初陣はセイバーで
「えーっと?」
いきなりなんだが、ここはどこだ?
オフィス?いや、違うか。質素な会議室か?
そして目の前に座っている女は?
「先場司令、着任おめでとうございます」
「え?あ?」
先場は俺の名前だが、司令ってなんだ?
「着任早々ですが、さっそくパイロットと機体のロットをお願いします」
「えーっと?」
目の前の女性が怪訝な顔をする。服はOLな感じで眼鏡でショートカット。
「ロットです。分かりますよね?」
「いや、全然」
「はい?」
「さらに言えば、ここがどこで、君が誰かも分からない」
女性が頭を抱えた。
いやそんな仕草をされても困る。たぶんあなたよりも俺の方が困ってるって。
「まさか、イレギュラーですか」
「イレギュラー?」
「あなたのことです。先場司令」
「その、確かに俺の名前は先場だが、司令じゃないぞ。清掃の仕事をしてる会社員だ」
「はあ」
なんか知らんが大きなため息をつかれた。
「説明を受けた記憶はないんですね?」
「説明?ないと思うぞ」
「仕方ありません」
そう言うと女性はタブレットみたいなものを操作した。
背後のホワイトボードみたいなものに文字とビジュアルが並ぶ。日本語だ。
「まず私はエヴァ・岬です。あなたのサポートをする役目を担っています。以後よろしく」
「あ、ああ」
「エヴァでも岬でも好きなように呼んでください」
「えっとじゃあ岬さんで」
ん?なんか一瞬変な顔をしてた気がするが。気のせいか?
「ここは「エリア8.8」と呼ばれる基地です」
「基地?」
「前司令の退任によって、あなたが新しい司令に任命されました」
「基地の司令ってこと?」
「その通りです」
いやいや、意味が分からんぞ。
「俺、自衛隊じゃないんだけど?」
「まずは説明を聞いてください」
「はい」
思い切り拒絶された。
なんかあまり口を挟まない方がいい感じだ。
「目下、我々人類はデイモンからの侵攻を受けて、絶滅の危機に瀕しています」
「はい?」
デイモン?侵攻?絶滅の危機?
ワードが分からないことだらけで、結局何も分からないぞ。
だが俺、我慢。
話の腰を折るような口は挟まない。
「デイモンは、地球のアカシックレコードを侵食している存在です」
「デイモンってことは悪魔?」
「そのような印象で構いません」
あ、そうなんだ。
「要するにそのデイモンが地球を襲っているという理解でいいわけ?」
「概ねいいと思います。今は」
「はあ、なるほど」
ちっとも分かってないけれど。
「そのデイモンの侵攻を防ぐ基地のひとつが、ここ「エリア8.8」です」
「基地の名前ってことかな?」
「それでいいです」
「そこの司令が俺と?」
「そうです。続けても?」
「はい、どうぞ」
またホワイトボードの映像が切り替わった。
「各基地は、あ」
「ん?」
ホワイトボードにレーダーみたいなのが表示される。その中に光点が一つ点滅している。
「先場司令。敵襲です」
「て、敵襲?それってデイモン?」
「そうです」
「げ、迎撃は?どうやってやっつけるんだ?」
「現在、当基地にはパイロットと機体がありませんので、迎撃は不可能です」
「ど、どうしたら?」
「ロットを行ってください」
「ど、どこで?」
すると岬さんは、俺の手元を指差した。
手元のテーブルにはタブレット。それを手に取る。
トンと画面を叩くと、なんかいろいろなのがある画面が出て来た。
「ロットの項目を」
「これか」
ぽちっとな。
「機体とパイロット、その他の欄があるぞ」
「機体が1機とパイロットが1名。最低限必要です」
「押せばいいんだな?」
「はい、どうぞ」
じゃあ、まずは機体。
これで巨大ロボットとかパワードスーツみたいなのが出るのだろうか。
ぽちっとな。
画面に出て来たのは飛行機だった。
「えっと?ロボットじゃなくて飛行機だぞ」
「セイバーですね。まあ、着任早々ですからね」
「セイバー?巨大ロボとかでなく、戦闘機だけど、いいのか?」
「パイロットを。急いでください」
「お、おう」
今度はパイロットをぽちっとな。
画面になんかキラキラした演出みたいなのが出て来て、女性が映し出された。
「え?」
「え?」
「これは強運ですね」
「えっと、何が?」
「A級以上のパイロットですよ」
「え?」
突然横のドアがガチャっと開いた。
「どうもー。着任しましたあ。南乃亜里沙ですー」
「え?」
出て来たのはさっき映し出された女性だったけれど、服装がセーラー服なんだが?
