プレイモード:ブレインリンクシステム(専用ヘッドセット、脳内アクセス対応)
まだ企画にならない話
シリーズ物の小話になりますが、これだけでも読めるかと思います。
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「それがストーリーのタイトル?
茶菜」
「そう、『うちのラスボス知りませんか?』、なんだけどどう思う?」
セルフサービスのカフェルームに並んだ立ち席専用の白い円形のカフェテーブルの1つで、テーブルに置いたパソコン画面を見ながら、二人の男女が話していた。
男性は白いテーブルに肩ひじをついて、少し考えてから体をチャナと呼んだ女性の方に向けた。
もう一方の手でパソコンに表示されているドキュメントのタイトルを指す。
「タイトルから思うに。
主人公は、複数のゲームのプレイヤーで、事故か何かで死んだら転生した。
という設定。
ゲームの舞台は多種のゲームが混在しているような世界かな。
その中の1つのゲームのラスボスが転生者である主人公の最推しキャラ。
その最推しキャラを見つけるというストーリーが基盤。
ストーリー的には、主人公が最推しキャラを探す過程で、様々なイベントを発生させる。
例えば、他のキャラとの戦闘や恋愛フラグなどが立つ、けど、最推しにたどり着くにはすべて蹴散らす必要がある。
ラスボスにたどり着き、そこからラスボスの周りでいろいろとイベントを発生させる。
最後に溺愛されるようになるとハッピーエンド。
って感じ?」
チャナは、テーブルにもたれさせていた体を起こし、そこまで語った男性に向かって、拍手をした。
「おーーーーっ!
さすが、葉稀さん!テスター歴最長者!
社長の弟!
ストーリー、おおよそ、その通り!」
パチパチパチパチッ
カフェの他のテーブルにも人はいたが、誰も気にすることはなく、自分たちのことに集中している様子だった。
「その歴、関係ないだろ?
まぁ、いいんじゃないかな?
戦闘要素、恋愛要素も入っているだろうことも想像つくし。
大堂って感じで、あとは細部をどれくらい作り込めるか、キャラクターの魅力をどう引き出せるか、かな。」
チャナは、栗色の肩まである髪を揺らしてうんうんと頷きながら、パソコンのキーを叩いた。
パソコン画面に表示していたドキュメントが変わり、別のイメージが表示された。
「あと、もう一つあるんだけど、タイトルが、
『「転生者当て、ゲーム」
~それは、平民の間に受け継がれている娯楽である。~』
って、感じなんだけど、どうかな?」
ヨウキはもう一度パソコン画面に目をやると、表示されたタイトルを見た。
「タイトルから思うに、なんか、怖そうな感じがするな。
平民ってことは、身分がなくて数が多い、
そして、転生者を当てて、何をするんだ
って、思うよね。
しかも、娯楽というのが、嫌な響きだ。
転生者は、転生者というのを当てられたら破滅しそうな感じもするし。
こっちはどちらかというと逃走系の脱出ゲームみたいかな。
この2つを、チャナ のグラスチームで出すの?」
チャナはうんうんと頷きながら、キーボードを再度叩き、2つのタイトルのドキュメントを画面に並べた。
「今度の企画プレゼンで、どっち出そうか迷ってるんだよね。
他メンバーも意見が分かれていて。
で、ちょうど中立の立場のヨウキさんがいたから、呼び止めて相談させてもらったんだけど。」
パソコンに表示された企画書のページがスクロールされる。
タイトル、目次、概要、企画内容、ストーリー、キャライメージ、etc
ヨウキはスクロールされる画面を目で追った。
「登場人物は前者の方が多そうだから、まとめるのに苦労しそうだな。
企画もまだそこまで詰められてないって感じだし。
後者は、シンプルな分、1つ1つのイベントを深堀り出来そうだ。
けど、こちらもまだまだみたいだな。
今度の社内企画プレゼンって、3チームで発表するんだったっけ。
1チームが出すゲームストーリーの数は制限されたないだろ?」
「うん。
これから作り込むんだけど、両方じゃなくて1つに絞りたいんだよね。」
チャナは両肘をテーブルにつけて、両手で顔を支えた。
そのまま首を左右に振り子のように振っている。
「他のチームはどんな内容か聞いてる?」
ヨウキはスクロールされ終わった企画書の最後ページからチャナの方に目をやった。
「うーん、小リボンチームは、いつものごとく薔薇・百合要素入れるって聞いた。
あのチームは、自分たちの好きなものを好きなように入れ込んで、うまく企画して、その上、情報を隠さないんだよね。
というか、話したくて仕方がないから隠せないっていう方が正しいかな。
近くにいると引くけど、遠くから見てるとすっごく楽しそうにやってるから、元気になるよね。
もう1つのチームは、魔法世界のゲームとかなんとか言ってたと思う。」
半笑いになっているチャナの後ろから、二人の女性が近づいてきて声をかけた。
「なに?私たちの話?」
ストレートの黒髪を腰まで伸ばして、同じような恰好をした美人がチャナを左右から囲んだ。
二人の身長差は20cmくらいありそうだ。
チャナは左側の女性から見上げられ、右側の女性からは見降ろされている。
「みごとな、低・中・高だな。」
ヨウキは、「高」と表現した女性に肩を小突かれ、テーブルの反対側に追いやられながら呟いた。
チャナは目を丸くしながら、左右にいる二人の顔を交互に見た。
「びっくりした。
虹心さん、と心彩さん、いつの間に。
あ、そうそう。
今度の企画プレゼンの話、してた。
二人のいる小リボンチームは、いつもの要素入れるんだって話もしてた。」
チャナを挟んでニコとココアが火花を散らした。
「そうなの!
