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マグ・メル  作者: 加賀アスナ
8/8

epigram

幸福は、己れ自ら作るものであって、それ以外の幸福はない。

                        ――――レフ・トルストイ

 【――――さて長い長い私の話に付き合ってくれてありがとう。何せ久しぶりのお客様だったから、ついこの世界の話を語ってしまったわ。

 私の話を聞いてどう思ったかしら? 私の事を妙な人だと思ったりした? それとも話に出てきたツインちゃんみたいに可哀想だと思った? まぁどっちでも構わないけれど。

 あぁそうそう、もう気付いていると思うけれど話の際に出てきたリボンちゃんって言うのは私の事。私はこの白い世界でたった一人の住人だった。それが先生という人に会って、ちょっとずつ変化していったの。最初こそ戸惑ったけれど、今となってはこうなって良かったと思ってる。…………え? 本当に思ってるかって? そうね。そう言われたら難しいわ。だってかつての私がこうなるなんて予想できないから、もし今の様にならなかった未来があったとしてその未来の方が良かったってこの私が言えると思う? 仮に言えたとしたらこの私はどうなるの。可哀想だってことなの? それって今の私になった世界や先生やツインちゃんやエルフ達も可哀想って事になる。だって彼らが居なければ私はここまで変わらなかっただろうし。

 だから私は胸を張ってこの今の世界で、今の私で良かったって言うの。みんなに会えてよかったって心から思う。もちろん貴方に会えたことも含めてね。だからこそかな。先生がこの世界を去るって言ったときは驚いたし思いっきり泣いちゃった。たぶん初めて泣いたんじゃないかな。それで一つ分かったことがあったの。

 人の心はね、きっと多くの人に預けて成り立っているんだ、ってね。

 今の私の心はツインちゃんやエルフや住人達が多くの比重を占めてるんだけど、それ以外にも会ったことのある訪問者や親しくしてくれた人にも少なからず心を預けてる。たった一度しか会ったことのない人でもね。…………ん? 結局何が言いたいのかって? それはね。以前の私。先生がまだいた頃のね。その頃の私の心の比重は先生が一番多かったのよ。次いでツインちゃんかな。とにかく一番先生が心の比重を占めていた。それだけ心を預けてたんだろうね私は。だから先生が去る時に預けていた心を持っていかれちゃったからとっても苦しくて悲しくて切なくて涙が出ちゃったんだと思うの。先生に持っていかれちゃった所が空洞になってそれに耐えきれなくてね。でも先生は代わりに全てを私にくれた。そして私にはツインちゃんが居てくれた。少しずつ私の心は変化していってツインちゃんの比重やエルフ達の比重が増えて先生に持ていかれちゃった分が次第に満たされていって。ずっと泣いていられない、私はこれから頑張らなくちゃって思えるようになっていった。有り体に言ってしまえば自分の中で先生との別れにけじめがついたんだと思う。

 だからそうね。万が一ツインちゃんがこの世界を去る事になれば私はすごく悲しむと思うし、みっともない顔で泣くと思う。でもそれってそれだけツインちゃんに心を預けてたって証拠なの。

 私が心は人に預けて成り立っているって言ったのはそういう事なの。理解してもらえたら嬉しいけどこの考えを強制するつもりはないから貴方は貴方の考えでいいと思う。

 

 そういえば訊き忘れていたけれど貴方はどこで夢屋の噂を知ったの? あ、そうなの。たまたま訪れたこの世界で知ったんだ。という事は夢屋を利用する気はないのかな。私の話を聞いた今ならここが何の為にあるのか分かっているはずだものね。

 ――――考えてるって事は幸せを掴む手伝いをしてほしいか迷ってるってことなのかな。それならそうね。これも何かの縁でしょうし、貴方の幸せを掴む手伝いをしてあげるわ。貴方が夢屋を再開してから初めてお客様。じゃあ改めて――――。

 

 ――――――――ようこそ、夢屋へ】

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