12.大戦(おおいくさ)の後の展開
蜥蜴人達の逆襲に備え、サガセキ北側のペップとオオイタにはウォーロードの兵が、南側の拠点にはオークの兵が詰める事になり、サガセキには両方の兵が詰める事となった。
危険度の高い対岸の砦には少数の見張りの兵だけを置き、フォーランド最西端の物見塔には冒険者が交代で詰める事になった。
ウォーロードやオーク王の側近達は戦いの最中に倒れても即座に蘇生させていたが、それ以外の兵には蘇生が間に合わなかった兵もいたものの、全体で一割未満と、格上の相手に対した戦いとしては完勝と言って良い結果だった。
大雑把にだが今後の方針を固めてから瀬戸内海を警戒してもらっていた<和冦>や、アワジから関西沿岸を警戒してもらっていた旧友達にも感謝の念話連絡を入れた後、エルファ達もナカスへと帰還した。
調理方法の秘密こそまだ公開していなかったが、戦勝会でお披露目していた事もあり、味のある料理の一般販売にゴーサインは出していたし、特に戦いに参加していた冒険者達にはさらに多くの料理や酒が街中で振る舞われていた。
そんな中、ニライさんとカナイさんからの連絡を受けて、俺は<三洋商会>の本部の頭目部屋へと足を運び、そこで待ち受けていた人物と対面した。
「初めまして、古き英雄たる歌い手よ。今宵またあなたは輝かしい勲を加えられましたな」
「それはどうも、ただのエルファです。世辞を言いに来た訳でも無いでしょう?どちらかと言えば諫めに来られたのでは?」
「はは。申し遅れましたね。私はランディク。このナカスに居を構え、ナインテイル自治領の筆頭商人でもある大地人です。以後お見知り置きを」
「あなたが実質的にナカス南門の先のゾーン購入にお金を出した人ですね?」
「さすがですね。ええ、アデルハイドの方が名は通っておりますし、意図は通じやすいかと思いまして」
「そして自分達にイズモの様子まで確認させてきたと。この蜥蜴人との一戦までを含めて絵図を描いていたのですか?」
「まさか。そこまではうぬぼれておりません。ただ、ナインテイルから失われていたベップやオオイタの地をも取り戻して下さった事は感謝の念に耐えませんが」
「他のところもと仰りたいでしょうけれども」
「そこまで欲はかいておりませぬ。今日参りましたのは、そうですね。あなたも仰られていた、讒言の為とも言えます」
「キョウやイコマの権力者達を刺激し過ぎるなと?」
「彼らもこの一戦だけでフォーランドが取り戻せるなどとは思わないでしょう。ナインテイルもランデ領からは遠く離れておりますが、その間が安泰となればなるほど、欲をかく者達は出てくるでしょうから」
「ミナミへも、キョウやイコマへも、布石は打ってあります。こちらの邪魔をさせるつもりはありません」
「だからこそです。あなたはすでに大きく動き過ぎている。彼らに出来ぬ事をしてみせた。それだけで脅威として恐れられるには十分です」
「それは仕方ないですね。後手に回っていれば滅ぼされていたのはナインテイルの民達でしたでしょうから」
「私もその点に異議はありません。しかしいずれキョウやイコマの者と結託した冒険者がミナミを統べれば、このナカスへも従属を強いてくるでしょう。冒険者の数で五倍の差は、あなたにさえ埋め難いのでは?」
「冒険者は不滅ですからね。資産や資金の差は埋め難いかも知れませんが、やり様はあります。手は出させません」
「では刃向かうおつもりか?頭を低くしてやり過ごされませ。それだけの事が出来ぬあなたでも」
「出来ないですね。そして同じ事が出来ない冒険者は、ミナミにもアキバにもたくさんいます。ミナミを統べた者は強引な手段に訴えてくるでしょう。だからこそ、やり様はあるんです」
ランディクという中壮の歳の鋭い目つきを持つ商人と俺は正面から視線をぶつけ互いにそらさなかった。
「ではどうあっても波を立てると?」
「立てるのはあちらであってこちらではありません」
「ナカスの東西の門の先を冒険者達に買わせた事もその一環なのでしょう?」
「ご想像にお任せしますよ」
「我々もナカスの繁栄には喜んで協力しましょう。けれど」
