第八写:記念撮影
新キャラ登場です。お待たせしました、ツンデレ要員です。
「ちょっとよろしいかしら?」
「ん?あぁ、さっきのえぇと。」
SHLが終わり、帰りの準備をしていたら、模擬戦の時に俺の攻撃を止めた金髪碧眼の少女がいた。近くで見ると、改めて実感するが、なかなかの美少女である。腰まである癖のない金髪のロングヘアーには、染料では出せない、自然の美しさがあった。そしてその碧の瞳もまたまるで、新緑の森林のような美しさを秘めていた。そして身長はあまり高くなく、だいたい幸と同じくらいであろうか。控えめに膨れた胸を張り、座っている俺を見下ろしていた。
「ユリカ=ミル=エルファリムリアよ。ユリカで構わないわ。貴方、それから貴女、これからご予定は?」
なんとも、育ちが良さそうな喋り方をするお嬢さんである。
「えぇと。とりあえずは無いけど………何用?」
「……放課後、この店に4時30分までにいらして。」
「え?ちょ、ちょっと!?」
すたすたと、ユリカは一人先に行ってしまった。
「ねぇユウスケ。今の人誰?」
「さ、さぁ?」
――――――――
ユリカに呼ばれて訪れた店は、カリーナという洒落た喫茶店であった。ちなみに、俺生まれてこのかた17年たったが、今まで一度たりともこんな洒落た喫茶店には来たことなどない。故に、多少の緊張感があった。
「ユウスケ入らないの?」
「う、う〜ん……は、入るか。」
幸に急かされ、俺はカリーナの扉を開ける。その瞬間、静かなクラシックが俺の鼓膜を揺すり、香り深い紅茶の匂いが俺の鼻孔を擽る。そして感想を一言。
「うん、苦手だ。」
その一言につきる。こうお品がいい場所は、俺みたいな硝煙や血の臭いを嗅いできて、銃声や爆発音を聞きながら青春時代を過ごした身には、なかなか慣れない空間である。
「遅かったわね。」
「あっユリカ。」
扉を開けきると、手を腰に当て仁王立ちしているユリカがいた。
「こっちよ、着いてきて。」
有無を言わせずに、彼女は俺達を先導する。俺と幸は一度視線を酌み交わすが、とりあえず彼女についていく。というか、校内の時とだいぶ喋り方が違うな。
しかし、客がいない喫茶店である。少し強面のマスターであろう人物がキッチンに立っているだけで、俺と幸とユリカ以外の客が見受けられない。いや、ユリカが先導していく先の、一番奥の席に誰かいるか。
「あれ?雄輔さんと幸さんです。」
「あっマジだ。」
「え、九島とユジンじゃん。」
「あっシグレ!」
そこに座っていたのは、九島とユジンめあった。二人が座るテーブルに、すっと腰かけるユリカ。俺と並んで歩いていた幸は、九島に向かいトテトテと駆けていき、九島の首に抱き付く。
「わわぁ!?幸さん危ないですよ!それと、時雨でいいですよ雄輔さん。」
くじ、時雨が軟らかい笑顔で俺に言う。ならば、今度から時雨と呼ぼう。
「で、委員長。雄輔と幸がココにいるってことは……、」
「えぇ、彼等にも私達に協力してもらうつもりよ。」
ユジンの向かい側に座ったユリカに、ユジンは委員長と呼び、何か小声で話す。それにユリカは、普通の声の大きさで答える。協力?なんか嫌な予感しかしないな。
「まずは二人共座って。」
俺はユリカに、促されるまま、ユジンの隣に腰かけ、幸は時雨の隣に座る。形的には、喫茶店の奥にある六人がけのテーブルの奥側の窓際からユリカ、時雨、幸が座り、反対側にユジン、俺が座っている。
「じゃぁまずは、何故私が貴方達を呼んだのか。という理由から話しましょうか。」
ユリカの言葉に俺は頷いて見せる。
「そうね、簡潔に説明するならば、貴方達二人の力を見込んで、力を貸してもらいたいの。」
「……なんでまた?」
「ユジン君。あの資料ある?」
俺の問いには直接答えず、ユジンが鞄から出した資料を俺に渡すユリカ。その表情は、読めば分かると語っていた。
「………これは……。」
「読んで分かる通りよ。」
その資料には、学園の教師が受け持つクラスの退学人数と、その名簿。それから別地域で保護された奴隷の名簿が記載されていた。
「うちの学園の一部教師は、自分のクラスの身寄りの無い子達を奴隷商に売りさばいているわ。」
「………偶然は?」
「あり得ないわ。退学した生徒のほぼ全員が奴隷として保護されてる。偶然にしては出来過ぎてると思わない?」
ユリカの言う通りだ。いくらなんでも、コレを偶然と言うには無理がある。
「だが、なんで学園の教師がこんな商売に手を出している?確かに見返りはあるだろうが、幾らなんでもハイリスク過ぎるだろう?」
ブソウ魔法学園の理事長は、反奴隷制活動会副会長のルルドさんだ。バレれば一発KO間違いなし。にも関わらず、六人もの教師がこの取引に関与している可能性がある。どこかに抜け穴でもあるのだろうか?
