18.高野山詣で
本当は前章の前に入れる予定でしたが、こちらが後になりました。その関係で一部経緯が前後しています。
蜥蜴人王の軍勢をオオス城に攻略・降伏せしめ、四つの封印巡礼の連続レイドクエストも終え、Windの島に戻った日、神社に足を踏み入れたヒヅメから次の啓示があった。
いわく、大穴の底に達し得る存在を呼ぶ為には、元の世界でいう高野山を訪れ、揃えた四本の釘を聖別する必要があるというものだった。
大穴の攻略前事前調査も秘密裏に進めてはいたが、問題は、高野山が奈良イコマのすぐ南という位置にあった。現在は譲渡不能なクエストアイテムとしてヒヅメに管理されている物が、譲渡可能な物になってしまった場合を想定する必要もあった。
Windの島とナカスに起居している限り万が一の事態も無いと思われたが、レベル100を目指さないといけないものの、年末年始くらいはゆっくりしたいという事情もあり、高野山詣では急がなかった。
ナカスにより近いミナミに監視は多めに配置してはいたが、もう一方のアキバも継続的な監視対象にしていた。
アキバには、<円卓会議>設立時から注目していた冒険者がいた。一般の注目はどうしてもクラスティなど大手ギルドの有名処に集まっているし、大地人で言えばレイネシア姫なのだが、エルファが注目していたのは、シロエと、そしてルンデルハウス=コードという、後からシロエのギルド<記録の地平線>に加わった冒険者であり、元は大地人であった筈の青年だった。
その発見と注目には、ナカスで始めた名簿作成作業が絡んでいた。ナカスは最初の二ヶ月で、ミナミはその次の二ヶ月ほどで大半が、さらにアキバやシブヤやススキノも並行して進めていたが、アキバは円卓会議主催ギルド周辺や関係者から進めていた。
それは冒険者達だけでなく、一部の大地人達の協力も得て進めていた事業で、ランディクのアキバ支店の者達が大地人の集いにも顔を出し、大地人から冒険者になった有名人として、その両者を仲介する気の良い相談役として、ルンデルハウス=コードの名は知れていた。
何でも話すように見えた青年だが、冒険者にどうやってなったのかについては、はぐらかされ語られなかったが、エルファにも推測はついていた。
「円卓会議周辺の情報から、シロエのサブ職業は、<筆写士>と知れている。アキバのゴブリン討伐軍も冒険者が冒険者に対してクエストを発行していた。その内容は、契約。とすると・・・」
余興がエレメンタルやオークや大地人を刻印術で今までに無い存在に変えてみせたのだ。契約であればより広範な何かが出来てもおかしくないと思えた。
それは年が変わる頃に、アキバで<円卓会議>が抑えていた主要施設が購入主不在の再購入不可能な状態となり、アキバ周辺ゾーンから東北方面にかけて同様の状態になっていっていると報告を受けて確信に至った。同時期にアキバからログ・ホライズンのシロエやその盟友の守護戦士の姿も消え、ススキノでシルバーソードのメンバーと接触。数週間のレイドを終え帰還したとの報告も受けていた。
その中には一般の大地人には見えない者も混じっていて、シロエ達が去った後もススキノに残り、都市間トランスポートゲートを調べていたらしく、現地の協力者に接触してもらい、ミラルレイクの関係者という処までは突き止め、おそらくクエストなどにも出てくる賢者に当たる存在なのだろうと見当もつけた。
「シロエとそのレイドチームがどこにいて何をしてきたのか、菫星さんには聞けないか」
韓国サーバーや中国サーバーなどでは以前までと変わらずフィールドゾーンは購入可能という報告も受けており、シロエの契約した範囲がヤマトサーバー内に限定される事も把握していた。
「接触は、意味無いな。混乱を招くだけになりそうだし、それよりも、こちらはこちらで試せる事を試しておこう」
オーク王やアデルハイド候、そしてツェドルクからも相談を受けていた件について、シロエの周辺から観察できた事をナカスで応用する時が来たと判断した。
