表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7/10ざまぁ後日談追加】「物事には優先順位がある」が口癖の婚約者に後回しにされ続けたので、私も優先順位を変えました【完結】  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/5

第一話 物事には優先順位がある

「物事には優先順位がある」


 それが、ジョルジュ・ヴェルチの口癖だった。


 婚約者であるクレア・モンテールは、最初それを分別のある言葉だと思っていた。

 何事にも順序をつける。大切なものから手をつける。限られた時間を、無駄にしない。


 聞こえはいい。

 実際、婚約が決まったばかりの頃のジョルジュは、きちんとした人に見えた。

 約束の時間には遅れず、贈り物も常識の範囲で、言葉遣いも穏やかだった。

 派手な情熱はないが、誠実な人なのだろうと、クレアは思おうとしていた。


 けれど、半年も経つ頃には、その言葉の意味を嫌というほど思い知ることになる。


「すまない、クレア。今日は母上が体調を崩されたらしくて、付き添わなければならないんだ。劇はまた今度で」


 その日のために仕立てた淡い青のドレスは、袖を通されないまま衣装箱へ戻された。


 翌月。


「すまない、今日は妹のリリーが新しいドレスを見たいと言うから、一緒に店を見て回らないと。君ならわかってくれるだろう?」


 クレアは、菓子職人に頼んでおいた木苺のタルトを、侍女たちに分けた。

 予約していた茶席は、当日の取り消しで店に迷惑をかけた。


 さらに翌月。


 その日は、雨だった。

 クレアは待ち合わせの温室で、一時間ほど待っていた。

 ガラス屋根を打つ雨音が、だんだん細かな針のように耳へ刺さる。

 冷えた指先を膝の上で重ねても、手袋の内側まで湿ったように冷たかった。


「昔からソフィの相談に乗ることが多くてね。幼馴染を見捨てるわけにはいかないだろう?」


 ジョルジュからの使いが来たのは、温室の係が三度目の茶を淹れ直してくれた後だった。


 そして、ある日には。


「イレーヌが体調を崩したと聞いて、様子を見に行ってきた。元とはいえ、放っておけないからな」


 元とはいえ。

 その言葉を、ジョルジュは当然のように口にした。

 クレアはしばらく返事ができなかった。喉の奥に、小さな小骨でも刺さったみたいに声が出ない。


「……イレーヌ様は、あなたの以前の恋人でしたよね」

「ああ。だが、今はそういう関係ではない。だから問題ないだろう?」

「問題があるかどうかを、私が決めてもよろしいのでは?」


 ジョルジュは、心底不思議そうに目を瞬いた。


「クレア。物事には優先順位があるんだ」


 まただ。

 クレアは、その言葉が出る前から、もう胸の奥が冷えていた。


「母上は身体が弱い。リリーはまだ幼い。ソフィは昔から頼ってくるし、イレーヌは今ひとりで心細いはずだ。友人との付き合いだって、男として大事にしなければならない。もちろん、君との時間も大切だよ。だが、君は僕の婚約者だろう?」

「婚約者だから、後回しでよいと?」

「後回しなどと言っていない。君は僕の事情を理解できる女性だと言っているんだ」


 ジョルジュは優しく微笑んだ。

 きっと、自分がひどいことを言っている自覚はないのだろう。


「君は聡明で、落ち着いていて、わがままを言わない。母上も、クレア嬢は良い妻になると褒めていたよ」


 その瞬間、クレアはようやく理解した。

 ジョルジュの中で、自分は愛されていないわけではないのかもしれない。

 ただ、優先しなくても失われないものだと思われている。


 母、妹、幼馴染、女友達、元恋人。

 数えてみれば、婚約者であるクレアより優先される人間の方が、よほど多かった。


 クレアは笑った。

 自分でも驚くほど、静かな笑みだった。


「そうですか」

「ああ。わかってくれて助かるよ」


 ジョルジュは安堵したように息をつく。

 その顔を見て、クレアは胸の内で、そっと結論を出した。

 それなら、私にも優先順位というものがある。


 翌朝、クレアは侍女に言った。


「今後、ジョルジュ様との予定が急に空いた場合は、別の予定を入れてちょうだい」

「別の予定、でございますか?」

「ええ。読書でも、散歩でも、観劇でも。何もせず部屋で待つのはやめるわ」


 侍女は少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を和らげた。


「それがよろしいかと存じます」


 クレアは、これまで婚約者のために後回しにしていた時間を、ひとつずつ取り戻すことにした。


 元々、読書が好きだった。

 幼い頃から、物語の中で遠い国へ行くのが好きだった。誰かの人生を辿り、知らない考えに触れ、時には腹を立て、時には涙を落とす。読み終えた本を閉じる瞬間の、胸に残る静けさが好きだった。


 婚約してからは、ジョルジュとの予定を優先するために、月に一度の読書会への参加も控えていた。

 いつ誘われてもいいように。いつ呼ばれてもいいように。いつでも、彼の都合に合わせられるように。


 けれど、もうやめた。


 クレアは、王都の古い図書館で開かれる読書会へ申し込んだ。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの作品もよろしくお願いしますฅ^•ω•^ฅ
▶ 猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す
ハイファンタジー/異世界転生/追放聖女/ハズレスキル/ヒロインインストール/猫/レギオン結成/成り上がり/バディ/元聖女が強くなる
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