「ハイリスクはハイリスクね。でも、彼等には絶対的な保健がある。」
「というと?」
「彼等が取引している奴隷商の名は、マチルド・クルス。ククリの商業の一角を担うマチルド商会の御曹司です。」
俺の問いに答えたのはユリカではなく、時雨だった。彼女は、自分の鞄から五枚程度の資料を俺に手渡した。その資料には、マチルド・クルスの簡略的な経歴と、顔写真。彼が担う商業の一覧が記されていた。
「……凄いな。」
その一言につきる。彼が担う商業は、たかだか29歳の青年が処理出来る量を遥かに上まり、農業からサービス業、果ては軍事産業までと、非常に幅広いものであった。そしてその顔写真に写る彼の顔は、どっかのイケメン事務所が飛び付きそうなイケメン。まさに才色兼備である。
「あぁ。だけど、マチルドがそれほどの力を着けるのに、ありとあらゆる悪どい仕事に手を染めている。」
ユジンが答えるのを聞いて、俺は再び資料の顔写真を見る。
人当たりの良さそうな笑顔のこの青年は、今の話さえ聞いていなければ、ただの好青年という認識しか抱かない。
「それは……確定的なのか?」
「あらゆる方面から攻めているわ。奴隷取引だけに関して言えば、完全に黒ね。癪に触るけど、自分の立場上、反奴隷制活動会にバレても問題ないとたかをくくっているのね。だから証拠を残しても問題ないって考えてる。一番の問題は、事実その通りであるところよ。」
以前。ルルドさんの話に、奴隷商は国に守られているという話があったが、なるほど。奴隷商を糾弾出来るのは、非公式機関の反奴隷制活動会だけで、警察としての役割を持つカードなどの公的機関では、検挙が出来ないということか。
「で?なんでこんなものを。ただの興味本意で調べた訳じゃないんだろ?」
「勿論よ。最初こそ偶然だったけど、私達には明確な志があるわ。奴隷関係の事だけでカードに突き出せないなら、他の不正を暴いてマチルド・クルスを失脚させ、カードに逮捕させる。そして混乱するマチルド商会を、反奴隷制活動会の副会長にして、ブソウ魔法学園の理事長であるヴァーグ・ルルドさんに突いてもらうわ。」
なるほど、彼女達のプランは理解出来た。彼女達が現在どれ程の有益な情報を手にしているかは把握出来てはいないが、確かに堅実な一手ではあると言えるだろう。
「しかし、解せない。」
「何がですか?」
俺の呟きに答えた時雨に視線を向け、ユリカ、ユジンの順に視線をずらし、最後に再びユリカに視線を合わせる。
「いくら戦闘技術を身に付けているからと言って、子供が何故こんな危険な橋を渡ろうとする?下手をすれば、命だって狙われるハズだ。」
「それは、私たちの良心が、倫理観が奴隷なんて言う不当な「ご託はなしだ、本心で答えてくれ。」っ。」
人間は、そう簡単に自分の命を割りきれない。生き物の本能として、どうしても生にしがみつく。死ぬかもしれないという実感が湧かないだけか?いや違う、これは覚悟を決めた者の眼。死地に向かう兵士と同じ色。14、5の子供がする眼じゃない。
「これは何か……そう、罪滅ぼしか何かじゃないか?」
「「「!?」」」
「ねぇユウスケ。お腹空いた、なにか食べていい?」
俺の憶測に押し黙る三人。やはりと言うか、この三人には何か共通点があるようだ。と言うか、幸。空気読もうぜ?とか言ってもまだまだ精神年齢は幼いままだから無理か。
「なに食うの?」
「トマト!」
「………すいませんトマトスープ一つ。」
強面のマスターに、トマトスープを注文する。しかし、頼んだあとでなんだが、何故喫茶店にトマトスープがあるんだろうか。
「………ハァ、流石だわ。頭がキレる人だとは聞いていたけど……えぇ、貴方の言う通りよ。これは私たちの罪滅ぼしでもある。」
「親族。それも近親者に一連の生徒奴隷化事件に直接とまではいかず、間接的に関与しているってことか?」
「ご明察。マチルド・クルスが奴隷商に手を染める環境にしている政治家は、私の父よ。」
「マチルド商会に資金援助をしているのは俺の兄だ。」
「マチルド商会に仕事を回しているのは私のママです。」