「ミナミを統べようとしている者も、あなた達も、大半の冒険者達も、勘違いしています。最も重要で重大な事を見落としています。その見落としがある限り、相手と自分との差が埋まる事はありません。相手がどれだけ大勢の冒険者を従えようと資産を積み重ねようと関係ありません」
「何を、見落としていると?」
「イズモ騎士団を滅ぼした者達が、大地人や冒険者の都合を考慮するとでも?知ってそれを利用する事はあるでしょう。権力者に取り入った者の側近にひっそりと何かの種子を忍び込ませるくらいの手は打たれていて当然です。
彼らは、こちらの都合なんて知った事じゃ無いのです。だから自分も、大地人同士や冒険者同士の事にしか目を向けてない連中に足を引っ張られる訳にも行きません。そんな下らない内輪もめに、自分達の邪魔はさせない」
声に圧力を込めすぎたせいか、ランディクもいささか引き気味だったが、何度かかぶりを振ってから言った。
「お言葉はごもっともかも知れません。しかしナインテイル自治領としては、公然とウェストランデに反旗を翻すつもりは無い事をご承知おき下さい」
「そんな事をする必要は無いし、そんなお願いをする事もありません。そんな機会は生まれないように自分は手を打っているのですから」
「お手並み、拝見致します。歌う風のエルファよ」
「どうぞ、楽しみにしていて下さい」
「ああ、それから最後になりましたが、味のある調理法、我々にも見当はついておりましたが、公開の日取決まりましたらお伝え下さい。抜け駆けはしませんから」
「それはどうも。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
ランディクが去った後、自分はニライさんとカナイさんに尋ねた。
「一般に公開て意味では、<青十字>の事業に協力してくれた冒険者達にご褒美としてあげていたおやつとかお菓子くらいだったよね?」
「いろいろ準備は進めてましたし」
「どこから漏れたのかはわかりませんけどね」
「もってあと、一週間か二週間、最大で一月無いくらいですかね。それを何かの武器にする誰かもいるでしょうから、まだ黙っておきましょう」
「わかりました」
「それでお願いしてた事のもう一つ、リュウキュウの方の話はうまくいきました?」
「もちろんです。最優先事項の一つとしてそれこそ秘密裏に友好的に処理完了しています」
「さすがですね。これでミナミにもアキバにも、ナカスは下に出る必要は無くなりました。大地人さん達の事情がどうであれ、ね」
俺はその後もいくつもの物事をお二人と協議してから、<Wind>の島へと戻った。
が、その陸地側のゾーン境界線には、軽く百人以上の長蛇の列が出来ていた。
「ただいま、て、何、これ、グレン?」
「お前な。お帰りってか、当たり前の結果だと思うぞ?」
「そうそう。今日の大戦でやらかした事の大きさ考えればな、大将!」
「う~ん。今はまだあんまり規模大きくして目立ちたくない時期なんだけど」
「あれだけの事やっといて何寝ぼけた事言ってるんだいこの人は」
「この二倍くらいの人には、名前とかレベルとかサブ職業だけ聞いて整理券みたいの渡して帰ってもらってたんですが、どうしても、って人達だけが残ってて」
ツクシさんから渡された名簿を見て、その多さにうげっとなったが投げ出す訳にもいかず、何かしらの手を打たずここに居続けられても邪魔なだけだった。
「こーゆー面倒を避ける為のWindだったのにな~。サブキャラ使えないって不便だよね」
「それを今更言ってもしようがないだろ。覚悟決めろよ」
「だとしてもね。実務面だけで言っても、この島で暮らすのはせいぜい十人から二十人未満くらいが適正だし、余興やヒヅメさんの秘密を守れるのもそのくらいの人数までが限界だと思う」
「それは、まぁ、なぁ」
「じゃあ、全部断るのかい?」
「いいや。フォーランド西岸からの攻略進めていく中核になってもらうのにはちょうど良いからね。別組織立ち上げるかも知れないけど、うん。そうしよ」
俺はゾーン際からそこにまだ残っていた冒険者達に集まってもらい声をかけた。
