20.大穴(アビス)侵攻
2018/3/3 他の物を書いたり仕上げてたりしてましたのでこちらの投稿が遅れました。
その間に本家様の更新が無いかな~と待ちわびていたのですが無かったので、やはりこちらはこちらの方針のまま進めていきまする。
2018/3/4 まさか入れ違いで本家様が更新されていたとは・・・。(これから読みます)
最初は、何キロもの長さを持つ鋼糸に、100メートルと1キロ刻みで目盛りをつけて、穴沿いに下ろしていったが およそ1000メートルほどまで降りた地点で鋼線を始めとした物理的な存在は弾かれる事が判明した。
次に、死霊使いビルドのサモナーの冷麗さんに幽霊の従者を降下していってもらった。物理的な存在を弾く障壁はすりぬけられたものの、そこまでのおよそ二倍以上の距離を降りた辺りで幽霊の従者もそれ以上進めない事が判明した。
それが、蜥蜴人王の軍勢を打ち破り降伏を勝ち取った辺りまでの話だった。
つまり封印を解く鍵を持ち合わせていないミナミその他の手勢が強引に降りていこうとしてもいけない事を確認してあり、正攻法がうまくいかなかった場合に備えてあと二三の絡め手の準備も進めつつ攻略部隊のレベルも上げ、アキバ使節団がミナミへと向かい、到着する頃に合わせて、攻略を開始した。
神竜には、450人ほどまで乗れる事を確認してあった。
「レギオン4つ分以上って、それなんて呼ぶの?」
そんな質問は少なからず上がったが、
「コホルスでいいんじゃないのか?」
とエルファは提案した。
「その心は?」
「古代ローマ軍の百人隊でケントゥリア、ケントゥリア二つでマニプルス。マニプルス三つでコホルス。
本来なら600人だけど、制度改革とかで450人くらいに落ち着いてたらしいから、ちょうどいいくらいじゃない?」
「じゃあ元々のレギオンてのは?」
「レギオーは、コホルス十個だったかな。でもMMO的には600人の集団コンテンツとか大き過ぎだしね」
「お前にとっては今更なレベルだけどな」
ナカスの外壁のすぐ外側というよりは、ナカス湾から志賀島にかけて神竜を滞空させて、Windの島からレイド参加者は竜の背へ。
クルメやアソでは余興とエルファとヒヅメだけが地表に降りて、アデルハイド侯爵とオーク王の精鋭達を載せてフォーランドの大穴へ。
そこで蜥蜴人王ツェドルクや神殿長の出迎えを受けて、彼らも竜の背へ。
さてどうやって封印を解くのかと少なからぬ冒険者や大地人や魔物達は不安がったが、地下千メートルの障壁は神竜にもその背に乗っている者達にも何の影響は及ぼさず、竜はそのまま地下二千五百メートルの結界へ。
ここで神降ろし状態にあるヒヅメさんが柏手を打ち、
「いと貴き旧き大神よ。この閉ざされし封印に一筋の路を通し給え!」
と詩ぐと、ヒヅメさんの身体の周囲を回っていた四本の大釘が封印の中央に突き刺さり、大穴の四隅へと封印に穴を開け、広げていき、神竜が封印の内側へと下降すると四本の大釘はまたヒヅメさんの周囲に戻って回り始め、頭上の封印も元通りに戻ったようだった。
「これで妨害が入る可能性は消えた訳ね」
と誰かが言い、周囲にいた何十人かはうなずいたりした。
エルファはまた冷麗の幽霊と鋼糸で深度を測り、地表からのおよそ五千メートルほどに達したところで、下方向に視界が開けた。
そこは薄暗く、あちこちに溶岩が吹き上げ、漆黒の大地と薄暗闇と数え切れぬほどの魔物達に支配された地底世界、黄泉だった。
地底世界とは言えくすんだ空の果てが見えぬスケールに言葉を失っている冒険者が多い中、グレンボールは尋ねた。
「で、どうするよ?このまま上空から偵察して、ラスボス探して一気に攻めかかる?」
「それも一手ではあるんだけどね。手つかずでいた連中がラスボスに召還されても大惨事に陥るだけだから、もう少し慎重に行こう」
「具体的には?」
「グリフォン呼べる人、ここでも呼べそうか誰か試してみて」
沙夜が召還笛を試してみたが、いつまで経ってもグリフォンはその姿を現さなかった。
「大穴の封印を越えられないって事かな」
「だぶんね。もう一度吹いて戻しておいて。ヒヅメさん、神竜は大穴直下へ。澄んだ泉があって、その周囲だけ魔物が入ってこれない聖域になってるみたいだし、あそこを拠点にしよう」
「承知した」
地底の150メートル上空に神竜を待機させ、長期戦に備えて持ち込んだ大型コンテナの類などを設置していき、組み立て式の居住施設や、どれだけの気休めになるか判らないが防護柵の様な物まで人間建機たる冒険者達が敷設していった。
ほぼ4レギオンが周囲を警戒し、残りが作業に当たり、サモナーの従者達が四方の探索に出た。