ユリカ、ユジン、時雨の順で俺の問いに答える。それに対し俺は、「やっぱりかぁ。」と呟き、幸は「ト、マト、ト、マト」とテンポ良く上機嫌である。
「まぁ合点はいった。でもなんでソレを俺と幸に話した?出合ってまだ一日もたっていないのに。いくらなんでも無用心過ぎやしないか。」
「それにも理由はあるわ。一つは、私達が早急に手練れを求めていたこと。正直、武力を持って事を進める気は無いんだけど、まぁ保健ね。それと、一番の理由は、彼女が着けているエルドリングよ。それは言わば、元奴隷の証明書。そして彼女は、貴方と行動を共にしている。ユジンの調べでは、貴方は彼女を大切に扱っているから、主従関係ではない。どちらかと言うと、貴方の態度は保護者のそれに近いようね。つまり、貴方は反奴隷派の人間と読んで、貴方に声をかけたの。」
「なるほど。理解した、理解したけど合点はいかない。」
俺の言葉に小首を傾げるユリカ達。幸は届いたトマトスープを嬉々とした眼で眺めていた。
「まぁ君らがこの教師達とマチルド・クルスを何とか摘発しようと行動していることは分かって、その動機も、俺と幸に声をかけた理由も、その目的も理解した。でも余りに、余りにも無用心が過ぎる。」
俺の言葉に、一瞬身構える三人。いつでも得物を抜き出せる体勢をとっていた。 その動きは限りなく正解に近い。今の言葉の、『無用心が過ぎる。』には、遠回しに俺達は敵の可能性があるぞと言う意味があるのだから。しかし、この世界では知らないが、もとの世界では、俺が盗聴機を所持している可能性がある。つまり手遅れである。持っていたらの話だがな。
「そんな警戒するなよ。今のはただ単に警告しただけだから。」
「警告………ですか?」
時雨が警戒を解かずに俺に返す。それに俺は苦笑を浮かべながら、
「つまり、もう少し仲間に引き込もうとしたり、重要な秘密を話す時は、前もってその対象の素性を良く調べてからにしなって話さ。どうせ、俺がユジンと会話したあの話と、学校のデータバンク内で俺達を判断した。違う?」
「またまた御明察よ。ハッキリ言って私達が持つ貴方の情報は皆無と言って差し支えないわ。」
俺の言葉にユリカがキッパリと答える。その清々しさに、俺は少し笑みを溢していた。
「故に、貴方を信用した理由は私達三人が、貴方を信用に足る人物であると直感したから。」
「つまり、心に委ねたと?」
「そうよ。でも私はそれが間違いだなんて思わない。結局人が人を判断するんですもの、最後には心が物をいうハズよ。」
「甘いよ。君ら三人が行おうとしていることは、言わば小さな革命だ。革命とはとてつもないリスクを背負う。君らの立場上、命を狙われはしないだろうが、それでも危険は隣り合わせだ。そんな理想論を掲げて行うことじゃない。」
「っ。」
俺の言葉に、三人は少しうつむく。この三人は若い、と言うよりも青臭い。特にユリカだ。まるで少年漫画の主人公のように、まっすぐで、情熱的だ。故に悪が許せず、自分の肉親が、その悪に関わっているからこそ、自分自身の力でその悪を打ち砕こうとしている。こんな中学生程度の少女がそれを成そうとしている。なんと健気で健全な少女なのだろう。革命とは、余りにも言い過ぎかもしれないが、事に当たるのであれば、それほどの事を行うという意識と覚悟が欲しい。
「でも、それでも私が、私達がやらなきゃならないの!!例え理想論と言われても、青臭いと嘲笑われても、無謀だと止められても!!私達がやらなきゃ変わらない。変わらないなら、私達が変えなきゃいけないのよ、この『今』を……!」
彼女の心からの叫びであった。その叫びは、彼女の心が、魂が、挫けず、折れず、解き放った魔法の言葉。人の心を魅了する言葉。その答えに俺は、笑顔を向け、
「正解だ。」
と言った。すると、呆けた顔をした彼女が「え?」と呟く。
「革命に必要な要素は大まかに三つある。武力と知力、そして指導力だ。ユリカ、君の情熱には人を引き付ける、まるで魔法のような思いがある。どんなに陳腐な言葉で並べようと、人々の心に届き、君の演説を聞いた人々には、まるで呪いのように頭の中を占めていくだろう。それが指導力だ。」