「えーと、ちょっとした事情で、みなさんにWindに入ってもらうのはもう少し後になるか、もしかしたら別の組織立ち上げてそっち経由で協力してもらう事になるかも知れません。とりあえず名前とかクラスとかサブ職業書き残してくれてるのなら、後でまた連絡取りますので、この場はいったん解散してくださーい!」
中には渋る人達も、まだ戦い足りなさそうにしてる人達もいたが、そういう人達にはフォーランド北岸の蜥蜴人達の偵察と討伐でもやっておいて下さいと雑事を押しつけ、ほぼ一人もいなくなったのだが、一人と、もう一人はうっすらと姿を現した。
「名簿見て、気付かなかったんですか?」
とは残っていた一人の言葉だったが、確かに見落としていた。
「何せ数百人分だったしね、お久しぶりです、奈良さん。遠路はるばるようこそ」
「お久しぶり、エルファさん、グレンさんも」
「久しぶりだな。<勝利の羽根>の連中も元気してるか?」
「元気と言っていいのかどうかは微妙だとは思いますけどね」
「とりあえず積もる話は中に入ってもらってからで。似亜蘭さんも」
「私も、すぐには入れてはもらえないのか?」
「特別扱いしたいのは山々なんですけどね。<紅姫>もう抜けてきたとか潔すぎでは?」
「未練は残したくなかったからな」
「歓迎しますよ。手続きはまだもう少し先になるとしても、いろいろお手伝い頂けるとうれしいです。今日も、敵のマルガメ城の監視とか混乱工作ありがとうございました」
「大戦に参加できなかったのは残念だったけどな」
「すみませんね。任せられる人が限られていたので」
「うむ、それならば仕方ないと思って果たしたのだ」
そうして島に足を踏み入れた似亜蘭は、奈良の腰に刺している剣に目が行ったが、何も言わずに来客用のテーブルの一席に着いた。
「えーと、グレン以外のみんなは、正確には余興もなんだけどそこは後回しにして、こちらは奈良さん。昔現役だった頃に一緒に遊んだ事もある人です」
「初めまして。レイドギルドに入ってからはあまりご一緒する機会は無くなってしまったけど、奈良です。よろしくお願いしますね」
「あの、レイドギルドって言うのは」
「<勝利の羽根>だよ。日本の、てかヤマトサーバーの日本人レイドギルドの先駆け。当時の最難関は全部総なめにしていった最強集団の祖」
「いろいろ強引なところとかもあって批判浴びてたりもしてましたけどね」
「引き抜きとかの件を言ってるんだったら、当人同士で合意が無いと移籍なんて出来ないんだから、言わせておけばいいんだよ」
グレンと奈良の間の会話に、ツクシと弥生が割り込んだ。
「あの、お二人はどれくらい長いお知り合いなんですか?」
「その腰にしてるの、エルファのと同じかい?」
「そうですねぇ、もう十五年くらい前になるんでしょうか。年がばれるのであまり言いたくはないのですが」
「それ言ったら俺もですよ」
「それで、このバードの伝説級武器は、エルファさんが最初に取得されたんですよ。当時の北米サーバーの最強ギルドのバードでさえまだ手にしていなかった時に」
「当人は、バードの武器なんて後回しでいいだろってギルドから言われてて落ち込んでたけどね」
「でも、エルファさんが道を開いてくれたから、他のバードも、ううん、他のクラスのみんなも、ギルドに入ってても入ってなくても、欲しい物は欲しいって声あげていいんだって、助けを求めてもいいんだって、後に続きましたからね」
「自分のは物欲が強かっただけかも知れませんけどね」
「だとしても、出来るだけ他の人のも手伝ってあげてたでしょう?私のもだけど」
「そうだったかも知れませんね」
エルファと話を弾ませる奈良と、ツクシや弥生との温度差が秒速で開いていく事に無頓着な当の二人に焦ったグレンが口を挟んだ。
「そ、そういえば、奈良さん達には関西方面に蜥蜴人達が攻め入ったりしないか見張っててもらったんだよな?」
「そうですね。でも、動きはなくて空振りになっちゃったから、どうせならってここまで足を伸ばしちゃいましたけど」
「遠かったんじゃないのか?」
「グリフォンとかの騎乗生物召還したり、後は海上走ればそんなに時間はかかりませんでしたよ」
