第9話 喧嘩買いました!
「決闘を申し込む!」
いつの間にやら復活したクソガキが変な事をのたまう。
これが実戦なら俺、お前を殺してるんだぜ?
分かってる?
「いつもいつも! いい加減にしなさい! 私達は玩具じゃないの! 生きた人間なのよ!」
「ふん! 醜女の分際で偉そうに! いいのか? 口答えして? 今、隊の資金を援助してるのは誰だったかなぁ?」
「陛下に決まっているでしょ!」
このレアイナさんの当たり前の受け答えにクソガキがニタリと笑う。
「いやいや。俺たちの隊だよ? 俺が援助しろって言うから誰も何も言わずに援助してるんじゃないか? そんな事も分からないのか?」
あっ! 分かった! こいつが原因だ! こいつが要らん事言うから巻き添えを食らいたくない奴らが一緒に嫌がらせをしてるんだ。
特務隊が貧乏なのはこいつが原因だわ。
しかもこいつさっき何て言った?
決闘とか言わなかったか?
だからかなぁ、口が勝手に動いちゃった・・・。
「上等だよ・・・! その喧嘩買ってやるよ!」
「威勢がいいじゃないか? 俺が誰なのか分かっているのか? 俺は・・・。」
「黙れ。」
自分でも信じられない声が出たわ・・・。
周りの喧騒が一瞬で消えた。
うん、久しぶりに殺意全開ってやつをやってみた。
殺戮人形になっていた時に身に着いたスキルなんだけどこれ味方も威圧するから嫌なんだよなぁ。イリーナさんに後で謝ろう。レアイナさんにも。
誰も何も言わなくなったからクソガキに近づく。
よく見ると歯の根が合わずにガチガチ鳴ってる。
今度からは相手をよく見て喧嘩売ろうな?
今回は見逃さないけど。
「いいか? よく聞け? 日時場所は陛下に決めてもらう。決闘とのたまったからには俺かお前が必ずどちらかが死ぬまでやり合う事。分かったか?」
クソガキったら言葉を発することなくただ頷くばかり。
「分かったらさっさと失せろ・・・。」
よろよろしながら去っていくクソガキ。
死ねばいいのに。
イリーナさんを連れてエクセリオンの医務室に来ました。
氷嚢で腫れたほっぺを冷やします。
・・・もう一発位殴っておけば良かった。
イリーナさんが痛々しいよう!
「でも、どうするの? ヨシトが喧嘩売ったあいつ、ケスヴァンって言うんだけどメルフィル王国の押しも押されぬエースパイロットよ? 勝算あるの?」
・・・今なんて仰いました?
いいですか、レアイナさん? 俺は売ったのではなく買ったんです! それにあんなのに負けません! 家族をこんな目に遭わされて黙っているほど俺は人間出来てません! どんな卑劣な手を使ってこようとも力でねじ伏せてやります!
「!! ちょっと! 分かった! 分かったから、興奮しないの! 近い! 近い! 顔が近いってば!」
「ヨシトさん・・・。」
イリーナさん、なんか御免ね? ホントは騒ぎにしたくないから一生懸命に我慢したんだと思うけど俺の方が我慢できんかった。好きな人が暴力受けて黙ってられるほど俺、人間出来てねぇの。
「ヨシトさん・・・。勝ってくれますよね?」
勿論!
「応援しますから頑張ってください・・・。」
必ず勝つ!
「まさか最初のお願いが決闘の場所を用意して欲しいとは思いませんでした。」
俺だって最初のおねだりがこんな事とは思っていませんでした。
でも、やるからには勝ちますよ! 向こうは何か条件を付けて来たんでしょ?
「えぇ、自分たちの隊で最強の機体を用いて決闘に臨むことです。ただし殺害は許しません。敵を害してもいないのに味方を害されては困りますから。故に実弾は使用不可です。」
ははぁーん。自分たちが最新ヴァージョンのアシガル持ってるからって勝てると思ってるんだな? 俺がサムライしか持っていないと思ってるんだな?
「?? 違うのですか?」
楽しみにしていてくれ!
「では楽しみにしていましょう。必ずコテンパンにしてください。」
任せて!
王城から五日後に決闘を執り行うと知らせが来ました。
「ヨシト! ホントに大丈夫なのか!?」
エクリアさん。おはようございます。
「暢気だなぁ・・・。今日が決闘の日なんだぞ?」
だから万全の準備をしております!
「万全?」
はい! 新生特務隊の初陣なんですからド派手に行きます!
場所は軍港近くの実戦演習場。
ケスヴァンとかいけ好かない奴が派手に登場した。
あのなぁ、俺も派手に登場するつもりだけどこれはなんか違うくねぇ?
何なのよ、アイドルユニットを呼んで。コンサートかっての!
何なのよ、あの空から降ってくる花は!
何なのよ、見学席で声援を送るあの女性の人だかりは!
そっちがそう来るならこっちもやっってやる!
「アル! カタパルト準備!」
「Yes、My Master。」
「鬼神! ヨシト! 出るぞ!」
「ねぇ、イリーナ。エクセリオンのカタパルトが金色に光っていない?」
「本当だ・・・。キラキラ光ってる・・・。」
「ヨシトの奴、何をするつもりなのよ・・・。」
「あ!」
「? イリーナ姉さん? 何か心当たりでも?」
「多分、鬼神が出て来ると思う。」
「きしん?」
「はい。フレームから装甲に至るまで全て精神感応金属製のハイスペック・ハイエンド機。エクセリオンに存在する最強の機体の一つです。」
「!! ちょっと! 何その機体!」
「なんか光が強くなってない?」
「違うわよ! 近づいて来てるのよ!」
「!! きゃぁ! ・・・何て加速なの!」
「見て! サムライみたいに巡航モードの機体だわ!」
「するとあの機体も変形するのか?」
「金色の機体とは恐れ入る・・・。」
「・・・見て! 変形した!」
「なんか、すっごくスマートな機体ねぇ・・・。」
「綺麗・・・。」
よおし! 会場の度肝を抜いてやった!
可変機能付きで戦略性・戦術性が高い機体。
それがこの鬼神だ。
間違っても旧ヴァージョンのアシガルに後れを取る機体じゃない。
さぁ! 始めようか! 狩りの時間だ!
「では、決闘を執り行います! ただし、敵を害してもいないのに味方を害するなどあってはならない為殺害は禁止します! 武器は決められた物を使用しなさい。弾丸は全てペイント弾です。双方よろしいですね!」
「了解しました。」
「了解!」
「では・・・。始め!」
ケスヴァン! お前がイリーナさんを嬲った様に、今度は俺が嬲ってやるよ!
ライフルの引き金を引く。
弾き出されるペイント弾はアシガルの肩に当たる。
当然ワザとだ。
回避行動も非常に楽なものだ。
軽く回避運動を取っただけでアシガルの背後に回れる。
推進器にドシドシペイント弾を当てる。
そのまま空に浮かぶ。
空中からも攻撃を続ける。
相手はこちらを完全に見失っている。
アシガルの両手、両足にペイント弾を御見舞する。
今の所外したペイント弾は無い。
全弾命中している。
遠慮などはしない。
一応コクピットにも一撃入れている。
気が付いたらラスト一発になっていた。
アシガルの機体にはペイント弾が命中しまくりベットリとインクが付いている。
ついて無い個所はあと一つ。
そこに最後の弾丸を御見舞する。
機体のメインカメラである頭部がペイント弾のインクで染まり勝敗が決まった。