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ラッキースケベとは肌色の含有量に左右されない

 「ではまず、この辺りからでいいでしょう」

エシリアさんが距離を取ってそう言った。

「そんなに遠くで?10mくらいあるんじゃないの?」

やや大きめの声で尋ねる。

「オメー、そんなこと言ってる場合じゃねぇデスよー」

「えぇ、体験すればご理解頂けるかと」

「そう、よくわからんけどならいいや」

途中挟まった声を二人で無視しながら答えた。

「ふふ、エシリアのヤロー、あの距離を取るとは。これは『アレ』を使うつもりデスね……」

「あぁ、クラニーちゃんが精神を守るために解説役っぽく~」

どこかのトーナメントで一回戦負けの役目だろう、それは。

「では、行きます。『歪み軋れ……「ストップストップ、それまずいやつでしょ!!!」

「はい?しかし解放前にはこういうセリフを言うものだとクラニー様が」

「ほら!解放って!解放って言っちゃってるし!!そういうのじゃないでしょうが!!

とにかくダメだから!真っ白になったり見開きでコピー使ったりするようになっちゃうから」

「はぁ、そこまで言われるのでしたら起動だけしておきましょうか」

「起動?」

急にパクったりしだすし、わけがわからないよ。

「えぇ、それでクラニー様もああ仰ったのではないかと」

「全くわからんけど、とりあえずその起動とやらをしなきゃダメならそれで」

「はい、では。『赤い(ベック)』」

ギャリリ、とディストーションの聞いた音が辺りに響き渡った。

「……は!?何それ!?」

「エシリアのやつ、本気デス……まさか赤い(ベック)を起動させるとは……」

「は~、すっごい光ってるけど何だろアレ~」

「二人わかった感じになってるけど、大丈夫なのこれ!?」

「えぇ、今回クラニー様から全力でやるようにと指示を受けておりますので。

ご安心下さいませ、死ぬことは無いと思います。当たらなければ」

「当たらなければって何!?すっげぇ不安!!」

「では、試しに本気で動いてみましょうか。

私が椎名様の背後を取りますので可能であれば防いでみて頂きましょう」

「すっごいスルーして進んでる!!」


 パン、と何かが弾けるような音がすると同時、いや、もしかすると

音が聞こえる前には既に感触はあったのかもしれない。

エシリアさんの拳が、俺の背中に当たっていた。

「これで一本ですね」

「……すっげぇ」

驚きと同時に感動していた。

「ふふ、エシリアの『赤い(ベック)』はなんだかんだあって

あらゆる抵抗を無くし光に限りなく近い速度かなんかで動くことを可能にする何かデス。

あの状態のエシリアに触れること、もしくは動きを捉えることは何人にも不可能。

エシリアはあの能力によってワタシの護衛にまで上り詰めたデスぅ。

そして」

「ッ!!

