第155話:ただ、スライムがなんて言うかな?
「……いやあ、ひどいめにあいました」
げっそりした様子でサレキッシモがウニリィにぼやいた。
「お疲れ様」
結局、朝食の席でミドー公爵夫妻に連れて行かれたサレキッシモであるが、解放されたのはもう陽が落ちる頃である。
朝食を食べる直前に連れて行かれ、昼も食わずだったので、腹ぺこであり疲労困憊であるらしい。だらしなくテーブルに突っ伏しながら麦粥をもそもそと口に運んでいる。
「もっとしっかりしたの食べなくていいの?」
「いや、緊張で胃が痛くて……」
気ままに生きているサレキッシモでも流石に強いストレスを受けたようである。ウニリィは笑って言った。
「あれよ、バチが当たったのよ」
「バチですか……」
「お父さんから聞いたわよ。家からでていくつもりだったんですって?」
「あー……ええ、まあ」
ウニリィの周りには緑色のスライムが何匹か転がっていた。
それがふるふる跳ねてサレキッシモに体当たりをする。痛くはないが、どすどすと当たられては食べられない。サレキッシモは一旦匙を置いた。
「スライムたちはどうしたんですか? 庭にいたのでは?」
「暇だから何匹か分離して、こっちに寄越したんですって」
ふるふるふる。
スライムはそうではないと揺れる。暇だからではないと。本体の大きいのは庭にいるが、一部をウニリィの護衛に置いてるのだと言っているのだ。
「そうなんですか」
しかしサレキッシモにはスライムの言葉はわからないので、ウニリィの言葉に頷き、そして尋ねた。
「怒ってます?」
カカオ家を去ろうとしたことにである。
ウニリィはゆっくりと首を横に振った。
「怒ってはいないわ。サレキッシモさんに限らずだけど、吟遊詩人なんて職の人がただの村にずっといるなんて思ってないもの」
エバラン村はジョーという英雄の出身地ではあるが、本来は普通の農村である。
「ただの村にはゴリラいないんですけどねぇ……。まあおっしゃりたいことはわかりますが」
ゴリラだって最近の話だし、王家の直轄になったりジョーの件で観光地化するかもしれないがそれは将来の話だ。スライムがいっぱいいるのは前からであるが、それは珍しいとはいえ吟遊詩人的に興味あることではない。
ウニリィは続けた。
「ただ、水臭くて不義理ではあるかなとか感じるけど」
「やっぱり怒ってます?」
「私はいいわよ。でも、スライムがなんて言うかな?」
ウニリィは1匹のウィンドエレメンタルスライムを抱えながらそう言った。
残りのスライムたちが再びどすどすとサレキッシモに体当たりを仕掛ける。
「いたいいたい」
サレキッシモがそう言うので、ウニリィがさっと手をあげると。スライムたちはすぐにサレキッシモへの体当たりをやめた。
攻撃は完全にウニリィさんの意志じゃねーかとサレキッシモは思う。まあ、もちろん本気で攻撃している訳ではないというのもわかっているが。スライムの攻撃手段で最も強力なのは消化液であるし、エレメンタルスライムなら次いで魔術だからだ。
「それで、結局話はどうなったの?」
「リンギェさんの意見が通って、私がエスコートするのは決まりました。詳細はちょっと言えないんですが」
まあ、ミドー公爵家という大貴族の内情の話でもあるし、サレキッシモが貴族という出自を隠していることもある。話し合いの内容まで言えないのは仕方ないかとウニリィも思う。
「とりあえずはウチやめてもミドー家にいる感じなのかしら」
「そうですね、しばらくはその予定です。もちろん、将来的に吟遊詩人に戻っても、エバラン村には行きますよ?」
「あら、そう?」
そんな話がありつつ、日々はすぎる。
サレキッシモはリンギェに連れられて夜会用の服などを仕立てさせられた。一から服を注文する時間はないが、公爵家の力で仕立て直しを最優先で行わせている。
ウニリィとクレーザーの服は以前用意したものである。公爵家は自分たちで服を用意したがったのであるが、新興男爵家にはそれに相応しい服の格というものがある。あまり華美にはできないのだ。
「仕方ないわね。悪い意味で目立っちゃっても困るし」
その話をしたトリュフィーヌは残念そうに言い、ウニリィは頭を下げた。
「恐縮です」
「でも揃いの装飾品くらい用意してあるわよね?」
トリュフィーヌは尋ねる。マグニヴェラーレは首を横に振った。
「いえ」
「はあっ? ……ヴェラーレ、今なんて言ったのかしら? 母は耳が遠くなったようです」
「ウニリィ嬢は兄であるジョーシュトラウム卿から貰ったという首飾りをつけたいと」
トリュフィーヌは手のひらを閉じた扇で叩いた。不快の念を感じさせる所作である。
「彼女には首しか身を飾る場所がないのですか?」
「……ただちに購入します」
「よろしい」
というわけで、急遽買い物デートが行われることになったのだった。
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