第162話:いえー、心強いですわー
ウニリィはもちろん覚悟をしている。
自分は以前国王陛下の前にスライムとはいえ魔獣を持ち込んで捕まった、なんなら一晩投獄されたのだ。札付きのワルってやつね……! とウニリィは思う。
後に会った国王陛下は寛大にも許してくれたけど、それは公の場での出来事ではなかったから貴族たちには知りようもないし、そもそも普通の令嬢はたとえ1日だって投獄されないのだ。しかも父が爵位を授かったその日にである。
つまり悪目立ちしたのは間違いないし、白い目で見られることは間違いあるまいと。
ウニリィの脳内で、想像上のエア婦人やエア令嬢たちが口々に言う。
『まぁ、あれがウニリィ・カカオ嬢よ』
『スライムを陛下の前に持ち込んだというあの……!』
『まー、恐ろしいわー。近寄らんとこ』
祝賀会の会場へと向かう馬車の中、ウニリィはぶるりと身を震わせた。
「うぅ……」
「大丈夫ですよ。私がついています」
ウニリィが緊張しているであろうと見て、隣に座るマグニヴェラーレは彼女に優しく、落ち着かせようと声をかけた。
だがウニリィはマグニヴェラーレをじっとりとした視線で見上げるのだった。ぬーん……顔が良い。ウニリィは唸る。
マグニヴェラーレは思わぬ視線の圧に面食らって問う。
「な、なんでしょう?」
「いえー、心強いですわー」
棒読みな感じでウニリィは答えた。
マグニヴェラーレはウニリィの後援者だ。彼がそう手を上げてくれたからこそ、ウニリィが短時間で釈放されてこうして普通に生活できているのだ。それは言うまでもなくありがたい。
さらには、ちょっといい関係になっていて、最近は、キ、キスまで……!
ウニリィは先日の公園でのキスを思い出して、ふしゅーと熱を出した。
「大丈夫ですか?」
「はい、元気です!」
「……そうですか」
ウニリィは再び考え続ける。
マグニヴェラーレは高身長・高爵位・高収入のいわゆる三高である。婚活市場において女性が結婚相手の男性に求めたがる条件というやつだ。まあ、この時代の貴族の婚姻といえば親が縁談を持ってくるのが大半であるが、娘たちが夢見るのは自由である。
ともあれそれに加えてマグニヴェラーレの顔が整っているときたら、もうどの女性も放っておかないのである。
……ただ、それがまたやっかみの対象になる。そうウニリィは分かっていた。こういうのは男たちより女社会の方が厳しく陰湿なのである。再び脳内でエア婦人やエア令嬢たちが喋り出した。
『まあ、マグニヴェラーレ様の隣の女性ご存じ?』
『あれがあのカカオ嬢ですよ』
『まー、あんなお顔で良くマグニヴェラーレ様の隣にいられますわね!』
『問題を起こすことでマグニヴェラーレ様の隣にはべるだなんて』
『なんて恥知らずなんでしょう!』
ウニリィはそっと腹を押さえた。胃が痛む気がするのはコルセットがキツく締め付けているからだけではあるまい。マグニヴェラーレはそっと彼女に鎮痛の魔術をかけてやった。
痛みは和らいだ気がする。だがかけてやるべきは痛みを止める術ではなく、心を安らかにする術の方が良かったであろう。
ともあれそんな想像をしているうちに、馬車は減速してとうとう会場に着いたのだった。
「では失礼」
マグニヴェラーレが立ち上がり、先に馬車から降りる。
「お手を」
そしてウニリィに手を差し出した。
こういう所作一つとっても彼は格好いいのだ。ウニリィは僅かに見惚れ、そして表情を一瞬引き締めてから笑みを浮かべてその手をとる。
ウニリィはマグニヴェラーレにエスコートされながら馬車を降りる。当然ながら周囲には貴族の夫妻や令嬢令息たち、護衛の騎士たちなど毅然と前を見て歩き始めたのだった。
「まぁっ、氷の魔術師様だわ」
ほらきた、とウニリィは思う。
「ということはその隣にいるのがあのウニリィ・カカオ嬢ね」
そうですよー、ヴェラーレさんの隣にいるには冴えない感じでしょー。
ウニリィは表情を変えず、笑みを浮かべたままそんなことを考えていた。だが、そのあとの反応は彼女の思っているものと違った。
ざわり。
貴族たちの視線が自分に集まる。それも女性たちのみならず、男性たちの視線まで。
「ということは彼女こそかの英雄倒し……!」
「自軍の倍する敵を撃ち倒した、かの英雄ジョーシュトラウム卿に傷をつけたという妹殿……!」
えっ……。
「もっと武将のような女性を想像していたましたが、思ったのとは違いますわね……」
「卿の冗談でしょう? 女性の細腕ですよ?」
「貴女は知らぬかもしれませんが、ジョーシュトラウム卿は嘘をつかんのです。しかも妹とはいえ、女に負けたなどという嘘をわざわざつくはずがございません」
「それは確かに……」
「貴殿は卿のひび割れ、破壊された鎧を見たか?」
「おお、見たとも。拳でああも鎧を貫くとは……」
貴族たちは声を揃えるようにして言った。
「「「……なんと恐ろしい」」」
ウニリィは赤面した。
ξ˚⊿˚)ξ三高なんて言葉、今どき使うとは思わなかった。







