第100話:あれ、王様に食べさせたのね
ξ˚⊿˚)ξ【祝】100話。
ウニリィがスライムたちに餌やりを始めると、マサクィたちも手伝い始める。
ジョーはしばし息を整えるように休んでいたが立ち上がった。
「おつかれー、すごかったぞー」
「楽しかったー」
村人たちはジョーに口々に声をかけてそれぞれの家へと戻っていく。ジョーは手を挙げることで返事とすると、スライムを踏まないように気をつけながらウニリィに近づき、声をかけた。
「なんか手伝うことは?」
「ううん、もうすぐ終わるから大丈夫。棒でも振ってていいよ」
「いや、さすがに疲れたからいいわ……」
ジョーは牧草地の柵にもたれかかる。
もー。
ジョーの横で牛が鳴いた。白黒ぶち模様の乳牛であった。
「なんだぁ?」
「あ、うちの牛。ポチコさん」
「おー、シーアか。そういや、シーアんとこ牛飼ってたな」
ジョーはポチコなる牛をわしわしと撫でる。ポチコは嫌がる様子もなく牧草地の方を見ながら泰然と撫でられていた。
視線の先にはウニリィやらスライムやらいるが、牛が興味を持つのだろうか? ジョーはシーアに尋ねる。
「こいつ、ここの草を食べたい感じ?」
「惜しいけどちょっと違うかな、あはは」
シーアが笑う。
スライムに餌をあげ終えたウニリィは、桶やら柄杓やらをセーヴンに渡してスライムたちに言う。
「はい、ご飯はおわりー。遊んでていいよー」
ふるふる。
スライムたちは牧草地の中央に向かってふるふる進んでいったり、ジョーの周りに集まって来たりするものもいた。
ふるり。
「……俺はもう疲れたよ」
ふるふる。
しょーがない、とでも言うように身を揺らし、彼らは離れていくのだった。
代わりにウニリィが近づいてくる。
「兄さん、ありがと」
「おう」
「スライムが進化しちゃったから」
「うん?」
「なかなか全力で遊んでもらうわけにもいかなくて」
「……そうだろうなぁ」
そりゃそうである。あんなもの村人になんとかなるようなものではない。軍やら騎士団やら金級の冒険者が対峙するようなものだ。ジョーはちらりとマサクィたちに視線をやる。彼はテイマーであるというが魔獣を連れていないし、セーヴンはかつて一緒に棒を振っていて、筋は良かったがそれはあくまでも一般人としての範疇でだ。
「きゃっ!?」
突如、ウニリィが悲鳴をあげた。
もー。
「あ、こらポチコ」
シーアの飼っている牛が柵の中に首を突っ込み、ウニリィの腰のあたりにぐいぐいと鼻面を押し当てているのだった。
シーアが慌てて引っ張るが、ポチコはウニリィのエプロンをむしゃむしゃ噛む。
「ひゃあ」
「こらー、やーめーなーさーいー」
ジョーが笑う。
「なんだよ、ウニリィさんモテモテじゃん」
「何言ってるの、ポチコはメスじゃない。やーめーてー」
乳牛なのだから、当然ポチコはメスである。
引き離してもなぜかウニリィに寄ってこようとするポチコを見て、ジョーは首を傾げた。5年前のウニリィはスライム以外の動物たちに好かれてはいなかったからである。
「あはは、ウニちんのとこの草が食べたいんだって」
以前、マグニヴェラーレのいた時に刈った草の残りがサイロにまだあるのだ。
ウニリィは、はぁとため息をついた。そろそろ村人と相談しなきゃいけないなーと思っていたことでもあるので、頃合いかとも思ったのだ。
「あのね、シーアちん」
「うん」
「前のときの美味しい卵あったじゃん」
「美味しかったよねー」
シーアはうんうんと頷く。
「あれ、王様に食べさせたのね」
「ええっ!?」
「そしたら、ちょー美味しいってなったので、エバラン村の畜産、王家の直轄事業? ってのになるから」
「わっつ!?」
「なんだって?」
シーアだけではなくジョーも驚愕した。
「ちょっとウニちん何を突然言ってやがりますか?」
「うっそだろ、エバラン村の鶏とか確かにうまいけど、王様がちょー美味しいっていうほどか?」
「これには理由があって……」
アースエレメンタルスライム将軍、要は黄色いスライムが土壌改良する能力があり、それが育てた草が動物たちには非常に美味であるらしく、こうして食べたがると言うこと。それを食べた畜産の肉や卵、乳の味も非常に良くなることをウニリィはジョーに説明した。
「んでちょっと前にヴェラーレさんが村に滞在してたんだけど、そこでの成果として王様に献上したの」
「卵を?」
「卵を」
卵持ってお城に行って、王様に献上する新参の男爵令嬢などそうそうおるまい。ジョーは自分自身も大概変な自覚はあるが、この妹も大概である。
「なんで、そのうちヴェラーレさんが役人とか連れてくるかもだからよろしくね」
「よろしくじゃないわよ! こういうのは村長とかに話しなさいよ」
「それは今度また話すから。今日はついでよ」
「なんのついでよ」
「ほら、今ポチコに草を食べさせてあげるから」
もー。
話がわかっているのか、ポチコは嬉しそうに鳴いた。
ウニリィとしても、5年ぶりに帰ってきたジョーに、せっかくだから美味しいものを食わせてやりたいというくらいは思っているのであった。






