その⑦
「ほら、動くなよ。ちゃんと常識通りのルールを守ってくれるなら魔法を解いてやるって言ってるだろ?」
「庶民のくせに……! わたくしに命令するなど、百年早いですわ!」
突然、地面から伸びていたツタが切断された。
神奈崎が何かしたのか――と思う間もなく、俺の脇腹に激痛が走っていた。
「ッ!?」
「油断しましたわね!? エリートの力をあなたの骨身に刻み付けてあげますわ!」
脇腹には指先くらいの大きさの穴が開いていて、そこから血がとめどなく溢れていた。
マズい。この女、本気で俺を殺そうとしている。
同時に、空気を切り裂いて何かが俺に迫って来た。
「――『盾式術』!」
俺は自分の目の前に分厚い木の壁を出現させた。
飛来した何かは、壁にぶつかって四散した。
水滴が飛び散る。
……水滴?
そういえば、最初の攻撃のときも水飛沫が上がったような気がする。
だとすればこの神奈崎って女の魔法は……!
「その顔、どうやら気が付いたようですわね?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、神奈崎が言う。
「さあ、どうかな」
血は止まらない。
こんなことなら、傷を治す魔法でも練習しておくんだった。
いや、まさかクラス分け試験で死にかけるなんて思いもしなかったし、普通そんなことありえないはずだし。
言い訳はいくらでもできるが、それで脇腹の痛みがなくなるわけじゃない。もしかすると貫通しているかもしれない。
ちょっとヤバいかもしれない。
「あなたが気づいていようといまいと関係ありませんわ。エリートたるこのわたくしが直々にお教えして差し上げましょう。わたくしの得意とする魔法、それは水を操る魔法なのですわ!」
やっぱり、そうか。
恐らくは、水を圧縮して弾丸のように撃ちだしていたのだろう。
その結果俺の脇腹に穴が開いたというわけだ。
血が抜けていくのと同時に、だんだん体が熱くなってくる。
「それで、どうする? このまま俺を殺すのかな? 確か殺人は犯罪だったと思うけど」
「わたくしの父は政府のエリートですもの。その程度のことなら簡単に揉み消せますわ」
「人殺しなんてのは、こんな人目につくところでやるもんじゃないよ」
そういや、俺のアレはどう処理されたんだろう。
あんな森の奥、死体探しツアーでもやらない限り、わざわざ見に来る人もいないか。




