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薬師が紡ぐ人の生  作者: 蝦夷鹿
第一章:ユリアスの日常
3/4

編集中

 浮遊感。

 その後に来るずっしりとした、自分の体に襲いかかる重力。


「眩しっ……」


 爛々(らんらん)と照りつける何か。太陽だろうか。

 生まれたばかりの体にはきついらしいその光に慣れる。

 そこに広がっていたのは広く広大な、どこまでも広がっていそうな草原。そこに走っているであろう二本の平行な獣道の上に俺は立っているらしい。

 俯瞰(ふかん)して見ているわけではないので、らしいという表現の方が正しいと思う。きっとこの獣道は馬車か何かでできたものなのだろう。

 ふと、右手をおでこに当て、照りつける光を遮ってその光源を睨む。

 そこにあったのは、太陽というには疑問符を付けたいような、菱形(ひしがた)を折り重ねたような光源。これぞファンタジーというような太陽(?)だ。


 ーーこの世界の太陽も東から登って西に登るのだろうか。


 そして、俺の今の格好は蒼銀の部分鎧【ウリエル】に身を包んだ、これぞ勇者という格好をしている。街中に出れば目立つこと間違いなしだろう。何か、それこそマントみたいなものがあればいいんだけど……。

 それにしてもこの鎧、重さをあまり感じない。爪で鎧を弾いてみるとキンっと硬質な音を響かせる。防御力は十分にありそうだ。

 それと腰に吊るされている一本の豪奢(ごうしゃ)な剣【サリエル】。死を司る天使の名を冠した、悪魔を殺すことのできる剣。これも見た目以上に軽く、吊るしている感覚はあるものの運び疲れることはないだろう。


 ーー装備の確認はできたけど、これから俺はどうすればいいのだろうか。


 そうだ。それもこれも渡された荷物の中の本に……。

 足元に置いてあったカバンは、俺の通っていた学校指定の手提げカバンのそれだった。女神様も粋なことしてくれる。

 中にあったのは一冊の厚い本と雑な作りの巾着袋。


「弁当は、……流石に無いか」


 母さんが作ってくれた弁当は俺のコピーが持って行ったらしい。悔しいが、しょうがない。

 とりあえず本を読んでみることにする。まずはどこに向かうか、そして衣食住をどうするか決めなければならない。


 ーー実際、なまじ戦闘能力だけあって無いものばっかりだな。


 どちらに進めばいいか書いていますようにと、想いを込めて本を開く。



 *



 パラパラと読み進めて分かったことがたくさん。

 まず、俺が今いる草原は【魔術国クレルドリス】という国にある【タッカー平原】というところらしく、太陽が沈む方向に進むと【王都ルドリス】という街がある。取り敢えずそこに向かうべしということだった。俺の足元の獣道をまっすぐに進むと着くらしく、迷う必要もなさそうだ。

 さらに分かったこととして、この世界ーーパルミアーーでは西から日が昇り、東に沈む。地球とは逆だ。

 そして、一年の長さは四百日で、一月は百日、一日は二十時間で構成されているらしい。すごく区切りがいいのは嬉しい。わかりやすくて結構。ちなみに、四つの月のそれぞれに名前があり一月目が『春の月』、二月目が『夏の月』、三月目が『秋の月』、四月目が『冬の月』となっている。こちらも単純明快。

 そして、カバンに入っているのは『パルミア攻略本』と十枚の金貨。この世界の貨幣は国際同盟によって創立された【ビガール】という永世中立国によって統一、管理されているらしい。そこでは、(もっぱ)ら硬貨しか生産されていないらしい。紙幣だと、魔法などで燃えてしまうからだそうで。

 貨幣の価値は『パル』で表され、一枚の銅貨で1パル。十枚集まって10パル。10パルで一枚の大銅貨と同じ価値、という風な仕組みだ。こちらも分かりやすい。

 王都に入る段階で銀貨二枚が必要らしくそのことも書いてあった。

 ちなみに銀貨は一枚100パルだ。


 ーー取り()えず、今必要な知識はこんなもんか。


 王都ルドリスに向かうために太陽(?)の位置を見ると、さっき見た位置から少し左にずれていた。


 ーーじゃあ、左が西……、じゃなくて東か。単純だけど慣れるのに時間がかかりそうだ。


 まず、王都ルドリスを目指す。



 *



 そういえば、本を歩き読みして分かったことの一つとして魔物の存在がある。

 魔物は【ツンフト】という世界同盟所属の機関がランク付けしており、上から順番にSS、S、A、B、C、D、E、Fの八段階に分けられている。

 そこに『変異種』というものも存在するらしい。魔物は生活環境でその生態が変化し、環境に適応した姿へと変異するようだ。そして、その変異種は生態が何かに特化するらしく、ランクが少し上がったりするらしい。


