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兼業農家冒険者のスローライフ(?)な日々~農業滅茶苦茶キツいんだけど、誰にクレーム入れたらいい?~  作者: 晩夏ノ空


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91 話し合い、再び。


 ヒースクリフの回復を確認したハンスたちは、一旦昼休憩を取ることになった。


 昼食の用意をしたのはリンとエリーとハンス、そしてアルビレオだ。ギルドのキッチンを使い、昨日の残りの下エーギル村産食材を使って野菜スープと目玉焼きを作った。お供は白パンとハーブティーだ。

 なお、パンはハンスの持ち込みである。今朝家を出る際、スージーが『一応持って行きな』と10個ほどハンスに押し付けた。


「すごいな、ハンスの母上は。こういう状況も予想していたということか」

「いや、偶然だと思うが…」


 ヒースクリフは身体が弱っているため、野菜スープの中にパンを浸して軽く煮込んだ、所謂『パン粥』をエリーが作った。

 お供のハーブティーには塩少々と多めの砂糖。例の『薬』とほぼ同じ味付けだが、ハーブはトレド監修のブレンドハーブ、つまりほぼ薬湯である。


 試飲したところ、ハンスには『甘ったるさと苦みと謎の青臭さが混在した未知の飲み物』だったが、ヒースクリフは『美味しい』と言って飲み干した。

 身体が必要とするものは美味しいと感じるものだ、とアルビレオが訳知り顔で肩を竦めていた。



 ──そして。



「…さて、これまでの人的被害についてはある程度対処できたが…問題は山積みじゃのう」


 再度、会議室で顔を突き合わせ、エセルバートが難しい顔で(ひげ)を撫でる。


 容態が安定したヒースクリフは、体力回復のために仮眠室で寝ている。

 彼の治療をこの場所で行うこと、トレドを医者、オルトを看護師として冒険者ギルドエーギル支部で雇い、この支部に当面の間住まわせることに関しては、既にエセルバートが了承済みで書面での手続きも済ませた。


 あまりの対応の速さに、ハンスは内心舌を巻いたが。


「そもそもどうして商人たちが上エーギル村と下エーギル村の分断を図ったか、という話じゃな。トレ=ド=レント、オルト=リ=オウル、何か聞いてはおらんか?」


 エセルバートに話を振られた2人が、顔を見合わせる。


 昼食をとると、オルトの顔色は随分と良くなった。魔力も十分貰ったと言って、今はトレドの手を離し、普通に隣同士に座っている。

 服装も、ボロボロの貫頭衣からゆったりとしたローブに変わっていた。トレドが診療所兼自宅から持って来たのだ。


 トレドが眉を寄せ、首を横に振った。


「私は、そこまでは…私に指示されたのは『魔素中毒の存在を秘匿すること』と、『下エーギル村の食材が体調不良の予防に繋がることを教えないこと』だけでしたので…」


 元々、トレドは『上エーギル村の医師』としてここにやって来た。下エーギル村に降りることもほぼなく、商人たちとは薬の材料の仕入れでたまに顔を合わせるくらいで、踏み込んだ話はしていない。


 が、オルトは違った。


「ええと…この村の事かは分かりませんが」


 前置きして、


「以前、何か大規模な『採掘装置』を導入するという話を漏れ聞きました」

「大規模な採掘装置?」

「はい。詳細は不明ですが…」


 オルトが監禁されていたのは商会が持つ倉庫の一角で、たまに隣の部屋から会話が聞こえて来ることがあった。ヒューマンなら聞こえないくらいの音量だったが、妖精族は耳が良いのだ。


