#1.覇神帝羅の挑戦
マゾ・カード キービジュアル
カードゲーム。
今や3000憶を超える規模のこの市場は活気に湧いている。
その魅力は戦略性、コレクション性、コミュニケーション性、
そして毎回異なる体験が楽しめる点にあると言う。
そんなカードゲーム市場からは外れたアンダーグランドの世界で、
今密かに活況を示し始めている界隈が存在した。
それが【マゾ・ゲーム】と呼ばれるもので、
競技人口は未知数ながらもそれほど多くは無いと考えられる競技だ。
このゲームのプレイヤー達には一定の共通した思想があり、
それは『どうしようもない人間達を矯正する』といったものだ。
プレイヤー参加希望者達は、ある閉じられたコミュニティに参加する。
そこで認められれば黒魔術を受けて、晴れてプレイヤーとなる。
プレイヤーとなった人物はマゾをカードに封じる力を得る。
マゾをカードに封じたプレイヤーは、それをマイカードとして所持出来る。
更にマゾ・カードのプレイヤー達にはある一つの共通目標がある。
それは、世界でただ一人のマゾ・カードチャンピオンと認められた時、
世界の全てを我が物に出来るという特権である。
元来支配欲の強い彼らにはこの特権が非常に魅力的なのだ。
『どうしようもない人間達を矯正する』といった表向きの理由の裏には
このような特権的景品も絡んでいると考えられる。
そして今日もまた一人のプレイヤー希望者が現れた。
【覇神帝羅】19歳。
覇神財閥の令嬢であり、常に何不自由なく生きて来た彼女。
義務教育は受けておらず、全てを帝王学のみで学んで来た。
そんな彼女がマゾ・カードプレイヤーになる事は自然な流れだった。
「もー、パパったらマゾ・カードプレイヤーになるのは成人してからって
そんなんじゃ遅いのよ。我儘言って一年早くして貰って良かったわ」
彼女がマゾ・ゲームプレイヤーを目指した理由についてはまだ不明だ。
そのまま財閥令嬢として過ごせば安穏たる暮らしを享受出来たはずである。
それを捨ててまで戦いの場に出るというのは聊か不思議である。
彼女は横の繋がりの中から、マゾ・ゲームプレイヤーになる為の
地下秘密倶楽部コミュニティの場所については既に知っていた。
都内某所の地下室に集まっているその集団は、マゾ・ゲーム主催団体だ。
帝羅は身なりを整えて、その地下室へと向かった。
少し小雨の降る中、彼女はそそくさと雑居ビル近くの地下へと続く道を
人目を避けるように降りて行った。
すると、扉が中から開かれて一人の人物が顔を覗かせた。
「いらっしゃいませ、覇神帝羅様で御座いますね?
こちらへどうぞ。」
頭の頂点が鋭角の三角形に尖った真っ白の法衣を着た謎の人物に促されて、帝羅は建物の扉の中へと招き入れられた。
中に広がっていた空間は思いの他広かったが、何も無かった。
「殺風景な所ね。こんな所で試験をするのかしら?」
「まぁ、玄関から見える範囲なんてこんなものですよ。
入って来ていきなり調教していたら、色々とおかしいでしょう。」
そうして案内人は奥の方にある一つの扉の前に帝羅を導いた。
「どうぞ、この中でお待ち下さい。
マゾ・カードプレイヤーの適性試験が行われます。」
促されるまま、帝羅は扉の奥へと歩を進める。
そこは、先程までの玄関から続く室内と違い、
洞窟風の岩場を切り建てた空間だった。
「都内の地下にこんな場所を作るなんて...。
これ、作り物じゃなくて本物の岩場よね?
わざわざこんな造りにしてる意味って何かしら。
まぁ、一筋縄じゃ行かないって所みたいね。」
そこへ、岩場の奥の方から一人の人物がゆっくりと、
ぬらぁ~っとした足取りで近付いて来た。
「ようこそ、マゾ・カードプレイヤー選別試験へ。
お名前は?」
顕れたのは腰の曲がった老人だった。帝羅が答える。
「覇神帝羅よ。人の名前を聞く時はまず自分から名乗るもので無くて?」
「ふぉっふぉっふぉ、これはすまんのぅ。ワシは見極真。
お主が本当にマゾ・カードプレイヤーに相応しいかどうか、
試験をさせて貰うぞ。」
そう言うと見極は、再び岩場の奥へと向かい、
何やらジャラジャラと音をさせながら再びこちらへ歩いて来た。
彼の手には鎖が握られており、その鎖の先は一人の男の首に繋がっていた。
「誰よ、それ。」
男は裸で顔は少し俯いている。手は後ろで縛られているようだ。
適度に付いた筋肉と、所々には贅肉もあった。
「コヤツは試験用のマゾじゃ。
まずはコヤツを屈服させ、カード待ち状態にさせるのじゃ。」
「カード待ち状態?言ってる意味がわからないのだけど。」
「あぁ、全くの初心者じゃったか。再戦者だと思っておったわ。
カード待ち状態とは、マゾが完全に屈服させられてしまい、
あとはもう煮るなり焼くなり好きにして下さいと言った、
完全に好き放題される覚悟が出来た時の事を言うのじゃ。」
「ふぅん...。その手枷は外さないの?
