第24話「キュリエ・ヴェルステイン」
ヘイ、カーノジョ!
俺のこと、おっぼえってるぅ〜!?
的なノリで軽〜く話しかけるのもアリかと思ったが、やめておいた。
理由は明白である。
同じ教室にはセシリーさんがいるからだ。
彼女に、軽薄な男だと思われてはたまらないからな!
は、ともかく。
「あのぅ」
と、俺は銀髪美人さんに声をかけた。
視線だけがこちらに向く。
うぉ、まつ毛長っ!
「俺のこと、覚えてます?」
「…………」
あ、やっぱ覚えてない?
「……覚えてはいる」
「あ――」
覚えててくれたんだ!
「意識を失った俺を学園の医療室まで運んでくれたのって、あなたですよね?」
「……まあな」
「助けてもらって、ありがとうございました!」
「……別に、礼を言われるほどのことはしていない」
「いえいえ、言われるほどのことですって!」
わざわざ担いで運んでくれたらしいし。
「用件はそれだけか?」
「え?」
銀髪美人さんの視線が元の位置に戻る。
彼女は虚空を見つめたまま、俺に言った。
「一つ言っておく……私には、あまり関わらない方がいい」
「…………」
「それにおまえを助けたのも、ただの気まぐれだ。普段はあんなことはしない」
「…………」
俺は、震えていた。
銀髪美人さんが再び、ちらと俺を見る。
「なんだ? 礼を言ったのに無下にされて、怒ったのか? フン、だがあいにくだな、私は礼など求めていないし、それはおまえが勝手に――」
「……か、かっこいい」
「……なんだと?」
「む、無茶苦茶、かっこいい……! マジ、シビれる……!」
「……は?」
銀髪美人さんの表情が、少し崩れる。
「ええ、わかります! いわゆる孤独なロンリーウルフってやつですよね!?」
「ロンリーウルフ……」
「いやぁ、しっかしクール系の美人さんだとサマになりますよねぇ! ああ、いいなぁ〜『私はここのおめでたい馬鹿どもと馴れ合うつもりはない』って感じの、孤高の精神! いいね! 某実名SNSだったら俺、絶対にボタン押してますね!」
「えすえぬ、えす……?」
「下手すりゃ厨二ヒロインとか言われちゃいますけど、俺は好きです!」
「……おまえ、馬鹿なのか?」
「え!? なんで!?」
「……もういい」
やや呆れ気味に言うと、銀髪美人さんはまた頬杖をつき、黙り込んでしまった。
あれ?
な、なんか怒らせるようなこと言っちゃったのかな?
ろ、ロンリーウルフがまずかった?
うーむ、そうか。
やはり銀髪美人さんも女の子……ロンリーキャットくらいにしておいた方がよかったのかな?
それだと、むしろ野良猫のイメージだけど……。
む。
その時だった。
俺の頭の中に突如、ゴッドビジョンが舞い降りた。
おぉ……!
み、見える……!
見えるぞ……!
猫耳のコスプレをした、銀髪美人さんの姿が……!
まずい。
萌えすぎて、このままだと実物に抱き着いてしまいそうだ。
妄想ストップ!
「…………」
一人桃色な妄想を暴走させていた俺を無視し、すっかり銀髪美人さんは私に構うなモードに入ってしまっていた。
ま、無理につきまとうのも悪いか……。
一人でいるのが好きなのかもしれないし。
でも、一つだけ――
「あの」
と、俺は再び声をかけた。
銀髪美人さんは、今度はこっちを見なかった。
しかし俺は、気にせず言った。
「さっき朝にも自己紹介したけど、改めて。俺、相楽黒彦っていいます」
「…………」
「よ、よろしくお願いします」
銀髪美人さんからの反応はない。
…………。
ま、単に俺が彼女にちゃんと自己紹介しておきたかったってだけだしな。
それで彼女に受け答えを求めるのは、筋違いというものだ。
うん、前の世界でボッチだった俺にしては、がんばった。
教室の時計を見る。
そろそろ休み時間が終わる……次は、戦闘授業か。
「……キュリエ」
「え?」
銀髪美人さんが、不意に口を開いた。
「……キュリエ・ヴェルステイン」
俺は驚いて彼女を見た。
「キュリエ、さん?」
「……フン」
銀髪美人さん――キュリエさんは、今度こそ口を開くつもりはないようだった。
もうこれで満足だろ、という雰囲気が滲み出ている。
「…………」
うわ。
なんだこの気持ち。
なんか、すっげぇ嬉しいんですが。
*
休み時間が終わると、教室にヨゼフ教官がやって来た。
で、第十四修練場という場所に移動(ていうか、多っ!? いくつあるんだ!?)。
俺たち獅子組は、板張りの道場のような場所に連れてこられた。
ちなみに俺たちはここに来る前、更衣室で制服から運動服に着替えている。
俺の名前を刻んだプレートが打ちつけてあるロッカー(木製)もあって、中にはちゃんと運動服が入っていた。
マキナさん、ちゃんと手配してくれていたようだ。
ありがたい。
男子の運動服はまあ、長袖と長ズボンの、さして特筆すべき点もない、感動もない代物である。
卒業して用済みになったら、せいぜいよくてセカンド部屋着といったところだろう。
問題は、女子の運動服である。
女子の運動服は、お洒落なテニスウェアみたいなものだった。
一言で言おう。
大変、見ていて眼福である。
スパッツみたいなのをはいているのでパンチラは期待できないが……いや、期待する方が駄目なのだが……でもね、ほら、男子なら、ね?
