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崩壊へのプロローグ

 時間は、桃太郎とゴキブリが『木曜日』に追われている所まで巻き戻る。


 その頃のウマシカ王国には、これといった事件も起きず、いつもと変わらない夜を過ごしていた。


 ・・・表面上は。




 ――― ウマシカ中央警察署・留置場。


 そこに収監されている颯を刺し殺した犯人・康子(やすこ)は、自身の檻の前に立つ者の気配を感じ取り、布団から飛び起きた。


 「天使様!?天使様ですか!?そこにおられるのは・・・」


 すると次の瞬間、周囲に無色透明の膜がドーム状に張られる。


 言わずもがな、結界の一種だ。


 シルバーが使っていたヤツと違い、周囲の景色がそのままの為、康子は全く気付いていない模様。


 勿論、『彼女が一般人だから』というのもあるのだろうが。


 やる事やった後、天使様・・・もといソルシエルは、彼女の呼び掛けに応じる。


 「ええ、そうよ。こんばんは、康子。」


 「やっぱり・・・!!」


 目の前にいるのが彼女だと分かった途端、目を輝かせる康子。


 そして、すぐに土下座し、感謝の言葉を述べた。


 「この度は、私に復讐の機会を与え、また力を貸して下さり、本当に有り難う御座いました。きっと孝志(たかし)も・・・天国で喜んでいると思います。」


 「いいのよ、そんな事・・・・・・それより私、貴女に謝らないといけない事があるの。」


 「?」


 顔を上げ、康子がきょとんとした表情をする。


 謝られるような事に、心当たりが無いからだ。


 ソルシエルは、続けてこう言う。


 「私ね、どうやら間違った映像を貴女に見せてしまったみたい。」


 「え・・・」


 瞬間、嫌な予感が康子の脳裏に過ぎり、目を見開いて固まる。


 そんな彼女をよそに、ソルシエルはこの前と同様にテレビの画面らしき物を目の前に出現させた。


 「こっちが本当の映像よ。」


 映し出されたのは、やはりこの前と同様、孝志がボールを抱え、公園に行こうとしているシーン。


 違うところは、颯が孝志からボールを奪ったのではなく、別の男が奪ったところ。


 わざと川にボールを投げたのもそいつだし、孝志がボールを取りに行くよう誘導したのもそいつ。


 一方颯は、そいつに対し怒っていたし、孝志を助けようと必死になっていた。


 その他にも色々映像が流れていたが、どれも正真正銘『本当の映像』であった事は、この語り手が保証する。


 映像を一通り見終えると、康子は青ざめた顔で震えた。


 「こっ、これ・・・って・・・」


 「見ての通り、孝志君が死ぬ原因を作ったのは、別の男。貴女が殺した男じゃあない。寧ろ、必死になって助けようとしていたし、ボールを川に投げ捨てた男に罪を償わせようとしてたわね。不良の癖に。」


 「そんな・・・・・・じゃあ、私は・・・・・・私はぁ・・・ああぁぁぁ・・・」


 真実を知り、涙を流しながら頭を抱える康子。


 その表情は『後悔』やら『絶望』やらで、ぐちゃぐちゃになっている。


 まあ、無理も無い。


 殺さなくていい人間を殺してしまったのだから。


 そんな彼女を見て、ソルシエルはわざとらしく悲しそうにこう言う。


 「可哀相な孝志君・・・・・・お父さんは若い女と蒸発、お母さんは人殺し・・・きっと今頃、あの世で悲しんでいるでしょうね。」


 「貴女のせいよッ!!!」


 言い終わると同時に康子が顔を上げ、これ以上ない迫力で怒声を浴びせる。


 そして、そのまま憎しみの籠った表情で、こう続けた。


 「貴女があの時・・・私にあんな映像を見せ、包丁を渡さなければこんな事にはならなかったのに・・・!!この悪」


 しかし、ソルシエルは最後まで喋らせてくれなかった。


 「マ゛ァッ!?」


 台詞の途中で、康子の体が急に硬直する。


 まるで金縛りにでもあったかのように。


 「ぐっ・・・うぐぐっ・・・」


 急に言う事を聞かなくなった体に、困惑と苛立ちを見せる康子。


 口も思うように開く事が出来ず、喋れなくなってしまったようだ。


 そんな彼女にソルシエルは、まるで粘着罠に掛かったゴキブリでも見るかのような眼差しで、こう言った。


 「他人(ひと)のせいにしないで貰いたいわね。私は、()()()()()()()()()()()()()()()。命令も無理強いもしていない。だから、貴女には『復讐を実行しない』という選択肢もあった筈よ。なのに、貴女は()()()()()()()()()。殺人犯になったのは、紛れも無く()()()()()。私のせいじゃあない。」


 「うぅっ・・・!!」


 憎悪の眼差しを向け、反論代わりにソルシエルを睨み付ける康子。


 だが、そんな事をしても意味は無い。


 ソルシエルは既に、彼女を『不要品』としか見ていないのだから。


 「さて、ここから本題よ。貴女には今から死んで貰う。『良心の呵責に耐えかねて自殺』・・・って、なるようにね。」


 そう言うとソルシエルは、ポケットから剃刀(かみそり)を取り出し、康子の前にポイッと投げ置く。


 『これで自分の手首を切れ』という事だろう。


 しかし、康子は今、身動きが取れない状態。


 金縛りのような術を解いてやらない限り、自分で自分の手首を切る事は不可能だ。


 だが、それを解いたとしても、彼女は素直に従わないだろう。


 ソルシエルに対する怒りや憎しみで一杯なのだから。


 するとここで、康子の体に異変が生じる。


 「!?」


 なんと、ソルシエルが右腕を動かすと、それに合わせて康子の右腕が勝手に動き始めたのだ。


 ソルシエルが床に手を伸ばして何かを掴む動きをすると、康子もまた同じように手を伸ばし、投げ置かれた剃刀を掴む。


 この瞬間、康子は全てを察した。


 ソルシエルが自分を操り、自殺させようとしている事を・・・!!


 「うっ・・・うぅっ・・・!!」


 どんなに抵抗しても無駄。


 剃刀は確実に、彼女の左手首に近付いていっている。


 「ううううううううううっ!!」


 命乞いをするかのように大量の涙を流しても、無駄。


 剃刀を持った右手は止まらない。


 やがて、左手首にそれが接触すると、無慈悲にスライドされた。






 一方その頃、小源の城・玉座の間。


 いつものように玉座に座っていた小源の心は、いつもと違って激しく舞い踊っていた。


 どこか落ち着きがなく、表情からは『嬉しい』、『楽しい』が常に溢れ出ている。


 まるで明日の遠足を心待ちにしている子供だ。


 だが、そうなるのも仕方ないというもの。


 小源は立ち上がり、『一三灰星(じゅうさんかいせい)』が開けた道を堂々と歩き出した。


 メンバーを補充したのか、左右六人ずつの計十二人となっている。


 「時は満ちた・・・長年の悲願がついに成就する・・・!!」


 そして、扉の前まで来ると、彼等の方を振り返り、こう言う。


 「さあ、行くぞ・・・この世界を新しく生まれ変わらせる為に・・・!!」

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