地底世界への降下と設営開始から六時間ほど経っても薄闇の空は変わらず、
「常闇の地って事だね」
とエルファは結論した。
初期偵察の結果は、最初の夕食の場で共有された。
「モンスターの最低レベルは95、レイドランク1。平均は97over。数は、ある程度の偏りはあるけれども黄泉全体に満遍なくって感じで、数え切れず。これは大ざっぱな推測だけど千体はいると思ってた方がいいだろうね」
神竜の背で黄泉の地表を眺めた時の感想から、確かにそれくらいはいそうだと参加者達はうなずいた。
「それで、どう攻める?」
「今日は、一、から三、多くて五体くらいまで小手調べでやってみましょう。それが全体的な反応を引き起こすのかどうか見極めてみないと今後の方針そのものが立たないので」
敵は、拠点に選んだ場所から離れれば離れるほどレベルもランクも高くなるようだった。
神竜を呼んだままの状態で、オーク王やアデルハイド候、そして冒険者を主体に単独でいる敵に仕掛けてみた。
中には仲間を呼ぼうとするようなアクションを起こした者もいたが、周囲100メートルほどには他のモンスターがいなかったせいか、増援は来なかった。
主なモンスターの種類は、鬼や土蜘蛛といった物理系と、悪霊や亡鬼などのアンデッド系とに大別されるようだった。
冒険者の平均レベル97を越えている事もあり、95レベルの相手はさして驚異でも無かったが、いつ無数の増援が現れるかと良い意味での緊張状態は維持されていた。
それぞれのレギオンで最低一体ずつは倒してから、エルファは休息を指示。神竜も解放したが、その巨体は上空へは消えていかず、設営した拠点を取り囲むように巨体をぐるりと巡らせ姿を消した。
二日目。持ち込んでいた時計で見張り班とそれ以外の者達の行動スケジュールは管理してそれぞれに動いた。
オーク王とアデルハイド候の精鋭達とダブルレイド規模の冒険者達が交代で警戒と休憩と周囲に寄ってきた雑魚敵の掃除でレベル上げ。
三方向にレギオンを一つずつ出して、黄泉の敵との戦闘経験を積みながら、タイプ別の攻撃パターンの割り出しと対応方法を研究。
エルファと余興、リゾネット、エディフィエール、蜥蜴人王ツェドルクと神殿長のパーティーとWindと元<勝利の羽根>のフルレイドと、<紅姫>からの沙夜達の最精鋭とで組んだフルレイドで構成されたダブルレイドは逆に、可能な限り戦闘は避けながら、余興とリゾネットの航界種としての感覚と、蜥蜴人王と神殿長が継承されている伝承などから、彼らの神が封じられているだろう場所を捜索した。
そして黄泉という場所柄、最も活躍したのが、死霊使いビルドのサモナーである冷麗がレベル100になって召還可能になった至高の死霊、リッチ・キングで、幽霊やリッチなら絡まれて殺されてしまう相手でも、リッチ・キングなら自分から仕掛けない限りはレベル100のレギオンレイドクラスの相手ですら絡まれなかった。
地形としての特性や有効なスキルや魔法の割り出しと、黄泉ゾーンのマッピングには、およそ二週間ほどかかり、その間に倒した敵は三桁に及んでいたが、侵入している冒険者の数も多かった為、一つのレギオンが半壊以上のダメージを受けても拠点からの救援・蘇生チームが駆けつけて、全体が危地に陥るような事は無かった。
だが、エリア全体の様相がほぼ明らかになるにつれて、明らかに魔物のレベルとランクと密度が他と比べ物にならず、探索が進められない箇所がいくつか出てきた。
「リッチ・キングでも無理なのか?」
「さらなる地下へ降りていく入り口がありそうなのですが、結界で塞がれています」
「で、そんな箇所が複数ある、と」
「余興とエア・エレメンタルに黄泉上空から視察してもらった結果だと、この黄泉ゾーンはおおよそ直径10キロ。ただし結界の先は見通せてないから、もっと広いかも知れない」
「んで、その結界の入り口は、100体以上のレイドランクモンスターに固められてると」
「そりゃー、レギオンレイドのいくつかは載せてこられるわけだよ。ってか足りないんじゃないの?」
「冒険者一人がタイマン張れるんでない限りね」
「で、どー攻略するんよ、エルファ?」
「たぶんだけど、どっか一つがある程度減ったら、もう二つから救援来ると思う。だから、三つ同時攻略かな」
「でも、冒険者100人とレイドランクモンスター100体だと」
「倒す必要は無い。アグロを維持して、足止めしてくれてれば」
「一人が一体ずつをカイトしろってのも厳しくない?」
「一人で百体を引きずればいい。それを残り二百人近くが端から削って数を減らしていく」
「お前ならやれるってかやっちまうのかも知れなくともよ、他の二カ所はどうすんのよ?」
