第131話:どうしてこうなった。
「あ、暴れているとは具体的にどんなことでしょう」
リンギェは問うた。
ウニリィは女の子である。こう、ぽこぽこ殴りかかるくらいの暴れ方だといいなぁと思ったが……。
「テイマーギルドの正面玄関を破壊し、吹き飛ばすくらいです」
「ひっ」
想像以上にマズい話だった。リンギェは振り返り、マグニヴェラーレの執事に声をかける。
「アルフレド、王城のちぃ兄様に急ぎ連絡を。それとミドー家にも一報を入れて」
「畏まりました、ただちに」
仔細を問う前にまずは動く必要があった。
なぜならマグニヴェラーレはウニリィの庇護者なのだ。彼女のなしたことの責任は彼が取らねばならないし、場合によってはミドー家にも降りかかるのだから。
「ウニリィさんが暴れだした理由は?」
「すいません、不明です。馬車を繋ぐためにちょっと離れた一瞬のことで」
「……目を離すべきではありませんでしたね。とはいえ、急ぎ連絡を入れてくれたことは感謝いたします」
「恐縮です」
サレキッシモは軽く頭を下げた。
リンギェはウニリィと一度しか会ったことはないが善良そうな人物であった。歳上の女性にいうのは間違っているかもしれないが、可愛らしい少女である。登城するためにおしゃれをしていなければ、素朴さを感じたことであろう。そもそも貴族にならなければ村の娘さんであったはずなのだ。
だが、トラブルメイカーにすぎる。普通の村の娘さんは王城で投獄されたり、屋敷を水浸しにしたり、ギルドの玄関を破壊しないものだ。
リンギェは立ち上がる。
「私たちも急ぎテイマーギルドに向かいます」
「はい」
さて、一方のテイマーギルドである。
リスコゥ・オーヒル、オーヒル伯爵家の出身であり、テイマーギルドの長は頭を抱えていた。
「どうしてこうなった……」
壁に穴が空いている。扉が倒れている。ギルドのロビーが嵐でも直撃したかのように色々なものが吹き飛んでいる。
受付嬢のノハナーが倒れた警備員の上でへたり込んでいる。鎮圧用に送り出された銀級テイマーも吹き飛んでいる。その従魔であるケルベロスが怯えて尻尾を巻いている。
「状況が急すぎる」
思わずそうひとりごちた。
どんな組織でもトラブルに対して組織の長が軽々に動くことはない。そもそもリスコゥのところにトラブルの報告なんてまだ上がってきていないのだ。
自身がテイマーでもある彼は従魔のフクロウを受付あたりに放し飼いにしている。それが異変に気づいたため、すぐに降りてきたのに、もうこの状態である。
ちなみにフクロウの無事はわかっている。そこらへんの書類の下に埋まっているが怪我はないはずだ。
「さて……」
この惨状を作り出したのが一人の少女だ。彼女は男性であるリスコゥが見上げるような位置にいた。宙に浮いているのである。
それもなぜか巨大なスライムに乗って。
無論、彼が知る限りにおいてスライムは空を飛ばない。
「武器を下ろせ」
彼は警備員に向けて言った。
「し、しかし……」
警備員たちは逡巡する。だが重ねて彼は言った。
「ここの長である僕が武器を下ろせと言っているのだが?」
「はっ、申し訳ありません!」
棒を構えたくらいでなんとかなるような相手ではないと判らないのか。
リスコゥはそう思う。テイマーであるからか、彼にはこのスライムが単に巨大なだけではなく、尋常ではない存在と見ただけでわかる。体色、魔力、そして明確に伝わってくる意思。
ただ、そうでなくとも宙に浮いた段階でおかしいと気づけ。そう愚痴りたくなる。
「壁際まで下がって得物を床に置け」
警備員たちは再び逡巡しかけた。長を残し警備員が下がるというのに抵抗感を覚えるのは、むしろ彼らの職務意識の高さゆえであろう。だが、リスコゥが『また同じことを二度言わせるのか?』とでも言いたげな表情を浮かべているのを見て、急ぎそれに従った。
リスコゥは両手を広げて、武器を持たず、敵意もないことを示しながらゆっくりと前に出る。
「ご機嫌よう、お嬢さん。そしてその従魔のスライム君」
「こ、ここ、こんにちは!」
慌てたような返答。
ふにょん。
そして巨大なスライムは触手を下ろした。
ほらみろ、警戒してただけじゃないか。リスコゥは思う。よーし、ステイ、ステイだ。
「僕はリスコゥ、テイマーギルドの長をしている」
「ぎ、ギルド長さん!」
「そう畏まらなくていい。ただの責任者だ。それよりお嬢さんのお名前と用件を伺っても良いかな?」
「えっと、ウニリィ・カカオと言います」
……話題の男爵令嬢じゃねえか!
リスコゥは知っている。テイマーギルドに就職し、貴族として家を継ぐわけではないために、そこまで現在の社交界に詳しいわけではない。新参の男爵令嬢なんて普通だったら知らないが、彼女だけは別だ。
英雄、ジョーシュトラウムの妹にして、授爵の儀で陛下の前にスライム持ってって捕まるという珍事を起こした令嬢なのだから。
「なるほど、カカオ嬢ですね。お見知り置きを」
「あっ、よろしくお願いします。それで、用件なのですが、ギルドランクを上げていただけないかの申請と、従魔の進化登録に」
飼育していた従魔がその巨大なスライムに進化したためとリスコゥは理解した。
「なるほど、ちなみにカカオ嬢のギルドランクは……?」
「木級です」
新人である。
「い、いつ登録しました?」
「10年くらい前に」
ウニリィがそう言い、巨大なスライムも身を揺らす。ギルド長は改めて頭を抱え、足元がおぼつかなくなってよろめき、思わず声が出た。
「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……!」







