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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
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第25話「模擬試合(1)」

 ヨゼフ教官の号令で、剣の入っている箱に生徒たちが群がった。

 生徒たちは次々と剣を抜き取っていく。

 群がる生徒の数が少し減ってきたのを見計らい、俺も剣を取りに向かう。


「ん? 種類が違うのもあるのか」


 箱の中には、大きさや太さ、刀身の形が違うものも入っていた。


「ま、普通のでいいか……」


 得意な種類の剣なんてないし。

 …………。

 よし、これにしよう。

 これは……いわゆるロングソードってやつかな?

 柄を握り、引き抜く。


「……む」


 切れないよう刃が加工されているとはいえ、ずしっとした重みがあった。

 なるほど、これがリアルな剣ってやつですか……。

 試合用とはいえ、どこか感極まるものがあるな。

 さっきは槍だってかっこいいじゃんと思ったが(実際かっこいいとは思うが)、やはり男子は剣を『かっこいい』と思ってしまう感覚を宿命的に背負ってしまっているのかもしれん……。

 今さらながら、俺もこの国のお偉方のことをどうこう言えないな。


 と、誰かに肩を叩かれた。

 振り向くと、そこには微笑を浮かべたセシリーさんがいた。


「せ、セシリーさん?」

「ほらっ、肩肘が張っていますよ?」

「ひぇっ!?」


 くにくに、と肩を揉まれた。


「ふふ……肩の力、抜けました?」

「え、あ……はい」


 とか言いつつ、心臓がバックンバックンで、それどころじゃないんですが。

 ていうか、急に周囲の匂いがイイ匂いに変わったんですけど!

 ああしかし、こんな間近でセシリーさんの運動服姿を拝めるとは……!

 ありがとう、神様!

 生きててよかった!


「あなたの名前……クロヒコ、でしたよね?」

「あ、そうです」

「では改めて自己紹介させてください、クロヒコ。わたしはセシリー・アークライト。これから一年間、よろしくお願いします」


 その程よい大きさの美乳に細い手をあて、小さくお辞儀するセシリーさん。

 うぅ……こんな俺に、わざわざ丁寧に自己紹介し直してくれるなんて……。

 セシリー様は心も天使のようなお人だった。

 ていうか――


 その運動服、大天使級に似合ってますね!


 ……と言いたかったが、さすがに言えなかった。

 うん。

 さすがに、ね。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 結局、俺は普通に返す。

 すると、セシリーさんは小首をやや傾けて、


「はい。お互い、がんばりましょう」


 とにっこり笑って言ってくれた。


「は、はいっ」


 天使再臨の、瞬間であった。


 あぁ……この人と同じ組で本当によかった……。 


 そう俺がときめいていると、セシリーさんが箱の中から細身の剣を一本、引き抜いた。

 あれ?

 昨日会った時は、二本の剣で戦っていた気がするけど……。


「ちょっとぉ~、セシリー様ぁ! はやくこっち戻ってきてよ~!」


 見ると、リア充感のある女子生徒が、セシリーさんに手を振って呼びかけていた。


「ふふ……それではまた」


 微笑みを残し、セシリーさんは取り巻きの輪の中へと戻っていった。

 ……ジークさん、相変わらずセシリーさんに群がる生徒たちを捌くのに忙しそうである。

 人気者は大変だね。


 そんなわけで、剣を手にした俺たちは自然と、練兵場の壁を背にし、中心をぐるりと囲む形になった。

 で、俺はというと、脇に控えていた五人の教官たちと数名のクラスメイトとの間に、一人ぽつねんと座っていた。


「…………」


 うーむ、遅れてやって来た男、さっそくボッチになりそうな気配である。

 セシリーさんは、基本的にジークウォールと取り巻きトルネードに守られているからなぁ……。


「ん?」


 ちょうど俺と反対側の壁に、キュリエさんが立っているのが見えた。

 彼女も俺と同じ長剣を手にし、ぽつんと立っている。

 きょろきょろ。

 ふむ。

 この組で明らかにボッチ感漂っているのは、俺とキュリエさんだけか……。

 しかし、キュリエさんは私に近寄るなオーラを発しているから仕方ないとはいえ……お、俺は……?

 …………。

 くっ!

 こ、これが二日遅れで入学したことの弊害なのか……!

 なんかもうさっそく仲良しグループで固まっちゃってるっぽいもんな。

 マキナさんは『多少注目はされると思うけど』なんて言ってたけど、獅子組にはセシリーさんやキュリエさんという目立つタレントがいるから、俺のトンデモ設定は注目材料としてほとんど機能していないという説が……。


 うぅ、またボッチ生活がはじまるのかしら。

 歴史は繰り返すのかしら。

 くっ。

 いや……まだだ!

 ここで挫けてたまるかよ!

 俺は成り上がるんだ!

 こんなとこで、落ち込んでられるか!

 やるぞおらぁ!


