第42話 都会
カクガリおしっこのハイウェイ(汚い虹)を爆走したオレたちは、ついに新たなる混沌の舞台へと降り立った。
「皆さん、ここからは敵地です! いつどこから襲われるか分かりませんから、気を引き締めていきましょう!」
ボイスがキリッとした表情で、全員に向かって檄を飛ばした。
「おう!」
「おぅ」
「ほいさー」
各々が気の抜けた同音異語の返事を返すなか、オレは目の前に広がる景色を見渡して、思わず怪訝な声をあげた。
石畳など最初からなかったかのように、道はどこまでも滑らかに舗装されている。見上げれば、キータやミーナミでは見たこともない硬質な素材の建物が空を突くようにいくつも並び、看板には見慣れないカクカクとした文字がびっしりと刻まれていた。すれ違う人々の服装も、鎧やローブとはまるで違う、妙にぴっちりとした奇妙な衣服ばかりだ。
「……で、ヒガーシだよな? ここ。マジでヒガーシで合ってんの?」
「ロジナスもそう思う。なんかイメージと違くない? こんなの、なんつーか……別の世界じゃん」
ロジナスが不満げに首を傾げるのも無理はなかった。
「はい、間違いなくここがヒガーシです」
「おいおい、めちゃくちゃ都会で、まるでお祭りでもしてるみたいな街じゃないか! こんな平和そうな場所のどこでアブノーマル・ゼロが暴れてるんだ!?」
ホワイトがビキニパンツをひくつかせながら周囲をキョロキョロと見回す。すかさずレンズが冷酷な目でツッコミを入れた。
「……アブソリュート・ゼロ(絶対虚無機構)ですよ、ホワイトさん。何ですかアブノーマルって。あなたの格好のことですか?」
「確かに、すごく平和な街って感じがしますねぇ」
カクガリクンがのんきに顎をさする。
「ほら、あそこの看板にも、ちゃんと『ヒガーシ』って書いてありますよ」
ボイスが街の入り口にある巨大な案内板を指差した。
「……ふむ。だが、最初のキータのギルド酒場みてえに、一見まともそうに見えて『街全体が悪党』って可能性も、クズの経験上なくはないか?」
オレが一介の剣士(大嘘)としての冷静な戦術分析(※ただの人間不信)を披露すると、ボイスはうーんと顎に手を当てた。
「絶対虚無機構について事前に下調べした情報では、メンバーはわずか5人で、配下の組織などは存在しないはずなのですが……」
「ていうかさ、そもそも絶対虚無機構のメンバーって、顔どころか名前も知らないんだけど。どうやって探すわけ?」
ロジナスが至極真っ当な疑問を口にする。
「確かに! そのアブノーマル・ソロの情報はどうなっているんだ! ボイス!」
ホワイトがドヤ顔でさらに乗っかってきた。
「絶対虚無機構です。ワザとですか? さっきよりさらに間違ってますよ、ソロって何ですか」
ボイスが深いため息をつく。
「あはは! オッサンってば、長いカタカナ文字になると絶対に間違えるよねー!」
ロジナスがゲラゲラと笑うと、ホワイトはガタガタと青筋を立てて怒鳴り返した。
「誰がオッサンだ貴様ッ!! 私はこう見えてまだ20歳だぞッ!!」
「……は?」
その場にいた全員の動きがピタリと止まった。数秒の沈黙の後、ロジナスが腹を抱えて大爆笑し始めた。
「ギャハハハハ!! 嘘でしょ!? 20歳って老けすぎじゃね!? マジ受けるんだけど!!」
アーマー隊長までが、己のブタ体型を棚に上げて、口元を押さえながら引き気味に笑っている。
「おいホワイト、お前マジか……。メチャクチャ年下じゃねえか……」
「笑わないであげてください。ホワイト隊長は、ガーディアンズの歴史上、最年少で隊長に上り詰めた『天才』ですからね」
ボイスが真面目な顔でフォローを入れると、ホワイトは恥ずかしさを隠すようにビシッと胸を張った。
「フン、ビビったか! これがエリートの力だ!」
腕を組み、その豊かな腹をパンと叩いてホワイトが胸を張る。
「でも、ロジナスさんの強さと比べたら、何とも言えないというか……ぶっちゃけ大したことないですよね」
レンズの無慈悲な一言がホワイトの心に突き刺さる。
「……ロジナスはバケモノだから比べる対象ではないのだ!!」
膝から崩れ落ちそうになりながら、ホワイトが叫ぶ。
「ちょっとオッサン、バケモノって失礼だし! バケモノっていうなら、見た目的にアーマーのブタの方が完全にバケモノでしょ!」
「おいロジナス! 見た目がバケモノって、地味にめちゃくちゃ失礼だぞ! これでも一応人間だからな!?」
アーマー隊長が傷ついたように声を荒らげる。相変わらずの不毛な身内ディスが始まったので、オレは話を本筋に戻すことにした。
「つうかボイス。絶対虚無機構の、人相書きとか特徴が載った書類とかはないのか?」
「あ、確かに。カバンの中に手配書が――」
ボイスがそう言いかけた、その時だった。
「……おい、オマエら」
背後から、低く冷徹な声が響いた。
「さっきから大声で『絶対虚無機構』って何回も連呼してるが……一体何者だ、オマエら」
振り返ると、そこには頭からすっぽりと【紫フード】を被り、怪しげなオーラを纏った一人の男が立っていた。フードの隙間からわずかに覗く目だけが、街灯の光もろとも吸い込むような暗さで、こちらの一挙一動を見定めるようにオレたちを睨みつけている。周りを行き交う笑顔の人々とは、明らかに違う種類の「気配」がそこにはあった。