「神竜を戦闘には使えないの?」
「他の二カ所はそれぞれの担当チームに知恵を絞ってもらうけど、相手の集中さえ削げば何とかなると思うよ。神竜の戦闘参加は最後に試す手段かな」
「集中、削ぐ・・・」
「確かに、それくらいなら、何とかなるか」
「三カ所には明確なボスっぽい相手がいない。それが後から姿を現してくるのかどうかも分からないけど、クエストキャラっぽい存在も見つかってないからね。出来る事から進めてみよう」
敵が集中しているエリア周辺の他の雑魚敵も可能な限り事前に掃討。リポップはおよそ一週間と計測されていたので、相手方に強制召還スキル持ちがいない事なども確認されてから、エルファ達は仕掛けた。
封印の障壁の一番側にいたレベル100のレギオンレイドクラスの敵に口伝の個別チャームを余興のエア・エレメンタルの補助を受けて500メートルの距離から届かせ、周囲の敵に殴りかからせた。
チャームが持続している間にエルファは範囲チャームもスリープも精霊の風に乗せてばらまき、対象の封印の周囲にいた敵全体のアグロをきっちりと取ってからカイト状態に入った。
蜥蜴人の王と神殿長には、戦闘に参加せず封印を通過出来ないか試してもらったが、通過出来ずという報告を冒険者達から受けた。
Windのメンバーも元<勝利の羽根>のメンバーも<紅姫>のメンバーも、超長距離から百体ものレイドランクモンスターをカイティングし続けるエルファの姿に呆れた。
「さすがにあの距離は敵の魔法攻撃も届かないみたいですね」
「物理攻撃は言うに及ばず、ね」
「あれ、チートって言うんじゃねーの?」
「口伝そのものはまぁチート的なもんだけど、余興とのあれは創意工夫みたいなものだとも言えるんじゃない?」
「まー、何はともあれ、うまくいってる内に数減らしておきますかね!」
二つのレギオンレイドが最後尾にいる敵を一体かニ体ずつプルし、時に手こずりながらも確実にシトメていく間も、エルファと余興のコンビは全体のアグロとカイトを維持。
他の二カ所のうち片方は奈良とリゾネットの口伝のコンビネーションで相手を翻弄し、こちらも順調に数を減らしていると報告が入った。
残り一カ所は、正面からのカイトと戦闘を避け、ゲリラ戦とトラップと偽死とを駆使して敵を分断。孤立した敵を叩き、あるいは限界まで撤退して敵のアグロを収束させ、また限界からの長距離攻撃でプルを行い、敵の集中を削いで、エルファ達の二つのレギオンが戦っている場所への移動を阻害した。
二つのレギオンレイドでかかって一体のレイドボスを倒すのに早くて十五分ほど。ニ体ほどまでは並行してかかっても、一時間で、五、六体ほど。
レギオンを構成する四つのフルレイドの内一つを交代で休ませたり、中央の拠点にいるダブルレイド規模のメンバーを逐次交代要員として送り、開始から十時間を越えてからはフルレイド単位で短時間の仮眠すら挟みつつ、しかしエルファと余興はほぼぶっ通しで十四時間近くを駆け続けて障壁の一角の敵の殲滅に成功した。
そこからまだ動く元気の残っている者を集めてダブルレイド規模で奈良やリゾネットの元へ。そこに仮眠や休憩を取った者達が除々に復帰し交代に入る事で二角までをクリア。あとは勢いでもう一角をクリアするまでに、開始から二十四時間を要した。
「・・・これ、まじか」
「ギネス記録ものじゃないの?」
「この世界にギネス認定委員会はいないけどねー」
さすがに翌日はほぼ完全休日としながらも、ヒヅメを連れて各障壁を巡り、その先に進めるかどうかを試した。
三隅の封印の先は小部屋というには大きすぎる円形の部屋で行き止まりになっていたが、三隅前全ての敵が掃討された事で、その行き止まりの地面の底から、巨大な何者かの頭部、上半身、下半身がそれぞれ現れた。
「それぞれをこの泉まで運び、禊ぎ、穢れを払え」
ヒヅメの新たな神託を元に、先ずは一番無難そうな下半身から運びだそうとしたが、封印されていた外側のスペースへと端が出た途端に、黄泉に残っていた雑魚敵が殺到。
慌てて元の中に戻すと雑魚敵達も散らばった。
「全体で1/3以下しか残ってない今やるしかないね」
とエルファは決断。
「運び出して復活させるんじゃなく、破壊しちまうんじゃだめなのか?」
「それだとたぶん、クエストの完遂にはならないよ」
「ゲーム的にはそうかも知れないけど」
「この先に進む為に必要なステップだからね。飛ばす訳にもいかない」
そうして24時間マラソンレイドの再現までとはいかなかったが、三隅の部屋で同時に身体のパーツを少しだけ出しては引っ込めて敵をおびき寄せつつ分散させ、その背後から300人以上の冒険者が人数任せな暴威を振るって雑魚敵(といっても全て95レベル以上のレイドランク)を削り倒していき、それでも十時間以上かけて、下半身、上半身、そして最後に頭部の順に、ゾーン中心の泉の側にまで身体のパーツを運び終えた。