それは、冒険者にしか無い魔法やスキルの、モンスターや大地人への展開。
ゲーム時代のタブーを破り、今後冒険者や大地人がオークや蜥蜴人と敵対した時に現在までのアドバンテージを自ら無くす行為として、かなり議論はしたが、それでも、これから挑む相手の力量と難易度などを考えれば、避けて通れない選択肢だと説得し、合意を取った。
ナカスにも、もちろんレベルマックスの<筆写士>はいた。<三洋商会>の番頭とも言えるニライさんがその当人だったのも都合が良かった。
まず手始めに、レベル1程度の、ただしオークシャーマン達が使える魔法には存在していない呪文の巻物を、サブ職業:<通訳>のスキルを持つエルファがオーク語に翻訳した内容を、レベル10程度の制作級アイテムの紙に転写してもらい、それはあっけないほどに、成功した。
これがどれほどの意味を持つのか。記憶を継承出来るようになったオーク王達に分からない筈も無く、もちろん彼らは冒険者が使える全ての魔法とスキルを欲しがったが、そこはアデルハイド侯爵なども含めて検討し、必要最小限の物に絞った。
先ず、蘇生呪文。これだけでもレイドの成功率が天地が引っくり返るくらいに変わる。記憶の継承が出来るようになったオーク達が蘇生呪文を受けずにリポップで復活した場合は、1レベル程度の経験値を失う事は確認してあったが、その場で蘇生呪文で受けた場合の損失は数分の一で済む事も確認してあった。
続いて、回復系三職の特に神祇官の障壁。反応起動回復や脈動回復に近い物はオーク祭司やトカゲ人神官達も持っていたが、神祇官の特徴的な物は皆無に近かった。
結論から言うと、祭司というクラスの性格からか神祇官の魔法やスキルを一部でも覚えられたのはオーク祭司のみで、逆に神官というクラスからかクレリックの魔法は蜥蜴人神官の方がより多く、ドルイドの物は半々という所だった。
この異世界に転移してきたのが五月。年末までの約半年で、ナカスでもっともレベル上げをしていた冒険者で96。<紅姫>の精鋭の平均も94から95に達しつつあった。
オーク王や大地人の精鋭達のレベル上げは同レベル帯の冒険者達に任せ、自分達Windも当然レベル上げに励みつつ年始開けから一月中には94から96の間に。さらに冒険者達の間で噂になっていた口伝を修得した者も複数いた。
二月にかけてミナミでは新たな動きが観察され、秘密裏に開発された装甲列車の演習が東に向けて行われ、濡羽もミナミを離れると間者から報告があった。
ミナミの関心が東に向いてる時がちょうど良い機会と、後回しにしていた高野山詣でを、ミナミの装甲列車演習の開始とタイミングを合わせて行うことに決定。
移動ルートは可能な限り<Plant hwyaden>とウェストランデの監視の目にかからないようベップからフォーランドに渡り、その東岸から元の世界の和歌山県西岸へ。そこから高野山はほんのわずかな距離だった。
遠征隊の規模をどうするかでも議論はあった。高野山で大規模戦闘が起きる可能性も無いではなかった為、フルレイド以上、レギオンレイドまでが検討され、四国東岸まではレギオンで移動。そこから先はWindと<紅姫>メンバー他有志冒険者のフルレイド24人で高野山詣でを決行する事にした。
行きがけにツェドルクに挨拶しに寄った時、王は92、大神官は86にまでレベルが上がっていた。軍勢で見送ろうかと申し出られたがミナミの警戒レベルを引き上げるだけだと断った。
フォーランド横断はなるべくレベルが低い安全なゾーンを選び、レギオンレイドでの移動という事もあり、特に支障も無く東岸にまで到達。
そこからはエルファの移動補助歌を起動して、海上を約10キロ、対岸から高野山までも約10キロで、安全に配慮しながら進んでも一時間もかからずに到着した。
そこが大地人達も起居する一般フィールドゾーンである事は事前調査で確認してあった。
<高野の寺院群>と名付けられていたゾーンには数多くの講堂や伽藍、仏塔が建てられて僧侶であるらしい大地人達が日課であろう法要か何かに勤しんでいた。
