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薬師が紡ぐ人の生  作者: 蝦夷鹿
第〇章:プロローグ
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プロローグ 『少女の最期』

 ――短い人生、だったな。


 薄暗い洞窟の中で硬く冷たい壁に背を預けながら、一人の少女――アリアスは頭の中で(つぶや)いた。

 太陽の光が届かないこの洞窟で光源となっているのは消えかかっているカンテラと、淡く光る不思議な鉱石。

 幻想的に見えなくもないその空間で、アリアスの命は風前の(ともしび)と化していた。

 アリアスの脇腹は(えぐ)り取られたように大きく裂け、溢れ出した鮮血が床に赤い絨毯(じゅうたん)を作り出していた。今生きているのかが不思議になるくらいだ。


 ――折角(せっかく)、倒したんだけどな。


 奥のスペースには巨大な生物が息絶(いきた)えていた。

 彼女が倒した魔物で、名を『ベヒーモス』と言うそれはSクラスの魔物であった。

 Sクラスの魔物は、Sランクのハンター一人。()しくはAランクのハンター五人で討伐することが出来る魔物であった。

 しかし、アリアスのランクはAランクであった。普通であれば逃げる場面で、彼女は無謀(むぼう)にも逃げなかったのだ。

 Aランクに達するまでに十年はかかると言われている中、(わず)か四年でAランクに至った彼女は図に乗っていたのだ。慢心が産んだ結果がこれである。

 けれど彼女は倒し切った。運と才能が重なった結果だろう。


 ――不甲斐(ふがい)ない持ち主でごめんね、リリィ。


 アリアスはここまで共に戦ってきた自らの魔剣である『リリィ』に謝った。

 細身であったその剣はベヒーモスとの戦闘中で半ばから折れ、見事に半分になっていた。

 ハンターになってからの四年間、共に戦ってきたリリィは「気にしないで」と言っているかのように輝き、アリアスを(なぐさ)めているようにも見えた。


 ――あぁ、お母さんにも謝っておきたかったな。


 アリアスは十歳の時に家を出た。元々貴族の生まれであった彼女は父親の方針に嫌気が差し、家を飛び出したのだった。

 そこから紆余曲折(うよきょくせつ)を経てハンターになり、僅か十四歳でAランクのハンターとなったのだった。その人生もここで終わろうとして――、


 ぽよん、ぽよん……


「…………??」


 突如(とつじょ)聞こえてきた気の抜ける音。ベヒーモスを倒した広間からこちらに少しずつ近づいてくる。


 ぽよん、ぽよん……


 薄暗いためによく見えないソレは、気の抜けた音を出しながら飛び()ねていた。

 柔らかそうな見た目、整った流線型、まさしくそれは――、


 ――スライム?


 アリアスの考えは大当たりであった。最下級のFクラス魔物であるスライムである。

 しかし、普通では無かった。

 通常のスライムであれば核が存在する。そこを破壊すると液状になって死滅(しめつ)する。

 このスライムが異質だった部分。核が存在しなかった(・・・・・・・・・)のである。

 そのスライムはアリアスの前まで来て停止する。


 ぷよぷよと震えた後、

 急に飛び上がってアリアスの頭の上に飛び乗った。


 スライムは液状になって、


 アリアスを包み込んで行って、


 全身を包み込んだ時、


 ――カンテラの(いのち)が消えた。

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