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銀のペンと魔法の回路 ―見習い修復師リリスティアと氷魔法を使う謎の少年、ときどき食いしん坊精霊のモフモフな日々。―  作者: 海優璃


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24.ラルフさんとの再会と、閉じ込めた記憶

 その日の午後、ラルフさんが工房を訪れた。


 入ってくるなり、ラルフさんがアルクトスのお土産だと言って、時空ウミユリと紙袋2つテーブルの上に置いた。アルクトスというのが、ラルフさんが行った辺境の街の名前なのだろう。


「時空ウミユリは、ギルド長が、この間の転移スクロールの修復で使ったって言ったら持ってけってさ。」


 リセたちが目を丸くしているのも構わず、彼は言葉を挟む間もなく喋り始める。

「じいさん、リセもジャンも今回はありがとう! お手柄だったんだよ!」

「アルクトスの街の人からもすごく感謝された。氷結魔法が効果絶大でさ、凍らせた所にトドメを刺せば、本当に完璧だった。向こうに着いた次の日には、もうやっつけられたんだ」

 ラルフさんは、喉が鳴るほど勢いよくお茶を飲み干すと、身を乗り出した。

「それで、そのやっつけた魔物をさ。確認したら、蜥蜴(とかげ)とかネズミ、魔鳥……なんかの小さな魔物の集合体だったんだよ」


「一番大きかったのが、赤火熊なんだけど⋯⋯。ここだけの話、なんか魔法だか魔物を集める呪いみたいのがかけられていてさ⋯⋯。」

「……王宮魔術師の人達が今調査を……」

 その言葉が耳に届いた瞬間、リセの時間は止まった。

「えっ?……魔物寄せ、の……呪い……?」

 パリン、と高い音が響く。

 ジャンに星苔を株分けしてあげようと、持っていた新しいガラス瓶が、リセの力なく開いた手から滑り落ちて砕け散った。

 リセの顔からみるみる血の気が引き、陶器のような白さになる。

「あ、れ……? お父、さん……?」

 無意識に漏れた震える声と共に、大きな瞳から大粒の涙がボロボロと溢れ出した。止めたくても、蛇口が壊れたように溢れて止まらない。

 ラルフが「えっ、リセ!? 悪い、俺なんか変なこと言ったか!?」と椅子を蹴らんばかりに立ち上がる。

 おじいちゃんは、握りしめた拳を震わせ、苦い表情で床の破片を見つめた。この事実を他人に話すべきか……。数秒の重苦しい沈黙の後、おじいちゃんは意を決したようにリセの肩を強く抱き寄せた。

「……ラルフ、すまん。その話は、これ以上は後にしてもらえるかね」

 その声は低く、感情を無理やり抑え込むように、静かに響く。

「……この子にも、な。……色々と、事情があるんじゃ」


 本を探しに行っていたジャンが、瓶の割れる音に驚いて部屋に駆け込んできた。

 顔を真っ白にしてボロボロと泣いているリセの姿を見た瞬間、ジャンの瞳に鋭い光が宿る。

「リセに何をした!」

 ジャンはラルフの胸ぐらを掴まんばかりの剣幕で詰め寄った。普段の冷静な彼からは想像もできないほど、その声は怒りに震えている。

 リセは、そんなジャンの気迫に驚いて、一瞬だけ呼吸を忘れた。

「……あ……。ごめん、ジャン。ラルフさんは悪くないの。……ただ、少し、お父さんのことを思い出して……」

 消え入りそうなリセの声に、ジャンはハッとして力を緩めた。ラルフさんもまた、自分の言葉がリセを傷つけたことに激しく動揺し、顔を曇らせている。

「……ラルフ、少し時間はあるかね?」

 おじいちゃんの重々しい問いに、ラルフが力強く頷く。おじいちゃんはそれを確認すると、工房の入り口にゆっくりと歩み寄り、カチリ、と重々しい音を立てて鍵をかけた。

「ジャン、悪いがこの割れた瓶を片付けておいてくれ。……リセ、お茶でも飲もうか」

 おじいちゃんは、まだ震えの止まらないリセの肩を優しく、けれどしっかりと支えるようにしながら、キッチンへと続く階段を促した。



 キッチンの椅子に腰掛けても、リセの肩はまだ時折小さく震えていた。

 おじいちゃんが無言で湯を沸かし始める中、ラルフさんが意を決したように、抱えていた荷物をテーブルに広げる。

「リセ……これ、アルクトスのギルドのお姉さんから預かってきたんだ。君に、って」差し出されたのは、柔らかなピンク色のリボンだった。

「アルクトスの高地でしか採れない紅蓮根(べにはすね)で染めたリボンなんだって。今、向こうの魔術師たちの間で、呪い耐性がつくって流行ってるらしいぜ。お姉さんが『きっと彼女にも似合うわ』って、リセのために選んでくれたんだ」


 リセが驚いて顔を上げると、「ほんとに困ってたんだよ。こんなに、早く解決出来たのは間違いなく、君たちが、氷結魔法の可能性に気がついて、スクロールを直してくれたおかげたよ」


 ラルフさんはさらに荷物の中から、甘い香りのする果物と、透き通って赤と金が混じってキラキラと輝く石を取り出す。

「この果物、花蜜果っていうんだけど、この真ん中に蜜が入っているんだって、上をカットして、紅茶に入れるのがアルクトス流らしいよ。俺も舐めてみたんだけど、めちゃくちゃ甘くて、ほんのり花の香りがして、なんかおしゃれな味がしたぜ!今淹れてる紅茶に入れよう。もちろん外側も甘かったよ……こっちは、核になってた赤火熊の魔石だよ。リセのスクロールで倒したから、記念に貰っておいた。浄化済みだから、何かの素材にも使えるよ」


 リセは、テーブルに並べられた温かい贈り物を見つめ、ようやく深く溜まっていた息を吐き出した。

 リセはまだ涙で濡れた頬を拭いながら、「……ありがとう、ラルフさん。……すごく、嬉しい!」と、精一杯の笑顔を向けた。

ここまで、お読みいただき、本当にありがとうございます。次回からは毎週土曜日の午前中の更新を予定しております。


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これからも、よろしくお願いいたします。

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