プロローグ
最低でも週一で投稿していきたいと思ってます。
「マジ勘弁……」
白いシャツの上に黒いベストを羽織り、カフェエプロンをつけたウェイターの少年は、シルバーと呼ばれる銀トレイを片手に、空いている手で顔を覆ってそう呟いた。ウェイターとしては不適切な行動だが、彼の目の前で起きている出来事に遭遇したら、まともな感性の持ち主なら考える間もなく逃げ出すだろう。
「(それは、私のセリフだよ!)」
そんなことを叫びたかったのだが状況がそれを許してくれず心の中で消火するしかなかった。
なんで私はこんなにも運が悪いんだろう……。
私、加藤憐仁郎(二八歳)は現実逃避として過去の栄光を思い出した。
――二年前 高級レストランにて――
「ねえ?これはどういう状況かな?」
「いや、店長見ればわかるでしょ?ヤクザの抗争に店が使われてんすよ。ってあぶねぇだろボケども!コーヒーこぼすとこだったじゃねえか!」
「ねえ!突っ込みたいとこはいっぱいあったけど、とりあえず喧嘩売るのはやめてくんないかな!?」
――去年 オープンカフェにて――
「…ねえ?これはどういう状況かな?」
「いや、店長見ればわかるでしょ?動物園の檻から動物が逃げ出して店荒らしてるんですよ。ってオイクソネコ、これはお客に出す料理だ!そんなに食いたかったら金持ってこいよ!」
「ねえ!君が今蹴とばしたのって虎だよね!?ほら!めっちゃ唸ってんだけど!?」
あれ?新しく店を開業するたびにひどい目にあってる記憶しかないんだけど?
というか、毎回この子がいるんだけど何?死神なの?ノート持ってんの⁉というかさすがに今回は不味いんだけど!
そして、――今年 ホテルのパーティ会場にて――
「テメェら全員死にたくなければ手を挙げて壁際まで歩け!」
ホテルのパーティ会場が、十人近くのテロリストに占拠された。
「……ねえ?これはどういう状況かな?」
「いや、店、社長見ればわかるでしょ?テロリストにパーティ会場占拠されてるとこですよ。っていつから日本は銃社会化しちまったんですかね?」
「き、君はこの状況でもそんな感じなのかい!」
「社長、静かにしないと……」
できるか!なんなのこの子?普通はこんな状況でそんなに落ち着いていられないでしょ!
あっ、ヤバいテロリンと目があっちゃたよテヘ。
死んだね、間違いなく!お父さんお母さん、先立つ不孝を許してください!
「オイ、そこのウェイター、お前他の奴の携帯電話をこの袋に集めてこい!変なことするとそこの野郎からあの世に送るぜ?」
「自分ですか?」
いや!確認しないで君しかいないでしょ!?ほら私今銃口向けられてるじゃん!
「そうだよ!さっさとしろ、ぶっ殺すぞ!」
「わかりましたよ!やればいいんでしょやれば!」
「なんでそんな態度が取れるんだよ、お前は!」
思わず叫んだ私は悪くないよね?だってコイツどう考えてもアホでしょ!
「社長……、そうやって騒ぐと立場悪くなりますよ?」
「「「お前はすでに最悪だけどな……」」」
これには、私だけではなく会場の参加者も白い目を少年に向けた。
というか、あそこの御嬢さんメッチャ睨んでるけど知り合いだろ絶対!
「……まったく、なんで俺がこんな目にあってんだよ。これも全部依頼を持ってきたあの女のせいだ!」
少年は下を向いてぶつぶつと不穏なことを言いながら袋を持った男のところまで歩いて行った。
なんか、変なオーラを纏ってるように見えるんだけど、頼むから大人しくしてくれよ!
まあ、そんな淡い希望はすぐに破られたけれども……。
少年は、男から袋を奪い取ると壁際まで歩いていき、人質となって銃を向けられている人たちの前に立ち声を張り上げた。
「テメェら死にたくなかったらさっさと携帯出しやがれ!」
「「「あるぇーーー!?」」」
やっぱりね、もう私は諦めたよ。こういうときは自分が生き残ることを考えなくちゃね!
「なあ、お前も一応人質だからな?」
少年の隣で銃を構えた男が呆れたようにそういった。
もういっその事その子連れてってくれてもいいんですよ?
「……とりあえず全員から携帯を預かりましたよ」
そういって少年は、袋を渡した男の足元に集めた携帯を入れた袋を放り投げた。
さっき睨んでいた御嬢さんに殴られた頬を撫でながらそう言う姿はなんだか心がスカッとしたね!
「よし、それじゃお前はあそこにいる『お姫さん』を連れてこい!そしたら俺らのことを忘れて平和に暮らすことをお勧めするぜ?」
男は、さっきの御嬢さんを見ながらそう言った。ってあれが今回のVIPの『お姫様』かよ!?さっき、少年がいいパンチ貰ってたけどどういう関係!
「……あ?」
あれ?なんか急に雰囲気が変わったけど……。これは久々のぶち切れかな~
もう私は知らないからね!あれだね、自分で言ってて気持ち悪いよねこのキャラ……。
「おいお前そんな態度でいいと思ってんの「うるせえ!」ぐふっぇ」
はい、ナイスアッパーカットです。よかったね一瞬で注目の的だよ。
「さっきから人が下手に出てればいい気になりやがって。そんでもって今度は、俺の『知り合い』を渡せだぁ?なめてんのか!」
ああ、銃口向けられてるのには気づいてないのかね?まぁ『お姫様』はちょっと嬉しそうにしてるけど、『知り合い』って括りだよ?気づいてる?
「そうか、別に俺らはお前が死んだところで問題はないからな。殺してから『お姫さん』はもらってくことにするよ」
「させねぇよ、一応これも依頼なんでね」
ポケットからバッジを取り出してエプロンに着けながらそう言う少年の目には鋭い光がさしていた。
「依頼?」
「ああ、てめぇら覚悟しろよ?俺は、泣く子も黙る『チームD雑用係月見有』だ!」
うん、効果音としては【ドンッ】って感じだろうけど、聞き間違えかな?雑用係って聞こえたんだけど!?もっとこう、かっこいい感じのフレーズはなかったのかな……。
まぁ、これが私の手伝いをしてくれるアルバイトの少年『月見有』がその名を世界中に轟かせる初めの一歩になったのは間違いなかった。




