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48.好きだと言って

 


「もう一度言って」


 いつものように、エリアス先輩の長い腕が、私を捉えた。

 だがしかし、今の私は顔から水分が爆発している状態だ。


「はにゃしてくらはい······! ひぐっ······」

「嫌だね」 


 ズビズビと鼻を啜ると、エリアス先輩の腕の力はさらに強くなる。


 こんな高そうなモーニングコートなのに、先輩は構うこと無く私を抱き締めて離してくれない。


「は······鼻水ついちゃいますよ! な、涙だって······ついたら跡が残るんだから!! 黒の服って汚れ目立つんだから!!」


「構わない。どんどん拭え。だから······もう一度言ってくれ······!」

「黒の服は······」

「それじゃない」


 何だ急に。

 さっきまで、私に一方的に罵倒されてたくせに。

 難癖に等しい言いがかりみたいな私の意見にしゅんとなって聞いてたくせに。


「俺を、好きだと言ったよな?」

「······言ってない」

「言った」

「言ってませんー! 『ならなきゃ良かった』って言ったんですー!」

「同じことだろ?!」

「全然違いますよ! それに僕は留学生だから少し言葉遣いおかしいんですぅ! 表現おかしいんですぅ! いちいち鵜呑みになんてしないでくださいよ! 馬鹿じゃないの?!」

「何が留学生だ、そんだけベラベラ口が回るくせに!」

「留学生が留学生って言って何が悪いんです?! ばーか! ばーか! 先輩のばーか!」

「5才児の喧嘩かよ······!」


 止まらない私の罵倒に、先輩は少し眉を顰めたが、未だ涙を零す私をじっと見ると、溜め息をついて。またギュッと抱き締めた。


「最初の連絡は、合宿のすぐ後」

「ひぐ······ふえ······?」


 先輩は私を胸の中に閉じ込めたまま静かに言った。


「お前のお父上に、ブルクハウセン国での舞踏会で、レフィのドレスをどうするかを連絡したんだ······年寄りの大学教授に教えてもらってブルクハウセン語を覚えて、返信が来てお前の性別を確信したし、本名も知った」


 そういえば、先輩はさっきお父様にブルクハウセン語で話しかけていた。


 こんな短期間で覚えたの?

 どんだけ優秀なのよ、この人。


「そこから、何度も何度も結婚を許して頂けるよう手紙を書いた。俺の父上にはいの一番に婚姻許可を貰ったけど、ランベルト殿下と国王陛下に頭を下げて、ブルクハウセンの国王陛下宛の婚姻の承諾申請もした」


「こ······国王陛下?! そんなとこまで手を伸ばしてたんですか?!」


「したさ。そうしなければレフィを自分のものに出来ないんだから。殿下の指示なんかじゃない。全部俺の意思だ。全て俺が動いた。殿下と陛下にはヴァルテンブルク国としての認証の為に何度かサインと印をお願いしているけど」


 私が先輩が倒錯趣味か否か阿呆みたいに悩んでいた頃、エリアス先輩は国王陛下を相手にそんなことをやっていたなんて。


「ブルクハウセンの国王陛下からは、承認してくださると昨日殿下が直接口頭で確認してくださった。正式には後日書面で貰う予定だけど······だけど、お前のお父上には『レフィリアーナの意思を尊重して欲しい』とずっと保留にされていたんだ。ちゃんとレフィから返事を貰えた後にも、レフィの承諾を貰えたから正式に婚姻手続きを進めさせて欲しいって手紙で書いたんだけと、結局今日になるまでちゃんとした回答は頂けてなくて······」



 ────お父様······



「やっと······これでやっと手に入れられる······レフィを俺のものに出来る······!」


「なんで······何で僕なんですか······? ヴァルテンブルクの貴族令嬢だったら、もっと簡単に結婚出来たじゃないですか! もっと綺麗で上品で知的な令嬢なら沢山いたじゃないですか!」


「お前じゃなきゃ、駄目なんだよ······っ!」


「だからどうして······」


「お前が理解出来ないくらいに、好きで好きで愛おしくて堪らないからだ······! レフィリアーナ!!」


 力が弛んだ瞬間、エリアス先輩と目が合った。


 サファイアブルーの瞳の奥に何か強い揺らめきが見えた一瞬、先輩は私の両の頬を掴んで唇を塞いだ。








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