【タッカー平原】は比較的平和で高くてもDランクの魔物しか居ないらしい。かなり歩き進んできていると思うのだが、魔物の類に一切出会わない。嫌われているのだろうか。それとも獣道に近寄らないのか。どちらにせよ、ある程度戦闘経験を積まないといけないから、比較的弱い魔物から順に倒して行きたいところなんだが。


「ん? ……あれ、なんだ?」


 ふと視線を獣道の奥の方に向けると、リズムに乗って小さい何かが飛び跳ねていた。かなり遠いのだが、この『究極の身体アルティメットクーパー』のおかげでくっきり見える。一目でわかることだが、絶対に人間の類じゃない。


 ある程度近づいてみて分かった。あれは魔物だ。それもFランクという最低ランクの中でもさらに最弱の【スライム】だ。

 スライムはこの世界にたくさん存在していて、変異種も豊富。何でも、食べたもので変異するらしく、代表的なのは【アイアンスライム】なんだとか。その名の通り鉄を食べ続けて鉄になってしまったスライムで、この核を破壊すると流体から硬質化し、【魔鉄】という素材になる。魔力を多分に含んだ金属で、これを使ったものは()びにくく、魔力を通すことで様々な効果を発揮するんだとか。食べた鉄の量が多いスライムほど良質な魔鉄になるらしい。

 そんなスライム。地球の数多くの作品にも出てきて、ゲームでは序盤に大量虐殺される。俺はそれを不憫(ふびん)に思って、出てきたとしても逃げたりしていた。

 しかし、この世界では魔鉄製造工場なるものもあるらしく、大量のスライムが無理やり鉄を食わされ、魔鉄にさせられるらしい。スライムに思考能力などないので、反抗することもない。どの世界でもスライムは不憫であったらしい。


 でも、今はそうとも言ってはいられない。俺自身悪魔との戦いに向けて戦闘実績を積まなければならないのだ。折角(せっかく)の武器と防具でも、使う人間がダメならその刃も(なまくら)に成り下がってしまう。


 ーーまずはスライムで腕試しだ。


 ぴょんぴょんと近づいてきたスライムから目を離さずにカバンを下に降ろし、【サリエル】を抜く。鋭すぎて、見ているだけで斬られる感覚に襲われるような。美しい剣身が太陽の爛々と照りつける光を反射する。

 勿論(もちろん)剣を振った経験などないので、適当に中腰に構える。スライムと十メートルほどの間隔があるが、全力で走って近付こう。


 ーーよし、このまま踏み込んで……


 思い切り地面を踏みしめた。するとどういうことだろう。俺はコケているではないか。スライムにこかされたのか。はたまた自分自身でずっこけたのか。


 ーーどうやら後者らしい。


 俺が踏み込んだ地点は地面が飛び出してきた方向に(えぐ)れ、カバンは倒れて悲惨なことになっている。簡単にスライムを飛び越して反対側まで吹っ飛んだらしい。


 ーー常人の五倍とかじゃないと思うんですが、女神様。


 今のでなんとなくだが感覚がつかめた。力んでいる力を少し抜けば、スライム程度倒せるはずだ。

 立ち上がって、【サリエル】を中腰に構える。スライムとの距離は二十メートルほどになってしまったが、三十メートル吹っ飛んだ俺ならば、力を抜けばなんとかなる。

 そのまま踏み込んで


 一閃。


 初めて振ったにしては良い感じに振れたと思う。

 多分核ごと木っ端微塵になっているはずです。南無。

 さて、【サリエル】を鞘に仕舞ってカバンを


「はぇ?」


 ーーなんで?


 ーーなんで? どうして?


 ーーどうして【サリエル】の剣身が


「半分になってんの……?」



 *



 どうやらこのスライム普通(・・)じゃない。

 いや、まぁ。俺も普通ではないが、このスライム。【神の涙(オルカレイコス)】で出来た【サリエル】を食った(・・・)。そしてこのスライム、核が存在しなかった。どんなスライムでも核が存在すると『パルミア攻略本』書いてあったのだが、例外もいたらしい。一応思いっきり殴ってみたりしたけど、ポヨンと弾むだけで砕けすらしなかった。『究極の身体アルティメットクーパー』の膂力(りょりょく)でもどうにもならないスライム。悪魔よりも強いんじゃないだろうか。