 なんて風に俺が一人奮起していると、皆の手に剣が渡り終わったのを確認したヨゼフ教官が、


「ではこれより、模擬試合をはじめる! 我こそはと思う者は名乗り出て――前へ!」


 と言った。

 生徒たちが、ざわっとなる。

 い、一番手は、ちょっと……。

 と、ヨゼフ教官が、


「ああ、そうだ、一つ言い忘れていたが」


 そうつけ加えると、三人の生徒の名を順番に口にした。


「フィブルク・マロー、アイラ・ホルン、セシリー・アークライト。以上の三名については、模擬試合は最後とする。そしてこの三名の相手はヨゼフ・ベイガン――つまり、おれが担当する。なので今名前を呼ばれた三名は、他の生徒が終わるまで待つように」


 おぉ、と生徒たちがどよめく。

 生徒たちの視線の先を追う。


 フィブルク――もとい麻呂は、にやつきながら腕組みをしていた。

 いかにも『どやぁ』という感じである。

 で、あのイヤリングをつけている赤髪の女子生徒が、アイラって人か……。

 ……あ、けっこうかわいい。

 そして我らがセシリーさんはというと、特に気取った風もなく、涼しい表情のままであった。

 こういうのを鼻にかけないところも、素敵だよなぁ……。


 麻呂。

 アイラ・ホルン。

 セシリー・アークライト。


 どうやらこの三人が、獅子組で前評判の高い実力者らしい。

 うーむ、麻呂が実力者扱いなのは少し納得いかないが、ヨゼフ教官がああ言うからには、けっこうな手練れなのだろう。


 そして、


「じゃあ僕、いきます」


 最初の一人が名乗り出て、ランク分けの模擬試合がはじまった。


          *


 ランク分けの模擬試合がはじまってから、ちょうど十名の試合が終わった。

 その時点で、相手をする教官が交代する。

 獅子組は全部で五十名。

 そこからヨゼフ教官が相手をする実力者三名を除くと、四十七名。

 つまり、五名の教官は一人あたり九~十名の生徒を相手にするわけだ。


 そして、十一人目の模擬試合がはじまる。


「…………」


 しっかしみんな、サマになってるよなぁ……。

 なんつーか、普通に戦っちゃってるもん。

 中世や近世を舞台にした洋画で見たことあるわ、あんなシーン。


 手元の剣を見る。

 ……俺、大丈夫かなぁ?

 うぅ、緊張してきた。


「今年の新入生、どう見る?」

「そうだな……」


 お。

 傍で待機している教官たちが、何やら面白そうな話をはじめたぞ。

 俺は教官たちの方へ、ちょっと身体を寄せた。


「まずこの獅子組、ダントツでタレントが揃っている」


 そう言った教官が、二人の生徒を順番に一瞥する。


「正直あの二人だけでも、十分すぎるくらいだ」

「マロー侯爵の子息であるフィブルク・マローに、ホルン家のアイラ・ホルンか……確かにな。二人とも、剣の腕は高いと評判だ」

「だがこの獅子組……やはり、セシリー・アークライト抜きには語れまい」

「……だな」

「最初あのセシリー・アークライトがこの学園に入学するとわかった時は、しばらく彼女の話題で持ちきりだったからな」

「それはそうさ。祖父は今の聖王様の剣術指南役で、兄は聖樹騎士団の副団長……さらにセシリー嬢自身が、その二人から自分たちを凌ぐほどの才能を持っていると絶賛されているというし。話題にならない方がおかしい」


 前にも同じような話を聞いたことがあるけど、やっぱりセシリーさんてすごい人なんだな……。


「何より、あの美貌だ」

「だな」

「俺も、もうちょっと若ければ……」

「……いや、無理だろ」


 ……教官たちも、やっぱ男ですね。


「ま、まあともかく、一学年に才能ある生徒が三人いれば御の字と言われているが、今年は双蛇組と星人組にも有望株がいる」


 そうじゃぐみ?

 ほしびとぐみ?

 …………。

 ああ、他の組の名前か。

 てか、クラスって全部で何組あるんだろ?


「ほぅ。となると、今の時点で五人も有望株がいるわけか」

「そのうち三人が獅子組だからな。いやでも注目はされるさ」


 ふーん。

 獅子組ってある意味、エリートクラスだったんだ。


「今年のルーキーどもは、聖遺跡攻略の結果が楽しみだな」

「…………」

「ん? どうした?」

「あ……いや、すまん」

「なんだ? 何を見てた?」

「……セシリー嬢を見ていた」

「おい」

「だって……」

「だってじゃないだろ、ったく……ま、気持ちはわかるがな」


 そんな教官たちの会話を聞いている間も、模擬試合は続いていた。

 うわー、どうしよ……。

 いつかは、俺の番も来るんだよな?


 そして気づけば、模擬試合をしていないのは俺とキュリエさんだけになっていた。


「まだ試合をしていない者はいるか?」


 眼鏡をかけた女性教官が、生徒たちに声をかける。


「…………」


 よし。

 行くか。


 俺は立ち上がり、前に足を踏み出した。


「相楽黒彦です!」


 ええい、なるようになれ。

 見よう見まねで、剣を構える。


「よ、よろしくお願いします!」

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