ラッキースケベと王女の裸体
寝る前にかけた音楽は最後の曲まで聴く前に眠ってしまったようだ。
どうやら思っていたよりも疲れていたらしい。
1日で唐突に色んなことがあったから仕方がないことだろう。
朝から一悶着あったり、特殊な体質について聞かされたり
唐突にどこかの星のお姫様と同居することになったりだ。
だからといって何故現状に繋がるのかは理解出来ない。
少なくとも俺が寝るまでは一人だったはずだ。
何故服を着ていないのか、何故隣に寝ているのか、
疑問符は一向に解消される気配は無いが
ひとまずクラニーちゃんの手をズボンから出すことが先決だ。
下手に大声を上げたりしたら誤解を生むハメになる気がする。
それにクラニーちゃんが自分で俺の布団に潜ってきたとは思えない。
しかし万が一自分の意志でここに居る場合
他の誰かに伝えてしまうことは最も平和的な解決から遠ざかる。
可能性に掛けるしかないかと考えたが
待て、そもそも俺は被害者だろう。
「うぅ、……おっぱい」
俺の股間はおっぱいじゃねぇよ、触り心地同じなの?
そう言えば寝る時エシリアさんの胸を揉ませて貰ってたとか言ってたっけ。
色々と言いたい気持ちを抑えて
徐々にクラニーちゃんの手を引き剥がしていく。
「臭うってこたぁないよな」
そう言いながら俺は勝手に気持ち良さそうに眠る
クラにーちゃんを尻目に廊下奥の部屋を訪ねた。
起きたら騒がしいことになりそうなので
先手を打っておこう。
「もしもーし、起きてるー?エシリアさーん」
コンコンと軽くノックをする。
次元断層がどうとか言ってたから
もしかするとノックの音とかはシャットアウトされてるかなと思ったが
そんなことは無く
「はい、椎名様ですね。今開けますのでお待ちくださいませ」
鍵の外れる音がして扉が開いた。
「エシリアさん、ちょっと何なんだけどおたくの娘さんがね?」
「はい、ではお入り下さい」
やっぱり知ってやがった。
「広いなおい、ズルいだろこれ」
「4次元にチャンネルを繋いでおりますからほぼ無限に広げられますよ。
紅茶を淹れますがカモミールティーで宜しいですか?」
「あぁ、いや頂くけど……ありがとう。
そうじゃなくて、はぁ~美味いな~これ」
「で、クラニー様の抱き心地は如何でしたか?」
「抱き心地って言うか、何で俺の隣で寝てたのかを聞きに来たんだけどな」
「はぁ、隣にあんな美少女が寝ていながら揉み心地も確かめないなんて。
正直がっかりです」
「エシリアさんがそれ言っていいの!?」
クラニーちゃんが居ない時はクラニー『様』なんだな。
「それより、クラニーちゃんが自分からあそこで寝るとは思えないんだけどさ。
一体何があったの?」
「そうですね、あれは昨夜のことです」
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「はぁ!?何でエシリア一緒に寝てくれねーんデス!?
おっぱい触ってねぇと安心して眠れねぇデス!!
横暴!!横暴デス!!」
「それなんですが、今晩は椎名様と一緒に寝ていただこうかと」
「ええ!!何でデス!?どういうアレデス!?
まだそういうのは早いデス!!心の準備が半年は必要デス!!」
「はぁ、『まだ』ですか」
「うっ!!そういう意味じゃねぇデス!!ちょっと!!!」
「騒がしいですね。クラニー王女、よく聞いて下さい」
「騒がしいとは何デス!?」
「いいですか、その人をよく知るには寝食を共にするのが最も良いという諺があります」
「聞いたことねーデス……」
「クラニー王女は食までは共にすることが出来ましたが」
「ちょっと待つデス、食どころか風呂まで一緒に入ったデス」
「ですが、まだ寝を達成しておりません。ノルマ未達成でございます」
「いつの間にそんなノルマがワタシに課されたんデス!?」
畳み掛けるように話すと前の会話を忘れてしまうのはクラニー王女の美点ですね。
「よって、本日は椎名様と一緒に寝て頂きます!!
正直毎日胸を揉みながら寝られるのも辟易しておりました!!」
私はどーんとクラニー王女を指差しました。
「えぇ!?WIN-WINの関係じゃなかったデス!?」
「そんな関係を構築した覚えはありません。
ごちゃごちゃ言ってないで、ご両親も悲しみますよ。
さぁ行きましょう」
「い、嫌デス!いーやーデースー!!
そ、そもそも!男と一緒に寝るなんて早いデス!!
それにワタシはヴッ!!!」
嫌がるクラニー王女を穏やかに説得すると静かになってくれました。
安らかに健やかに眠るクラニー王女を確認すると
私はそっと椎名様の隣に置いて自分のベッドでゆっくりと眠ることが出来ました。
ありがとうございます、椎名様。
クラニー王女を宜しくお願い致します。
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「というわけです」
「『静かになってくれました』じゃねぇ!!
全然同意なんて得てねぇじゃねぇか!!」
「習うより慣れろとも言いますし問答を続けるよりはいいかと思いまして」
「エシリアさんって侍女なんだよね!?
そんなことしてたらクラニーちゃんの両親に怒られないの?」
「ご両親も推奨されております」
「マジで、癖ついても知らねぇぞオイ」
「いつものこと、ということでございます。
クラニー様も起きたら記憶をなくしておりますし良いかと」
「それショックで記憶飛んでるだけじゃねぇ!?
