その⑱
※※※
そして、Bクラス戦がやってきた。
「……真白、本当に戦えるの?」
スタジアムにつくや否や、神奈崎が俺に言った。
「大丈夫―――だと思う」
「Cクラス戦以降、クラスにも碌に出てこなかったじゃない。学業を疎かにしてはいけませんわ」
「それはまあ、悪かったよ」
「……この間のような無様な負け方をしたら、許しませんから」
授業時間を犠牲にして、俺はエヌとあの力を使いこなす特訓を重ねてきた。
実はもうすぐ定期テストがあるらしいけれど、この際仕方ない。割り切って神奈崎やセカイに助けてもらおう。
「でも、真白さんなんだか雰囲気変わりましたよ。なんか、強者のオーラ出まくりです!」
「ありがとう、ユイ。自信出てきたよ」
「もし真白さんが失敗しちゃっても大丈夫です! 私と神奈崎さんにお任せください!」
「……いや、今度は大丈夫だよ」
「?」
不思議そうな顔をするユイ。
その向こうには、観客席のセカイたちが見えた。
軽く手を振ると、発電木君が大きな旗を振り返してきた。
その周囲には数十人の集団ができている。
……結構、人数集まってきたな。
それだけ注目されてるってわけか。
確かに、このBクラス戦を乗り越えれば次はAクラス戦―――つまり、最終戦だ。そりゃあ注目度も上がるよな。
観客席全体を眺めてみると、入り口の扉のところに黒いコートの不審な男がいるのに気が付いた。
エヌさん、見に来たのか……。
案外過保護なんだな。
まあ、ここで手でも振ると不機嫌になるだろうから、敢えて彼には気づかなかったことにしよう。
ちょうどその時、戦闘開始前のブザーがなった。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
戦闘用のフィールドに向かって歩いていると、Bクラス側の席からも男子生徒が一人歩いてきた。
「フェアプレーで頼むぜ、Eクラスの不良さんよ」
「お互いにね」
戦闘開始を告げるブザーが鳴る。
同時に俺の周囲の地面から黒い触手が出現し、俺を取り囲むように展開した。
「一瞬でカタを付けてやるぜ! 【黒膜】!」
―――見たことのない魔法だ。
だけど、見たことがあろうがなかろうが、そもそも魔法であるかどうかも関係ない。
「……絶対空間」
魔法で生成した木片で首筋を掻き切ると、血が噴き出した。
徐々に体が熱くなってくる―――そして、この場に展開されたありとあらゆる【力】の∃が判るようになった。
【力】の根源を把握し、掌握する。
「さよならだぜ、Eクラス!」
触手が一斉に俺へ襲い掛かってくる。
「それはこっちの台詞だ」
俺は触手に手を伸ばした。
そして俺の右手が触手の先端に触れた瞬間――触手は爆発四散した。
「―――何ぃ⁉」
「君に恨みはないけど、終わりにさせてもらう」
触手を再構成しなおし、大きな手を生成する。
地面から生やしたその巨大な右手を、俺はBクラス代表めがけて振り下ろした。
「ちょ、ちょっと待て、死んじゃうだろおぉぉおおおっ!!?」
「!」
右手が振り下ろされ、闘技場全体が揺れた。
衝撃で抉られた地面のすぐ横に、Bクラス代表の生徒が腰を抜かしたように倒れていた。
……どうやら気絶しているらしい。
戦闘終了のブザーが鳴った。
俺の勝ち―――だ。
首筋に手を当て、傷を修復する。
タネを明かせば単純な話。
俺の“あの力”は、俺自身が命の危機に瀕したときに発動する。
ならばそれを利用して、自分から危機を招き入れればいい。
重傷であればあるほど“あの力”は大きく作用する。
エヌさんが俺にしてくれたことは、俺がコントロールできるレベルの傷の度合いを見極める訓練だった。
その結果、俺は多少なりとも“あの力”を自分の意思で操ることができるようになったというわけだ。
あまり長い時間も使えないし、少しでも加減を誤ると力に飲み込まれてしまうから、100パーセントものにしたとは言えないけど。
振り返ると、ユイや神奈崎が呆気にとられたような表情でこちらを見ていた。
……まあ、授業をサボって遊んでたわけじゃないってことは分かってもらえたかな?
Bクラスの生徒が担架で運ばれていくのを尻目に、俺はEクラスの席に戻った。
「え、エルさん……すごい強さでした! 改めて尊敬です!」
「ありがとう、ユイ。やっとCクラス戦の借りを返せたかな」
「借りだなんて。私たちはチームですから! 助け合って当然です!」
ユイが力強く頷く。
何気なしに視線を横にずらすと、神奈崎と目が合った。
神奈崎は目が合った瞬間そっぽを向いて、
「ふん、あのくらいやってもらわなければ困りますわ!」
「ああ、神奈崎ならそう言うだろうと思ったよ。期待通りの働きができたかな?」
「……真白にしては上出来。褒めて差し上げます」
まったく、このお嬢様は。
「さあ、次は私の番です。エルさんに負けないくらい頑張りますよ!」
ユイは大きく腕を振り回しながらフィールドの方へ出て行った。
「それで、真白」
「……どうしたんだよ、急に改まって」
「その力、斬沢アオに通用するの?」
神奈崎の目は恐ろしいくらい真剣だった。
そうか。
こいつはやっぱり、本気で勝つ気なんだ。Aクラスに。
俺は神奈崎に向かって頷いた。
「勝つさ」
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