「これ、数千人単位のギルドでかかって正解なくらいじゃね?」
「それはさすがに神竜に乗れなかったろうけどね」
千体にも及ぶレイド1-4ランクのモンスター達を倒し続ければ、幻想級の武器防具アイテム類もふんだん以上の盛り沢山にドロップしていたが、アキバ事件にフレーバーテキストが絡んでいた情報は共有されており、黄泉産の武器防具を身につけて黄泉のボスに刃向かったら何が起きそうかは嫌でも想像がついたので、ルート分配まではしても装備までは不許可とされていた。
その唯一の例外が、Windのメイン盾たるゴーレッドで、
「要するに実験台って事だよな。いーけどよ」
フレーバーテキストを上書きする為の諸々の試みも施された上でだったが、95~99レベル幻想級武器防具にほぼ全身を包んでいれば、性能的にはどんなレイドギルドのファーストタンクにも引けは取らない筈だった。
全体の休憩と警戒態勢といくつかの手筈の状況確認を終えた後、エルファはヒヅメに神竜を召還してもらい、その背に北風の神殿や資材コンテナなども運び上げ、蘇生した者が死にハメに陥らないように措置。
「さて、んじゃ、始めてみますかね」
「全体の流れの説明、もっかいしとけよ」
「うい。このボス敵は、セルデシア風にアレンジはされてるだろうけど、まず間違いなく、日本神話のイザナミをベースにしてると予想してます」
「主神の一人だっけ」
「神産みで死んじゃって、旦那さんの方が迎えに来たけど」
「ゾンビーな状態にぱにくって地上に逃げ帰って、追って来られないよう蓋をしたとか」
「ベースの神話としてはそんな感じです。その生ける死体には八体の蛇の雷神が取り付いていたそうですから、対雷耐性と、それから当然対精神攻撃耐性も可能な限り上げておきます」
「空振りに終わったら?」
「その時は装備変換の指示出すけど、たぶん大丈夫だと思う。
頭部と上半身と下半身がくっついて、対象が復活しようとしたところに八体の雷神とかも現れてこちらを攻撃してきたら、こちらを先に討滅」
「それで正気に帰るかどーかってやつね」
「だね。それから黄泉醜女みたいな黄泉の眷属とか、それからセルデシアの六傾姫としての能力なら、どんな亜人間やモンスターがほぼ無限に沸いてきてもおかしくないから、そちらのケアもしなくちゃいけない」
「全体の力の配分は?」
「イザナミなり敵の主神に、レギオンを一つ、交代で一つ。周囲の警戒に一つ。予備と休憩用に一つ。オークと大地人達とで、沸いてくるだろう雑魚敵達の相手をしてもらいます」
「相手のレベルが150とか200とかだったらどーすんのよ?」
「もしそうだとしても、八雷神とかは100くらいだと思うよ。相手のレベル判明してからまた追って指示は出す」
エルファはさらに役に立つかは不明な保険を戦場周囲に一定間隔で敷設してから、いよいよ、三つの体のパーツを泉に浸した。
頭部は上半身と、上半身は下半身と自動的につながっていき、その全高はおよそ20メートルに足りないほど。姿としては、アルブの女性に見えた。
エルファは、自分の傍らに控えるツェドルクと神殿長に尋ねた。
「蜥蜴人には見えないけど、あれが、蜥蜴人に伝わる神の姿で間違い無い?」
「我ら全ての亜人間を生みだしし母と、そう伝わっております。おお、起きあがられますぞ!」
「下がってて下さい」
女神。そう表現しても良いのかも知れなかった。
女神は、目をしばたたかせて、自分が今いる場所と状況を確認するようにつぶやいた。
「私を呼び起こし、どうするつもりだ?そこな冒険者よ?」
「そうですね。あなたが恨み滅ぼそうとしたかも知れないこの世界を救おうかと」
「は、はははっ!何の冗談だ?魔物の世を築き、アルブを滅ぼした憎き輩達を後一歩のところまで追いつめたというのに」
「あなたが以前のままのあなただったら、それは正しい台詞だったかも知れません。しかし今のあなたなら違うのでは?」
「すでに我らアルブを滅ぼした者達も国々も滅びて久しい。私の生み出した亜人間達も自らの心を獲得した。なればその存続に力を貸せと?」
「あなたはたぶん、それ以上をご存知でしょうから」
「ふふ。では遊戯としての取り決めは果たしてみせよ。その先はその先でしか語られ得ぬだろう」
「御意。楽しませて下さいよ」
「それは、こちらの台詞だ」
「敵ステータス表記、<六傾姫>イサナミと出ました、れ、レベルは、200!」
「敵本体への攻撃は控えて」