 その中に、『大規模な採掘装置』に関する話があった。


「『最新式』とか、『初期投資が省ける』とか、そういう…あまり聞いていて気持ちの良い雰囲気ではありませんでしたが…」

「商人たちの秘密の会話か。それは気色が悪いだろうな」


 アルビレオが渋面で呟く。


「採掘装置か…」

「どういうことだろうな?」

「初期投資、ねぇ…」


 一同が首を(ひね)っていると──ただ一人、サッと顔色を変えた者が居た。

 ハンスがそれに気付き、声を掛ける。


「リン、どうした?」

「…」


 皆の視線が集中する中、リンは青い顔で『採掘装置…』と呟き、強く首を横に振った。

 居住まいを正し、みなさん、と周囲を見渡して声を掛ける。


「もしかしたら…いえ、多分、私の故郷の事例が参考になると思います」

「リンの故郷?」

「そういや昨日、『後で話す』っつってたな」

「はい」


 昨日、『高濃度の魔素に繰り返し晒されると、普通の人間にも悪影響が出る』という話が出た時、リンは何かに気付いたように『それじゃ、私の故郷も……?』と呻いていた。


 『事実上、もうない』というリンの故郷は、火の魔石と地の魔石を産出する魔石鉱山のある村。属性の違いはあるが、水の魔石の鉱山がある上エーギル村と似ている。


「ふむ…話してくれるか?」


 エセルバートが促すと、リンは分かりましたと頷いて軽く息を吸う。




「──元々は、良質な木材を生産する林業の村だったそうです」


 リンの話は、そんな言葉から始まった。


 ごくありふれた山間の村。周囲を深い森に囲まれ、その森を管理し木を伐り出すことで生計を立てていたリンの故郷で、地属性の魔石の鉱脈が発見されたのは、今から30年以上前。上エーギル村の鉱山と同じく、王立研究院が主導して調査が行われたのだという。


 山間の小さな村だ。人口もそれほど多くなく、暮らしは決して楽ではない。

 そんな中で見付かった、貴重な魔石の『生きた』鉱脈──村人たちが鉱山開発にこぞって賛成するのも、無理からぬことだった。


 鉱山開発は村人総出で行われ、すぐに本格的な採掘が始まった。

 魔石を採掘すればするほど収入が増え、村はあっという間に『木材の村』から『魔石の村』へと姿を変えた。街や近隣の村からの移住者も多く、村はみるみるうちに発展したのだという。


 リンが生まれたのは、そんな採掘最盛期の頃。昔はもっと寂れた寒村だったのだと教わっても今一ピンとこないくらい、村は多くの人で賑わっていた。


「…でも、思い返すと、私が物心つく頃には既に異変はあったんです」


 リンが不意に声のトーンを落とした。


「鉱山で働いている大人が、食事中に頻繁にスプーンを取り落としたり、何もないところで(つまず)いたり──日常生活は送れるけれど何かがおかしい、そんな人がたくさん居ました」


 というより、鉱山関係者はみな、大なり小なり類似の症状があった。

 だからこそ、『魔石鉱山で働く人間には普通のこと、むしろそうなってようやく一人前』という、根拠のない、誰が言い出したのかも分からない話をみなが信じ込み、異変を見過ごしたのだ。


 ──誰の目にも明らかな異常が現れたのは、それから数年後。


 鉱夫のうち、長年働いている者数人の手が赤く腫れて熱を持ち、その後腫れが引くとともに指先が灰色に変色し、動かなくなった。指先に触れても感覚がなく、肌は石のように硬く冷たく、乾いている。


 それまで、身体に軽い腫れや火照りが出ることはそれなりにあった。だが、その後灰色に変色するのは初めてだった。


 その変色は、指先から指の関節へ、そして次第に手のひら側へ広がっていく。

 そうすると、変色した部分は感覚がないだけでなく、自分の意志で動かせないということが分かった。まさしく、石になったように。


「…なるほど」


 アルビレオが眉間にシワを寄せて呻いた。


「恐らく、火属性と地属性の魔素の影響だな。火の魔素が身体の水分を奪って熱を蓄積させ、地の魔素が体組織を変質させたのだろう」


 その指摘に、リンは悔しそうに頷く。


「そうなんだと思う。…けど、当時はそんなこと誰も考えなかったし、お医者様に診てもらっても全然良くならなくて……それから3年くらいして、最初に指先が石みたいになったおじいちゃんが亡くなったの。──ほぼ全身、灰色になって」


「…!」







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