どのキャラクターをどう入れ込むか毎日討論の日々なのよ!」
熱い二人をよそに、チャナはパソコン画面を指してため息をついた。
「こちらは討論というより、選択なんですけど、どちらがいいのか決め手がなくて。」
「どれどれ、なるほど、なるほど。」
左にいたチャナより背の低いニコが、勝手にパソコン画面のウィンドウをスクロールさせた。
「「どっちも出してみたらいいんじゃないの?」」
一通り見たニコとココアが瞳を綺羅つかせている。
チャナは、両手に力を入れて頬をぎゅっと絞るように顔を挟んだ。
「んー。
どっちかというと、うちのチームは1つをじっくり作り込む方がいいタイプなんだよね。
だから、1つに絞りたい。」
ニコが、瞳をさらに綺羅つかせて、語り出した。
「じゃあ、私は『うちのラスボス知りませんか?』がいいかなぁ。
主人公とラスボスを同姓に設定しておいて、異性を探させて、最後になんで同姓なのにこの人に惹かれるの?って
主人公を悩ませて・・・、悩む主人公には萌えがあると思うわ!
パートナーとなるラスボスの方も、そこで、、、」
まだニコの話は続いていたが、チャナは一応答えた。
「それ、ちょっと違うイメージになるから。
それにユーザーを主人公にするから、だから悩むかどうかは・・・」
右側のチャナより背の高いココアも、瞳をさらに綺羅つかせて、語り出した。
「私は『転生者当てゲーム』がいい。
村やクラスでもいいけど、あるグループ内に転生者が一人だけいることが発覚。
転生者である主人公は引っ込み思案で奥手な子という設定で、自分から名乗り出ることはしない。
けど、追い詰められて、見つけ出されて、皆に崇め奉られてて、ハーレム化して、身も心もささげられるものだから・・・」
こちらもまだ話が続いていたが、チャナは一応答えた。
「それも、ちょっと違うストーリーカラーというか。
年齢制限から変えないといけないというか。」
三人の女性から外れてしまっていたヨウキが、カフェルームに併設されている談話ルームから出て来た4人に気づいた。
「談話室から出て来たの、前回の企画が通った「討伐される何んとか」のプロジェクトマネジャーじゃないか?
開発コアなマネージャーもいるみたいだな。」
チャナは顔を上げて、談話室から出て来たばかりのメンバーの顔見て、目を見開いた。
「ほんとだ。
開発コアなマネージャーのシキさん!」
カフェルームの出口に向かっていた4人の中で、黒い眼鏡をかけた男性が、その声にビクッと肩を震わせた。
チャナは右手を上げて、こっちに来てとばかりに振って、大きな声で叫んだ。
「シキさん、これ見てくれませんか?