それに全裸にまでする必要無かったよね!?」
「……はい?」
「え?だから服を着てなかったって……」
「……あ」
「え?」
「そうでした、クラニー様は服を着て寝ることを大変嫌っておりまして。
服を着て寝ても寝ている間に脱いでしまうのです」
「わかっててやってない!?」
「てへ」
「やってることは可愛くないからな」
「では、まだ朝早いので後はクラニー様とのお時間を堪能されて下さいませ」
「戻らねぇよ?」
俺の部屋から誰のものかわからないが悲鳴が聞こえた。
あーあ、起きちゃったのか。
「ピャアアアアアアアアアアアアア!!」
「どうされましたか、クラニー王女」
クラニーちゃんの一大事に駆けつけたエシリアさんであった。
しかしながら、当然の事ながら、この状況に陥ったのはエシリアさんの責任である。
それにこうなることがわかっていてここに置いたんだろう、オイ。
「何でワタシはここにいるデス?もしかして事後!?事後デス?
覚えてねーデス!大変なものを奪われてしまったデス!!
責任取らせるデス!でもシーナは既にここにおらず!!惚れた男に逃げられたデス!!」
「ここにいるし何も奪ってねぇよ!
というか、俺も起きたらお前がいてビックリしたんだよ!」
部屋の中には入らず壁に背を向けてクラニーちゃんに話しかけた。
「おぉ、シーナ!どうして隠れてるデス?」
「お前裸だろ!パジャマでも何でもいいから何か着ろ!」
「どうしてデス?寝る時に何か着るなんて変デス。
起きたばっかなんデスから裸で当然デス」
「何でそこだけ冷静なんだ!!そういうことじゃねぇ!
見れねぇんだよ普通に恥ずかしいだろ!」
「ワタシの身体はどこか変デス?む、テメー失礼なヤツデス!!
よく見やがれデス!!キレイな身体じゃねーかデス!!」
「見ない!!綺麗なのはわかるし変じゃねぇから!」
「見ねーで何がわかるデス!!」
「そうです椎名様、よくご覧下さいませ」
「痛い痛い!首から上を強引に動かすんじゃねぇ!!」
エシリアさん力づよい。
「もういいから!!話しがすり替わってるだろ!!」
「あ、そー言えばそうデス。おいエシリア、オメーまさか」
「いえ、私は何も存じませんが。
記憶が無いようですが、椎名様と一緒に寝たいと言い出したのはクラニー王女ですよ」
「どうしてそんな嘘がつけるんだ!」
「なるほど、そういうことデシタか……。
確かに!同居人をもっとよく知るためには寝食を共にするのが一番!
合点がイッたデス!!昨夜のワタシグッジョブ、デス!!」
「どうしてそんなことで納得出来てしまうんだ!!」
「ほ?何かおかしいことでもあるのかデス?」
「いやいい、それで問題が鎮火するんなら。
今朝は何も起こらなかったことにするから朝ごはんでも食べよう。
クラニーちゃんも早く着替えて」
「っつってもワタシの着替えはここにはねぇデス」
「脱いだのがあるだろ」
「一旦脱いだ服なんて着れねぇデス。
エシリアー、持ってきてくれデス~」
「そう言われると思いまして、既にご用意しております」
「おぉ、流石エシリアデス!!かわいーデス!!
今日のワタシもこの服も!」
「自分で言うか」
「よくお似合いです、クラニー王女」
クラニーちゃんがよくわからないことでいつの間にか納得してくれたわけだが
今後このようなことが無いように、と俺はキツくエシリアさんにお願いしておいた。
キツくお願いというのもおかしな話しではあるが。
しかしながら却下されてしまうらしい、明日のことは明日の俺に任せるか。うん。
「さて、じゃあ俺は庭でしばらくやることがあるから」
「ん?何デス?掃除でもするデスか?
それならエシリアも手伝うデス」
「もし手伝ってくれるんならクラニーちゃんもやるんだよ。
別に掃除とかじゃなくて、まぁ、ちょっと練習というか」
「シーナはクラブか何かで活動してるデス?」
「そういうわけじゃないんだが、日課みたいなもんだ」
「庭においてある例のやつを使うのですか?」
「あぁ、エシリアさんは当然見てるか。
そうだよ、別にやらなきゃいけないってことでも無いんだけど
休日はやることにしてんの」
朝食を終え、談笑もつかの間にメイド服に着替えて
部屋の掃除やら何やら怪しげな機械を弄くりながら
紅茶を飲み干したジャストタイミングでおかわりを注ぐエシリアさんだった。
この人バケモンみたいなスキルだよね。
その時家のチャイムが響いた、今日は普通に来たか。
「シーナ~、今日も来ちゃったよ~」
「おぉ、お前毎週よく飽きないよな」
「いや~、まぁ午前中は暇ですし」
「まぁいいけどさ、……また連れてきたのね」
ゆずが2~3年前に次元断層の近くで拾ってきた奇妙な生き物がそこにいた。
「ガッデムもシーナが好きみたいだからさ~!
シーナも生き物きらいじゃないんだからいいじゃん!」
奇妙な名前だった。
「嫌いじゃあないんだが、どうもその子は行動がな。
危険なわけじゃないから別にいいんだけどさ」
ガッデムから放たれる視線は他の動物達と何か違う気がする。
犬に近い容姿、ふかふかの体毛、愛くるしい瞳、艶めかしい息遣い。
前に与次郎先生に聞いたが。
「よっし、じゃあ今日もやりますかね!」
道義に着替えて始めることにした。
「頑張れ~、シーナ~。お弁当作ってきてるからお昼はこれ食べようね~」
「あぁ、ありがとう」
「おぉ、気が利くデス!」
「わざわざありがとうございます」
「いいんだよ~、皆で食べたほうが美味しいしね~」
いつの間にか増えたギャラリーを他所に
そんな大したことじゃないからどっかいってて欲しいんだけどな
などと考える俺であった。