女神の頭部胸部腹部陰部両手両足に現れた雷をまとった大蛇が現れ、
「大蛇はダブルレイドランクのレベル100。雷撃に注意して。ゴーレッド、タウント!」
「おおおおおーーっ、タウンティング・シャウトー!」
そして八条の雷撃が放たれたがすぐ側に立てていた避雷針で地面へと吸い込まれた。
「出だしOK。物理攻撃で直接攻撃しか持たないメンバーは相手の左足から。魔法攻撃職と間接攻撃職は頭部の雷神を集中攻撃」
八体の雷神は交代で十秒置きに雷撃を放ったが、それが地面に埋められた何かで無効化されていると気付くと、両手で引き抜いたり両足で蹴飛ばし、地場を固めていった。
「雷一撃でおよそ1000。十秒置きに来るから」
「アサシンとか盗剣士とかはかなりヤバい相手だよね」
「ある程度、全滅覚悟で削っていきます」
「だよね」
「とはいえ、相手の手の内を剥きながらですけど。そろそろかな」
イサナミの頭部と左足の雷神のHPが50%を切った時だった。軽装の前衛職は可能な限り距離を取ったのだが、女神の左足が地面を踏み抜いて地中から噴出した雷撃に次々と打ち抜かれてダメージとスタンを負い、イサナミが手にした弓から放たれた矢は、離れた場所にいた回復職や魔法攻撃職達を貫いていき、50%のHPを奪うか、即死させていった。
「ダウン10、15まだ増えます!」
「スタン解除可。ゴーレッドはまだ続行させます?」
「うん。まだ行けるとこまでは。半壊したパーティーは予備と交代。蘇生と全快まで行って」
「戦場外側からアンデッド系の敵、多数出現!数え切れません!ランクはパーティー!」
「オーク王とアデルハイド候の部隊に対処させて」
一つのレギオンを構成する96人の内、20人近くがダウン、ほぼ同数のHPが半減となれば撤退覚悟なレベルではあるのだが、パーティー単位、あるいはフルレイド単位で予備と交代しながら、戦闘は続行されていき、やがて左足の雷神、そして頭部の雷神が撃破された時に、エルファは第一レギオンから第二レギオンへの交代を命じた。
「まだまだ行けるぜ、大将!」
と声を上げたのはゴーレッドだったが、イサナミの片手にひょいとつかまれて口の中へ。
「えええええおおおおおいいいいっ!?」
悲鳴諸共胃の中へ。そして女神の足下に陰の染みのような影が現れ、それはゴーレッドの姿形と装備そっくりの相手だった。
ハウリングシャウトとアンカーハウルが発動されて周囲の前衛職が引きつけられてしまったのを見て、
「ありゃー厄介だね。エディフィエール、次行ってみる?」
「沙夜に先譲りたいね~」
「とはいえ、最優先目標変更。あのゴーレットのシャドウから」
さすがに数十人の冒険者から一斉攻撃を受ければひとたまりもなくシャドウは消え失せたが、ゴーレッドは戻ってこなかった。
「腹部の雷神倒せば戻ってくるかな?」
「先ずは右足と、それから左手で」
「オーク王とアデルハイド候達から救援要請!」
「ツェドルクと神殿長と、ハーフレイドを片方ずつにつけて、それで耐えてもらって」
「了解!」
雷神のHP50%では再び弓攻撃<魂貫矢>が発動されたが、障壁や、一度の即死攻撃を防いでくれるアイテムなどで、被害は先ほどの半数以下で済んだ。
右足の雷神から先に倒し、全周囲への地面から吹き上がる雷撃には可能な限り対処したが、その時に盾役を頼んでいた守護戦士は食べられ影の写し身としては現れたが倒してもゴーレッドもどちらも戻って来なかった。
両足の雷神を倒した事で膝をついて両手の高さが物理攻撃職にも届くくらいになったが、膝から先、太股が蛇の胴体の様に合わさって延びていった。
「これ、倒せば倒すほど難易度上がっていくんじゃ?」
「それ、たぶん間違ってないよ」
「でも、本体への攻撃はNG?」
「少なくとも、あの八雷神を倒すとどうなるのかは見ておく必要があるからね」
続いて左手の雷神を倒した事で、女神の様相がアンデッド系へと変化。全身が腐れ爛れていき、三十秒間隔でテラーが発動され、前衛が散らされてDPSが減速。さらに打ち込んだ武器に対する腐食効果まで確認された。
「武器は、聖、炎、または対腐食効果を持つ物へ変更を」
次には腹部と右手の雷神に攻めかかっていたが、<魂貫矢>での攻撃に併せて、ラミアのようになった蛇の胴体と尾での打ち払い攻撃も重なって、前線の維持はさらに困難になっていった。
「半壊したパーティーは早めに予備と交代」
「予備ってもー半分切ってるんじゃ?」
「雷神全部倒すまでは一気にやるから」
「ま、しゃーねえか」
