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プロローグ
まもなく女がひとり死ぬ。
……いや、ふたりか。
信じすぎた者と、罪を抱えた者。
今、街に火がついた。
これで世界を失った娘が転がり落ちてくる。
やさしく手のひらに受け止めて、良い人形に仕立ててやろう。
そして私はようやく支配する。
人を、欲望を、世界を―。
男は肘掛け椅子から、ゆったりと立ち上がる。
琥珀色に重く光る薬液の入った小瓶を手に取ると、質の良い上着の胸ポケットに滑り込ませた。
背後に控えた人影が何かを告げる。
男は軽く頷き、窓に背を向けた。
「頃合いだな。出かける。後始末は予定通りに」
手前に控えていた若い男が、洒落た細工のドアを開けて送り出す。
「はい、お戻りまでには各方面の報告をそろえておきます」
落ち着いた声のトーンは、異常事態を感じさせない。
「任せた」
一言だけ残して、男は建物の外へ出た。
遠くから喧噪が聞こえる。
その方角の空を、ちらと見やってつぶやいた。
「人とは、愚かなものだな」
その口元は、笑っているようにも、引き締めているようにも見える。
馬車に乗り込んで、向かう先は――丘の上だ。




