幕間 その二
「……追放者の目撃情報か」
とある一室、燭台に刺さった三本の蝋燭が唯一の光源である暗い部屋で一人の男が昼間に届けられた報告書に目を落としていた。
「よく今まで見つからずに生き延びることができていたな」
男は感心したかのように頷くともう一枚の報告書を見た。
「……獣人による強盗? 牙獣種が南方からの隊商を襲撃し積み荷である塩を全て台無しにした。しかし塩を台無しにしただけで何も盗らずに去っていった。…一体何が目的だったんだ?」
男は最後の報告書を見た。
「この二人は現在行動を共にしている模様、二人の容姿は……」
男は最後の方は声に出さずに目で追い、そこに書かれた全てを読み終えると立ち上がり部屋を出た。
「ゾナーお前に頼みたいことがある」
「何でしょうか?」
男は部屋を出ると部屋の出入り口であるドアの脇に待機していた人物に声をかけた。その人物の顔は暗くて良く見えなかったが声のトーンから男であることが分かった。
「妹達から追放者の目撃情報があった」
「追放者……ですか?」
「あぁ。それと獣人の盗賊が出たらしい。この二人は行動を共にしているらしく今妹達が追っているが逃す可能性もある。もしかしたらこのガナシアに逃げ込んでくるかもしれない」
男はゾナーを振り返った。
「では……兵士を多数配置させるのですか?」
「そうだ。だが決して武力を行使するな。無傷で連れてきてほしい」
「……は?」
兵の増強を指示したくせに武力を行使してはいけないという矛盾した指示にゾナーは魔の抜けた声を上げた。
「私とて追放者に会うのは初めてだ。だから一度話をしてみたいんだよ」
「はぁ…しかしそれはあまりにも危険ではありませんか?」
「何、大丈夫だよ。根拠はないがね」
男は小さく笑うと立ち上がり、ゾナーの肩を叩いた。
「頼んだよ。お前の働きには期待しているよ」
「分かりました。仰せのままに」
部屋に戻ってゆく男に対してゾナーは深く一礼した。