右手の雷神を倒した時には地表が泥濘化。回避や攻撃がさらに困難になったが、そこは交代要員達から浮遊のバフなどをかけて回避。さらにまた数名が食べられたが、写し身を倒して対処。腹部の雷神に攻撃を集中し、これを倒した時は女神周囲が完全な暗闇に包まれたが、妖精の軟膏を予め準備していたメンバーは瞼に塗って対処した。
「まったく、初見ハメ殺し要素満載じゃねーか」
セラフィーナがぼやいたが、
「でもこれで雷神も残り一体!」
「その後のレベル200の相手とはどーするのさ?」
「それはそうなった時に考えるよ」
陰部の雷神への攻撃は、チャーム判定がその度にかかり、攻撃陣に混乱はもたらしたものの、攻撃には参加していない予備部隊からの解除で前線が崩壊する事は無く、
「これで、終わり?」
と疑問の声が上がるほど、ある意味であっけなく、その時は近づきつつあった。
「残り2%切ったら盾役以外武器攻撃職は後退。ヘイト洗濯受けて、遠距離攻撃職に削りきってもらいます。予備部隊含めて、彼らのメズ準備を」
自らは攻撃にいっさい参加せず、指示のみに徹していたエルファは、それでも戦闘開始から四時間後、八体目の雷神が倒された時に、攻撃に参加していた全てのメンバーだけでなく、一度でも彼らを回復したりデバフを解除して戦闘に何らかの形で関わったメンバー全員が倒れても慌てなかった。
「第三レギオン、イサナミ周辺から遺体引き離して蘇生回復にかかって」
「・・・マジ、かよ」
「この倒す順序にも、何かあったのか?」
「うん、後でまた話すけど、今は蘇生優先で。オーク王とアデルハイド候達の方は持ちそう?」
「そっちは敵の増援が止んだそうだ。何とかぎりぎり」
「そりゃ重畳。さて、と、次の段階でどうなるかか。余興、リゾネットさん、油断しないでおいて」
「分かっている」
「警戒は怠っていない」
エルファはナカスにいる冒険者を通じて菫星さんとも状況を共有すると、動きを止め、自分をじっと見下ろしているイサナミの元へと歩み寄った。
「見事よの。最小限の犠牲で済ませたか」
「まだ、これからどうなるか次第ですが」
「では、これから我が身を禊ぐ。その間の守りは」
「ええ、お任せ下さい」
周囲の冒険者達にも何がどうなっているか読めていなかったが、イサナミが泉の中に入っていくと、腐れ爛れていた体が白煙を上げながら溶け落ち、再生していった。
「え、と、あいつと戦うんじゃないの、これから?」
「そうなるかも知れないし、そうならないかも知れない」
「ていうかゴーレッドとか食べられた連中まだ戻ってきてないんだけど?」
「たぶん、人質なんだろうね」
「人質って・・・」
「言ったろ。モンスター達でさえ知性を持ったって。それが神とされるような相手なら、どうなってると思う?」
そして黄泉の一角から騒ぎが起こり、余興からの報告を受けて、エルファは蘇生回復中のレギオンともう一つのレギオンとオークや大地人達を泉周辺に残し、自分達と<紅姫>と元<勝利の翼>他、ナカス最精鋭のレギオンレイドを率いて余興やリゾネット達に任せたレギオンの元へと向かった。
戦闘は、まだ起こっていなかった。
余興とリゾネットが、大地人、いや古来種二人と向かい合っていた。
「ありゃ・・・」
「ロード=タモンと、桜姫じゃねぇか」
「生きてたんだ」
「正確に生きてると言っていい状態かどうかは分からないけどね」
エルファは余興達の側へと向かい、会話に加わった。
「やはり、いらっしゃいましたか。というか、お名前を伺っても?」
「ロード=タモン。<妥協の典災>」
「桜姫。名前は、そうね、名乗らないでおきましょう」
「それは残念」
「こちらの用事は、エルファよ、お前ならもう察しはついているだろう。邪魔をしなければ」
「しないとでも?」
「するでしょうね。控えていなさい、タモン。折衝と接収はいつでも出来るから」
「はっ」
「それで、あなたは<航界種>の<観察者>の中でも一番上か、位自体がその上な存在って事でいいですか?」
「初めから手の内を明らかにする者はいないのでは?」
「それは交渉に何を望んでいるか次第だと思いますけどね。採取者も監察者も使命を与えられた人工生命体であるなら、与えた側が出張ってきてもおかしくはないと思っていましたから」
「そちらはどこまでをつかんでいるのだ、エルファよ?」
「あなた方以上などと自惚れてはいません。ただし、決定的に不利な立場にいない事も自覚していますが」
「そうだな。我々だけではあの者をあの状態にまでは持っていけなかった。他の冒険者達でも不可能だったかも知れない。そこは人間達の言葉で言えば、借りがあるという事になるのか?」
「あなた達が欲しがる資源をこれからも提供し得るかどうかの方が、大きな交渉材料だと思いますけどね」
