表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
5.夏休みの歌姫
99/177

 河合が北海道に向かった日から、話は1週間ほど遡る。

 つまり、彼方と奏介が音構から抜け出した次の日。

「これから、どうする?」

「どうしようか……」

 無事に北海道の函館に上陸した2人は、少し遅めの朝食を食べていた。

 彼方はサーモン丼。奏介は海鮮丼。なるべく食費くらいは抑えようと考えていた奏介だったが、初めての北海道ということもあって早くも誘惑に負けた形だ。ちなみに前日には、乗船前に彼方用の服やアメニティの類を買っていたりする。想定よりもお金を使っている感じは否めない。

「……サーモン丼、おいしい?」

「おいしい」

 そう答えてから、彼方は少し考えて。

「食べてみる?」

「いや、俺は大丈夫」

「私は奏介の、食べたい」

「あ、そう……」

 気恥ずかしさを感じながらも、奏介はどんぶりを交換して一口だけいただくことにする。

「ん……うまい」

 脂の乗ったサーモンの肉厚な食感が、強すぎないわさびの辛味とマッチして、口の中に余韻を残しながらとろけていく。北海道に来てよかった。自分の立場も忘れてそんな感慨に浸れるくらいの美味さだった。

「こっちも、おいしい」

 彼方も海鮮丼に舌鼓を打ちご満悦な様子。取り替えたどんぶりを元に戻した2人は、それから米1粒残さずに贅沢な朝ご飯を平らげた。

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

 ふー、と一息ついて、話題は振り出しに戻る。

「これから、どうする?」

「どうしようかなー?」

 考えているうちに店員さんがどんぶりを下げ、温かいお茶を出してくれた。

 しばらく旅をするには困らないだけの金はある。しかし、それだっていつかは底をつく。少なくなってから慌てていては遅い。できれば今のうちから対策を立てておきたい。まだ音構の人間も北海道まで来てはいないだろうから、思い切り動くなら今のうちだ。

 ざっくりそんな内容のことを奏介は話した。すると、彼方から返ってきた答えは。

「だったら、歌でお金を稼げばいい」

 簡単なことだと言わんばかりの表情で、彼方は言った。

「いや、でもCDとかMiXみたいに――」

「奏介、NGワード」

「あ、ごめん」

音構から逃げている間、『MiX』の名前は口にしない。それが2人で約束したルールだった。

「とにかく、すぐにCD出せるわけじゃないのに、どうする気だ?」

「路上ライブで、お金を集める」

「要するに、投げ銭?」

「たぶんそれ」

 いやいやいや。

 いくら彼方でも、それは厳しいだろう。今時路上ライブの投げ銭で稼ぐ人なんて、聞いたことない。

 確かにそういう手段はあるけど、CDを売って稼ぐのとはわけが違うよ。柏でも投げ銭やってる人なんて聞いたことないのに、北海道でそれをやるのはもっと難しいと思うよ。

 奏介はなるべく優しく諭した。しかし、彼方に折れる気配は微塵もなかった。

「やってみないとわからない。それに、今は奏介のギターもある。奏介のギターと私の歌があれば、大丈夫」

 逆に、奏介が折れた。そんなに頼りにされてしまっては、むげに断るわけにはいかない。

「そこまで言うなら……やってみるか」

 早速、店を出た後に駅前で路上ライブをやってみることにした。

「路上ライブ、楽しみ」

 そう言って、彼方は柔らかく微笑んだ。

 早く奏介と歌いたい。

 そんな気持ちが、彼方からにじみ出ていた。

 やっぱり、ここは路上ライブが最善の選択なのかもしれない。奏介がそう考え直すまで、さほど時間はかからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