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五行の花嫁  作者: 石田空


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かまいたちとの遭遇

 ほのかが悲鳴の先へと向かうと、そこは既に人が集まっていた。

 その中倒れているのは、この辺りに住む女学生だろう。血が流れて倒れている。慌ててほのかは懐から手拭いを取り出すと、それを引き裂いて彼女のほうへと駆け寄った。


「すぐ止血します!」

「あの……陰陽師様?」


 今時警官と軍人以外は帯刀許可は出ておらず、それ以外で許可が降りているとなったら、当然ながら陰陽師であった。ほのかは頷く。


「はい。なにがあったのか教えてもらえますか?」

「はい……いきなりつむじ風が吹いたと思ったら、足をスパンとやられまして……」


 彼女は着物の上に袴を合わせ、足下をブーツで固めるという、今時の女学生の格好をしていた。そのブーツは綺麗な切り口で切られた上に、下の足首も止血しなければいけない程度に斬れてしまっている。幸か不幸か切り口が綺麗なため、止血さえきちんとして安静にさえしていれば治りそうなものだということ。


「今救護班を呼びましたから、もうちょっとしたら到着すると思いますが……そのつむじ風はどちらから出てきたとか、わかりますか?」

「さ、さあ……そこまでは確認しておりません。申し訳ございません……」

「いえいえ。充分ですよ」


 ほのかはそうにこやかに言い放ちながらも、注意深く路地を観察していた。


(……今日の天候は晴れで……つむじ風が怒るような天気ではない。だとしたら、これは魑魅魍魎で……かまいたちが妥当か)


 かまいたちは自然発生する魑魅魍魎であり、つむじ風を巻いて沸いてくる。神出鬼没な上に、現れた場所にいる人々を巻き込んでつむじ風を引き起こし、それが原因で怪我をしたり最悪死に至らしめるという魑魅魍魎であった。


(今は被害者も怪我だけだけれど……これ以上かまいたちが育ったら厄介だな。すぐに退治しないとだけれど)


 ほのかは到着した救護班に女学生を引き渡すと、自身の指先を舐めて風の位置を探りはじめた。彼女はその中で、じっと魑魅魍魎の気配を探る。

 やがて陰陽寮に連絡を入れていた南雲が出てきた。


「ほのか、もうちょっとしたら玄冥くんも到着すると思うけど。相手は?」

「かまいたい。まだそこまで育ちきってないから、これ以上被害者出さない内に倒さないと」

「そうだねえ……休みだったのにねえ。残念残念」


 そう言いつつ、彼女はさっさと懐から円盤を取り出すと、その円盤を元に魑魅魍魎の位置を探りはじめた。


「かまいたちだけれど……ここから鬼門の方角に、澱んでいるのが見える」

「了解……黒斗が来るまでに終わらせる」

「ふうん。てっきり玄冥くんに頼ると思ってたのに」

「……あいつにはいろいろと背負わせ過ぎてるから、あんまりこれ以上おんぶに抱っこはできないよ」


 そうほのかは言い捨てると、南雲は「ふうん」とだけ答えた。やがて南雲は札に血文字で指示を書くと、それをほのかの刀の刀身に貼り付けた。


「それじゃお守り、行ってらっしゃい」

「ありがとっ!」


 路地。鬼門。北東。

 その位置に三段跳びで躍り出ると、たしかに肌触りがざわざわする場所に出た。風は本来溜まらないが、魑魅魍魎ならば溜まる。そこにたしかに質量の増した風……かまいたちが固まっていたのだ。

 ほのかは刀を向ける。


「いい加減、観念しろ!」


 かまいたちはほのかがたたき切ろうとしているのに気付いたのか、どんどん風を解いて逃げようとするが、ほのかはそれを逆に刀身に絡め取り、綿飴の要領で吸引していく。学府時代から一緒に魑魅魍魎退治をしていた南雲は、今回の魑魅魍魎がかまいたちと聞いて、さっさと風の加護の札をほのかの刀身に貼り付けたのだ。

 巻き取る。絡め取る。そのまま捕らえる。


「逃がさない──……!!」


 絡め取ったかまいたちをそのまま切り落とそうとしたとき、彼女の刀の柄を握っていた指が、いきなり出血した。


「……っ!?」

「ほのか!?」


 かまいたちが彼女の刀身に絡め取られたのを腹立てたのか、逆回転で転がり続けて抵抗し、とうとうほのかの指を切り落とそうと動きはじめたのだ。

 ほのかが咄嗟に刀の柄を落とさなかったら、たちまち彼女の指が切り落とされるところだった。


「いっだ……畜生!」

「風は集めるのが鉄則だ。無理矢理絡め取って切り落とそうとしたら、そりゃこうなるだろ」


 呆れたような、心配したような声を上げてきたのは、黒斗だった。


「……黒斗」

「加鳥、うちのが済まない」


 黒斗は手拭いを取り出すと、切れたほのかの手をきつく縛った。それにほのかは顔をしかめる。


「ちょっと……今ここで縛られたら、かまいたちを殺せない」

「当たり前だ馬鹿たれ。こんな手でわざわざかまいたちを斬ろうとするな。逆に斬り殺されていたかもしれないんだぞ」

「これくらいよくあることですーっ」

「馬鹿たれ、それを当たり前だと思うな。救護班の腕に感謝しろ」


 黒斗はイラッとした顔をしつつ、南雲を見た。そして頭を下げる。


「……すまん、おかしなところを見せた」

「いや、痴話喧嘩はごちそうさまなんだけれどね。でもどうするの。私だとあれを倒すのは無理。本当だったらほのかに絡め取ってもらってそのまま倒すのが早かったと思うけど……」

