第三十三話
通された先は、要塞の中心部にある巨大なドーム状のホールだった。
天井は遥か高く、薄暗い照明が床を照らしている。
そこは、まさに「死の展示場」だった。
破壊された装甲車の残骸、溶解したパワードスーツ、そして培養液から引きずり出されたとおぼしき異形の生体兵器の死体が、ゴミのように転がっている。
空気は澱み、オイルと排気ガス、そして腐った血の臭いが鼻をつく。
「ひぃっ……! こ、ここは実験場じゃねぇか……」
ガレッゾが口元を押さえて後ずさる。
シオンは眉をひそめ、天井付近にあるガラス張りのラウンジを見上げた。
そこに、冷たい瞳でこちらを見下ろす男の姿があった。
「ようこそ、我が『グレイ・ファントム』の兵器実験場へ」
スピーカーから、カルマンディの声が降り注ぐ。
彼は眼下の惨状を、まるで美しい庭園でも眺めるかのように見下ろしていた。
「感謝するよ、シオン王女。タルタロスでの実戦データは実に興味深かった。ゼロとエコーズ特務部隊、そして君の『蒼い力』との三つ巴……あれほどの負荷試験は、シミュレーションでは得られない」
「……私は貴方の実験動物じゃないわ」
シオンは鋭く睨み返した。
「単刀直入に言うわ。フレデリックを返しなさい」
「フフ、そう急ぐな。私はビジネスの話をしているのだよ」
カルマンディはモニターに数式とグラフを投影した。
「君のその力と、ゼロの性能を掛け合わせれば、銀河の勢力図を塗り替える『商品』が完成する。……どうだね? 私と手を組まないか? 君が協力するなら、レイオン復興どころではない……銀河共和国内でも有数の産業国家へと成長させることも可能だ」
「断るわ」
シオンは即答した。
「人の命を金と数字でしか測れない貴方ごときが、私の国を語らないで」
その言葉に、カルマンディは肩をすくめた。
「宇宙を旅して少しは利口になったかと思ったが……残念だ」
「当たり前だ、このクソ野郎が!!」
シオンの横で、ガレッゾが叫んだ。恐怖が限界を超え、怒りとなって爆発したのだ。
「俺を捨て駒にしやがって! アビスマーケットでエコーズ艦隊が突入してきたのも、全部てめぇが情報を流してたんだろ!? ふざけんな、俺はなぁ……!」
ガレッゾが拳を振り上げ、罵詈雑言を並べ立てようとした、その時だった。
――ズドンッ。
乾いた破裂音が、広いドームに反響した。
「……あ?」
ガレッゾの動きが止まる。
彼の胸の真ん中に、小さな風穴が開いていた。
ドサッ、という鈍い音と共に、ガレッゾは大の字に倒れ伏した。傷口から血が流れだし、咳き込む度に吐血している。
「ガレッゾ君……私の商談を邪魔したらどうなるか……教えたはずだが?」
カルマンディは冷ややかに告げると、背後に控える研究員に指示を出した。
「……さぁ、性能試験の開始だ……私と契約したくなったらいつでも言ってくれ、シオン王女」
実験場の奥、暗闇の中から足音が響いた。
カツ、カツ、カツ……。
正確無比で、重苦しいリズム。
シオンはその足音を知っていた。けれど、こんなにも冷たい音ではなかったはずだ。
「まさか……」
シオンが息を呑む。
闇から現れたのは、一人の男だった。
ボロボロのコートを纏い、右手に刀『斬鬼丸』、左手に硝煙を上げる銀のリボルバー『タウラス』。
だが、その頭部には、禍々しい電子端子が埋め込まれたヘッドギア――神経遮断檻が装着されていた。
「……フレデリック?」
呼びかけに、答えはない。
ヘッドギアに覆われた瞳が何を捉えているのか分からない。
ただ、そこには意志も、感情も、シオンへの想いもないことは明白。
シオンの知る相棒の姿はない。そこには命令に従って引き金を引く……生ける屍が立っていた。