エルファ達の一行はそんな日常は邪魔しないよう、風の様に彼らの間を吹き抜けて高野山と総称される霊場の最高峰にあるとエルファが記憶している奥の院へと突き進み、神社と寺院が合いまったような建物の内側へはエルファとヒヅメだけが入っていった。
「ようこそ、歌う風と称される者よ。そして封印を巡りし巫女よ」
一目見て高僧と分かる袈裟の様な装束を身に纏った大地人、海空が話しかけてくると、それまでは私は何をどうしたらとおどおどしていたヒヅメが、神降ろしの状態になって応えた。
「フォーランドに封じられしいと古き神を解き放つべく、地の大底まで舞い降りれる神竜を借り受けに参りました」
「という事らしいです」
海空はうなずくと、
「では、封印を巡りし証をこれへ」
ヒヅメは布にくるまれた四本の大釘を差し出すと、海空は受け取り、部屋の奥の壁を押して地下へ続く隠し通路に踏み入り、光刺さぬ通路を真っ直ぐに進んで行ったが、暗闇の中で釘は淡い光をまとっていた。
ヒヅメと共に海空の後を進み、道はやがて神域らしい祭壇へ。
海空は注連縄で囲まれた大岩の上に四本の釘を並べ、サブ職業:<通訳>を持つエルファにも意味の取れない言葉で、お経の様にも聞こえる祈祷を捧げると、釘の四角い胴の側面に刻まれて淡く赤く光っていた文字が、青い光に変わり、一本、また一本と宙に浮きヒヅメの四方を取り囲んだ。
「聖別は済んだ。必要な時に天に祈りを捧げよ。通じればその御遣いはそなた達の前に姿を現すだろう」
「感謝する」
神降ろし状態のままのヒヅメさんは平然としていたが、重要クエストアイテムが自分の体も周りをぐるぐる回り続けているのだ。尖った先端部は地面の方を向いているとは言え、日常生活に差し障りがあるのは間違い無さそうだった。
「海空さん。御遣いが一度に活動できる制限時間は?」
「一度呼べば半日まで。次に呼べるまでは半日を要しまする」
「ありがとう。さっそく呼ばせてもらう事になるかも知れないけど、問題無いかな?」
「表が騒がしくなっているようですな。はい、問題ありませんとも」
エルファには、仲間達からの緊急事態を知らせる念話が何本も入っていたが、神事が済むまではと返事は控えていたのだが、報告は途中から不自然に途切れていた。
エルファを先頭に、ヒヅメ、そして海空が奥の院の表にまで戻ると、留守を任せていたフルレイドがレギオンレイドに包囲されていた。
相手方のリーダー、ごつい赤い鎧を着込んだ、ミナミ、いや西日本を代表する戦士がエルファの前に立ちはだかった。
「俺あ、ナカルナード。<Plant hwyaden>第五席。<ハウリング>のギルマスもやってた。今日はあんたに会えるの楽しみにしてたぜ」
「ただのエルファだ。それで、これは濡羽の命令?」
「どっちだっていいだろ。あんたらが窮地にいるのは変わらない。そのランダーをおとなしく差し出して見逃されるか、全員ぶち殺されてから奪われるか、選べ」
「どっちも断るよ。クエストを受けたのは俺だし、それにミナミじゃ、力ずくだとこのクエストは必ず失敗するからな」
「ほほう~、どうしてそう言い切れる?」
「濡羽もインティクスも他の十席会議の連中も、まぁ一人二人の例外はいるかも知れないけど、視野が狭すぎるからさ」
「相変わらず、かねぇ。んじゃ、それを証明してくれよ。出来たら見逃してやってもいいぜ」
「逆だよ。こちらはそちらに対して何も証明する義務を負ってない。現に<ノウアスフィアの開墾>最難関クエストもこうやって進めてる訳だし」
「だからさ。一番楽しいとこ奪われてじっとしてられるかよ。レイダーならな」
「そりゃごもっともかも」
「96対24。最先端駆け抜けてきたレイドギルドの守護戦士対ロートルのバード。ちなみにワカヤマ沿岸には千人展開してある。そっちの残りがここに来れる可能性は」
「いいから、とっととかかってくれば?あ、ヒヅメさん、呼んでおいて」
「承知した」
