その⑨
※
目を覚ますと、見知らぬ天井があった。
「あれ、ここは……?」
「き、気が付きましたか?」
女の人の声だ。
俺は体を起こして、声のした方を向いた。
どうやらベッドに寝かされていたらしい。ということは、ここは医務室的な場所だろうか。
「ええ、はい、まあ」
女の人は白衣を着ていて、やけに大きい目が印象的だった。
年齢はいまいちよく分からない。見た目は俺より少し年上くらいに見えるが、雰囲気だけでいうと中年くらいに見える。
中年――アラサー以上くらいに。
「わ、私は魔導学園の養護教諭の、目里アイです。あ、あなたは試験を受けに来た新入生ですよね?」
「その通りです。どうして分かったんですか?」
「きょ、今日は基本的に学校休みだから……。学校にいるのは試験の関係者だけだから」
なるほど。
訊かなくてもちょっと考えれば分かったかもしれない。
さて、だんだん頭がはっきりしてきた。
「えーと、俺はどうしてここに運ばれてきたんですか? あの神奈崎とかいう人は無事ですか?」
「し、試験前に意識を失ったと、試験官が運んできたのです。運ばれてきたのはあなただけです」
「そうですか……」
ということは、また無意識の内に人を殺してしまったなんて事態は回避できたわけだ。
危ない。また俺が何かやっちゃうところだった。
……いや、待てよ。
確か今、この目里って人、俺が試験の前に倒れたって言ったよな?
「あの、質問が」
「な、何でも訊いてください。私は保健室の先生ですから、権限が許す限り答えます」
「俺は魔法の試験を受ける直前だったはずです。途中から試験を受けることってできませんか?」
困ったように、目里先生が大きな瞳をキョロキョロさせる。
「え、えーと、あなたの勘違いを一つだけ訂正します。あなたはもう五時間も眠っているのです」
「五時間?」
「ええ。そして試験は一時間程度で終わるもの。で、ですから、既に試験は終了しているのです」
「じゃあ、俺だけ特別に再試験とか……」
「それもダメです」
「ダメなんですか?」
「ダメなんです。あなたは校内で暴力行為を行いました。罰則が適用され、試験を受け直すことはできません」
え?
嘘だろ。
それじゃあ……。
「お、俺は入学できないってことですか!?」




