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第3話 ギルド

 王都へと入った2人は迷いのない足取りである目的地へと向かう。正確に言えば迷いのない足取りで歩くリュークの横に並んで、追従する形でメアが歩くというかたちだ。


「どこへ向かっているのですか?」

「冒険者ギルドさ。依頼の達成報告をしにね。メアは冒険者登録するのかい?」

「冒険者とは何をするのですか?」

「魔物を討伐したり、薬草なんかを採取したり、まあ色んなことをする職業だよ。ただ命の危険も十分あるからそこは十分に気を付けてね」


 そこまで言われてメアは思い悩む。この世界における自分の実力が不明な今、そういった職業に身を投じるのは危険ではないかと。


「う~ん、どうしましょう」

「悩むんだったらとりあえず登録だけでもしておくといいよ」

「そうなんですか?」

「損はないしね。登録料も僕が持つからいいよ」

「何から何まですみません。このお礼はいつか必ずします」

「あはは。別にいいよ。僕が好きでやってることだからね」


 ここで一度会話が途切れる。メアは会話に向けていた意識を自分の周囲に移した。石造りの道の両端に木造の民家が立ち並び、ところどころで出店が開かれている。


「賑やかですね。色々な種族が手を取り合って生きていて、いいところです」


 あるところではエルフの女性が出店で雑貨を売っているドワーフの男性と話し込んでおり、別のところでは獣人の女性と人間の男性が仲睦まじく手を絡ませながら歩いている。それは多種族が手を取り合って生きているからこその風景だった。


「そうでしょ? 僕の密かな自慢さ。この国は種族の差別がないんだぞ! ってね」


 そう言うリュークの顔は誇らしげで、自信に満ちたものだった。


(にしても、獣人にエルフやドワーフときて、ますますLaDOの世界観に似てきたな)


 リュークと会話しながらも、メアは頭の中で情報を整理する。獣人やエルフ、ドワーフもLaDOに存在している。さらにはLaDOで使っていた魔法もこの世界で使えたのだ。


(LaDOでは出来なかった魔法の威力や速度の直接的な調整を、この世界では出来たんだったっけか。まるでボールを投げる力を調整しているような感覚だったな。どうして魔法の調整をできるのかと言われたら、出来るからとしかいいようがない)


 LaDOにおいて魔法の威力は直接的な調整ができない。キャラの能力(パラメータ)から威力が算出され、決まったエフェクトと共に発動するのが、LaDOにおける魔法だった。装備を変更したりすることにより、キャラの能力(パラメータ)を調整することで間接的な魔法の調整は可能ではあるが。


 しかし、この世界では違った。≪ウォーターボール≫を使った後、更にメアは魔法を使ってみたが、戯れに魔法の大きさや速度、威力を調整しようと思ったら出来たのだ。ちなみにLaDOで調整できるのは威力のみであり、速度や大きさは調整できず固定されている。


「メア、大丈夫かい?」

「え? ああすみません。大丈夫です」


 違和感を感じ取ったのか、リュークは心配そうな表情でメアに問いかける。メアはしまったと思いながら、心配そうな表情で見てくるリュークに返答した。


「本当かい? それでね────」


 情報整理はまた別の機会にしようと決め、メアはリュークとの会話に集中し始める。そしてそうこう話しているうちに一行は冒険者ギルドに到着した。周りの建造物よりも2回りほど大きな建物で、両開きの扉の上には剣と盾を形どった看板があり、ここが冒険者ギルドだと伝えてくる。


 リュークが両開きの扉を押し開く。何か引きずるような低い音と共に2人が冒険者ギルドの中に入ると、入口近くにいた者たちが一斉に2人に視線を向けた。その視線ははまさに肉食獣が獲物を見定め、力量がどれほどのものかを探るものだ。