グレンはエルファから話を聞いていたので知っていたが、奈良達がいたのは元の世界の淡路島辺りの筈で、そこからはハーフガイアで直線でも200キロ以上は離れている筈だが、先日自分達でもイズモまであっさり着いてしまった事を考えれば逆にそんなものかと思えてしまった。
「グリフォンかぁ。やっぱり持っておいた方が便利なのかな」
「<死霊が原>は限定イベントだったからグリフォンはもう取れなくなってしまってますけど、エルファさんならそんな苦労もしなかったでしょうね。他の飛行騎乗生物取得するならお手伝いしますよ」
弥生も<死霊が原>のレイドは制覇してグリフォンは手にしている身で、そんな苦労もしないと言われるとかちんと来るものが無いでも無かったが、昔のレイドの方が難易度が高い物があったとは聞いた事があったので異議を唱えはしなかった。
「俺も行くぜ!空飛ぶとか気持ちいいだろうしな」
「その時はよろしくね、ゴーレッドもみんなも」
「おうよ!」
「当たり前さ」
「もちろんです!」
「うむ」
「でもね、みんなが普通に持てる物を欲しがるのも面白みに欠けるから、まだ保留にしとこう」
ほとんどのWindのメンバーは梯子を外された感じだったが、
「相変わらずですね、エルファさんは」
「まったくだよ。今日の戦いとかだってそうだし」
「戦勝の報告は聞きましたけど、さすがです」
「たまたまです。それで、すぐに飛行召還生物を欲しがらないのはもう一つ理由があって、たぶん、最終目標の一つがいる場所に、既存の騎乗生物だと降りていけるかわからないからです」
「最終目標の一つっていうのは、こないだ話してくれた?」
「ですね。リザードマン達が奉じる女神が封印されているという大穴。その底まで歩いて降りれるような深さには見えませんでしたし、何かしらの魔法的な封印がされているのなら、通常の浮遊も、魔法生物の飛翔とかも、打ち消されてしまう可能性があるので」
「じゃあ、そこにたどり着くまでのクエストが用意されてると考えた方が」
「そうですね、奈良さん」
エルファはそこでようやっと、テーブルにいるべき人物が一人欠けている事に気がついた。
「あれ、ヒヅメさんは?」
「何か、神事を行うとかで、社の中に篭もられてますけど」
「・・・ちょっと、様子を見てくる」
「そしたら、私も!」
と結局残り全員で階段を登っていき、お堂の外扉を開けると、廃墟だった頃の面影が全く残っていない神社の本殿らしい空気の中で、大幣を振っていたヒヅメがエルファ達を振り返り、告げた。
「蜥蜴人の将を討ち、その軍を大いに破りし猛者よ。神託は授けられました」
背後でいくつも息を飲む音が聞こえ、武器に手をかける音までも聞こえたが、エルファは彼らを手先の一振りだけで制止すると、ヒヅメに近づいて尋ねた。
「巫女よ。神託をお聞かせ下さい」
「我が神は仰せになった。四つ国にある四つの封印を巡り、巡った証をこの巫女の手に集めよ。証が揃いし時、我は底なしの穴の底まで舞い降り得る者を遣わそう」
「・・・期限は、あるのですか?」
「無い。だが急ぐがいい。そこにはもう望まれぬ者達が居る故に」
「わかりました。この使命お受けしましょう」
「幸運を。古き者よ」
そこでふっと緊張の糸が途切れたように、ヒヅメは目をしばたたかせ、
「あ、あの、エルファさん、お帰りなさい!みなさんもお揃いで、知らない方もいて、どうしてそんな目で、私を・・・・。もしかして!?」
「いや違うよ。神懸かりとか神降ろしの状態になってたんじゃないかな。大切な情報を告げてくれたばかりだから、みんな驚いてただけだよ」
「ち、ちなみに、どんな情報を?」
エルファは先ほど聞いた内容をかいつまんで話して聞かせてから、
「もしかしたら、ヒヅメさん自身にもついてきてもらう必要があるかも知れないけれど」
と穏やかでない一言を言ってしまった為にヒヅメは驚き慌てた。
「あの、それは、冒険者の皆様が大勢で戦われ命のやり取りをされる場に、私が、ですか?」
「NPCの護衛クエストみたいなもんだろうな」
「でもそれを四つのレイドゾーンでって、狂気のハードルだけどね」
「たぶん、最初の一つはもう見つけてある。他の事も試そうと思ってたから、ちょうどいいかな。まさか蜥蜴人との戦いがクエスト発生のトリガーになるとも思ってなかったけど」
