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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
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26

 渡部梨音はふてくされていた。

 ふてくされながら自室で1人、ベースの弦を弾いていた。練習ではなく、手持ち無沙汰だから仕方なく弾いている、といった具合で。その証拠に室内練習用のミニアンプは繋げられておらず、部屋の隅でケースにしまわれたままだ。

 梨音が不機嫌な原因はもちろん、奏介にドタキャンされたから。今日もまた奏介に会えるんだと浮かれてて、せっかく音楽へのモチベーションも上がってきたところで、いきなり出鼻をくじかれた形である。

 奏介本人いわく、その理由は夏風邪をひいてしまったから、とのこと。夏風邪なら仕方ない。誰でもちょっとした拍子で風邪の1つや2つはひくものだ。だから、奏介のことを一方的に責めるべきではないのだ。そう梨音の理性は言っている。が。

「んあぁぁぁぁ~~~~何でよりによって今日なのよ~~~~!」

 いくら理性側が諭したところで、感情は言うことを聞いてくれない。制御できない気持ちをぶつけるようにして、梨音はベースをアコギのごとく掻き鳴らした。しかしベースなのでギターのような心地よい音色は出せないし、そもそもアンプに繋いでいないのでまともな音は聞こえてこない。

 今日の梨音は、奏介からの連絡が来てから終始こんな調子だった。

 気を紛らわせる方法は、いろいろと試した。例えば、まだ読まずに積まれたままだった少女漫画に手をつけてみたり。あるいは、お気に入りのカシワニぬいぐるみを抱き枕のごとくぎゅーっとしてみたり。それでも、なかなか気持ちは晴れないまま今に至る。

 時計を見る。結局ぐだぐだしたまま1日を過ごして、気づけば夕方の5時を回っていた。最悪な休日の過ごし方だと、今更になって思う。

「いっそのこと……押し掛けちゃう?」

 思ったことがそのまま口に出て、いやいやいけないと首を振る。相手は病人である。お見舞いでもないのにそんな迷惑な――お見舞い?

「お見舞い!」

 ベースを抱えたまま、梨音は思わず立ち上がった。どうして今までこの考えに至らなかったんだろう?

 お見舞いに行こう。何か消化のいい食べ物とか飲み物を買ってあげて、届けてあげよう。それで会ったら「なに風邪なんてひいてんのよバーカ!」って一言言ってやればいいのだ。

 方針さえ決まれば、梨音の行動は早い。早速、準備を整える。部屋着のバンドTシャツとハーフパンツを脱ぎ捨てて、3分で外出用の半袖パーカーとデニムに着替える。それからバッグに最低限の貴重品だけ詰め込んで。

 携帯が鳴った。

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