「だがそれは人類が決める事ではない。この亜世界を創造せしもの、オルノウンと我々が呼んでいる者が決める事だろう」
「オルノウンですか。創造主は全知全能たるべきというのはどこの世界でも共通した願望なんでしょうね。ただ、交渉優先権をもらっているのは、あなた達ではなく、私達であるようですけど」
「そなた達は望んだとしてこの世界からの帰還だろう。それは最小限の資源の供出で実現しよう。どの資源を消費するかの選択も許そう」
「たぶんですけどね、この世界が終わった時、私達人類は自動的に元に戻る。あなた達の人工生命体はここに置き去りにされ一緒に消滅するのかも知れませんが」
余興にもリゾネットにも、ロード=タモンにも動揺が走ったが、桜姫は違った。
「なるほど。そこまで推察していたか。だとして、お前はこの世界の存続を望むのか?」
「存続はそちらも望んでいる事かも知れませんが、この世界の創造主がそれを望んでいるかは知らない。なぜなら、この世界がどうして生み出されたのか、我々のどちらも知らないのですから」
「だからだ。我々はそれを知らねばならない。我々の世界の存続の為に」
「その認識はたぶん間違ってます。あなたの世界の存続そのものに共感子は必要無い。必要なのはあなた方の種族に対してだけだ」
「・・・・厳しいな」
「そういう物語は人類側にもありふれてますからね。住んでる星が壊されたり人類が滅ぼされたり、でもそれは元の世界の終焉とは全く別次元の事ですから」
「正論だな。だとしても」
「ええ、種として世界そのものが終わってしまう事は可能なら避けたい。種として滅ぶ事も避けたいというのは当然ながら理解出来ます」
「だとしたらやはり我々は協力し得るのではないのか?」
「そちらが一方的に収奪し簒奪する立場で無ければ、ですね。それがあなた方がオルノウンと呼ぶ何者かがこの世界を創り、あなた方を誘った理由かも知れませんが」
「誘った、だと」
「溺れる者は藁をも掴むという言葉が私達の元の世界にはあります。そちらで天文学的な回数の試行錯誤を繰り返していた異世界との合致が成功したのは、余興のような<先導者>の開発も絡んでいたのかも知れません。でも、それがもしも誘発されたものであったとしたら?」
「しかし、放っておいても滅ぶものをなぜ・・・?」
「それが世界の滅びと同義と勘違いしていたから。だけでなく、他の世界をも股にかけて自らの種の延命を図ったから。それが創造主達の禁忌に触れたとするなら、あなた達の世界とこの世界が接点を持った経緯は説明可能となります」
「しかし、それではなぜ人類がそこに?」
「それは私にも分かりませんが、あなた達が持っている原則が間違っているのだと教える為だったのかも知れませんね。一つの世界に複数の知的生命体は存在し得るとか、宇宙というか世界には矛盾なんていくらでも存在し得るとか」
「そんな、無矛盾の法則が覆るとなったら」
「存在そのものが証明し得るとでも?」
「世界の存在そのものが矛盾だと言うつもりか?」
「宇宙の開闢なんてものは説明可能かも知れませんけどね、誰も全ての起源を説明出来ないし、証明も出来ないんですよ」
「それは、オルノウンそのものの矛盾につながるではないか」
「そちらでは問題にならなかったんですか?創造主は誰が創造したのかと。もっとも原始的な質問だと思うんですけど。そしてあなた方の試行錯誤と行き詰まりから、あなた方もその解答には至っていないし、これからもおそらく辿り着かないと私は結論しています」
「しかし、この先にいるオルノウンに問いかければ」
「ええ。何かしらの答えは得られるかも知れません。それが我々に理解可能なものかどうかは別として」
「終わった。そして、始めよう」
エルファが気がついた時、虚空に桜姫と、そして自分と同じくらいの背丈に縮んでいるイサナミと浮かんでいた。
「二人の対話は聞いていた。そして<航界種>を生み出しし者よ、聞くがいい。汝等の望みは叶わぬと」
「それは、我らに滅びろと?」
「一つの世界は一つの種を満たすに足る器と知れ。さもなくば汝等は他の種が必要とする資源の簒奪を繰り返すだろう」
「しかし、この世界にある、人類の共感子は、ほんのごくわずかな者からでさえ」
「汝等にとっては垂涎の的であろう。故にこそ誘われた」
「一つ、お聞かせを。あなた方が、我らを、我らの世界を創られた者か?」
「この亜世界であれば、そうだ。だが、汝等の宇宙も、人類の宇宙も、それぞれの理に応じて生まれた。だが世界とは多元で無限だ。世界そのものの誕生は、世界そのものが閉じる時が来ても、理の全てが明らかになるとは限らない」
エルファも口を挟んだ。