エシリアさん、服!!!!!!!!!」

「あの速度で動く以上、普通の衣服は弾け飛ぶデス。流石は我が(ツワモノ)よ……」

「なるほど、なんやかんやがあったら……普通に全裸だよねぇ、アレ」

振り向くと、服が弾け飛んだ(らしい)エシリアさんが

全裸で俺に拳をつきたて、今まで見たことがない顔を決めていた。

「これでお分かり頂けたかと思いますが、アレを発動させた私についていくことは何人たりとも」

「先に服をどうにかしてくれ!!」

「……。

これは失礼しました、しかし私に全裸であることを悟らせないとは

意外、椎名様も中々やり手というか、これは一本取られたのは私かも、

いえ、一本取られたというより丸々脱がされたとでも言いましょうか」

「俺関係無いだろ!」

完全に失念していたのかいつもより饒舌である。

「でも、エシリアさんって凄い体してるんだね~。

わかってたけど改めて見ると羨ましいかも~引き締まってるし」

「筋肉ダルマなだけです、つくねみたいな体デス」

「それは厳しいんじゃないかな……全盛期の角田じゃあるまいし」


 「この服はトレーニング用なので、先程のようなことは起こりません」

「最初から何故そっちにしなかったのかはさておいて、俺はどうすればいいのかな?」

ハッキリと言ってしまえば光の速さに近いなんてどうすることも出来ない。

「そうですね、では私に一度でも触れられたら椎名様の勝ちということにしましょうか」

「これ勝負だったっけ?いいや、とりあえずそれで頑張ってみます」

勝ち負け云々は抜きにして、とにかく頑張れそれしか言うことはないということらしい。

「シーナー!!当てにいけば勝ちデス!ぶっ殺してやるデスー!!」

「死なないでね~。ねぇクラニーちゃん、結局私達って何もしてないよね?」

好き勝手言ってくれてる外野が何だか楽しげなシートとお弁当の準備をしているように見えるのは気の所為なのだろう。

「では、行きます」

先ほどと同様に歪んだ金属音のようなものが鳴り響き、かかとの辺りが発光を始める。

「よし、やるぞ!どうにかして当ててやる!!」

意気込んでみたものの、攻略方法は皆目検討も付かない。

光速もどきで移動する人間を目視で捉えるなんてまず不可能、

その際に生じるエネルギー問題なんかはなんやかんやでどうにかなるらしいが

とにかくエシリアさんは『俺に拳を当てにくる』わけで……。

じゃあ、こちらは『置いておけば』いい?試す価値はありそうだ。

「今度は手加減無しでやります、命の保証はしますがとてつもなく痛いのでご了承下さい」

「……これ、何のためにやってるんだっけ?」

「それは後ほど説明しましょう。では……」

大丈夫じゃないみたいだ、他に何かないものか。

そもそもこれって稽古、いや何の稽古なんだっけ。

何のための?俺のため、でも100%勝機の無い相手と本気で?

それが一体何になると言うのだろう、俺の否定、努力を否定したいのだろうか。

いや、そういうことではないはずだ。

エシリアさんも言っていた、『いい魂を持っている』と。

そう考えているうちに、エシリアさんの姿が消えた。

ダメだ、これは。

「ガッ……フッ……」

メリメリと、今度は背中ではなく腹部に拳がめり込んでいる。

どうやら先程の言葉に嘘は無いらしく、遅れて拳が空を裂く音が周囲に響く。

そのまま拳を捻り、深々と体に突き刺す。

そして、拳を捻り、そのまま後方遥か遠くにふっ飛ばした。

「「クラニーちゃーん!!!」」

俺とゆずは同時に声を出した。

クラにーちゃんは激しく回転しながら額を地面に擦りつけ転倒した。

俺は、アレ死なないのか、そもそも護衛って何だっけと思った。

「……グフッ、身内に刺されるトハ……」

「私が傷つけてよいのは、この世でクラニー様ただ一人。

先程の日頃の恨みとやらのお返しです」

「それ、逆だろ!!『を』だよ普通!?