 おかげ様で悪魔と対峙する(すべ)が一つ減りました。

 そして、【サリエル】が半分になって呆然としている俺の元にスライムがやってきて、残っていた半分も綺麗に食べられました。よって今の俺は無手です。手元に残ったのはカバンと『パルミア攻略本』と十枚の金貨、蒼銀の部分鎧【ウリエル】。


 ーー【サリエル】、ごめん。お前を有効活用できなかった俺を許して欲しい。来世でまた会おう。


 そしてその問題のスライム。俺の【サリエル】を食って満足したのか俺の頭の上でじっとしいる。きっと俺の鎧の【ウリエル】も食うつもりなんだろう。

 何が悲しくてこいつと一緒にいなければならないのか。

 最弱って一体なんだったんだろう。

 俺が強いつもりでいただけか。

 何にでも天敵はいますよっていう女神様の警告かな。

 なんだろう、まだこの世界にきて何もしていないのにもう心が折れそう。


 ーーこの旅、もう終わりでいいかな。良いよね、グーア様。


 そんなわけにもいかないので、ただひたすら獣道を辿って西へ。


 じゃなくて東へ。



 *



 大きいキラキラの(ほそ)いところを食べてみた。


 このキラキラ、実は生き物だったみたい。


 食べたらキラキラの色が変わって、不思議な色になった。


 色が変わったのは良いんだけど、なんだかモヤモヤする。


 このキラキラを全部食べたらこのモヤモヤが僕の中から消えてくれなくなると思った。


 だから、このキラキラのためになることを少ししようと思って。


 ついて行くことにしてみた。


 このキラキラ以外のキラキラがあるかもしれないし。


 それに、生きてるキラキラはきっとたくさんのキラキラに連れてってくれるはず!



 *



 スライムと出会ってからは特に問題も発生せずに王都を取り囲む壁の前まで来ることができた。門の前ではそこそこの長さの列ができていて、馬車や、俺と同じように鎧を着て武器を持っている者が並んでいた。


 ーー俺の武器は食われたがな。


 食った張本(ちょうほん)スライムは一度も俺の頭から離れることはなかった。引き剥がしてみようと試みたが、引き剥がされまいと俺の頭皮にしがみついていて、俺の馬鹿力によって俺自身の頭皮が引き剥がされそうになったのでやめた。捕食する気満々らしい。

 その前に俺の髪の毛が全部食われそう。この歳でハゲになるのか、俺。

 取り敢えず、俺も周りに(なら)って列に並ぶ。こういう時、大体荒くれ者が絡んでくるのがお約束だったり……


 しなかった。結局最後まで誰も絡んで来ず、特に何もされることもなかったのでそのまま受付まで来てしまった。チラチラこちらを見る視線は感じるのだが、頭にスライムを乗せているにも関わらず、誰も何も言ってこない。頭にスライムを載せるのは普通なんだろうか……。

 取り敢えず前の人の受付が終わったようなので前に進む。

 この世界の人間との初絡みだ。


「ステータスカードを」

「申し訳ない、山奥から出てきたばかりでステータスカードを持っていないんだが、どうしたら良いんだ?」


 この世界で生きて行くためには【ツンフト】が発行している【ステータスカード】、所謂(いわゆる)身分証明書が必要になってくる。勿論、俺はそんなもの持っているわけがない。女神様も全能とはいえ、人間界の細かい事に手を出す事はできないのだ。


 ーー勇者が山奥から出てきたという設定に無理がある気がするが。


「む、そうか。だが、ここでは発行する事ができんのだ。……こういう事、俺管轄外(かんかつがい)なんだよなぁ。今日初めて受付立ったし。隊長ー。こういう時どうしたら良いんすか?」


 窓口の奥から隊長と(おぼ)しきいかつい人が出てきた。強面(こわもて)だが優しそうな人だ。

 受付の人がこれまでの経緯を隊長に話す。


「そうか、じゃあこれ持ってけ」


 そう言って投げられたのは一枚の鉄札(てつふだ)だ。鉄札といってもそこまで分厚くない。そこそこ板金技術は進んでいるようで。


「それは滞在許可証だ。銀貨二枚かかるが、あるか?」

「ある。……金貨でも良いか?」

「構わん」


 許可が出たので、カバンの中の巾着から金貨を一枚取り出す。


「よし。確かに金貨だ。釣りの銀貨八枚と大銀貨九枚だ。もう通って良いぞ」

「えっ、取り調べとかないのか?」

「戦時中ならやってるな。……悪魔が出てから世界同盟ができて、国際緊張的なものも全部無くなって、矛先が全部悪魔に向かったからな。尤も、国同士での小さいいざこざが絶えないから、全ての街でこんなことをしているわけだが」


 こんなこと、というのは検問のことだろう。

 しかし、悪魔のおかげで国々が一致団結というものも面白くない話だ。


「なるほど、タメになる情報をありがとう。山奥に(こも)っていたからそういうことには(うと)いんだ」

「良いってことよ。取り敢えず、ステータスカード作るには正門を出てまっすぐ行くとそれなりにでかい建物が見えるからそこにいけ。そこが【ツンフト】っていう世界同盟で創立した機関だ。んで、魔鉄製造工場が正門を出て右に曲がって壁沿いに進むとあるぞ」

「ありがとう。じゃ……、え? 魔鉄製造工場?」


【ツンフト】の位置を教えてくれるのはわかるが、なぜ魔鉄工場?


