13
約30分の路上ライブが終わる。
梨音は、全身がじんじん痺れているような気がした。
ここは、ライブハウスじゃない。アンプもマイクもない。音楽だって縦ノリのロックじゃない。純度100%のポップスだ。
それなのに、この興奮は何だ。全身の末端まで心臓の鼓動が響くような、この激情は。
演奏を終えたばかりの夏樹と目が合った。
「今日は来てくれてありがとね!」
「あ、あの」
言葉が出なかった。
今日の路上ライブを、梨音自身の言葉で表現しようものなら、どう伝えようとしても安っぽいものになってしまう。自分の足りない語彙力が憎い。
すると。
「俺、やっぱり音楽が好きです」
割って入った、奏介の言葉。
「いろいろあって、しばらく音楽から離れてたけど……今日のライブを聞いて思い出しました。夏樹さんと冬馬さんの音楽を聞いて、わくわくした。この感覚だ。ミューサンのステージに立った時の熱量が、一瞬、戻ってきた気がしたんです。だから、きっと俺は……音楽から一生離れられないんだと思います」
言いたいこと、奏介が全部言ってくれた。
「嬉し――っ!! 奏介くんのそれ、最高の褒め言葉ー!」
そのコメントに感極まった夏樹は奏介の手をがっしと握って両手でぶんぶんと振った。思いの外派手な反応に、目を点にして戸惑う奏介。どうどう、と落ち着かせる冬馬。
「正直、奏介と梨音は来ないと思ってた。さっき奏介が言ってた通り、しばらく音楽の話とか口にしてなかったからな」
夏樹とは対照的に、しみじみと思いを吐露する冬馬。
「だから今日のライブも夏樹とどうしようか考えたんだよ。無理にでも誘うか否か。それで結局、店の前にフライヤーだけ置いて様子を見てたんだけど……余計な心配はいらなかったみたいでよかった」
「すいません。あたしら、余計な心配かけちゃったみたいで……」
「いいのいいの! 私達のライブ来てくれたから全部チャラ! むしろおつりが返ってくるくらいだから!」
そう言う夏樹の表情は弾けるような満面の笑顔。本当に嬉しそうだ。しかし、そこからはっと何か思い出したような表情に変わる。
「そうだ! 2人には1つだけ、お願いがあります!」
「お願い? 俺らにですか?」
「そう! 内容は考えようによっては簡単かもしれないし難しいかもしれないんだけど……」
夏樹は少しだけ言いにくそうにもにょもにょして、だけどすぐにきりっと決意を固めた表情で言った。
「すぐにじゃなくていいから……また2人にはライブのステージに立ってほしい」
梨音は思う。確かに、難しいお願いだ。
ここで、Seasonsのライブを聴く前までなら。
だけど今はもう、自分が音楽が好きで好きでたまらないことに気づかされてしまったから。
断る理由なんて、どこにもなかった。
「わかりました」
「はい……必ず」
梨音と奏介はほぼ同時に答えた。




