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<歌う風のエルファ> ログホラalt  作者: 名無之直人
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19.エルファの調査と試行

 ミナミの装甲列車の演習の周辺では、<望郷派オデュッセイア>とログ・ホライズン若手メンバーとの接触、さらに数千の鋼翼竜達を通常のサモナーには有り得ない攻撃力で屠った存在など、様々な要素が観測された。


 大穴アビスと呼ばれるようになっていたゾーンへの侵攻はまだ始めていなかったが、主軸に据えるメンバーのレベル上げはオーク王やアデルハイド、ツェドルク達を含めて継続中で、かつ別ルートからの侵攻が可能かどうかの調査を始めてからもすでに2ヶ月以上が経っていた。


 5月に<大災害>が起きてからあと一月ひとつきほどで一年が経つ頃、各プレイヤータウンは常蛾と呼ばれる召還モンスターの大群に襲われた。

 最初は大地人のみ、そして冒険者達も眠りから覚めぬ者達が現れ、そのまま複数人の目の前でこの世界から姿を消した者まで確認され、エルファは自分の調べ物がほぼ最終段階に近づいて来ている事、そしてアキバ(シロエ)ミナミ(濡羽)は公表しようとはしていない事を公にすべきか悩んでいた。


 エルファは最近日課の様に訪れているギルドホールの銀行施設の地下スペースへ今日も訪れていた。

 そこは、有り体に言えば、巨大なサーバーラックの様な石碑が千基以上整然と並べられて、一つ一つの石碑ラックの床下に埋め込まれた導線を光があちらからこちらへ、こちらからあちらへと絶え間無く巡っている空間だった。


 エルファが菫星から聞いている限り、シロエや濡羽も、他のどのサーバーのプレーヤーも、まだこの空間には辿り着いてはいなかった。

 菫星達供贄一族が管理しているのは、銀行やマーケットや衛兵システムだけではない。冒険者プレイヤーから別の冒険者へと小包やメッセージを送る事が出来るシステムも提供されていて、これはもちろん紙に書いた書状や物理的な物を送る事も出来たが、仮想キーボードから直接宛先やメッセージを入力して送る事も出来た。


 そう、ゲーム時代と同じ様に。


 銀行の貸金庫でも、窓口の係員に用事を申しつけて何かをしてもらえるのと同じ様に、システム的な操作から何かを預けたり探したり引き出せるのと同じ事としてエルファは認識していた。

 そしてこのメッセージ送信システムは、念話と違い、相手と同じサーバーにいなくてもメッセージを送る事も受ける事も可能だったし、相手の名前さえ分かっていれば一度会っている必要すら無く、相手がオフラインでも送る事が出来た。

 エルファが数多くのレイドを企画しメンバーを探す時、対象クラスの特定レベル帯のプレイヤーを特定サーバーからも全サーバーからも検索出来たし、その場で直接メッセージを送る事も出来た。

 今では遠隔地のゾーンにいるプレイヤーのリスト検索は出来なくなっているし、メッセージの送受信には最低限銀行施設(カウンター)の近くに居る必要があったが、サーバーをまたげる事などはエルファ自身が自分にメッセージを送ったり、他サーバーの知り合い達と連携して情報交換し機能を確認していた。


 サーバールームとエルファが名付けているこの空間の石碑には、ゲーム上に存在する全てのプレイヤーキャラクターの名前が刻まれていた。一つの石碑の四面に250ずつ。一つで千、おおよそ120万とも言われるキャラクター全体をカバーする為に、千二百基の石碑が存在する事になる。

 それだけの数を外観から見たギルド会館の大きさに収めるのは不可能だったろうが、各ギルドホールと同じ原理が使われているのだろうとエルファは推測していた。


 エルファはその広大なサーバールームの中央にある管制スペースへ。とは言ってもディスプレイやそれ専用のデスクトップPCなどが並んでいる訳では無く、単にそこでしか行使できないコマンドが実行できる空間だった。


 エルファはそこで共通のプロジェクトを進めている知己からのメッセージを確認したり返信してから、意識内メニューから仮想キーボードとディスプレイを立ち上げ、コマンドを入力していった。


>/w count all players -online -yamato


 結果として表示されたプレイヤーの数は、常蛾が現れ始めるより二桁以上減っていた。

「シブヤがレイドゾーンになって、シロエ達がレイドに行くのなら、任せておいて大丈夫だろう」

 と見切りをつけ、さらにコマンドを入力し、シブヤ以外のプレイヤータウンで消失したプレイヤーの統計も取っていく。


>/w count all players -online -b nakasu


 ナカスの受けた被害は、プレイヤー人口が多いミナミやアキバよりは軽微だと言えた。

 作成した名簿は表向きの作業だとは言え、こちらの裏向きの作業との照合にも役立った。銀行のカウンターでも似たような事は出来るのだから、他にも試していないプレイヤーがいない筈も無い。

 だが実際に、消失したプレイヤーの石碑の表示ステータスが、白光のオンライン状態から無光のオフライン状態に変わっているかどうかを確認するには、ここに来るしか無かった。

 そしてエルファは、名簿上、そして今回の常蛾騒ぎで消失が目撃された数人に対して、テストメッセージを送信してみた。


>/sent message まいるか "異世界化したセルデシアからこのメッセージを送信しています。もし受信されたら返信をお願いします。エルファ”


 しかし、そこで表示されてきたのは、


>Delivering your message to まいるか failed with unknown reason. Please try again later or ask GM for support.