そんな両手を後ろで縛られたマゾなんか、余裕だと思うんだけど。」
「そう思うなら、好き放題やってみぃ。」
帝羅はまず、マゾの胸に平手打ちをした。
━バッチィィーン!!━
かなり強めの打撃音がしたが、マゾは微動だにしなかった。
「効いてないの?いくら女の力とは言え、結構痛いはずよ。」
「ふぉふぉふぉ、そんな程度の責めではマゾにとってみれば
単なる挨拶みたいなものじゃぞ。
そんなじゃれ合いのような甘っちょろい責めでは、
一生かかってもマゾを屈服させる事など出来ぬわ。」
「クッ、別にこれが本気なんて言ってないでしょ!
それじゃあ、股間を蹴り上げてあげるわ!!」
そう言って、帝羅はローファーでマゾの股間を蹴り上げた。
マゾは小さく「グフッ!」と言ったが、それだけだった。
「嘘でしょ…効いてない?」
帝羅は驚きのあまり、動きを止めてしまった。
「ふぉふぉふぉ、もう終わりか?
残念ながらお主にはマゾ・カードプレイヤーの資格が無いようじゃ。」
「…待って!!
こんなの全然本気じゃないわよ、もっとやらせて!!
ねぇ、ところでこのマゾ、…殺しちゃっても良いのかしら?」
帝羅の口からは意外な言葉が飛び出した。
試験用のマゾを殺す気で責めると言うのだ。
マゾは小さく「ヒッ」と言い、喉をゴクリと鳴らした。
「ほぅ?
コヤツはあくまで試験用だと言うに、それを殺す気で責めるじゃと?」
「だって、マゾなんてどうせ一人じゃ満足出来ないでしょ。
だったら支配する側がその命まで責任を持って弄んであげなきゃ、
この子達は幸せになれないのよ!!」
「ふふ、急に目つきが変わったのぅ。
良いぞ、思い切りやってみよ。」
帝羅は怒号をあげながら走り込んだ。
「う”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
そして腕をグッと後ろに引き、殴りかかる姿勢になった。
女性の力とは言え、それなりの打撃が予想される。
マゾは恐怖から一瞬目を閉じ、グッと息を止めた。
その瞬間、帝羅は彼の鼻と口を手で封じてしまった。
「!?」
マゾが目を見開いた。
「ふふ、…さぁ、事前に大きく息を吸い込む事も出来ずに、
小さな呼吸しか残っていないその貧弱な肺の残り酸素で
一体どこまで耐えられるかしら?」
マゾは帝羅の攻撃を予想して呼吸をグッと止めた。
それは丁度息を吐き切ったタイミングの事であった為、
彼の肺には酸素がほとんど無かった。
その状態で、帝羅の手により鼻と口を閉じられてしまった。
身をよじりながら必死に逃げようとするマゾ。
しかし帝羅はそれをガッチリとホールドして逃がさない。
やがてマゾの身体が大きく震え始めた。
「アラ、もうお終いかしら?呆気ないわね。
私の下僕になるなら許してあげない事も無いけど、どうする?」
マゾは必死に涙目になりながら鼻を鳴らし、首を縦に振った。
しかし、その行為が逆に酸素の消費を早めて彼は気絶した。
「ふ、一本あった、な。まさかこの短時間で殺す気で行く判断とは。
やはり、覇神家の令嬢と言うのは本当じゃったか。末恐ろしいのぅ。」
「何だ、知ってたのね。だけど、覇神家ってそんなに凄いの?
私、自分の家の事はあまり知らなくて。」
「まぁ、それは追々わかるじゃろう。
今は先入観無く自らの事のみに専念し、マゾ・カードプレイヤーとして
早く一人前になる事を目指すのじゃ。」
そう言うと見極は何やらブツブツと呪文を唱え始めた。
そして帝羅に向けて黒い波動を打ち放った。
「破ァーーーーー!!!!」
一瞬、帝羅の身体に物凄い衝撃が走ったが、体は何とも無い。
しかし次の瞬間、何かが漲っている事に気付く。
「コレは…何かしら?力が、漲ってるわ...。」
「ふぉふぉ、それがマゾ・カードプレイヤーの力。
どれ、目の前の敗者のマゾをカードにしてみぃ。
既に合意は取れておる、すんなりカードに出来るじゃろう。」
帝羅は意識を集中し、目の前のマゾをカードにしようと考えた。
すると、突然マゾが体をぎゅるると捻らせ始めて、煙が上がった。
その煙が徐々に大きくなり、小火かと思う程に燃え上がった後、
突然煙が晴れて一枚のカードが現れた。
「初手雑魚助…。
コレが私の初めてのマゾ・カードですの?」
「まぁ、試験用じゃからコイツの能力は最低じゃ。
しかし調教をすれば多少は強くなったりもするぞ。
それでは、マゾ・カードの調教の仕方を教えようかの。」
こうして帝羅はマゾ・カードプレイヤーとなり、
早速カードの調教方法を学ぶ事になったのだった。




