第4話 お義父さん娘を頂きます①
1567年7月 筑紫地方 筑紫館 島珍慶
クックック、久方ぶりに心が震えたわ。若様の激で兵たちの心も一つになった。
夜襲をご一緒すると言われたときは何を呆けたことを言うのかと思ったが、お考えがあったか。城を出るときに言われたら賛成しなかったであろう。
そして御武運をお持ちだ。
館を見ると外で野宿していた敵兵たちが軒下で雨を凌ごうと移動している気配がした。緊張感がない。兵が緩んでいることが感じ取れた。
『大将が腹を切った。朝になったら降伏する!』
敵の寄せ手が下がる前にそのように叫ばせていたのが効いているに違いない。何しろその時は真実だったのだからな。
二年前に殿と共に侍島で退却する敵を襲撃した時を思い出す。何倍もいる相手に対し、同じように夜に城を出て襲い掛かったのだ。
あの時は退却する敵を待ち構えていたが、そもそも敵の退却を見てから回り込んで待ち構えることなど不可能だ。
だから当時は退却する時期と気配を感じ取り、城の防備を薄くして少しずつ兵を外に出していたのだった。
本当に敵は退却するのか、兵を少なくして城は守り切れるのか。殿の嗅覚に頼る戦いだった。某でなければ付いて行けませぬぞ、と愚痴ったこともある。
血は争えんということか。殿が亡くなった空しい気持ちは吹き飛んでいた。
殿の血を若に感じ取れることが、張り詰めた空気の戦ができることが嬉しかった。
心の穴が埋まったと思った。
殿、どうか若をお守りくだされ。
仔細を話し合った後、全員で土砂で崩れた崖を降りた。転げ落ちる兵もいたが叫び声一つ立てることはなかった。そのような鍛え方はしておらぬ。
幸いなことに崖下に敵兵はいなかった。
適当な木や岩の遮蔽物に隠れて館を見る。雨でかがり火が小さくなっているのが目についた。
侵入に使うつもりの壊れた雨戸付近の火は完全に消えている。暗くてわからないが流石に人がいないということはないだろう。
そう考えていると若様が動き出した。
「島、手筈通りいってくる」
「はい、我々はここで伏せております。お気を付けください」
「なに、子供であれば大して警戒されまい」
敵兵をおびき出す役目を申し上げたのは若様だった。子供であればこそ勝算が高いと言われては認めるしかなかった。
若様が館に向かうと何やら話され、敵兵を数人連れてきた。うまく誘い出せたようだ。
隠れていた部下と共に敵兵を叫ぶ間もなく叩き切る。雑兵だ、簡単な桶側具足しか付けていない。脇辺りから肺を突く、あるいは喉を突く、叫ぶこともできない。
「若、どのように敵兵をおびき寄せたので?」
「大したことではない。土砂が崩れて兵が埋まったので助けてくれと言っただけだ」
「なるほど……」
土砂を崩しながら崖を下ったので、その音を土砂崩れだと思ったのかもしれない。
物陰に死体を隠すとその後も滞りなく進んでいった。
館に侵入する。勝手知ったる廊下を寝所まで誰にも会わずに進むことができた。
寝所の前には警備の者がいたが若様が同じように誘い出すと簀巻にして床下に押し込んだ。
今度は何と言って誘い出したのやら。
聞いてみたいところだが寝所の目の前だ。口を開くことはできない。それに警備がいたということは寝所には要人がいる。
敵将の斎藤が居れば吉だ。
南無三!
ガタッ!
合図と共に襖を開き寝所に侵入した。
夜着(当時の布団)に膨らみがある。人がいる。目覚めてはおらぬ!
横になっていた人間の口を素早く塞ぎ、身動きが取れないよう縛って座らせた。
灯明皿に明かりを灯して顔を確認する。
「若、間違いありませぬ。斎藤兵部少輔です」
斎藤は何者だという顔でこちらを睨みつけている。
「逃げようとすれば殺す。大声を出しても殺す。承知したならば頷け」
斎藤は不承不承といった様子でこちらを睨みつけながら頷いた。
脅しても全く恐れている様子がない。猛将だと思った。脅しは効かぬ相手だ。若がその辺りを感じ取っていただければいいのだが。
若が斎藤の目の前に腰を下ろして命令された。
「猿ぐつわを外してやれ」