 2人に視線を送る者たちは、まずメアを見て目を微かに見開き、リュークに視線を移してさらに目を見開いていく。


「『光の剣士』……」

「リュークか。ってかまた新しい女引っ掛けてきたのかよ」

「羨ましいぜ。これまでも引っ掛けてきた女はみな上玉だったのに、今回のはさらに格別じゃねえか」

「しょうがねえだろ。15でAランク冒険者なんて実際ありえないんだからよ。おまけに公爵家の次男だ。惚れない女なんていねえだろうよ」


 リュークの姿を認めた者たちが口々に言いあう。しかしその発言の中には聞き捨てならない言葉があったのをメアは聞き逃さなかった。


(リュークがハーレム築いているのはいい。だが俺がそのハーレムの一員になっていると思われるのはさすがに放置できないな!)


 メアは今は女性とはいえ、元は普通の男性。女同士でカップルだと思われるのはいいが、男とくっついていると思われるのは我慢できないのだ。メアが異議を唱えようとしたとき、隣から声が上がった。


「メアは違うぞ! そんな関係じゃない!」


 その一声に帰ってきた反応は様々だったが、大部分を占めた反応として挙げられるのは”呆れ”だった。現に近くにいる冒険者たちはみな、嘲るような薄い笑いを浮かべて首を横に振っている。それはまさにしょうがない奴だな、と言わんばかりに。


「そんな関係じゃない、だってよ」

「まだって頭に付け忘れているぞ!」

「そういって結局くっついた事例があるのを俺たちはわすれちゃいねーぞ!」

「うぐっ…… とにかく! そういう関係ではないからな!」


 形勢が不利と見るや否や、リュークは強引な足取りでカウンターらしき場所へと向かっていく。メアもそれに付いていくように追従する。


(なんかすごい見られてる! 主に胸あたりを! 超きもちわりぃ!)


 歩きながらも、メアは全身に絡みつくような視線を鋭敏に感じ取る。

 冒険者というのは職業柄、マナーに疎いものがほとんどだ。そんなものを学んでいる暇があるなら剣なり斧なり振って自分の身体能力を強化しろというのが冒険者たちの一般的な考えなのだから。当然ながら女性への視線の配り方というのも知っている筈がなく、メアの豊満な肢体や整った顔も相まって、男冒険者たちは嘗め回すようにメアを眺めている。


「ホント良い女捕まえてきたよなぁ…… 俺もあんな女とヤりたいぜ」


 誰かがぼそりと呟いた言葉。誰に聞かせるわけでもないものだったが、メアは聞き取ってしまった。そう、聞き取ってしまったのだ。


(ヒィィ! ヒィィィ! ごめんなさいごめんなさい! 俺も前世でこんな目線送ってたりしてたんですよね女性のみなさんごめんなさい生きててごめんなさい!)


 男の欲望が耳から入り込んできたことも相まって、メアは必死に無表情を保っているものの、心の中では錯乱中であった。


「はい。依頼完了ですね。これが報酬になります」


 絡みつく視線に耐えつつ、メアはなんとかリュークのいる受付まで辿りつくことが出来た。心の中は荒みに荒んではいるが。


(≪憤怒の炎≫がいいかな? ≪嫉妬の(いかずち)≫も捨てがたいな。どうやって仕留め……)

「メア? 大丈夫?」

「ひひっ…… はっ! なっなんですか?」

「いや…… 凄い表情だったから……」


 光を失っているかのような虚ろな目し、口元は弧を描くように歪んでいる。その状態でなにかぶつぶつと呟いているメアを見かねたのか、リュークは主に精神面での安否を問う。


「だ、大丈夫ですよ?」

「そ、そうか。良かった」


 意識を現実へと引き戻したメアとリュークの会話に一段落ついたとみるや、ギルドの受付を担当している女性がメアに話しかける。


「可愛らしいわね? あなたは?」

「私はメアと言います。冒険者登録しに来たのですが……」


 メアは受付嬢に目を向ける。明るい茶色の髪と目をした20後半の人間の女性で、大人しめの印象だが、その印象とは裏腹に凶悪な双丘を持っている。


「冒険者登録ね? 登録料がかかるけどいいかしら?」

「登録料は僕が持つよ」


 2人の会話に割り込むようにリュークは受付に登録料を置く。


「あらあら、もしかしてそういう?」

「「違います」」


 メアとリュークが同じ言葉を、同じタイミングで発する。それを見た受付嬢は一瞬呆けた後、クスリと笑う。その微笑には分かっていますよ、というニュアンスを含めていることがありありと見て取れた。