……まあ、それはともかく!
眼福といえば、セシリーさんですよ!
ああ、セシリーさん!
もう制服も運動服も、デザインした人がセシリーさんに着せたくて作ったんじゃねーの? と勘繰りたくなるくらいには、もうね、かわいらしいんですよ、これが!
ああ!
今、俺は現代技術によるキャメラつきスメィトフォンが手元にないことを、本当に心から残念に思っているよ!
最初に男子ども(俺含む)がセシリーさんの運動服姿を見た時、心が一つになったもん。
皆、志を共にする同士になったもん!
生まれた世界は違えど、俺たちはわかり合えるんだって思ったもん!
さらに、ダークホースだったのはキュリエさんだ。
男子ども(俺含む)の視線は、セシリーさんの次に、真っ先にキュリエさんへと向かった。
いや、一限目のあたりから、なんか視線は感じてたのよ?
最初は、チミたちは超天然野生児こと、遅れてやって来たこのクロヒコくんが物珍しくて見ているのかな? ん? ん? と鼻息を荒くしていたのだが、それは俺の勘違いだった。
みんな、キュリエさんの方を見ていたのだ。
セシリーさんとは、また違ったベクトルを持った美少女。
てか、女子生徒まで、なんか神々しいものを見る目で見つめてたよ。
キュリエさんはお姉様タイプですね、わかります。
……なぜだろう、すげぇ無駄なカロリーを消費した気がする。
と、ともかく、二時限目の戦闘授業である!
修練場で整列をした後、俺たちは教官に言われて腰を下ろした。
見ると、ヨゼフ教官の他に、五人の教官が壁を背にして控えている。
一体、何がはじまるんです?
ちなみにヨゼフ教官は、先ほど修練場の隣の部屋に入って行ったのだが……。
と、開いた引き戸の向こうから、ガチャガチャと音を立てて、ヨゼフ教官がたくさんの剣が入った箱を台車に載せて出てきた。
俺たちの前で台車を止めたヨゼフ教官は、箱から一本剣を手に取ると、ペシペシと刀身を叩きながら口を開いた。
「さて……おまえたちは、聖樹士といえば何を思い浮かべる? そこのおまえ、答えてみろ」
男子生徒があてられる。
「あ、僕か……えっと、主に剣と術式を使うというイメージがあります。式典などでも目にするのは、帯剣している聖樹士ですし」
へぇ、そうなんだ。
あー、しかし俺、あたらなくてよかった!
いや……ここで何も知らないド田舎クンにゃ、あてねぇか。
「よろしい。そのイメージで正しい。国のお偉方としても、見栄えがいいという理由で聖樹士には剣を持たせたいらしいからな」
なんじゃそりゃ。
普通に槍とか、かっこいいじゃん。
「だが、聖樹士が主に剣を選ぶ理由は他にもある。それがなんだかわかるか? では――フィブルク」
「……ん」
さっきとは違う男子生徒があてられる……って、麻呂侯爵の息子じゃねぇか。
彼はフィブルクという名前らしい。
いや、純真な好奇心で質問する女の子にあんな嫌な態度をとるやつなんか、麻呂でいい、麻呂で。
「……『聖剣』や『魔剣』を王や騎士団から与えられる可能性があるためです。もしくは、聖遺跡で聖剣や魔剣を発見する可能性があるからです」
「そうだ。聖剣と魔剣については今日は詳しく説明しないが、後に聖剣や魔剣を手にすることを考えると、やはり他の武器よりも剣の扱いに長けていた方が得なわけだ。フィブルク、ご苦労」
「ふん」
それから、ふわぁ〜あ、とつまらなそうにあくびをする麻呂。
麻呂にとっては、退屈な内容なのかもしれない。
「ともかく、聖樹士の中には様々な武器の扱いを習得している者もいるが、この学園では基本として、まず剣を学ぶのが第一となる。それでだ――」
教官が生徒たちを一通り眺めやる。
「獅子組でも、剣術に長けている者と、そうでない者がいるはずだ。だから、これからおまえたちを三つの組に分ける」
む。
「前期の戦闘授業の内容は、その組のランクに合わせたものとなる。今日の授業では、その組を決めるというわけだ」
教官は、修練場の脇に控えていた五人の教官と視線を交わし、頷いた。
それから、俺たちを見た。
「おまえたちにはこれから、それぞれ三分間ずつ、そこの教官たちと一対一の模擬試合をしてもらう。そしてその内容を見て、どのクラスに入れるか、おれが判断する」
一瞬、生徒たちがざわつく。
そして、俺もざわつく。
えー!?
俺、剣なんて持ったこともないですよ!?
いや、憧れはありますけど!
「それと、今日の戦闘授業に限っては全員分の模擬試合が終わった時点で終了とする。……ああ、ちゃんと昼休みの時間は取るから、そこは安心しろ」
ヨゼフ教官が剣の入った箱を顎で示す。
「おまえたちには、あの剣で戦ってもらう。何、心配するな。試合用の剣だから殺傷能力はない。また、剣を手放すか、相手が参ったと言うか、おれがストップと言ったら、その時点で試合は中止。いいな?」
教官が、ぱぁんっ、と両手を打ち鳴らした。
「では各自――剣を取れ!」




