷えるな」


 入口に立つだけで分かる、肌を刺すような冷気。水の魔素の濃い場所では何となく背筋が冷えるような感覚を覚えることが多いが、この場所は実際に寒い。


 十分に気を付けるように──あまりの冷気に単身での先行調査を断念したというエセルバートの忠告が、ハンスの脳裏に蘇る。


「全員、準備はいいか?」

「はい」

「うむ」

「ん」


 各々頷く中、モクレンがビシッと右前脚を挙げる。


《ちょい待ち! ハンス、ポケットに入れろ! 寒い!》

「……」


 洞窟の中は大変寒いと聞いていたので、今日のハンスの服装は極寒仕様。

 つまり一番外側は、スージーがモクレン用のインナーポケットをつけた、()()コートである。


 どういうことかと首を傾げるリンたちの前で、モクレンはハンスの肩に飛び移り、魔法で勝手にコートの合わせを開けて中にするりと入り込んだ。


《…よし!》

「ブフッ!」


 ハンスの胸元から顔だけ出してキリッとヒゲを広げるモクレンの姿に、アルビレオが思い切り噴き出した。

 真顔のハンスと無駄に得意気なモクレンの対比が大変シュールだ。


「ちょ、ちょっとアルビレオ、笑っちゃ…、フフ」

「……」


 リンも語尾が笑っているし、ゲルダはそっと顔を背けて肩を震わせている。


 ハンスは仏頂面で呻いた。



「笑いたきゃ笑え」











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