「仲がいいのね?」

「うっ…… とにかく! 彼女に説明を!」

「はいはい。それではメアさん、冒険者について説明しますね。冒険者はここ、冒険者ギルドによって紹介された依頼を受注してそれをこなすことで報酬を得て、生業としています。基本的には私達人類に敵対的な魔物の討伐が主な依頼ですね。ここまではいいですか?」

「はい。大丈夫です」

「次にランクについてです。冒険者にはランクが設定されており下からGランクからSランクまであります。ランクが上がるにつれ、依頼が難解なものになっていきます。そして十分な実力を備えていると思われる人には昇格試験が出され、それに合格しなければランクは上がりません。ランクが上がれば上がるほど依頼と同じように昇格試験も難解なものになります。なので、本当に強力な魔物に挑める人はほんの一握りですね」

「なるほど」

「では、これをどうぞ」


 そういって受付嬢はドックタグのようなものを取り出し、メアに手渡す。


「これは?」

「冒険者であることを証明するものです。それが森などに落ちてた時は拾ってギルドに提出してくださいね」

「それってつまり……」

「はい。ようは死亡届ですね」


 死亡届とはっきり言われ、メアは背筋に氷がつっこまれたような感覚に襲われた。冒険者がやることはつまるところ命のやり取り。一瞬の油断が死を招く恐ろしい職業であることをメアは再認識する。


「あと、依頼はあちらのボードから選ぶことが出来ます。あちらから依頼書を受付へ持ってきて、受注申請してください」


 受付嬢が指をさした先には木製と思われるボードがあった。たくさんの紙が貼られており、それが依頼書だと一目でわかる。


「他にも────」



「これで以上です。分からないことがあれば気軽にお尋ねください」

「ありがとうございました」


 細々とした説明や書類への記入も聞き終え、メアは頭を下げて礼を述べる。そしていつの間にか少し離れたところに移動していたリュークの元へ歩いていく。


「終わったのかい?」

「はい。無事に」

「そっか。じゃあギルドから出ようか」

「これからどこへ?」

「ん? 僕の家だよ」

「え?」

「え?」


 一気にメアの体が強張る。先程までリュークに対して普通だったメアの視線も、今ばかりは警戒心がありありと浮かび上がっており、わずかな動きであっても見逃さないという気迫さえ感じる。


「誤解しないで! 宿をとるより僕の家の方が色々便利でしょ?」

「まあ確かに便利ではありますがね……?」

「それに僕はもう妻たちがいるんだ! 不埒なことは誓ってしない!」

「ああ、そういえば妻”たち”がいるんでしたね」


 ここでメアはリュークがハーレムを築いていたことを思い出す。


「そうだよ。彼女たちの目もあるし、何より僕は絶対にしないから」

「そうですか……」


 まだ数時間程度の関係ではあるが、リュークの人となりをメアは何となくわかっていた。不埒なことを出来るような性格ではないということも把握済みだった。


「分かりました。でしたらお邪魔してもよろしいですか?」


 そして何より、メアは心の中でどこか寂しさを感じていたのだ。急に文化も常識も違う異世界へと1人で放り込まれ、まるで暗闇を歩き回るかのような足元の頼りなさを感じつつも行動を起こさなければならない。そんな中でリュークという1人の人間と知り合った。縋りついてしまうのも仕方のないことだった。


「良かった。それじゃ、行こうか」

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