というエルファはもう見慣れた物だったが、これで最終的に確定した。それが、この世界にはいないか、いなくなった者にメッセージを送った場合のシステム的な応答である事を。


 これまでも、ゲーム現役ではあったけれども<大災害>には巻き込まれなかったプレイヤー達にメッセージを送ってはきてみたが、同じメッセージが仮想ディスプレイには表示され、誰からも応答は無かった。

 つまり、これからも応答は得られないと考えるべきだろうと、エルファは推測した。

 その意味とこれから取り得る手段をエルファが考察していると、背後から声がかかった。


「調べ物の進展は如何ですか、エルファさん?」

「ある意味では順調。ある意味では行き詰まったかも知れませんね」

「説明を求めても?」


 菫星にこの様なスペースが在るだろう事を伝え、利用を許可してもらったのは、アキバの衛士事件の再発防止策を講じた時だったが、おそらく、それだけでは弱かっただろう。


「元の世界との通信は未だ取れていません。直近でこの世界から去っていった者達を含めて」

「つまりそちらからの助けは当てにならなくなったと」

「望みは薄いでしょうね」

「そちらが行き詰まった事だとして、順調だというのは大穴の攻略の方ですか?」

「ナカスでもレベル100に届いた冒険者が出ました。他の参加予定者達も、レイド開始の最低ラインの97か98はクリアしつつあります」

「それは吉報ですね」

「ええ。しかしこの世界がいつまでなのかはまだ誰にも分からない。寿命があったとして、それをどうやったら延命出来るのかも含めて」


 この一点が、菫星が協力を承諾した最大で唯一の理由だとエルファは理解していた。


「そうですか・・・」

「知己となった<航界種>の<監察者>との対話を進めてはいます。交渉とも呼べぬ話し合いですが、それでも以前に比べ情報は蓄積されてきています」

「例えば?」

「彼らは枯渇した資源を観測・収集する為に生み出された人工的な知性体。彼らは彼らの元の世界と断絶されている訳では無い。彼らと私が元いた宇宙が同じ様な存在かはともかくとして、そちらで枯渇した資源をここで確保出来たとしても持ち帰れなければ意味は無いのですから」

「その技術を持っているからこそ、冒険者の皆さんを元居た世界へと戻せもするのでしょう」

「ええ。そしてこの世界が彼らにとっても非常に特殊な例外的な存在であるらしい事。この世界で観測されている彼らにとっての資源<共感子>が無視し得ぬほどに巨大であるらしい事も対話から伺えました」

「それも、吉報と言えるのでしょうか?」

「もしすでに在る分しか生まれ得なかったとしたら、彼らとしても一方的に収奪して終わりだったかも知れません。もしそれが可能だったとして。

 しかし余興との話し合いなどから、共感子はこの歪な世界において生み増やせる事が確認出来ています」

「示唆に富んだお話ですね。つまり航界種や彼らを生み出した存在は、この世界を創造した者ではないし、また存続を望むかも知れないという事ですね」

「そうなります。月に航界種の監察者達のコミュニティがある様ですが、そこにはいずれアキバとミナミの代表達が発ち接触するでしょう」

「しかしあなたはそこに含まれないと」

「ええ。この世界の生殺与奪を握っているのは、航界種でも彼らを生み出した存在でも無く、この世界の創造主しかいないでしょうからね。

 合致という言葉を余興達が使っていた事からして、彼らは狙って実現したにしろ、この世界に接触出来たのは偶然でしか無かった。実現の為にどれだけ膨大な試行錯誤を重ねてきたのかは想像するしかありませんが」

「・・・あなたがた人間は、冒険者の皆さんは、元の世界の創造主は知っているのですか?」

「知らない、というのが答えでしょうね。誰がいつどうやってなぜ始めたのか、永遠の謎で、それこそ人類が滅びるまでかかっても解き明かせるかは不明です」

「我々とて、同じです。気が付いたら存在していたのですから」

「他の全ての知的生命体とて同じかも知れませんね。知性と呼ばれる資格を得るプロセスはそれぞれに違っていたとしても、知らないからといってそのまま世界ごと滅ぼされて良い事にはならない」


 シロエが相対し契約を交わした相手と内容がヤマトサーバーに限定された事からも、供贄くにえ一族が管轄するのはあくまでもヤマトサーバー内に限定されていた。だがだからといって菫星や供贄一族が他のサーバーの管轄者達とコミュニケーションが取れない訳では無い事は確認してあった。