ていうか、そうじゃなくてアレ大丈夫なの!?」

「ご心配には及びません」

「オメー、何やってるデス!!スゲー痛かったデス!!相手がチゲーデス!!!」

「ほら、むちゃくちゃ丈夫ですからねあの人」

「そんなわけ、あったんだな」

丈夫という規格を遥かに超えているだろう、どういうことだよ。

「クラニー様はほらアレ、えー、星の加護みたいなものを受けてますから。

本気を出したところで私ごときの力では破壊することなど不可能なのですよ」

「だからといって本気で殴ってイイワケじゃねーデスよ!?痛いに変わりはねーデス!!」

「痛いわけないでしょう、クラニー様は私の知る限り最も無敵に近い人物です」

「俺の理解の範疇には無いみたいだ」

「は~、凄いんだね~。本当に違う世界の住人みたい~」

ゆずも驚いている。

それにしても、以前から気絶させたりやりたい放題しすぎな気もするが。


 「さて、これで『稽古』とやらは終わりです」

「え?クラニーちゃん殴っただけじゃん」

「それはただの過程に過ぎません」

「オメーがやりたかっただけじゃねーかデス」

「結局私達やること無かったよね~」

頭を書きながらゆずが笑う。

「そうですね、力量差はとっくにご理解頂けていると思いますが」

「それはな、俺じゃなくても当てることさえ無理だろうよ。

当てることが出来たところで銃火器でさえ通じないならもうどうしたらいいかわからんよ」

「正しくそのとおりです、ではまぁ、最後といってはなんですが、クラニー様」

「はぁ、全く理解するのがおせーヤローデス。やれやれダワ」

「全く説明されてないのに付き合った俺の身にもなれ」

「そう言われてみれば、これ何だったのかわかんないよねぇ」

正直何か思惑があったのだろうとは思うが

これで終わりと言われても正しく理解できているとは思わない。

かろうじて分かったのは、俺ではどうあがいてもエシリアさんには勝てないことくらいだ。

「じゃあオメー、ワタシの手を握ってみるデス」

「えぇ?それここでやるの?」

シェイクハンド

「つべこべ言ってネーで、ホレ」

言われるがまま握った瞬間、俺の背は地面に着き目線は天を見上げていた。

「……あれ?」

「自分が何をされたのか分かったデスか?」

「いや、全く。気づいたら転ばされてた」

「すごーい、合気の達人みたいだね~。見えなかったよ~」

「オメーがいくら頑張ったところで、暴力を使って勝てる人間なんてたかが知れてるデス。

私にすらこの有様、今日はそれを知ってもらいたかったんデス」

「周りくどいことをするね。

でも俺は正しいことに使うにしてもそれは暴力じゃないものでありたいと思うよ」

気負いすぎってことね、全く不器用なヤツである。

「鍛えることを無意味とまでは言わねーデスが、オメーはもっと周りを見て頼るべきデス」

「少なくとも、大概のことはエシリアさんを呼べば解決するとは思うよ」

「ですね、そのために私はここにいます」

「ゆずのヤローも何を言えばいいのかわかんなかったデス、ずっと」

「自責の念ってやつ?」

ゆずの方を見ながら尋ねた。

「そうとまでは言わないけど、そんなに頑張るものでも無いかな~ってね~」

「そっか、それにしても……」

天を見上げたまま、俺は

「その格好、下から見るとトンデモナイことになってますね」

セクシャル発言をした。

激しい運動は禁物だろう。

「ヤベー!!こいつヤベーやつデス!!不潔デス!!」

「怖いよぅ、変態の視点だよぅ」

ドン引きだった。

「お前らはその格好を強制されたわけ?」


 「ところで」

気になっていたことをエシリアさんに問いてみた。

「はい、何でしょうか」

「ここまでやる必要あった?」

「暇だったんでしょう、戯れですよ」

「だろうね、そうなると殴られ損だと思うけど」

「それも戯れですよ、実際にはダメージ等無いはずですから」

「そこまで?」

「現象を無かったことにできるレベルの存在を私は他に知りませんから」

星の加護とか言ってたっけ、特別な何かがあるのだろうか。

であれば、エシリアさんと違って本人その人自体に力は無いことになるが。

「最近、想像の範囲すら超えることばかりで驚くよ」

「貴方の世界が広がってくれれば、何も言うことはありません」

何も知らない、しかし知る機会がある。

それは子どものような頭の大人になってしまうよりは恵まれているということ。

「クラニーちゃんも実際ね、ゆずはまた別として」

「えぇ、まだ椎名様に完全に心を開いたというわけでも無いかと」

「そりゃ、たったこれだけの期間でそうなるのは危ういでしょ」

「中々良い視点をお持ちで」

「じゃ、行こうか」

別にそこまで深く考えていたわけじゃあないのだけれど

今回のことは良い経験と、自分自身の否定になったと思う。

自分を否定されてしまうことは少し怖い、だけれどそれが無ければ成長もまた無いのだろう。


 「今日は!!」

「Vフロントだよ!!」

風呂は阿鼻叫喚であった。

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