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四天王

「うーん、とりあえず毒魔法(ポイズンマジック)


 体から『動きが鈍くなる神経毒』を噴霧。

 俺の周り数メートルは息をするだけで体を蝕む空間と化した。


「はああッ!」


 再び黒い騎士が剣を俺に振るってくるが、その途中で動きが途端に鈍くなり、その動きを避けることが容易となる。


「なっ!?」


 驚いているらしいがもう手遅れ。騎士に向かって更に神経毒を追加でぶっかける。

 それだけで黒い騎士はばったりと地面に倒れ伏す。ゴーンと大きな音を立てて。

 そりゃそんな鎧着てると転んだら痛いよな…。


「みんな! 待って、話を聞いて…!」


 少女が彼らに叫ぶが、その声は届かなかったようで。


「テメェ!」


 巨大な虎が俺に向かって跳躍。

 かなりの速さだ。が、これも横に飛びのくことで軽々と回避。俺の身体能力一体どうなっちゃってるんだ…。

 と、ほっとしたのも束の間。


「ガアアアアアアア!」


 ドラゴンの咆哮と共に、巨大な火球が俺を襲う。

 それも回避する、が、やはり攻撃から身を守る手段がないと遠距離攻撃はキツイ。

 …先に上を黙らせるか。


 イメージするのはビーム。

 液状の毒を溜めて溜めて、放つイメージ。

 うまく行くかなあ、と一抹の不安を抱えながらも。片手をドラゴンの方へ向けて…

 射出。


「あ、うまくいった」


 キレイなビームとなって毒液がドラゴンを襲う。

 かなり多めの量の毒液をぶち込んだので、ドラゴンは声を上げる暇もなく墜落してしまった。

 ドカーンと大きめの音が鳴り、これも痛そうだなあ…と感じる。


「な、なんなんだお前は…四天王が全員で掛かってもこんなに雑に…」


 と、虎が驚愕したかのような表情を見せる。

 俺も、毒魔法(ポイズンマジック)だけでよく頑張ってるなあとは自分でも思う。

 勇者に四天王って、もうシナリオの最終章じゃん…。


「だ、だから俺はその、勇者の仲間でもなくてな? こっちには戦うつもりも」

「黙れッ! 二人の仇ッ!!!」


 さっきめっちゃ驚いてたから冷静になったと思ったら全然話聞いてくれないじゃん!

 

 巨大な爪で俺を横に薙ぎ、掻き殺そうと腕を振る虎。

 それを上に跳んで回避、神経毒を噴霧。


「二人のかた、き…」


 それだけでその巨体がズシンと音を立てて倒れ込む。

 だいぶ前から思ってたけど俺の毒ってなんか周るの早いよな。


 何はともあれ、残ったのは一人。

 空に浮かぶ魔法使いの少女である。


「…っ!」


 彼女は再び数本の氷の槍を放ってくる。


「だからー! 俺は勇者の仲間じゃないよーって! 聞いてるー!?」


 あの子はなんとなく人の話聞いてくれそうだったからそう呼びかけてみる。けど…ダメっぽい。

 無視して氷の槍を飛ばしてくる。


「…アイスハンマー」


 今度は巨大な氷のハンマー。俺目掛けて振り下ろされるそれを横に飛び、そのまま片手からまた毒液をビームのように発射。

 それを魔法使いの子は難なく避けてしまう、が。

 突如としてそのビームから何十本にも枝分かれが発生。

 突然のことに反応できず、少女は毒液をモロに受けてしまう。

 あっという間に無力化された少女は途端に浮力を無くし、自由落下を始める――って、あれ落ちたら死にそうじゃない? ドラゴンとかは体でかいから落ちても痛そうですんだけど、人間サイズの子があの高さはヤバい。


 すっごい頑張ってジャンプしたら彼女の所まで飛ぶことが出来たので、彼女を抱きかかえ、着地。

 足がじーんと少しばかり痛むが、逆に自分の身体能力がありえないくらい向上しているというとんでもない事実に対面することとなった。



「さて…」


 動けない四人を同じ所に頑張って引っ張ってくることにする。

 ドラゴンを引っ張るのは流石に無理だと思うので、全員ドラゴンの所に連れて行こう。

 まずはバカ重そうな虎から…


「待って…殺さないで…」


 全然影が薄すぎて今やっと気づいたが、ピンク髪のどうやら魔王らしい少女が目に涙を浮かべながらこっちを見ていた。


「な、なんでもするから、みんなだけは…」


 なんか怖がられているらしい。

 なんだなんだ、さっき俺が勇者から助けてやったのを忘れたのかい。


「別に、取って食おうって訳じゃないさ。全員一か所に集めて俺が勇者の味方じゃないって分かってもらうだけさ…」


 それで、近くの人里の場所教えてもらってそこ行ってから後の事は考えよう。


「それに、君みたいな小さな少女を襲う訳ないじゃないか」


 …待てよ。この子と同じ背格好の魔法使いの子思いっきり襲ったな…。


「…君の仲間の人達には少し手荒な真似をしたけど…すぐ治すから! ……だから説得するの手伝って?」


 と言えば、少女は分かってくれたのか。


「…うん」


 と言った。







「そ、そうだったのか…」

「さっきは貧相な見た目とか襲ったりとかいろいろ悪かったな…」

「えー!? 人間なのに勇者の味方じゃないのか!? 不思議じゃのう」

「…みんながそう言うのなら」


 動けるようになった四人は思い思いの事を口々に言う。


「それならば、ボク達の仲間になってはくれないか?」


 と、黒い騎士がいきなりぶっこんでくる。


「おいおい、相手は人間だぞ? 俺は強い味方が増えるなら大歓迎だし、別に構わないが」

「ほーう…面白い提案じゃのう」

「……」

「ちょっと待って俺、魔王一派に加入することになってる?」


 なんかトントン拍子で話が進んでるけど…俺は近くの人里に行きたいだけなんだけど…。


「あ、貴方は私の事守ってくれたし、仲間になってくれたら私もうれしいなーって…」


 ピンクの魔王少女がそう俺に言ってくる。


「いや、でもなあ」


 魔王でしょ? 人間の敵っぽいしなんだかなあ。


「だめ?」


 上目遣いされても…。俺は自分より小さい子には弱いんだよなあ…。


「来てくれたらなんでもするよ?」


 あんまりそういう言葉を使うんじゃありません。どこで覚えてきたんですか全く。


「お腹空いてない?」


 めっちゃ空いてる!


「来てくれたら、毎日ご飯いっぱいあげるよ?」

「今日からお世話になろうかな」


 人間の三大欲求は食べること、栄養を取ること、食物を口に入れ噛み砕き、飲み込むことなのだ。

 それを提示されちゃあ、逆らえない。

 あと昨日からなんにも食べてなくてヤバい。


 こうして、非常に重い決断をした俺は、魔王軍に入ることとなったのだ。

 食べ物に釣られた訳ではない。絶対に。

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