「あぁ。……その頭のスライム、工場に売るんじゃねぇのか?」

「こ、工場に売る?」

「あぁ、そうか。山奥から出てきたんだからしらねぇのも無理はねぇか。スライムは魔鉄製造工場に売る事ができる。それもそこそこな値段で。なんせ今は魔鉄が全体的に足りてない。そのせいでスライムの値段が高騰(こうとう)してきているんだ」

「スライムって単体で売れるのか」

「あぁ。もし売るならそこに連れてくと良い。……それをしらねぇで連れてるって事は、スライムと契約でもしてんのか?」

「いや、このスライムは仇というかなんというか……」

「なんだそりゃ?」


 ーー大事な俺の相棒を食われた仇です。とは言えない。


「なんでもない。とにかくありがとう。また何かあったら危機にきても良いか?」

「あぁ構わんぞ。だが俺も警備隊長だからな、暇じゃねぇ。俺の時間があるときに尋ねてくると良い。他のやつよりは親切に教えてやるよ」

「ありがとう、えぇっと、名前なんていうんだ?」

「あぁすまねぇ。ガレスだ、貴族じゃねぇから姓は無い。お前さんは?」

「俺は……」


 ここは名字をつけるべきだろうか。……いやつけないほうが身のためかな。貴族だと思われても面倒臭い。


「どうした?」

「いや、ごめん。ハヤトだ。よろしく、ガレスさん」

「さん付けはよせ。俺もハヤトって呼ぶからよ」

「あぁ……。じゃあよろしく、ガレス」

「おう! またなんかあったら来いよ。そんときはステータスカード持ってな」

「あぁ。ありがとう」


 良い人と知り合いになれた気がする。

 旅の幸先は良くなかったが、人との巡り合わせは良かったらしい。



 *



 正門を出ると、そろそろ日が落ちようとしていた。東から差し込む夕焼けが家々の屋根を紅色に染める。それでも正門から続く中央通りーーベルカー通りーーは馬車が横行していて、歩道もそれなりに人が歩いていた。街灯には火がともり始め、中世ヨーロッパのような街並みを照らし始める。

 正門から続くベルカー通りは、専ら貴族が王城へと向かう為に作られた道で、馬車の往来が激しい。故にラノベでよく目にする屋台のようなものはここに無く、繁華街のようなところに集中しているようだ。それもこれも全て『パルミア攻略本』に書いてあった事だが。本当にこの本は優秀である。

 しかし、今日ステータスカードを作成するのは厳しいだろう。【ツンフト】がまだ開いていたとしても、流石に気疲れした。宿を取って眠りたい。

 ガレスと別れる前に聞いた宿に向かうことにしよう。確か中央通りにある【剣の鞘】という宿がオススメらしい。少し高いが、飯が美味いんだとか。


 ーーそんなこと考えてると腹減ったな。


 召喚されて、人間界に降ろされてからここまで色々あった。剣を食われたり、剣を食われたり、剣を食われたり、ガレスに会ったり。

 剣を食われた衝撃がデカすぎて少し()えている。

 取り敢えず、お腹も空いたので宿に向かう。



 *



 キラキラよりも、モヤモヤがいっぱい?


 大きなキラキラよりも大きいモヤモヤが意思の乗った音を出してた。


 大きなキラキラも意思の乗った音を出してた。


 大きいモヤモヤの音が僕の体に伝わる度、このモヤモヤはいいモヤモヤだって思った。


 ああやって意思の疎通(そつう)をしてるのかなぁ。僕もできるようになれば良いのに……。


 なんだか、僕の中にモヤモヤが一個増えた気分。これなんなんだろう。


 僕も音が出せるようになれたらなぁ。


 でも、大きいキラキラについていけば色々わかるかもしれないし、少しこのままついて行こう。


 でも、大きいモヤモヤの音の中に僕をどうにかするっていう意思が入ってたような。


 気のせいかな?