わずかに振り返り、ヒヅメさんがぱんと両掌を打ち合わせ、足下と頭上に巨大な八卦陣、周囲には無数の障壁が張り巡らされた事で、少なくともヒヅメさんがどうにかされる事は無さそうだと見切りはつけた。
だが、その一瞬の隙が見逃される筈も無く、背後から巨大な圧力が一瞬で間合いを詰め、凶悪な武器を振り下ろしてくる風圧を感じた。
後頭部にそのまま食らってクリティカル判定が出ていれば、前衛職でもあるバードでも大半のHPを一撃で持っていかれたかも知れない。昏倒まで発生していれば一気に押し切られて負けただろう。バードを相手にすると分かっていれば、最初から精神耐性を上げて眠りや魅了に対する抵抗値も可能な限り対策をしている筈で、だからこそ、足下は無警戒だった。
斜め後ろへと跳び、自分がいた位置へと踏み込んできたナカルナードとすれ違いざまにその背を軽く押した。戦闘行為ですらない、分厚い鎧を着込んだ戦士にしてみれば触れられた事にすら気づかないだろう接触。
ただし地面に踏み込んだ足が地中に呑まれ、体勢を崩していれば、押された勢いのまま地面へとそのまま沈み込むに十分な接触だった。
ナカルナードが攻撃を発生させてから姿を消すまでに一秒もかからず、地面がまた元通りに戻れば、残された95人が何をされたのか疑心暗鬼に陥るのは当然だった。
「今、何をされたんだ?」
「バードは、背中押しただけ、だよな?」
「口伝か?だとしても地形に影響を及ぼすなんてそんな」
しかし彼らが手控える間にも、一人、また一人と、音も立てずひっそりと、地中に呑まれて姿を消していけば、
「こうなったらやるしかねぇ!」
「おお、負けるわけ無いしな!」
そう来るところまで読めたが、すでに遅かった。
四方からこちらを包囲するフルレイドの一角の背後から元<勝利の羽根>メンバー達が襲撃。その後衛達から次々に沈め、動揺した前衛達にナカスから来た23人が挟撃してその一角では敵を圧倒し始めた。
「24人が48人になろうが関係無ぇ!先ず真ん中にいる連中から!」
襲いかかろうとした六十数人だったが、目の前を霧が覆い尽くし、誰も何もターゲット出来ず、無闇な攻撃は同士討ちになると動きが止まったところに霧の外側からソーサラー達の強力な範囲魔法を撃ち込まれてさらに人数を減らした。
「敵のいるだいたいの位置は分かってるんだ!そっちに駆け抜けろ!」
そう指示する者がいて大勢が従ったが、移動しても敵も味方もおらず、霧も晴れず、むしろ戦闘音は自分達の前ではなく後ろから聞こえてきた。
「くそっ、何が、どうなって!?」
その間にも絶え間なく範囲魔法が次々と撃ち込まれ、低HPの後衛職から次々とダウン。
「装備、切り替え!属性魔法防御に!」
そして切り替えた者から順々にバードやエンクのスリープやチャームにかけられて同士討ちなどを始めた。
その頃にはすでに頭上から巨大な影が落ちてきていたが、敵方は霧に包まれてその姿は見えないようだった。
エルファは戦闘に夢中な敵方が気づいていない事を確認しながら、味方には特別な戦利品を確保しつつヒヅメの近辺に寄るように指示。
敵の生き残りは冷麗のリッチの範囲恐怖魔法で散らかしたりバードやエンクが眠らせたり、死にかけや蘇生したての者は容赦なく殺した。
やがて頭上から大きな影が落ち、全長が視野に収まらないくらいの神竜が頭上に滞空した。
「エルファ、乗るがいい」
「えーと、どうやって?」
「光の輪に入り、選択するがいい」
「おっけ。みんな、ヒヅメさんの傍に来て、竜に乗って。
それからヒヅメさん、竜の手に、あれ持たせて運ぶ事は可能?」
「訊いてみる・・・・。可能だそうだ」
「爪先に引っかけて運ぶ感じで、落とさないように気を付けて。でも、<Plant hwyaden>の冒険者が復活して取り縋ろうとしたら、容赦なく振るい落とさせて」
「・・・・可能だそうだ」
「そりゃ何より」
そうしてナカス遠征組はヒヅメさんの周囲の光の輪の内側に入ると、竜の背に次々と転移していき、竜がそのパワーショベルよりも巨大な爪先で器用に戦利品をつまみ上げたのを確認し、後は自分とヒヅメさんが最後という時になって、足下の地面にぴしりと亀裂が走った。
