別れと告白
夏休みも終わり、今日から新学期。
授業も部活もなくて、悠磨くんがクラスまで迎えに来てくれた。
でも、直ぐ帰るんじゃなくて教室の中で、お喋りを楽しんでいた。
教室内に誰も居なくなったとき。
「なぁ、亜耶」
悠磨くんが声をかけてきた。
私は、悠磨くんの方を見た。
「何?」
返事を返したけど中々言葉を発しない彼。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
と聞いていた。
彼が、私の事をじっと見ていたから。
「ううん、何でもない…」
そう返ってきたけど、なんだか浮かない顔をしている。
何かあったのかなぁ?
何て思っていたら。
「亜耶。キスしようか…」
悠磨くんが言ってきた。
今まで、何度もそういう雰囲気になった事あるけど、聞かれたこと無かった(全部、流れたけど…)。
何で、今なんだろう?と思いながら。
「…う、うん。いいよ」
って答えていた。
その答えを聞いて、ホッとした顔を見せた悠磨くん。
ゆっくりと近付いてきて、もう少しで唇が触れそうって所で、遥さんの顔が浮かんで、気が付けば両手で彼を押し退けていた。
「ご、ごめん」
私が、慌てて謝った。
「…なんだい。やっぱり亜耶は、オレを見てくれてなかったんだな」
って、小声で彼が言う。
まさか、気付いてたなんて…。思ってもいなかった。
「亜耶の胸の内に居るのは、オレじゃないんだろ!オレは、あの人の代わりなんかじゃないよ。オレの事をちゃんと見てくれよ」
悠磨くんの言葉に胸が痛くなった。
もう、本当の事を伝えないといけない時がきたんだって。
「ごめん。悠磨くんの事利用してた訳じゃないの。ちゃんと好きだった。でも、何時の間にか悠磨くんよりも遥さん(あのひと)の存在の方が大きくなってて、あの人じゃないとダメだって最近になって気付いたの。ごめんなさい」
私は、心から謝罪した。
彼を傷つけたのは、他ならぬ私だから。
「行けよ…」
彼の言葉にビクリと震える。
行けとは?
この時、未だわかっていなかった。彼が直ぐ近くに居ることを。
「行けよ!オレの事なんか構わず、あの人が待ってるから…」
彼の弱々しい声。
待ってるって、まさか。
悠磨くんの言葉に疑心暗鬼になりながらも。
「ごめんね、悠磨くん」
もう一度謝ってから、鞄を掴み教室を出た。
悠磨くん、目を合わせてくれなかった。
怒ってるよね。
もう、話もしてもらえないのかなぁ。
私が傷つけたんだから、それぐらいの覚悟いるよね。
涙が溢れて止まらない。
私が泣いちゃダメってわかってるのに…。
下駄箱で上靴から下履きに履き替え、正門に足を向ける。
涙は一向に止まらない。
正門に近付けば、人垣が出来ていて、何だろうと思い覗けば愛しい人の姿。
私は、ゆっくりとその人垣を抜けて、彼の前に立った。
「は、遥さん…」
泣いていたから、ちゃんと声がでなかった。
「どうしたんだ?何で泣いてるんだ?」
遥さんが、優しい声でそう聞いてきたけど、ただ黙って首を横に振るしか出来なかった。
彼を不安にさせたのかもしれない。何か言わなきゃって思っても、上手く言葉がでなかった。
「亜耶。話して欲しい。君の哀しみを取り除きたいんだ」
彼の優しい瞳を見たら、またもやポロリと涙が溢れだした。
「悠磨くんとお別れしたの。彼を傷つけてしまった自分が許せなくて…」
私は、遥さんに言ってはいけないと思いつつも言葉に出して告げていた。
すると。
「亜耶の気持ち、アイツはずっと前から知ってたんだよ。亜耶が、言い出せないことも。だから、亜耶が気にすること無い。アイツは、亜耶に笑ってて欲しいから、自分が悪役になってくれたんだ」
遥さんが優しく抱き締めてくれた。
「亜耶。亜耶の胸の内に居る男は誰?正直に話して」
遥さんの言葉にゆっくりと顔をあげて、目を見て。
「今、私の中に居る人は、遥さんです。私…遥さんの事…好きです」
そう言葉を告げた。
「そう。じゃあ、俺もちゃんと言うな」
遥さんはそう言うと、私の前に膝ま付き、右手を取って。
「…鞠山亜耶さん。好きです。結婚を前提にお付き合いお願いします」
って、真顔で告白してくれて、何時準備したのか薬指には指輪が嵌められていた。
私は、遥さんの目を見て。
「……っ、はい」
って答えた。
遥さんのホッとした表情が目に入った。
緊張してたのかな。
普段見せない姿だったから、そうだよね。
周りでは、囃し立てる声がするが、どうでもよかった。
だって、嬉しさが込み上げてくてるんだもの。
皆の前で、堂々と告白されたらね。
恥ずかしいけど、嬉しい方が大きいよ。
遥さんが立ち上がり、私の頬に手を伸ばしてきた。
「亜耶。もう、泣き止めよ」
遥さんの指が、私の涙を拭う。
「無理だよ。嬉しすぎて、止まらないの」
泣き笑いの状態の私。
困った顔をする遥さん。
一時期、私は彼の想いを疑った。
彼は、ずっと私を想って居てくれたのに…。
でも、こんな風に真剣に言葉にしてくれたら、嘘偽りの無い想いだって思える。
「亜耶。愛してる」
彼が耳元で囁いてきたから。
「私も、愛してます」
そう口にするには、恥ずかしかったけど、言わないと伝わらないって事がわかってるから、口にしたら彼が強く抱き締めてきた。
私は、彼に背に腕を回して抱き締め返す。
この腕の温もりを放したくない。
ずっと、傍にいたい。
遠回りしてきた私の想いは、やっと報われた。
それは、無駄なことじゃないって信じてる。
それにね、今までヒミツにしてきた年上の婚約者が居ることもこれを期に皆に知れ渡るよね。こんなに堂々と宣言してるんだもの。
ここからが、私達のスタートだから。