 *



「この宿は魔物が入って大丈夫ですか? こいつなんですが……」


 そう言って頭の上のスライムを指差す。


「スライムですか? 構いませんけど、早めに売り払われてしまったほうがいいと思います。盗まれても魔物なので何も言い返せませんし」

「分かりました、大事に抱えておきます」

「はい。……それでは夕飯はどうしますか?」

「付けてください。いくらですか?」

「宿泊料も含めて大銀貨一枚です。お食事はいつーー」


 ぐるるるるぅ…………。


 恥ずかしくなった。話の途中で腹の虫が大きく鳴ったのだ。赤面を止めることができない。

 何かで紛らわしたいと思って、無造作にカバンに手を突っ込んで大銀貨を取り出し、カウンターにさっと置く。


「ふふっ……。すぐにお持ちしますね。」


 苦笑しながら大銀貨を手に取り、奥に引っ込む女将(?)さん。羞恥(しゅうち)に悶えて死にそう。

 それにしても、宿泊費と夜ご飯が付いて大銀貨一枚とは、それほど物価は高くないのかもしれない。

 そのままカウンターの前に立っているのもあれなので隣の食堂に移動しよう。

 顔はまだ赤いかもしれないが。



 *



 夕飯を食べ終わった後、部屋に来た。

 案内された部屋には、華美ではないがしっかりしていそうな造りのベッドと、少し大きめのクローゼット。そして小さめの机と椅子が有った。そして部屋全体を照らすには少し足りない明かり。

 街灯を見たときにも思ったのだが、この街の明かりは魔石を使用しているらしい。

 魔石は魔物の心臓であり、急所である。どんな魔物でも魔石を砕かれればその魔物は生命活動を停止し、死に至る。

 魔石には様々な使用方法が存在しており、魔力を溜めることで使用することができる。魔石を使用した家具や道具を【魔具】といい、人々の生活を豊かにしている。

 そんな魔石だが、


 ーーこのスライムにはその魔石がないんだよな。


 スライムは核が魔石で、砕かれれば死ぬ。

 しかしこのスライムはどうだ。魔石がないだけでなく凄まじい耐久力もあるのだ。チートにもほどがあると思う。俺も十分チート性能な気もするが、こいつは違う意味でチートだ。

 ……なんだかイライラしてきた。


 ーーもう不貞寝(ふてね)してしまおう。


 鎧を外して、足元に並べていく。

 待てよ、このままだとこのスライムに食われるのでは。


 ぷるぷる……。


 いつのまにか床に降りたスライムが、俺の意思を感じ取ったのかベストタイミングで揺れる。まるで「食べないよ」と言っているかのように。


 ぽよん……。


 本当に俺の意思を感じ取ってるのか?なんだこのスライム。核がない時点で新種だが、更に人の感情も分かるとなったら更にすごいのではないだろうか。


 ーー研究機関に売ったらどれぐらいで売れるんだろう。


 ぷるぷるぷるぷる!


「本当にわかってんのか⁈ まぁ、いいよ。【サリエル】返してくれるまで恨み続けるからな。もし【ウリエル】を食ったら、……本当にどうしてくれようか」


 ぷるぷる。


「本当に食べないか?」


 ぽよん。


「本当に食べないか?」


 ぽよん。


「本当に食べるか?」


 ぽよん…………、ぷるぷる‼︎


 そのまま横に震え続けるスライム。ちょっとからかってみたが想像以上に面白い。


 ぷるぷるぷるぷるぷるぷる…………。


「分かった分かった。お前を研究機関に売りもしないし、どうにもしないから。……ただし、この鎧は食うなよ。いいか?」


 ぽよん!


「よし、じゃあ俺は寝る。おやすみ、スライム」


 不安は尽きないが、もし食われたとしても新しく【オルカレイコス】発掘しまくって新しいのができるまで悪魔討伐はお休みだな。

 少しウトウトしてきた頃、何かが俺の布団の中に入ってきた。きっとスライムだろう。


 ーーまるで人間みたいなスライムだな。


 そのまま俺は意識を手放し、夢の世界へと旅立った。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

夢はでっかく、書籍化です!アニメ化もしたいし、皆さんの応援が欲しい。

しかし、簡単な話でもないです。楽しみながら世界を構築していこうと思います。


自分自身ドイツ語が好きなので、訳がドイツ語になる時が多いです。【ツンフト】とか【アルティメットクーパー】とか。

あと、オリハルコンであるオレイカルコスがオルカレイコスになっているのはわざとです。違いがあったほうが味が出るかと思って。


まだ1話ですが目指すは200話です。応援よろしくお願いします。


書いていて楽しいので、まだまだ飽きないと思います。

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