彼女ら三人が、困惑しながらも俺の話に聞き入っている。因みに幸は、凄く嬉しそうな顔でトマトスープを食べている。いつの間に頼んだのやら、二杯目であった。
「つまり、合格だ。君は革命家に足りうる器だ。」
まるで少年漫画の主人公のような少女を視界に捉えながら、俺は言う。すると、彼女の小さな肩が、小刻みに震え、その両眼に涙をためる。
「……ごめんなさい……。はじめて、はじめて私達の思いが人に伝わったと思うと。嬉しくて……嬉しくて。」
そう言うと、両手で顔を隠す彼女。消え入りそう小さな声で嗚咽を漏らす。時雨は、そんなユリカの肩を抱き締め、ユジンは抱き合う二人をいとおしそうな眼で眺めていた。
「ごちそうさまでした!」
そんな三人等露知らず、幸が両手を合わせて食材と、ソレを料理していた料理人に感謝の挨拶を述べた。
―――――――――
それからカリーナの中で情報の整理や、集めなければならない情報を確認し、店を出るとすでに人工日光の照明は落ち、町の中に灯る家の明かりや、街灯の光が町を照らしていた。
ユリカの言う通り、奴隷関係以外での不正や不祥事等の決定的な情報は0だ。しかしそれでも、中学生の子供がここまでの情報を得られていると言うのは、それだけでも十分に称賛に値するが、コレから成すことを考えれば、圧倒的に力不足だ。もっと、もっと決定的な手札を揃えなければ、この事件を解決に導く事は、難しいだろう。しかも、厄介な事に、奴隷の直接取引を行うルートが掴めていない。流石と言うべきだろう。やはり一筋縄で行く相手ではないという事か。
「んじゃ必要な情報の最終確認な?奴隷商の取引先及び売買ルート。それから教師陣の保険といよりも隠れ蓑であるマチルド商会、マチルド・クルスを失脚させるのに十分な情報。最低この二つは必ず用意してくれ。」
俺は、ユリカ、時雨、ユジンに幸が加わった四人に目配りをして、最終確認を行う。すると、彼女達はコクリと頷いた。
幸は、あの持ち前の理解力をいかし、ユリカ達三人が成そうとしていることに、協力する約束をした。正直、不安もあるが、幸が進んで他人と関わったのだから、俺は見守ることにした。 そして俺は、自身の手提げ鞄から、元の世界でも愛用していたCanonの一眼レフカメラを取り出す。
「んじゃ記念撮影するか。」
「そう言えば雄輔さん。写真が趣味って自己紹介で言ってましたね、」
「まぁな。デジタルじゃなくてフィルムだぜ。」
「デジタル?」
「あっいや何でもない。」
ユジンの返しに、しまったと思ったが、ひとまず適当に誤魔化した。
「んじゃ皆、ソコの噴水の前に集まってぇ。」
指示通り、四人が街の中央部にある噴水に集まる。順番的には右側から時雨と幸が前で中腰になり、ユジンとユリカがその後ろにいた。ユジンとユリカの間が少し空いている所を見るに、たぶん俺もソコに入れってことだろう。実際、ユリカが俺を手招きしているし。たまには、俺も写真の中に入ろうかなと考えて、俺は鞄の中から折り畳み式の三脚を取り出して、すぐに組み立てる。そしてカメラを、三脚のアダプターに取り付け、タイマーを五秒後にセットして、二人の間に入る。すると、パシャっと音がカメラから響き、同時にフラッシュも灯る。写真が綺麗に撮れたかどうかは、現像するまで分からないが、たぶんいい写真が撮れた。そんな気がしていた。
ユリカ「始めまして、ユリカよ。」
時雨「どうも時雨です。ツンデレ要員なのに、ツンもデレもなかったよね。」
ユリカ「うるさいわね。いいのよ、まだ。あっそうだ、ついでから時雨、貴方ことを説明しましょうよ。」
時雨「え?あぁ。じつは私、実年齢12歳なんです。」
ユリカ「飛び級で進学して来たのよね。」
時雨「はい。だから私は他の皆より3つ年下なんですよね。」
ユリカ「えぇ。……え、そろそろ次回予告に入れって?何よ、うるさいわねぇ。次回はお正月SPか、私達と雄輔達が授業で、ククリの外に行くわ。」
時雨「じゃぁ次回、『第九写:初めての魔物退治』にご期待ください。」




