29.可愛いのキター
カヤはシシドエリアの例の更地に向かう。
ピリポに連絡を入れるつもりはなかった。
自身の手で、悪魔を退治する。
ピリポには連絡は入れないが、チームメンバーには報告をすることにした。
頭上の輪っかが青く光り、通信モードとなる。
カヤは伝言内容を伝え、メンバーたちの報告を聞く。
「それで了解です。じきに着きます」
カヤはそう言って通信を終えた。
戦いはすでに始まっていた。
木刀を構えた五郎坊が肩で息をしている。
相当に手こずっているようだ。
巨漢は楽しそうに身体を左右に揺らしている。
他の三人組は遠まきに二人の戦いを見ていた。
カヤが五郎坊の隣に降り立つと、巨漢は歓声をあげて飛び上がる。
「うほー。来たー。可愛いのキター。天狗おじさんよりずっと美形が降臨したー。うほほー」
「天使殿。なぜここが分かった。まさか、くーまとかーらが知らせたのか」
その言い方からすると、どうやら五郎坊はくーまとかーらに口止めをしていたようだ
それでもくーまが話したのは、父親の身を案じてのことだったのかも知れない。
「いいえ、私が聞き出したんです」
「病院に行ったのか」
「はい」
「なぜあそこが分かった?」
「愛です」
「む」
「それより残念なのは、あなたたちが私を仲間外れにしたことです」
「あ、いやそれは」
「私、これでもけっこう強いんですよ」
「……すまぬ」
「はい。じゃ、これで私も仲間です」
そう言って、カヤは巨漢の前に立つ。
「私に用があるようですね」
「うほ。声もいいねー。可愛いのは声もだね。うほ。もっと睨んで。ジト目も素敵。うほほ」
「あなたが悪魔だということは分かっています。その人に憑依していることも。目的を言って下さい」
「うほ! バレてた? バレバレだった? うっほー、さすが天使だね」
「悪魔なのか、こやつは」
「はい。だから私は当事者なんです」
彼女はそう言ってエンゲルセイバーを起動させる。
グリップから白い光が伸びた。
「うほ」
と巨漢は意外に身軽な動作で飛び下がる。
「うほーん、それ出しちゃうの? 出してしまったの、それ。うほーん」
身体をわざとらしくクネらせる。気持ち悪かった。
「五郎坊さん、二人でかかりましょう。あと、死なせないようにして下さい。彼は一応は人間です」
「承知した。……ん、なぜワシの名を?」
それに対する答はない。
カヤはすでに行動を起こしていた。
巨漢はその攻撃を「うほ」とかわす。
竹刀で打たれるのは平気なようだが、このエンゲルセイバーにはダメージを受けるらしい。
だったら何とかして当てなければ。
カヤは連続して打っていく。
羽の力も使って素早く何度もエンゲルセイバーを繰り出す。
だが、そのすべてを巨漢はかわす。
どれだけ動態視力と反射神経がいいんだ……。
これもリミッター解除によるものだろうか。
五郎坊がいつの間にか巨漢の背後にまわっており、その背中を木刀で打つ。
「うほー。後ろからとは卑怯なり」
「黙れ。どんな手を使ってもお前は倒す」
と五郎坊は激しく叫ぶ。
そう、この人は二人の我が子を半死半生の目に合わされたのだ。
卑怯だとかそういったレベルの話ではなくなっている。
巨漢が振り向いたスキをカヤは逃さない。
エンゲルセイバーを胴に打ち込む。
ずしっとした手応えがあった。
「痛ってー。うほ痛」
そう言いながら巨漢は豪快に転がり、次の一手を避ける。
カヤは素早く追いかけ、さらに一太刀。
「!」
その切っ先を両手でつかまれた。
そのままぐいっと引かれる。これではかーらの二の舞だ。
思わず体勢を崩したカヤを救ったのは五郎坊だった。
巨漢の手首を容赦なく打つ。
「痛うほ」
巨漢はエンゲルセイバーから手を離した。
またもゴロゴロと転がりながら逃げ、ストンと立ち上がる。
身体つきにふさわしくない敏捷さで、まるで巨大なスーパーボールだ。
そして見たところ、さほどのダメージも受けていない。