組むとしたらこれどっちが組みやすそうですか?!」
自分の世界を呟いていたニコが、ハッと我に返り、チャナを見た。
「えっ?それ聞いちゃう?」
ココアも自分の世界から帰ってきた。
シキと呼ばれた男性が、背の高い他メンバーの陰に体を移動したところを見て、目を細めた。
「って、シキさん、こっちも見ずに人の陰に隠れてやり過ごそうとしているようだけど。」
他の3人も困った様子だ。
ヨウキが、納得したように小声で言った。
「あーーー。
シキは小リボンチームの二人、苦手だもんねー。」
ヨウキは4人に向かって、何でもないように手を振った。
そのやり取りを見て、出口に向かっていた4人は早々にカフェルームから退避した。
ニコとココアがムッとした顔をヨウキに向けた。
「聞こえてるわよ。
というより、あの人、”人間”全般苦手でしょ?
というより、チャナ!それは無し!
プログラムの作りやすさを基準にしたら、面白い話はぜーーーーったい書けないから!
悩ますくらいが、お互いのため!」
チャナは瞬きを数回して目が覚めたような顔で二人の顔を交互に見て、拍手を送る。
「そうだよね!
小りぼんちゃんチーム、さすが、いいこと言う。」
パチパチ
すると、小さな声が後ろから聞こえてきた。
「悩ますことを心配をする必要はないと思う。
シキさんは矛盾も紐解いて、アルゴリズム化する人だから。」
「「「わっ、アオバさん、どっからわいたの???」」」
三人は一斉に振り返り2mほど離れたカフェテーブルの方を見た。
そこにはヨウキより少し背の低い黒メガネの男性が、紙コップを持ってテーブルに寄りかかっていた。
ヨウキからは視界に入っていたはずのテーブルだったが、今、気がついてアオバの方を見た。
「・・・さっきから、隣のテーブルに誰かいるなとは思ってたんだ。
誰かは認識できてなかったけど。」
アオバはしまったという顔をしている。
「気配消してたから。
誰かいると気づかれることもあまりないんだけど。
シキさんの名前が出たからつい声が漏れた。」
チャナは、半ば呆れながらアオバに向かった。
「気配消すの上手すぎです。
忍者ですか?」
アオバは持っていた紙コップの中のものを飲みほした。
「・・・・」
アオバが飲み干した紙コップをセルフサービス用のコーヒーサーバーの横にあるゴミ箱に放り投げると、ヨウキは声をかけた。
「そうだ、アオバ。
今度の企画プレゼンの後にプロジェクトが決まったら、また、学生のテスター応募すると思う。
アオバの大学の教授にまた、声かけといてもらっていい?」
ゴミ箱の方を見ていたアオバが、声をかけて来たヨウキに柔らかい表情を向けた。
「いいですよ。
教授にも、応募した生徒にも前回のテスターのバイト好評だったみたいですし。
プロジェクト決まったら教えてください。」
「うん。わかった。」
「それじゃ、俺はこれで。」
早々に立ち去ろうとしたアオバに、ヨウキが思い出したように声をかけた。
「そういえば、この間、ゲーセンでリーマン風の男と一緒にいたって聞いたけど。
ゲーセンのイメージってあまりないよね?アオバ。」
アオバは一瞬足を止めて、嫌そうな顔をヨウキに向けた。
「なんのことですか?」
そのやり取りを聞いていたストレートの黒髪が腰まである二人が、その身長差の角度をものともせず、お互いに目を合わせた。
かと思うと、クルっと体の向きを変えてアオバにじりじりと近づいていった。
「「最近、ゲームセンターでアオバさんと年上男性との目撃情報がある件について、お伺いしたいのですが。」」
アオバは無言+最速の早歩きで、カフェルームの出口に向かった。
「「「・・・」」」
その後を、腰まであるストレートの黒髪がこいのぼりが泳いでいるかのように見える速さで二人の女性が追って行った。
「アオバさんを追っかけて、小リボンチームも行っちゃった。
ヨウキさん、アオバさんを揶揄うって、勇気ありますね。」
チャナはヨウキに尊敬の眼差しを向けた。
ヨウキは半笑いになりながら、パソコンの前に移動して、画面を見なおした。
「で、どうする?どっちにするか。
まだ時間はあるんだろう?
俺は、後者の心理ゲームよりは、前者の方が万人受けすると思うけど。
もう少しだけ作り込んでみて、どちらをやりたいかチームで話してみたら?」
「そうだね。
もうちょっと両方のストーリーを作り込んでみて、それからチームに相談してみる。」
チャナはパソコンの液晶画面を閉じた。
「頑張って。」
「ヨウキさん、ありがとう!」
チャナはすがすがしい顔をヨウキに向けて、カフェを後にした。