18
鍵をかけられた。
要するに、狭くて暑いトイレの密室に筋骨隆々な男と2人きりである。
考えてはいけない想像ばかりが頭の中で膨らんでいく。それと比例して室内の体感温度も上がっていく。ただひたすらに暑苦しい。額に汗がにじむ。それなのに背中には寒気が走る。思わず尻の穴を押さえる。
一方のジェロム。ただでさえ窮屈な空間の中で大柄な身体を上下左右にごそごそと何かを探している。後ろに大きめのバックパックを背負っている分、圧迫感は3割増し。しかし、そんなことはお構いなしで探している。便器の中と裏。トイレットペーパーホルダー。壁掛けタオル。隅々までチェックしている。
「オーケー、ここにはなさそうだ」
「なさそうって一体何が……?」
「奏介」
「はい」
「言っとくが……俺はホモじゃないからな?」
「…………バイですか」
「ノー! そんな諦めたような顔すんな! 俺はノンケだ! そもそもそんな話をするために来たんじゃねえ!」
「じゃあなんでいきなりトイレに連れ込んだんですか!?」
「それだ。いいか、今から大事なことを話す」
さっきまでとはまた違った緊張感に包まれる。
「あくまで推測の話だが……奏介の部屋には盗聴機が仕込まれている可能性がある」
「盗聴機? 一体誰が?」
「オフコース、音構の手先だ」
信じられない反面、彼らならやりかねないかもしれない、と奏介は思う。奏介が不安に駆られる前に、ジェロムが話を切り出す。
「早速質問だ。あれから奏介は部室のロッカーを開けたか?」
「いや、俺はまだ……」
「そうか、ならいい。じゃあ次はアドバイスだが……お前は今日、音構に行くべきだ」
「部長、どうしてそれを? そもそも何で音構のことを……?」
河合に昨日会ったことは、もちろん誰にも話していない。ジェロムに至っては約1ヶ月振りに会ったのだ。その前に話せる訳がない。
しかし、ジェロムは奏介の疑問をスルーして続ける。
「だが、奴らの提案を鵜呑みにするわけじゃない。お前らはジェロムズのメンバーだ。そう易々と引き渡すわけにはいかない。奏介も、それから彼方もだ」
「彼方? 彼方を取り返せるんですか!?」
「ビー、クワイエット。声が大きい」
ジェロムは人差し指を口にあてて静かに、のジェスチャー。
「確率は低いが、ゼロじゃない。そして、間違いなく彼方は音構の施設にいる。だから、俺も音構までついていく。別に1人で来い、とは言われてなかっただろう?」
「た、確かに……でも口外するなって」
「奏介から話したわけじゃないからノープロブレムだ。情報が筒抜けなあいつらが悪い。そもそも敵の言うことをいちいち真に受けてるようじゃ、海外行ったらあっと言う間に騙されて身ぐるみ剥がされるぞ?」
やけに説得力のある指摘だった。ぐうの音も出ない。
「いいか、ここから先は俺に考えがある」
そして、奏介は汗だくになりつつもジェロムから作戦の内容を聞いた。
「この作戦のミッションコードは『デウス・エクス・マキナ』だ」
そう宣言して不敵な笑みと汗を浮かべるジェロムは、これ以上ないほどに頼もしく見えた。
ヒーローは遅れてやってくる。
奏介にとって、ジェロムはそんな正義の味方だった。
河合との約束の時間まで、あと4時間。