「相手がどこまでの知的生命体なのかは推測するしかありませんが、この世界が貴重な存在であればあるほど、慎重になるでしょう。合致というプロセスは途方も無いほどに低確率でしか実現しない様ですし」

「でも、それはこの世界の存続を意味しない。むしろ、終わってしまう世界からの一刻も早い資源確保を航界種やその管轄者達は望むのでは?」

「そこの見極めは監察者達に任されているかも知れませんが、予断は許されませんね。彼らとしても、この世界を生み出した何者かへの接触は渇望しているでしょうけれど」

「一度出来た相手なら、二度出来ない訳もない、という事ですか?」

「彼らはそれこそ永久機関の様な存在を望んでいるでしょうからね。しかし、この世界を生み出した存在が、航界種を生み出した存在に劣るとは思えません。だから道は、その先にしか無いと私は考えています」

「我々の存在の発端がまやかしだったとしても、今はもう、生きているのです」

「生命や存在の定義なんてあやふやな物ですしね。宇宙の誕生と終焉を、そのまま一つの世界の誕生と終焉と等しいなんて考えるのも不合理だしナンセンスだと私は考えていますので。彼らがもしそんな風に考えているのだとしたら、可能性は低いですけど、やりようはあるとは思えますよ」

「頼らせて下さい。この世界に生きる全ての生命を守る為に」

「お任せ下さいなんて軽く請け合えないですけどね。私達人類もそうですが、航界種を生み出した存在も世界を生み出す事は出来ない。ただし、こちらはあちらが生み出したくとも生み出せなくなっている何かを生み出せる側にいる。後は、期限というか、この世界の創造主のご機嫌とかご都合次第でしょうね。ほんの、気まぐれ(余興)なんでしょうけど」

「世界の創造が、余興ですか」

「私達にとってのセルデシアがゲームという遊びの為に創造された仮想の世界だった事は以前にもお話しした通りです。十三騎士団の古来種達は、その生来の潔癖さからかそんな話には耐えられなかったのでしょうね」

「私にも、そして他のどの大地人にも呪いとなる事実でしょうが」

「でもどの宇宙も生命も、創造主以外は、自分達や自分達が生きる世界がどうやって生み出されたのか知らずに死んでいくんですよ?それと比べてどっちがマシかなんて誰にも分からないと思いますけどね」

「ふふ、その慰めは受け入れておきます」

「で、お願いしてる工事の進捗状況はどうですか?」

「距離が距離ですからね。地下道そのものは現地の側まで採掘して頂いてますが、伝送路の方はもうすぐ半分ほどといったところです」

「では、あと2、3ヶ月といったところですね。それまでには冒険者側も、それからオークや蜥蜴人や大地人達側の準備も整うでしょう」

「供贄の一族としても、ヤマト、いえ、セルデシア存亡を賭けた一戦として協力を惜しみません」

「機会は、おそらく一度。レイドとしては初見でクリアしろってのはほぼ無理ゲーなのですが、ま、何とかしましょう」

「期待しております」

「期待されました」


 菫星は先に戻り、エルファも地上に戻った頃には、シロエ達のアキバのレイドチームがシブヤをレイドゾーンに変えていた典災を倒したとの報告を受けた。


「やれやれ、この意味合いをどれだけの冒険者が理解しているんだか」


 シロエと、それから濡羽くらいかと憶測はしたが、エルファは先を譲るつもりは無かった。フォーランドに展開していた冒険者達に現地確認を依頼。

 そしてやはり、変異は確認された。


「これはもう、次のステップに進まないとだな」


 アキバやミナミへの情報展開をどうするかについては、ツェドルクやナカスの一部の冒険者と相談しつつ、最終的な決定としては保留とし、エルファ一の胸の内に秘めておく事にした。


 シロエ達のレイドチームがシブヤの典災を倒し常蛾を根絶したのと同じ頃、種子島ジャクセアの監視班からも、島を覆い尽くしていたモンスターがロエ2というたった一人のサモナーとその召還精霊ソードプリンセスに根絶されたという報告も上がってきた。

 西へ旅したログ・ホライズンの若手冒険者達と接触していた、異色の存在。その姿や装い、そして名前などから、シロエとの関連性は当然疑われた。

 ただ、その従者の特殊性なども鑑みて、

「接触を後にするか、前にするか、だけど、後でいいか」

 そうエルファは判断した。


 ミナミやアキバの政争を余所にナカスの冒険者達はエルファを含めてレベル上げと大穴アビス攻略の準備にいそしみ、自身を含め主力部隊の半数以上がレベル100に達した六月。エルファはいよいよ攻略の開始を宣言した。

2018/1/10 本家様が今後どう展開していくかは分かりませんが、AltはAltとして展開していきます。

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