「本当かよ?」
「たぶんね。それで、ヒヅメさん」
「ひゃ、ひゃい?」
「今からそんなに怯えないで大丈夫だよ。ヒヅメさんについてきてもらうとしたら、安全になった場所を最後尾からついてきてもらうだけだから」
「本当ですか!?」
「うん。ゲーム時代、というか<大災害>以前だったらまた違ってたかも知れないけどね」
「うう・・・、エルファさんが、そう言うのなら・・」
エルファはその後もなだめすかし、弥生やツクシにヒヅメとお風呂に入って気分転換してもらう事にして、来客用のテーブルにまで戻った。
「あの巫女さんは、NPCだったの?」
「NPCというか大地人だけど、イズモ大社で唯一残ってた存在だった」
エルファは遠征時の戦いとその後の出来事を説明してから、
「一人だけ残ってたから妙だとは思ったんだけどね。典災が憑依する為の殻として使ってた可能性が高いとも考えてたけど」
「<ノウアスフィアの開墾>で導入された、絶対に外せないクエストNPCだから、システム的に消されなかったって可能性もあったのか」
「そういう事だね。今この状況になってみて初めて分かった事だけど」
「手が足りないのなら声かけて回るよ?」
「<勝利の羽根>の皆さんには引き続きミナミの監視とかをお願いしておきたいんだけどね」
「それだけじゃ息が詰まるし、つまんないもの」
「はは。そりゃそうだろうな」
「てかよ、いろいろやってた後ろで、ミナミの監視なんてのもしてたのか?」
「絶対にね、あちらからはこちらに手を出してくる、というか、服従を強いてくる。今日戦いが終わってナカスに帰ってきてから、ナインテイル自治領の主導者の一人にその件で釘刺されたばかりだし」
「刺さってないのに?」
「まあそれはお互い様。イコマとかキョウの様子はどうですか?」
「<大災害>前の様子のが好きだったかな。ドロドロしたのを見せつけられないで済んだから」
「その日は近いですか?」
「そうね、気が付いてる人は誰もいないって言って良いくらい。私も自分一人だけだったら、何が起きているのか掴み切れていなかったろうし」
「そこはエディフィエールとかリゾネットとかセラフィーナに感謝ですね」
「伝えておくわ」
それからもいくつか情報交換した後、ツクシや弥生やヒヅメが風呂から上がってきたので、
「じゃあ、奈良さんと、似亜蘭さん、お風呂どうぞ」
とエルファは勧め、二人が去ると、代わりにツクシ達に先ほど奈良と話した内容を伝えた。
聞き終えた弥生やツクシは言った。
「どこまで手を広げてるんだかね、この人は」
「ミナミがまとまってしまうと、何がどうなってしまうんですか?」
「有り体に言えば、いずれアキバとミナミを統べた者達同士で、大地人達を少なからず巻き込みながら、争ったり協力したりしていく事になるだろうね。ナカスも完全に無関係ではいられないと思う。特にミナミは従属を要求してくるだろうし」
「でも、受け入れるつもりは無いんだろ?」
「素直にはね」
「じゃあどうするつもりなんだよ?」
「言ったろ。アキバとミナミで角突き合わせててもらうって。その間にこちらはこちらで物事進めて片付けられる事は片付けておくさ」
同じ頃、肩を並べて湯船に浸かっている奈良と似亜蘭は無言のまま夜の海と星空を見つめていたが、やがて思い切ったように似亜蘭が尋ねた。
「あの・・・。奈良さんと、エルファさんは、その、どういう・・・」
「ただのゲームの中の知り合いです。同じバードだったってくらいがつながりの」
「そう・・・ですか。でも、その割には」
「バードが二人パーティに入る事なんて滅多に無いですからね。エルファさんはそういうのまるで気にしないから、レイド以外でも野良で組んだ事も何度もありますけど」
「・・・・・Windには、入られるのか?」
「どうでしょう?<勝利の羽根>も何年も前に無くなってしまってますしね。今更<Wind>になんて入れるかって元の仲間達には言ってる人達もいますけど、私は気にしないから。エルファさん次第かな」
「そうか・・・」
「気になるんですか?」
「・・・・・・・ならないと言えば、嘘に、なるかも知れないが、でもそれは」