「ヒヅメさん、先に乗ってて」
「しかし、それでは」
「選択画面はもう開いてるから、たぶんだいじょうぶな筈」
「武運を」
「ありがと」
そんな短い会話を交わしヒヅメさんの姿が消える間にも、地面を四散させながら、ナカルナードが地中から上半身を覗かせた。
「うあ~!ぺーっぺっぺーー!口の中泥だらけだぜ。おっかねー事するなぁ、エルファさん。たまたま付けてたイヤリングに水中呼吸の効果も付いてなかったら、地中で溺れ死んでたよ」
「だとしても十メートルくらいの地下から生還するなんて普通は出来ないと思うけどね」
「まぁ、そこはほら、口伝とかいろいろ使って。ともあれ、お久しぶりです」
「俺も、まさかそうかなぁと思ってたけど」
ナカルナードは、顔や髪や鎧についた泥をぬぐいながら地中から出て、自慢の幻想級武器を仕舞うと、鞄から守護戦士の伝説級武器を取り出した。
「まだレベル48だったのに欲しがって、初めてのレイドでファーストタンクまで任せてもらいましたから、忘れてる筈が無いです。復帰してたんですね」
「<ノウアスフィアの開墾>が適用される三ヶ月くらい前からね。これに巻き込まれたのは幸か不幸か」
「ナカスの連中にはこれ以上無い幸だったと思いますがね。<大災害>後はいろいろやってるって噂聞きました。濡羽が手出し無用って沙汰を出してなけりゃ、蜥蜴人王との戦いにだって駆けつけたものを。目の前で海外勢にかっさらわれたのは悔しかったけれど、でも」
「<Plant hwyaden>を絡めてたら絶対に主導権奪われて取り戻せなかったろうからね。そこは許してもらうしかないかな」
「それは間違いなかったでしょうね」
「ナカルナードは、どうして濡羽の下についたの?」
「下についたっていうか、ミナミ離れるには愛着がありすぎたし、ギルドホールを知り合い達と押さえるのは可能だったけれど、そうしたらアキバにかなり遅れを取る事になっていたし、それに」
「惚れてるから?」
「ん~。異世界化してからのあのキャラ、反則ものじゃないですか?」
「俺は直には見なかったけどね」
「そりゃ賢明な判断です。野郎なら脳味噌溶かされて普通って感じだし」
「でも、違うんだろう?」
「ははっ。たまたま、何度か、ゲーム時代に助っ人でレイドに呼んだ事ありましたからね。腕は悪くなかった。人柄も、こう言っちゃなんだけど、取り入ろうと必死だった。媚び売ってるてのとはまた違うんだけど」
「その努力が実を結んでしまった感じなのか」
「エルファさんがどれだけミナミの実状掴んでるかは知りませんがね。ガタガタだとは言いませんけど、不発弾はあちこちに埋まってる感じかな」
「第二席のインティクスは、どんな人物なんだ?いや目指してるところは察しがつくけれども」
「あれも濡羽とは違う意味で、相当に焼き付いてる奴ですね。女ですけど。濡羽はまだ有りかも知れないけど、あいつは、無い」
「それは、どうして?」
「<放蕩者の茶会>時代の話を、それも消滅間際のを、自分も出来る限り集めてみたんですわ。なにせ、十席の内の三人までがその出身者で占められてるんですから。カナミって、そのリーダー格の破天荒な女の後釜を探して、それを濡羽に押しつけて、放蕩者の茶会では実現出来なかったトップの座に立とうとして、その実現の為には全てを犠牲にしようとしている。そんな、嫌な印象しか無いからですかね」
「猿山の大将気取ってる場合じゃないのにな」
「まったくですよ。カズ彦辺りは、その尻拭いをまじめにやろうとし過ぎてて、かえって状況を悪化させてる。あいつがインティクスの言いなりになってなければ、もっと違う可能性だってあった筈なのに」
「説得は、効かないと」
「頑固なんてレベルじゃないですね。信念て奴かな」
「なるほど。いろいろ聞かせてくれてありがとう。お礼に、そうだな。伝言をお願いできるかな?」
「恋のメッセンジャーですか?」
「そんな人目を忍ぶようなのなら銀行からメッセージで送ってるよ。伝言はたった一言。自立しろ、ってだけ」