「……絡め取るところまでは合っているが、あんなものこっちを斬ってくれと言っているのと同じだ。相手は魑魅魍魎とはいえど風だ」

「玄冥くんだったらどうするの?」

「……圧縮してそのまま消滅させる」


 そう言うと、黒斗は素早く式神を飛ばしはじめた。

 鬼門、北東。裏鬼門、南西。宅心、中央。それぞれに式神を放ち、かまいたちの自由に行動できる場所を狭めていく。

 最初はつむじ風を使って、強行突破を試みていたものの、だんだんとその風の威力は衰えていく。そして黒斗は最後に札を飛ばした。


「急急如律令呪符退魔、急急如律令呪符退魔」


 式神が魑魅魍魎の居場所をどんどん狭め、弱り切ったところで、退魔の札を貼り付ける。あれだけ猛威を振るっていたかまいたちは徐々に弱まり、とうとう札の圧に負けて、ジュワッと音を立てて消滅した。

 辺りには、風がさんざん猛威を振るった痕跡の塵の匂いだけが漂っていた。


「これで終わりだ」

「お見事。あれだけ素早く結界をつくって圧縮させていくのは、さすが玄冥くんだわ」


 素直に南雲がパチパチと手を叩いている中、ほのかだけは複雑そうな顔をしていた。

 彼が優秀なのは知っているが、こうも刀を一切使わず魑魅魍魎を倒しきったのは、彼女からしてみれば複雑だった。

 ほのかがじっと見ていたことに気付いたのか、黒斗は踵を返すとスタスタとほのかのほうに向かってきて、無理矢理手拭いで縛り上げた彼女の手を見た。


「傷は?」

「……血自体はそこまで。ただしばらくは動かせないかも」

「そうか。加鳥。本当に済まない、うちのが」

「いやあ……ほのかほのか」


 南雲に呼ばれ、ほのかはちらっと黒斗を見てから寄っていった。


「なあに? なんか本当にごめんね。ただかき氷食べに来ただけだったのに、こんないろんなことに巻き込んでさ」

「まあ、拝み屋稼業なんてこんなもんだしねえ。たださ、私は思ってるより玄冥くんあんたに過保護だったことに安心しただけだよ」

「ええ……いっつも呆れられてるだけだけど」

「まあ、あんたたちは複雑だよね。そういう家系のせいなんだろうけどさ」


 そう南雲にしみじみと言われてしまい、ほのかは情けなく笑った。


「うん……跡継ぎつくれっていうのが第一だからさ。いい加減本家に怒られると思う」

「私としてみれば、もっと段階踏んだほうがいいと思うんだけどねえ。そりゃ見合い結婚後すぐ子作りなんてのは、どこの家庭でもある話だけどさ、あんたたちの問題はそれだけじゃないしね」

「うん……」


 南雲はほのかの背中をポンポンと撫でた。


「まあ頑張んなさい。本当に愚痴りたいときは連絡くれたらすぐ飛んでくからさ」

「本当にありがとね、南雲」

「なあに、拝み屋さんは困ってる人の味方だからさあ」


 そう言いながら今度は黒斗に「この子私の親友だからね、あんまりいじめないであげてね」と言い残し、退散していった。

 残されたほのかと黒斗は、やってきた救護班やらもろもろの処理を終え、やっと車に乗り込むと別荘へと帰る。


「すまん。休ませるつもりだったのに、魑魅魍魎退治をさせて」


 車に乗り込んですぐに謝られ、ほのかは慌てる。


「いや、あたしのほうこそ。それにしばらくは手が使えない以上、刀も握れないし、魑魅魍魎退治も無理だね」

「手当てをしても?」

「ふん?」

「それだと普通に介助が必要だろ」


 そう言われて、ほのかはドドドドドと顔に熱を持たせる。


「スケベ!」

「おかしなことを言うな! 着替えや湯浴みは使用人に頼むとしても、食事の世話は必要だろ!?」

「それはそうだけれど! なに!」


 ほのかは黒斗に言われた指摘に、ぐるぐると撫子に言われた五行相剋を破る方法について考え込んだ。彼女の手は、一応止血はしたものの、しばらくはずっと縛り上げた手拭いを替えながら生活しなければいけない。

 もしその間に、破る方法に勘付かれたらどうなるんだろう。

 彼女からしてみれば、もしそれを悟ったときの黒斗の反応がわからず、内心柄にもなく脅えていた。

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