「何となく分かります。あの人はそういう、年齢とか、クラスとか、性別とか、本当に気にしないから。ただその時一緒に何かを楽しめるかどうかだけくらいしか」
「ああ・・・、そうかも知れない」
似亜蘭もあまり長くは生きてはいないかも知れないが、二十代半ばの自分と比べて、おそらく十年ほどは年長の奈良の言葉には、うなずけるものがあった。
「今日の蜥蜴人との戦いでも、すごかったらしい。私も別任務でその現場には居合わせられなかったのだが」
「お話、聞かせて下さい」
「なんとだな、バード24人とサモナー24人のダブルレイドから始まって!」
「あー、それは、混ざりたかったですねぇ・・・」
そんな風に話は長引いていき、すっかりのぼせるくらいの長湯になってしまったのだが、二人はエルファにあてがわれた来客用のコテージで翌朝を迎えた。
朝食を終えた後、エルファは言った。
「んー、いろいろ考えたんだけど、奈良さんの加入は、まだ先でいいかな?」
「仕方ないですね。向こうでまだWindのギルドタグを見せたくないんでしょう?」
「そんな感じです。似亜蘭さんは、んーむ、特別扱いになっちゃうけど、仕方無いですね。タグついてないとその度に許可出したり外したりするのが手間かかりすぎるので」
消極的な理由とも言えたが、数百人を保留にしても、そして旧知のバードを前にしても、自分を優先してもらえた事で、似亜蘭の顔はにやついてしまった。
ステータス画面越しに、似亜蘭には<Wind>のギルドタグが付いた事を確認した奈良は、いたずらっぽく笑って言った。
「さて、戻る前にナカスとかナインテイル観光しておきたいし、エルファさんが見つけてあるっていうレイドゾーンの場所も見せてもらいたいから、付き合ってもらっていいかな?」
「うん。別にかまわないけど」
「良かった。じゃあ、昨日一緒に戦ったっていうウォーロードさんとかオーク王さんとかにも紹介してね」
そして奈良は魔法の鞄から仮面を二つ取り出してオークにも蜥蜴人にも姿を変えてみせたが、それが特定の何人かからの鋭い反応を呼び起こした事ににんまりと微笑んでみせ、エルファの腕を取って移動補助歌を起動すると、そのままつむじ風の様に駆け去ってしまった。
「さて、俺は漁に出ないとな!」
「お、俺も大工仕事のヘルプに呼ばれてるし」
昔の事情を知らないゴーレッドは看過されたものの、そうではないグレンボールは捕まって質問攻めにあっていたが、関わらぬが仏とゴーレッドは置き去りにして、遠目の森に木こりのまねごとをしに出かけていった。
ナカスを巡り、クルメを過ぎ、アソのオーク王の元ではつがいかともからかわれたりもしたが、フォーランドのレイドゾーンまで案内したところで、エルファはさらに他の皆には聞かせられない事を奈良に話し、奈良もまだ憶測を含む際どい話を伝え、二人でレイドゾーンの中を可能な限り探索してから、外に戻った。
「じゃあ、またね。そう遠くない内に」
「ミナミとナカスがどうなるか次第ですね」
「一つにまとまるにせよ、それに従いたくない人達の行き先は必要とされる筈よ。エルファさんならそれが出来ると思う」
「誰かの居場所を用意するとか、柄じゃないんですけどね」
「そういう面倒くさがりなところが、一部の人からは評価低かった理由かもね」
「正当な評価だとは思いますけど。不謹慎な場面で笑うとか」
「あれは、まあ、私でもどうかと思うけど」
「仕方無いんですよ。職場とかでもそうなんですから」
「人生苦労してそうね」
「だからこそ、楽しく生きるをモットーにしてるんです。好きなように生きてるだけです」
「そういうとこも、人に嫌われる理由にされてるよね」
「そんな人達の事なんてかまってられませんから」
「エルファさんらしい。リアルでは会った事無かったけど、こうやって会えて嬉しかった。また会おうね」
「はい、またです」
握手を交わした奈良は、グリフォンを召還すると、エルファの頭上を周回しつつ上昇し、手を振りながらミナミの方角へと飛び去って行った。
2017/12/26 死霊が原は四年前の限定イベントでグリフォンは今から取得不可というご指摘と情報を頂いたので、関連部分の記述を修正/調整しました。