「なるほど。それを聞いた時のあいつの顔が見物ですね」
「機会があったら教えてくれ。それじゃ、みんなを待たせてるから」
「機会があったら、俺もエルファさんの冒険に呼んで下さいよ」
「<Plant hwyaden>と<円卓会議>の話し合いがどう落ち着くか次第かな」
「それは、まだもうしばらくかかりそうですね」
「そ。それまでに終わってても許してね」
「レイドは早い者勝ちです。負けても恨みなんてしませんよ」
「じゃ、またどこかで」
「引退されてたから消してましたけど、またフレンド登録しましたから」
「こっちもだよ」
そしてエルファは待ちくたびれているだろう仲間の元へ、竜の背へと転移した。
「おせーよ」
「ナカルナードが地中から出てきたってヒヅメさんから聞きましたが、戦闘になったのですか?」
「ただ話してただけだよ」
「知り合い?」
「十年くらい前かな。守護戦士の伝説級武器クエストのレイドを手伝ったくらいだよ。ほとんど忘れてたけどね」
「おめーのは無駄に見境無く声かけて人集めるからな」
「ま、そのおかげか、禍根は残らずに済んだのは良かったかな」
「それで、いい加減動こうぜ」
「そーそー!早くこのでっかいのが動くの見てみたい!」
「でっかいの・・・。間違ってはないな。ヒヅメさん、とりあえずミナミ上空へ」
「承知した」
「死にハメ解除の為?」
「そんなとこだね」
頭上百メートルくらいの高さに滞空していた神竜の爪先から落下しても死なないで済んだ冒険者はいないでもなかったが、ナカルナードと自分の話し合いの雰囲気を察してか、それ以上戦闘を仕掛けようとはしないでくれた。中には例外もいたが古参らしきプレイヤーが止めてくれていた。ハウリングが統制の利いた良いギルドだった事が伺えた。
悠々と空を泳ぐように身をくねらせて進む神竜の姿は、どちらかと言えば西洋風ではなく東洋風ではあったが、
「でかい!でかすぎるよこいつ!」
「インバ物置の何倍くらい?」
「言いたい事はわかるけど、百人以上余裕で乗れるって何だよその騎乗生物」
「つまりこいつで向かう先の相手は、百人でも足りないくらいの強さってこったろ」
神竜の全長は、1キロ以上は優にあった。
胸部と腹部は明確な区切りが無くて、頭部は胸部の先端部に付いているというよりは埋まり込んでいるような案配で、わずかに突き出ている口は逆U字部分だけでも百メートル以上。歯を剥き出しにした口の高さは軽く二十メートル以上はあった。
冒険者達が乗っている背中は、学校の400メートルトラックが余裕で収まるだろうほどに広かった。扁平な胸胴部から尾にかけてだんだんと幅は狭まっていたが、尾の付け根で直径50メートルは軽くあり、遠くて良く見えない先端部でも10メートルくらいはありそうだった。
「他の召還騎乗生物と違って、乗ったまま戦えるみたいだぜ。スキルとか全部使えるし」
「うほっ、何その胸熱仕様?!」
「封印解かれたラスボスと成層圏で対決とか?」
「まー、それはまた後日にしよう。レベルまだ全然足りてないし。ヒヅメさん。その身体の周りを回ってる釘達は、神竜を召還してない時は仕舞えそう?」
「可能だ」
「じゃ、ミナミ上空にしばらく留まって誰も復活してこなくなったら、フォーランドのオオス城、ナインテイルのアソとクルメを経由して、ナカスへ戻ろう」
グリフォンでついてきたハウリングのメンバーを振り切るようにさらに上空へ。余裕で高度5000メートルほどに達し、そこで北風の神殿に囚われていただろう<Plant hwyaden>のメンバーが全員ミナミの地面へと解放されたのを確かめてから帰路を辿り、その途中にいた冒険者や大地人や蜥蜴人やオーク達を驚かせ、そしてもちろん誰よりもナカスにいた人々を驚嘆させたのだが、志賀島上空から周囲の海へと神竜はやがて姿を消した。エルファはwoofの臨時会合で概況を説明。熱狂したナカスの冒険者達のレベル上げはさらに加速していくことになった。