女子高生じゃないのか?パイロットはどこだ?
「亜里沙、早速だけど迎撃任務よ」
「機体は?」
「セイバー」
「あらま。ひょっとして初戦?敵は?」
「初戦よ。敵ははぐれと思われる、識別によれば「ジャイアントバット」が1体よ」
「雑魚ね。了解」
そう言うと、亜里沙と呼ばれた女性は部屋を出て行った。
「えーっと?」
「機体はセイバーですが、A級パイロットですから、余裕でしょう」
「敵は「ジャイアントバット」とか言ってたけど、それってでっかいコウモリってこと?」
「その形状をしているデイモンですね」
「あ、そっか、デイモンなのか」
轟音が響いて、窓の外をさっき見た戦闘機が飛び立って行った。
リアルな光景だが、現実味はどこまでもない。
「その、デイモンを迎撃に行くなら、もっと機体とパイロットがあった方がいいんじゃないの?」
「それはもちろんでそうですね」
「じゃあ、さっきのロットって言うのを?」
「お待ちください」
「はい」
ホワイトボードのレーダー画面が少し小さくなって、別の画面が分割表示された。
それを見ながらの会話になる。
「ロットをするにはポイントが必要となります」
「ポイント?」
「お金だと思ってください」
「あ、ああ」
「ロットをするにもポイントがかかるし、整備、燃料、武器弾薬、食糧、その他もろもろ、全てポイントが必要です」
「お金が必要ってことだよね?」
「そうです。ここに表示されているのが、現在、先場司令が所有しているポイントになります」
「ふむ。単位は円?」
「違います」
じゃあ、価値が分からない。
「幸い、機体がセイバーでしたから、維持にさほどポイントは必要ありません。ダメージを負って修理が必要にならない限り」
「あ、ああ」
「亜里沙のモチベーションポイントが何かによりますが」
「モチベーションポイント?」
「彼女は恐らく余裕で「ジャイアントバット」を撃墜して戻ってきます」
「ああ」
「無事に任務を終えたパイロットには報酬を与える必要があります」
「ポイントで?」
「中にはポイントを欲するパイロットもいますが、彼女はまだ確認できていません」
「ふむ。いつ確認できるんだ?」
「任務から戻って、先場司令の前に立ってくれれば、それで分かります。任務の報告があるので、そこで確認なさるとよろしいかと」
「聞けばいいのか?」
「タブレットに表示されるはずです。所属パイロットの欄です」
「分かった」
たぶんだけど。
『タリホー』
え?
さっきの亜里沙の声だ。
「タリホーって?」
「敵を目視で確認したという合図です」
「そうなんだ」
レーダー画面の赤い点と青い点が一気に近づく。
『キル、リターントゥベース』
赤い点が消えたと思ったらまた通信が入った。
「倒したってことだよね?」
「そうですね。初任務成功ですね」
「あ、まあ、俺は何もしてないけど」
「そんなことはありません」
「そうかなあ。これって戦闘シーンは見られないの?」
「現状では無理ですね」
「あ、そう」
しばらくすると轟音を響かせてセイバーが着陸した。
そしてしばらく待つと、亜里沙が手に小さな四角いものを持って戻って来た。
「はい」
「ご苦労様」
その四角いのを岬さんが受け取った。
「それは?」
「レコードキューブです。戦果が記録されています」
「ふーん」
そう返事をしたものの、ちっとも意味は分かっていない俺である。
そして亜里沙が俺の前に立った。
「ジャイアントバット撃墜しました」
「あ、ああ。ご苦労様」
そうだ。確認するんだった。
タブレットのパイロット一覧から亜里沙を選ぶ。って言うか亜里沙しかいない。
モチベーションポイントだったな。
あった。
えっと、「スキンシップ」?
なんだそれ。
目の前の亜里沙を見る。
にこにこしている。
スキンシップって言うと…。
「よ、よくがんばったな」
そう言いながら頭を撫でた。
「はいっ」
嬉しそうな返事が亜里沙から返って来た。
こういうのを書きたくなったのです。