「この世界が持続するというのなら、<航界種>も彼らを生み出した者達もまた存続出来るのでは?」
「彼ら全体の需要を満たそうとすれば、今ここにいる者達が持つ資源を全て吸い上げてもまだ全く足りていないだろうがな。永続的にというのなら尚更だ」
「彼らの世界で必要な資源が再生産出来るようになれば話は別でしょう。この世界で彼らの一部は自分自身の為の共感子を自分で生産出来たのですから」
「それは、汝等人類の補助を受けての事だ。彼ら自身の世界に戻って同じ事が出来るかどうかは別の答えとなるだろう」
「そうかも知れません。しかし人類にとっても、他の知的生命体と接触したのは初めての事です。これが人類のこれからにとっての変換点となる事は間違い無い。だとしたら、その交流の場となる世界が存続する意義は小さくないと考えます」
「それが一方的な簒奪になるかも知れなくともか?」
「通信や往還の仕組みが解明されれば、一方的な簒奪では無くなるでしょう」
「しかし我らにとってこの亜世界を維持する目的は異なる」
「一つの世界を存続させるには、一つの世界を犠牲に、ですか?」
「無から有は生まれ得るのか。それは<航界種>を生み出しし者達も人類も越えておらぬ壁だろう」
「しかしその為に必要なランクは」
「己が目盛りに囚われている内は、その外側にある物は測れまい」
「だとして、あなたはなぜここに?」
エルファの問いに、イサナミは答えた。
「この体の持ち主に設定された筋書き故に、そなたと出会うならこの者しかおらぬだろうと顔を覗かせただけの事。
多くは産み出せぬ故に多くを産み出せる者達から迫害を受け滅ぼされた種族の姫。多くの亜人間とされる者達を産み出しこの世界の変転を願った者。そして今ここにその世界の存続を願う者がいる。己の種族だけでなく、その記憶という資源を狙う者達も、背景の幻にしか過ぎぬ者達をも含めてな。その共感を、私は買ったのだ」
「売った覚えはありませんが」
「世界がなぜ生み出されるのか。一つの種が見果てず終わる事が常ではあるが、問い続け生き続けてみるがいい。そなた達の旅の行く末がどう決着するのか、見させてもらう・・・」
気付くと桜姫の姿は消え、エルファとイサナミは黄泉中央にある泉の上に浮かんでいた。
「それで、戦うのか?」
イサナミに問われたエルファは首を横に振った。
「必要であれば、そうするつもりでした。しかしあなたに宿った者とも、ここで待ちかまえていた者達とも対話は成立しました。あなたを戦闘で倒さなければいけない理由は存在しないと考えます」
「我は、この世界の滅びを願い、実現するかも知れぬぞ?」
「それがオルノウンとの思惑とも合致したものなのであれば、実現してしまうかも知れません。でも、あなたはいわば亜人間達にとっての創造主だ。ならば産んだ相手への愛着が沸いていてもおかしくは無い。大地人や冒険者達には何の執着は無かったとしても」
「オークが世話になっているようだな。蜥蜴人達を連れてきたのも、情を引く為か?」
「この世界が存続するかどうか、あなたと共棲しているオルノウンが唯一の存在かどうかは知りませんが、あなたの意見や気持ちが一番尊重されるでしょうからね」
「不思議な奴よの。お主、名は何という?」
「エルファですけど?」
「それはその写し身につけられた名であろう?真の名だ」
知ってどうするつもりなのかとか、本当の名前を教えてしまって大丈夫なのかという不安はあったが、エルファは元の世界での名前をイサナミの耳元で囁いた。
「案ずるな。知ってどうこうするつもりも無い。ただ、私もそなたがこれからどうするのか興味が湧いた。私や他のアルブの姫が討たれてからおよそ300年か。それから世界がどのように変わったのかも見てみたい」
「見て回りますか?世界を一周するのなら、それなりに大変な旅になるでしょうけれど」
「そなたが乗ってきた神竜ならばそう時間はかかるまい」
「黄泉は留守にしておいて大丈夫なんですか?」
「そなたも知っての通り、ここに至る路は限られ、そなた達の言う使命もそなたしか受けた者はおらず、今後も受けられる者はおらぬ。心配には及ばぬ」
「いちおう、クエストをコンプリートしたら、それなりの報酬とか通知みたいのがあったりするんですが、それはさておいたとしても、あなたが飲み込んだままの冒険者達を解放しておいてもらえませんか?」
「褒美はそれでいいのか?」
「神竜が手元に残るのなら、それだけでも十分でしょうから」
「冗談だ。褒美は私を満足させた後に取らせよう」
そうしてゴーレッドその他二十名以上の冒険者達が泉の中に転移させられ、溺れかけた者も中にはいたが、黄泉攻略はこうして一段落ついたのだった。




